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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第一章 おっぱい鳴動編
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第7話 シドー先生

 馬車が研究所の正門をくぐると、少しして玄関の扉が開き、中から一人の女性が出てきた。

 白衣を着ているところをみると先生の助手だろうか。ふむ。初めて見る顔だ。

 あの先生が女性を助手にしているとは思わなかった。優秀なのだろうか。


 出迎えてくれた女性は茶髪の少女だった。いや美少女かな。

 後頭部で一度全体の髪を纏めて、そこから背中まで伸びた髪を三つ編みにしていた。

 おでこが出ていて可愛い。

 私より少し若いと感じた。


 背は私より少し低いくらいか。おっぱいは大きめだな……。


 私の視界で何かがきらりと光った。

 彼女の左手の方をよく見ると、小指に赤い指輪が填まっていた。婚約指輪だ。

 ふん、売却済みか。幸せにな!


 ここトゥアール王国では昔からの伝統で、婚約した男女がその証として自分たちの左手の小指に指輪を填めるという風習がある。

 指輪は女性から男性に贈るものとされており、昔から縁起が良いとされている赤色の金属を使うため、指輪の色は赤い。


 その後、結婚式等を済ませて名実ともに夫婦になると、今度は男性から女性に結婚指輪が贈られる。

 こっちはどんな色でも問題はない。が、たいてい高価な宝石の指輪が贈られる。

 勿論、貴重な宝石は大きければ大きいほど価値が高くなり、指輪の細工も精緻もの程お高くなるが、お嫁さんに良い格好したい男どもは、できるだけ値の張るものを買おうする。

 イージャンもシビアナに男を見せるため無理をしたと聞いている。


 ちなみに婚約指輪は高くない。むしろすごく安い。


「よ、よようこそいらっしゃいましたっ。」


 元気よく頭を下げられた。少し緊張してるみたいだな。

 まあ相手はこの国の王女様だし、緊張するのが当たり前だ。

 この様子だと貴族でもなさそうだ。ちょっと申し訳ない。


「私は王宮侍従官のシビアナと申します。シドー様はいらっしゃいますか?」


 シビアナも一礼して、助手(仮)に尋ねた。


「は、はい、今、休憩を兼ねて中庭で鍛錬をしています。もし、殿下がお出でになったら、そそちらへ案内するように言付かっています」


 休憩中じゃなかったら先生が対応してたんだろうし、この子にとっては間が悪かったのかな?


「そうか、じゃあ中庭へ行こうか」


 私たちは彼女に連れられて中庭へ案内されることになった。




 中庭に近づくにつれ何やら音が聞こえてきた。


「ふっ!はっ!ふっ!はぁっ!――」


 気合の入った声とともに、ごうっと拳が唸る音が聞こえる。相変わらずらしい。

 中庭の中央で正拳突きをしている後ろ姿が見えた。

 頭がつるつるで筋骨隆々の大男だ。


「先生、お久しぶりです」


 ある程度近くまで近づいて、私がそう言うと、


「ふぅぅぅぅ……」


 と、大きく息を吐いて黒い口髭をたくわえた中年の顔がこちらをゆっくりと振り向いた。

 まあ私たちが後ろにいるのには気づいていたんだろうがな。

 顔の堀が深いから目元が暗く見えにくいが、眼力の鋭さが変わらないのは一目見て分かった。

 体が大きいのもあるが威圧感が半端ない。

 

「うむ。リリシーナよく来たな」


 私の元家庭教師のシドー先生だ。

 しかし、でかい。

 私は先生より大きな男を見たことがない。


 先生がどしっどしっとこちらに歩いてきた。

 顔を見るため、少しづつ見上げていく。

 おかげで近づくにつれ一層でかく感じるな。

 

