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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第四章 おっぱい慟哭編
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第8話 研究の成果 その2

「では、リリシーナ」

「はい?」


 先生が笑い終わるまで、その様子を見ていた私は返事をする。


「次はな、震文でやってみてくれ」

「え? し、震文――、ですか?」


 きょとんとした声が出る。あ、あれ? 実験って、まだ続くの? どうやら、まだ終わりじゃなかったらしい。勝手にそう思い込んでいたから、意表を突かれてしまった。


「そうだ、震文。今のと同じようにな」


 そう言うと、先生は左右の手を、道具の両端になるようにそれぞれ添えて、ふるいを使うように揺らし始める。時折、軽く叩きつけながら、黒い薄膜に乗った銀の粉を素早くならしていく。すると、さっきと同じく均一に、一面広がっていった。


 うーん? 震文でも何か分かるのかな? この震文は、至極天を呼び寄せる時にも使う、独特の発声方法だ。本来は、専用の音叉を利用して至極天と呼応させる。ただ――。私は首を傾げる。


 声が高くなったり低くなったり、その質が変わるってことは、なかったと思うんだけど。だから、同じような結果になる気がした。


 いや、この人が、そんな無駄な実験をするわけない。震文を感じれば、声とは違い体の中に響くような感じがあるし。そういうのが関係してるのかも。よおし、やってみようじゃない。実験続行は意外だったが、既に興味津々。先生が、二つとも作業を終えて場所を譲ると、さっそく筒を口に当てて道具の前に出る。


「では、頼む」

「はい! それじゃあ、行きますよお――。すうぅぅ……」


 さっきと同じように構えた私は、深く息を吸い込み、


「『あーーーーーー!』」


 震文を発した。声が銀色の表面に当たり、銀の粉が震える。小刻みに飛び上がり、弾き飛ばされていく。けど、さっきの様子と変わらないね。うーん? そう疑問に思ったのだが――。おお!?


「模様がより複雑に……」


 目を見開いたシビアナが、静かに呟く。そう。言葉も声も、さっきと同じはずなのに、模様が全く変わっていた。細かい線で精緻な金細工のようなそれは、大きな花の中心に、小さな花が重なるように見える。


「こんな感じでな、震文は震文で、また違ってくるようなのだ」

「はえええー……」


 震文って凄いんだなあー。何故だか、感心してしまった。


「はあー……。凄いな、シビアナ……」

「ですね……」


 二人して、模様をじっと見入る。でも、これは花なのか? いやまあ、花だな……。花弁の枚数が、無数に多くなっているが、そう見ようと思えばまあ見える。うーん。いや、でもこれはもっと何か――。


 ちょっと疑問に思ったので、私はこの模様をもう少しよく観察してみる。中心には、無数の花弁を持つ花。小さい方の花だ。これは、丸みを帯びている。


 それを囲むのが二重の円。この二つの円は、大きさにあまり違いがなく、その間に出来ている幅は狭い。ここには細かな模様が描かれている。葉のついた蔓のような小さい模様が、延々と続いている。これは皆同じもののようだ。


 大きい方の花は、無数の花弁があるが、ギザギザしているだけで丸みはない。それを、円が取り囲んでいる。こっちは三重の円だ。これも二重の円と同じく幅が狭い。ただ、均等ではあるように見える。


 小さな模様も描かれているが、それぞれ異なっている。二重の円のとも違う。内側が、渦巻きみたいにぐるぐるしている。外側は、何かカクカクしていた。それが銀と黒になって交互に続いている。


 花を縁取るようなこの模様も、見たことがないから興味深いよね。けど私は、花に見える二つの模様に注視。気になったのは、やっぱりこれ。


「この花……」


 この二つ――。確かに花だが、このまま見てれば、何か別の形に見えてきそうなんだよね……。じー……。


「小さい方は円。大きい方は四角が回転した様に、見えますね……」

「ああ! それだ!」


 シビアナが言うように、図形が回りながら、その途中途中で描かれているみたい。円の方――小さい花は、二重の円に沿ってその中をぐるりと一周している。四角の方は、動かさずそのままの位置で、回転しているようだ。それが、無数の花弁をもつ花のように見えていた。