「すまんが、研究室にお茶の用意を頼む」


 助手(仮)に目をやり、研究所に戻るように促した。

 ま、一緒にいても緊張しちゃうからな。

 彼女は慌てながら返事をして急いで研究所に戻っていった。案内ありがとね。


「イージャンも元気そうで何よりだ。活躍も聞いておる」

「はっ!」


 イージャンが敬礼をする。

 そして先生がシビアナの方を向いた。


「シビアナも――うむ、相変わらず、どでかいおっぱいだな。ぶわっははははっ!」


 豪快に笑いだした。

 はあ、こういうのも相変わらずか。


 先生はこういう猥談を平気で言うんだもんな。

 シビアナは慣れたもんだ、平然としている。

 イージャンは苦笑い。



 先生はここで研究者をしているが元々はただの地方貴族の次男坊だった。

 しかし、先生は才能を発揮しこの国に多大な貢献をして、数々の偉業を成し遂げた英雄として生きた伝説となっている。

 武力もさることながら、その知識量がすごい。色んなことを知っている。

 まあ、好奇心の塊みたいな人である。

 父様からの信頼も非常に篤い。その為、私の家庭教師に選ばれた。


 ただ、この風貌からは考えられないが、女性がすごく苦手だ。

 好奇心の塊だから、そこらへんの知識は増えていっているみたいだけど。

 でも、さっきみたいなことを言うのが精一杯なんだよね。


 信じられないが今まで、女性とお付き合いしたことがない。

 こういうのを何といったか。えーと、ど、ど――。

 ああ、独身か。独身なのだ。


 はあ、師弟揃って結婚出来ないとか……。

 婚約指輪を填めることも程遠いみたいだ。





「うむ、まさに人妻の色気であるな!また脱いだらすごいのだろうな? わははは」


 先生そんなこと言わないで下さいよ。

 事情知っているから、なんか悲しいんですけど。


 それにシビアナにそんなこと言ってると――。


「お見せましょうか?」


 おもむろに服を脱ごうとするシビアナエロス。

 ほら、やっぱりこうなった。

 ていうか一応これ公務だろ、何しようとしてんだよ。


「お、おいよせ、冗談だ」


 こっちもこっちで伊達に今まで女性を知らずに独身を貫き通していない。

 先生はギョッとして顔を赤くしながら慌てだした。

 先生、あんたシビアナがこういう奴だって知ってるでしょう?

 何やってんだよ。


 女の子超苦手なくせに、猥談を言う。

 でも、実際のこういうノリには対応できない。

 すぐにおろおろし始める。


 言わなきゃいいのに。

 

「イージャン!何をしている。妻を止めよ!」

「は、はい!」


 イージャンがシビアナを止めに入る。


「な、何を呆然としていたのだ!まったく何のための夫だ?」


 多少口篭もりながらイージャンを責め始めた。

 いやいや完全な八つ当たりだろこれ。あんたが悪い。


「も、申し訳ございません!」


 イージャンも真面目だから素直に謝っている。

 シビアナは、にっこり。


 私はそんなシビアナにっこりをジッと観察した。

 


――うーん。なんだあの笑顔は……。

 なんか怪しいよな、このやり取り。

 何かが始まる合図みたいな……。

 シビアナは先生がこういうこといって挨拶するのは知っている。

 その上で、自分を使って――。

 この流れだと大体先生がイージャンへの説教開始するから普通はしないよな。

 


 あ!これもしかして――。


――何気にイージャンもシビアナの標的にされていないか?


 あいつ何かやらかしたんじゃないか?


 私がそうこう考えている間に、先生はイージャンに質問攻めを開始していた。

 おうおうイージャンの顔から汗がどばどばと。

 顔色もすこぶる悪い。

 私が詰問した時より酷い有様だな。



「――それで?夫婦仲はどうなのだ?ちゃんとやることやっておるのだろうな?」


 先生が猥談でイージャンを威圧する。

 何でそんな話になっているんだ? 

 そう思いつつも一応私も視線で威圧する。

 そして、シビアナがニコッと笑顔を作る。


 三人の視線がイージャンに集まった。



「ま、毎晩搾り取られております!」


 イージャンがそんなことを言いだした。

 何をだよ。

 緊張しすぎて何口走ってんだ。そういうの聞きたくなかったわ。

 何毎日って……。




 生々しいだろうが!