 いやあ、こいつのおかげで、すっきりしたな。しかし、円や四角を少しずらすだけで、こんな綺麗な模様を作れるんだねえ……。こうしてじっくり見ていると、不思議な気分にもなってくる。


「ふーむ……。これは面白いな……」

『え?』


 そう言われて、二人して先生に振り向く。この現象を知っているはずなのに、模様を興味深そうに見ていた。どうやら、私たちと同じように見入っていたようだ。ああ、そうか。この模様は初めて見るんだろうね。千差万別だって言ってたし。


「先生」

「ん?」

「先生の震文も見せて下さいよ」


 折角の機会だ。先生の模様も見ておきたいよね。


「ふっ。いいだろう」


 私から紙の筒を受け取った先生は、隣にあるもう一つの方へ、身を屈めるようにして構えた。


「『あーーーーーー!』」


 低い声が研究室に響く。そして、体の内にも響いてくるこの感じ――。先生は、間違いなく震文を使っている。さあて、どんな模様が、出っ来るっかなあ~? ――って。ええ!? 


「私のと同じだ!?」


 出来上がった模様を見て驚いた。そこには、黒い面に銀色の同じ模様が、二つあったからだ。自分が作った模様と交互に見比べる。やっぱり、同じだ……。でもさ、この模様って声が違ったら、変わるんじゃないの? 聞いてたのと話が違うから、混乱してくる。


「はっはっはっ!」


 してやったりと笑う先生。あ、何かあるなこれ。


「これは新しい発見だぞ、リリシーナ?」

「新しい発見?」


 どういう事だろう?


「その発見は、声質が違おうとも同じ言葉なら、震文は同じ模様を作る場合がある、ということだ」

「ええ!?」


 さっきの話は何だったのか。いきなり違うことを発表される。いや、だからこそ、新発見ってことになるのか。震文にそんな特性がねえ……。でも、という事は――。


「もしかして、先生も初めて見るんです?」


 こういう事になるよね。

 

「うむ」


 そう言って、大きく頷いた。やっぱり。


「震文を使っての実験は、儂の分しかしておらんかったからな。それで、お前だとどうなるか――。この際だから、試してみたというわけだ」


 何と! 知らない内に、先生の実験を手伝わされていたとは! ま、いいんだけどさ。でも、そうだったんだ。まあ、震文を使える者は、限られてるからな。実験に付き合ってもらえる機会がなかったのだろう。


 けど、それなら、私に言ってくれればいいのにね。こんな面白い実験、いつでも付き合ったんだけどな。それと、思ったんだけどこの言い方は――。

 

「でも、先生。その新発見、何か限定的ですね」


 折角なのに、抑えたように聞こえた。


「実例が、儂とお前だけだからな。他も試してみんことには断定は出来んよ」

「なるほど……」


 慎重だねえ。如何にも先生らしいか。


「しかし――、こうなると、ジャムシルドやササレクタ、他の者たちのも、やはり知りたくなるな」

「あ! ですね!」


 確かに気になる。あの二人がやったら、どんな結果になるんだろう? 同じ結果になる? それとも違う? 違ったら、それにどういった意味があるんだろうか? うーん、見てみたい!


 いいねえ! こうやって、好奇心が、むくむく込み上げてくる感じ! はあー、久しぶりにわくわくしてくるなあ! やっぱり先生とやる実験は楽しい。私はそう思った。


「先生、これ王宮に持って行けれません? 別に今日じゃなくてもいいですけど」


 善は急げだ。とはいえ、研究所はこの有様。けど今なら、ササレクタもいる。シカルアヒダの件で忙しくなるかもしれないが、取り敢えず落ち着いたら、あいつが西都に帰る前までに、頼んでみるべきだろう。


「そう、だな……。早めに頼んでみるか」

「はい!」


 出来れば、私もその実験に立ち会ってみたいな。いや、立ち会おう。うんうん。私は父様に頼んでみることに決めた。


「でも、震文ってこんな事ができたんですねえ……」


 改めて、模様をしげしげと見る。


「うむ。しかも、この模様は特別でな。以前からずっと調べてきたのだ。発音できる声も、粗方記録しておる。今のようにやってな」


 わ! それ見てみたいな! きっと、これみたいに綺麗な模様が見れるに違いない。どうやら、かなり前から先生は、この紋様について知っていたようだ。もう。それならもっと早く教えてくれればいいのにぃ。


「それは、どれくらいあったのでしょうか?」


 シビアナが尋ねる。これも気になるね。何個ぐらいあるのかな? 先生が、その数を思い出そうと唸った。


「うーむ。確か――、百ぐらいはあったはずだが……」

「ひゃっ――!?」


 ええ!? そんなにあったの!? でも、これ模様が複雑だから、大変だったんじゃあ……。一つの言葉を発音して、震文を使う。出来た模様を書き写す。細かい模様だから時間が掛かかっただろう。そして、それが終われば、また違う言葉で、繰り返していく。これを百近くも――。想像するだけで、げんなりしてきそうだ。


「それって、先生だけで調べたんです? あ、ローリエと二人ですか?」


 先生は首を横に振る。


「これを纏めたのは、ローリエと出会う前だったからな」

「げっ。じゃあ――」


 たった一人で!? そう思ったが、これにも先生は首を振った。


「はっはっはっ! いや、これは頼もしい助っ人がおったので楽であったよ」

「助っ人?」

「うむ。当時はよく力を貸してもらってな」


 へー、そんな人がいたんだ。でも、誰だろ? 私、知ってるかな? 


「シドー様。それは、どなたでしょうか?」


 シビアナが、興味深げに尋ねる。うん、私も聞きたい。しかし、尋ねられた先生は、首を傾げた。あれ? 何で? だが、それもそのはず。そして、かなり意外だったが、先生が口にしたのは、私も当然シビアナも知っている人物だった。


「シビアナ、知らんのか?」

「――え?」


 一瞬、固まったように見えた。


「助っ人は――、テオルンだぞ?」

「ええ!?」


 その名を聞いて、シビアナが驚く。もちろん、私も。


「あ、あいつう!?」


 また、自分の侍従官の名前が、飛び出してきた。緑色のお下げに、大きな眼鏡。その中から見える、にんまりと笑うあの目。嫌らしく歪めるあの口許。悪巧みしてそうな顔が浮かんでくる。ていうか、何でテオルン!? 先生とそんな接点があったなんて、初めて聞いたんですけど!


「まだ、リリシーナの侍従官になる前の話だが……。儂とあの子は、結構付き合いが長いぞ? 聞いておらんか?」


 ええー……、うそおお……。


「シビアナ、知ってた?」


 一応、確認。


「いえ……」


 あ、眉間を揉んでる……。これ本当に知らなかったんだわ。しかし、こいつが今まで存じ上げなかったって、結構なもんだよ。先生も当然知っていると思ったから、首を傾げてたくらい。ていうか、テオルンって予想外の行動するから、シビアナの天敵みたいなとこあるよね……。


「テオルンとは――。まあ長くなるから、これはまた今度にしておこう」

「は、はい」


 あとで、あの子から聞いてみるか……。いや、シビアナが聞くか。何かそんな気配するし。隣を見ると、静かなる怒気を感じる。これは自分に対してだな。知らなかったのが、相当悔しかったらしい。そのせいか、絶対に先生との関係を問い詰めるという意志が、その面持ちから見て取れた。


「それで、テオルンに協力してもらったこの模様だが――。分かったことがある。それを今から見せよう」


 先生が机の上に手を伸ばす。


「この壺に入っている墨は、儂が調合したものでな。これを用いる」

「ほほう……」


 ただの墨じゃないと……。私とシビアナは、まじまじとその墨が入った小壺を見る。


「この墨を使い、まず円を描く。これは、歪みがなければないほどいい。そして、その円の中に、この模様を正確に描き入れる。このようにな」


 壺を机に置いた先生は、拡声器代わりに丸めた紙を手に取ると、それを引き伸ばす。そこに描かれているものを私たちに向けた。


「あ! その模様!」

「そうだ。これは震文の模様で作ったものだ」


 その紙切れは、この研究室に来た時に見たものだった。綺麗な円の中に、三つの模様。今なら分かる。その内の一つが、ここにある模様と同じものだった。


「そして、この震文の模様へ、更に震文を当てると、変わった現象を引き起こす。今からやる実験は、その現象の再現だな」

「へええええ……」


 震文を使うとそんな事が……。何が起こるのだろう?