 王女様にそんなこと聞かせんな。


 

「――嘘です。ここ二、三日は疲れているからと言って――もう私のことなんて――」


 俯き加減で声を暗くしてシビアナがつぶやく。ああ、あれ演技だわ。ピン来た。

 でも、ここ二、三日御無沙汰なのは本当なんだな。

 イージャンの青褪めた顔が物語っている。


 これだ。これが気に食わないからシビアナの標的にされてるんだ。

 いやてゆうかおい、よせよやめろ。先生にそんなこと言ってたら――。



 先生の目がくわっと開く。


「イージャン!この馬鹿者があ!!」


 先生の右拳がイージャンの体の芯を横から抉るように捉えた。

 どん!という音とともにイージャンがぐるんぐるんと回転して吹っ飛んでいく。

 先生の肉体言語が炸裂した。



 イージャーーン!!……ジャーン!……ジャーン!……ン。

 何故か吹っ飛んでいくイージャンがゆっくり見えた。


 

 先生の一撃は勢いがありすぎたのか、彼は一回地面で、ずっだーんと跳ねてから後ろにゴロゴロと転がっていった。


 ああああ……。

 防御が間に合わなかったか。まあ咄嗟に受け流そうとしたが、先生の拳の方が速かったな。



 先生の目が怖いな。何か白い息吐いてないか?


「シビアナを……自分の妻を蔑ろにするだと……? 貴様、私に喧嘩を売っているのか?」


 羨ましいんだよね。お嫁さんいないから。

 女性に対する妄想が凄そうだな。現実と理想が相当かけ離れてるんだろうな、やっぱり。


 イージャンが苦しそうに唸っている。

 鳩尾の辺りに入っていたから息が出来なくて苦しそうだな。

 体を何とか起こそうとしている。

 何もしゃべれないみたいで、顔を何度も横に振って自分の意思を何とか伝えようとしていた。


 先生が何やらいいことを言いつつ説教を始めた。


「夫の一日の最後の務めは、妻との夜の営みをきちんとこなすことだ……」


 別にいいことじゃなかった。

 二、三日ぐらい許してやれよ。

 疲れてるんだったらさ。騎士の仕事は結構激務だぞ。

 ていうかそんなこと真顔で言われたら、逆に笑いそうになるわ。


「眠りについても気を抜くな。妻子を守れるのはお前しかいない。何かあってからでは遅いのだぞ?」


 はっとするイージャン。

 ああそれは重要だわ。テレルは死んでも守れよ。 


「そうだな?イージャンよ」


 いつの間にかシビアナがイージャンの背中を擦って介抱している。まあ良き妻みたいな感じしてるけど、お前は元凶だからな?

 しっかり介抱しろ。


「ごほ、ごほっ。は、はい。申し訳ございません」


 イージャンが頭を下げた。

 先生、あんたかっこよく言っているけど性交渉の経験ないでしょうが。知ってるんですよ。

 浮いた話から全力で逃げ出してるでしょ。

 年頃の女の子の手握ったことすらないんじゃないか? 

 説得力ない上に理不尽過ぎだって。


 あ、イージャンって先生のそういう情報は知らないのかな。あの性格だし。

 だとしたら効果あるのか。


 イージャンの答えに、うむ、と頷く独身貴族。

 

 イージャンがシビアナの方へ体を向き直した。


「すまなかった、シビアナ」


 イージャンがシビアナの手をそっと握り謝罪した。

 ええ!? いいの? あれでよかったのか?


「いえ、私の方こそ我がまま言ってごめんなさい。でも私もあなたが相手をしてくれなくて寂しかったのです。だって私はあなたのことを誰よりも愛していますから」


 本当に我だよ。

 愛してますって言ってはいるが、全てはお前の性欲を満たさんが為に起こったんだよ?

 しかしなんだこの寸劇は。


 そんなのいいから、早く話聞こうよ。用件を済ませよ?

 お前らここに何しに来たか、覚えてないだろ。




「俺もだ、シビアナ!!」


 こいつらぎゅっと抱擁し始めました。おいだから今公務中なんだって。


――はあでもまあ……、夫婦の絆が強まって良かったよ。 って素直に思えない私がいる。



 先生は色ボケ夫婦を見ながらうんうんと頷いてこちらを見た。


「リリシーナ」


 はいはい。


「はあ……。王宮に帰ったら、二人とも今日は早く家に帰るように。これは命令だ」


 二人目、頑張れや。


――二人とも話を聞いてない。あそこだけ違う世界になってる。

 いや、シビアナは私の話をあえて無視している可能性の方が高い。


 ていうか今回も全てお前の手のひらの上じゃないか……。先生を巻き込むのも計算に入れてたのかよ。

 お前は一番恐ろしいよ。


「帰りにいい酒を持たせるから二人で仲良く飲め。わはははは」


 先生はそう言ってまた豪快に笑い出した。

 私は三人を見渡して、げんなりとしながら溜息をついた。

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