「先生! それ、私がやってもいいですか?」


 非常に興味がある。是非、やってみたい。


「ふっ。よかろう。お前でも、使えるかどうか、試しておきたかったところだ。やってみるがいい」

「はい!」


 やったね! これは燃えてきたぞ! 一体、どうなるんだろう? ふふふ!

 先生は、机の上に置いてあった本を開くと、一枚の紙を取り出した。それを私の前に置く。そこには、先ほど見せてくれた模様と、同じもが描かれていた。


「こっちは、この墨を使っておるからな」

「ああ、だから――」

 

 新しく取り出したのか。どうやら、先生特製の墨は、この紙にしか使われてないようだ。


「ま、震文の形は同じだったのだ。いけるだろうとは思うが……。やはり試してみんとな」


 そう言うと、扉の方へと下がっていく。


「シビアナ。一応、儂の後ろにおれ」

「…………」

「シビアナ?」

「え?」


 二度名前を言われて、ようやく気付いたようだ。じっと机の上に置かれた紙を見ていたが、先生に振り向いた。


「儂の後ろにおるのだ」

「はい。畏まりました」


 顔だけを出すようにして、その大きな体の後ろに隠れる。


「えっと……。先生?」


 何で、そんなに距離取るの? 後ろに下がった先生たちは、扉の前にいる。私は窓のそば。結構な距離が開いていた。心なしか、その姿も少し小さく見える。


「ん? はっはっは。まあ、念のためだ。念のため」

「…………」


 爽快な笑いをみせる先生に、ジト目目線を送る。


「心配するな。儂の時は全部成功した」


 だったら、側にいなさいよ! そんな遠くにいないでさあ! 憤慨する私。何故、こんな時だけ慎重じゃないのだろう。さっきも、私の髪についての考察も、あんなに控え目な物言いだったのに。


 どうやらこの実験は、危険を伴うものらしい。なら、もうちょっとこう、王女様を気遣う方法とかあるんじゃありませんこと? その慎重さが、欠けている気がするんですけど? とても!


 しかし、自分がやるといった手前、ここで臆して代わってと言うのも、王女様として如何なものか? 葛藤する私。ちっ、仕方がない。危険だと感じたら窓を蹴破って外に出るか……。一応、逃げ道の確保を考え付いたので、やる覚悟を決める。でも、危ないなら危ないと、先に言って欲しかった。


「では、やります……」

「うむ」


 若干、恨みがましくそう言うと、息を深く吸い込む。


「リリシーナ。震文で『ファイア』と、その模様へぶつける様に言ってみよ」


 それって――。私は、その言葉の近くに書いてあった、但し書きを思い出す。なるほどね。確かに危険はありそうだ。じゃあ、それも分かったところで――。


「『ファイア!』」


 言われた通り、この言葉で震文をぶつける。そして、距離を取るように、素早く二、三歩後ろへと下がる。すると、変化はすぐに起こった。


「おおおお!?」


 模様が――!? 描かれた模様が、振動しているかのように、紙ごと微かにぶれ続ける。そして、様々な色になりながら輝き出した。嘘! 何これ!? しかし、そう思った瞬間、目の前が、さらに明るくなる。


「え!?」


 それは、模様の上に突如として現れた。私の拳より少し小さいくらい。だが、蝋燭の灯よりは大きく、燃え方も少しだけ激しい。火先ほさきが何本も揺らめいていた。


 それが私の前に浮いている。浮いているんだ。蝋燭がないのに、そこで灯っているかのように。蝋燭のような灯――。こう考えるのは、もちろんあの但し書きの言葉があったからこそ。


 炎――。あの紙にはそう書かれていた。それを、私は目の前の現象と結び付けている。だが、この現象の不可思議なところは、これだけではない。


「青い、炎――!?」


 言葉が自然と零れだす。そう。これは、青い――青い光で輝く塊だった。だが、これは紛れもなく炎だ。色は青くとも、この揺らめき。それは炎のそれと同じもの。私にはそうとしか見えなかった。


「成功だな」


 先生が、呆然と突っ立ていた私に近づいてくる。手には燭台付きの蝋燭を持っていた。


「先生、これは――!?」

「ふっ。面白いであろう? このようなことが起こるのだ。それと、これもついでに見ておくがいい」

「え?」


 先生が、その青い炎のような塊に、手に持った蝋燭を近づける。すると、その蝋燭の先に火が灯った。だが、その灯の色は青。そして、浮いている炎から蝋燭が離れても、その青い灯は消えない。


 先生は、その蝋燭を机の上に置く。二つの炎が同じように揺らめいていた。一つは燭台の上に乗った蝋燭の先。もう一つは、空中でゆらゆらと揺らめいている。凄い……。不意に私は、机に置かれた蝋燭に手をかざそうとした。ゆっくりと手を近づける。


「リリシーナ、待て」

「え?」


 先生に止められて、動きも止める。


「普通の炎より、熱い。気を付けよ」

「は、はい」


 ホントだ。蝋が勢いよく溶けていってる……。見れば、蝋燭の長さはどんどん短くなっていた。私は、注意しながらゆっくりと、自分の掌を近づけていく。すると、やはり熱いのだろう。すぐにこの手が止まる。でも温かいな。やっぱり、これ炎なんだ……。


「あ、消えた……」


 程なくして、浮かんでいた青い炎は小さくなり、そのまま消えていった。


「そんなに長くは持たなくてな。すぐに現象は収まる」

「そうですか……」


 ん? あれ? 違和感があった。何かおかしい。視線をずらす。


「蝋燭の炎が――」


 炎の色が変わっている。青ではなくなって、黄色く光り輝いていた。いつも見る蝋燭の灯だ。おいおい……。何でそんな事になるんだ……?


「凄い……」


 ぽつりと呟くので、もう精一杯。今起きた現象が凄すぎて、何も考えられなくなっていた。だが、徐々に感情が昂ってくる。これが、如何に凄い実験だったか、徐々に実感してきた。凄い……。凄い、凄い、凄い――!!


「先生! これ凄い発見ですよ!! 凄い凄い!」


 恐らく私は、目を輝かせていたと思う。大絶賛だ。その気持ちを込めたくて、何とか先生に伝えようと必死だった。両腕もぶんぶんと振る。


「いや凄いですよ! 本当に凄い! 凄過ぎます!!」

「はっはっはっはっ!」


 ずっと凄いって言ってばっか。でも、先生は嬉しそうに笑ってくれた。こんな現象は見たことがない。つまり、こうとしか言い様がない。


「これ、神の悪戯ですよ、先生!」


 凄い! 先生は遂にここまで――!


「そうだな……。だが、まだまだ不明瞭な点が、多く残っておる。儂の目指す全容解明には至っておらぬよ」


 もう! 謙遜しちゃってさあ!


「でも、これって絶対火種とかには、使えますよ!」

「まあ、な。だた、震文を使えなければ駄目だがな」

「あ、そっかあ……」


 この現象を引き起こせるのは、震文の使える者たちに限られてくるのか。


「でも、何で浮いてたんだろ?」


 私は首を傾げる。


「それは、調査中だ。あとな、模様の位置が違うと、ここには出ない。さらに上に出たり、横や下に出たりするのだ」

「へえええ……」

「恐らく浮いているのも、このあたりが関係しているとは思うのだが……。そして、神の悪戯の解明にも繋がっていくはずなのだ」


 水玉も浮いていたって言うしね。確かに、関係ありそうだ。


「お、髪色が変わってる……」


 前髪の三つ編みを手に持つ。こういう好奇心や関心が強い時は、薄い橙色だ。


「透明から、その橙色だったな。恐らく透明は――」

「驚き、だったって事ですね」

「そうだろう」


 そりゃあ、あれだけ驚いたもの。髪色が変わってもおかしくない。ちなみに、この薄い橙色だと、身体強化と固体干渉が可能だ。ていうか、色が着いているね。この色も無事か。ふむ……。じっと三つ編みを見つめる。私の血統の力でも、今の現象を再現できるかな? ちょっと気になった。


 でも、何もない所から火を出すなんて、やったことがないから分からないんだよね。やったことがあるのは、元々燃えている炎を大きくしたり小さくしたりした程度。


 しかも、それが青い炎ともなれば、どうか? うーん……。やっぱり駄目だ。全く出来そうな感じがしなかった。想像がつかない。


「はあああああー……」


 落ち着いてくると、さっきの感情が再び戻ってきた。溜息が止まらない。ずっと出ていそうだ。しっかし、面白いなあ。よし、もう一回やってみよ。私は、もう一度震文を使ってみた。


「『ファイア!』」

「ああ、リリシーナ。それは、もう――」


 先生の言葉を遮るように、再び模様の上に炎が出現し浮かぶ。はあー、やっぱりすごいわ、これ。って、先生何か言お――。


「何だと!?」

「え?」


 振り向くと、先生の目が見開かれていた。何故かとても驚いているご様子。どうしたんだろ?


「どういう事だ……?」

「先生?」

「…………」


 驚きで固まっているように見えた。私の声も届いていないみたい。


「先生?」

「ああ。いや、すまぬ……」


 もう一度呼ぶと、気付いたようだ。我に返ったように、はっとする。


「どうしたんです?」

「…………」


 先生は、しばらく口を閉ざしていたが、ようやく開く。


「この模様はな、使い捨てのようなものなのだ。一度しか、効果は現れないはずだったのだが……」

「え? そうなんですか?」

「うむ……」


 しかし、今のは二回目だ。先生は、考え込んでまたしばらく口を閉ざしていたが、再び口を開く。そして、私と同じように震文で言葉を発した。


「『ファイア』」

「…………」


 口を噤んでその様子をじっと窺う。しかし、いつまで経っても炎は現れなかった。 


「ホントですね。出ない……」


 まあ、二回は出たわけだが……。


「リリシーナ、お前がもう一度やってみてくれ」

「あ、はい。――『ファイア!』」


 私の震文に反応して、模様が光る。すると、青い炎が同じように浮いて出た。


「出るのか……」

「出ますね……」


 二人で息を殺しながら、その光景を見ていた。これで三回目だ。


「火が消えたら、もう一度頼む」

「分かりました」


 そう言われて、私は繰り返した。結果、効果が切れたのは六回目だった。


「あ、今度は出ませんね」

「そうみたいだな」


 そう言いつつも、しばらく炎が出ないかじっと見守った。だが、やはり効果はここまでだったようだ。炎が出ることはなかった。


「うーむ。しかし……」


 この事態に納得していないのか、先生が唸る。


「五回も使用可能とは……」


 まあ、今まで一回しか効果がなかったんだもんね。それなのに、いきなり回数が増えるんだもん。先生でなくても、疑問に思うよ。


「これは、色々と検証しなければならぬようだ……」

「先生、これは個人差があるじゃないですか?」


 思い浮かんだことを伝える。震文は違うが、声質がそうだったからか、こう思えた。


「ふうむ……。儂もそう考えておったところだ。かもしれぬ」

「だったら、やっぱりササや父様にも、やって貰いましょうよ」

「そうだな……。急ぎ頼んでみるか」

「はい」


 私たちは頷き合った。


「しかし、こんな単純なことに気付かぬとは……。やはり、様々な視点からの実験は重要だ。改めて思い知ったな。感謝するぞ、リリシーナ」

「いえ、そんな」


 また、先生のお役に立てたみたい。ふふ、ちょっと嬉しいかも。いつも助けてもらってばっかりだからね。


「ぐう! ぐう! ぐううう――!」

「あ」


 お腹が鳴る。しかも、さっきより催促がひどくなっていた。けど、そのおかげで、お腹が空いている事を忘れていたと気が付く。ははは……、実験に夢中になっちゃったもんな……。


「えっとお……。せ、先生……」


 少し恥ずかしかったので、遠慮気味に見上げる。


「はっはっはっ! シビアナ、もう出来ておると思うか?」

「はい。丁度良い頃合いでしょう」


 シビアナが答えた。


「では、朝食を取りに行くとするか」

「はい!」


 よっしゃああ! ご飯だ、ご飯! 私は走って扉の前に行くと、勢いよくその扉を開け、後ろを振り向いて手招きをする。


「二人とも、早く早く!」

「ふっ。ああ、分かった」


 先生たちに言い残すと、一階へ向かい走り出した。

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