第6話 81.0
私が大事に大事に育ててきたおっぱいが、また小さくなってしまった。
これまで色々やってきた事が、この胸を過っていく。お風呂に入れば、毎日欠かさず丁寧に揉み解し、雛子豆という豆を食べたら、大きくなったと噂で聞けば、それを大量に買い込み同じように食べてみた。
典範院に引き籠って、その手の書物を手当たり次第読み漁りもした。果ては、月鏡院の機密にまで手を出し、情報を集め有用だと思えば、それを実践してきた。おっぱいを大きくするため、自分がやれる事は皆やってきたのだ。しかし、その努力と苦労が、全て、一切合財、全部、ぱあ。
私はその場にへたり込んだ。どうして……。どうして、こんな事に……。信じられない。おっぱいが、また小さくなるなんて。震える両手を、包み込むように胸へと当てる。すると、手の中にあるおっぱいの量感が、物足りないことにすぐに気付く。この事実が、さらに追い打ちのようになって私を襲う。
どうしよう……。このまま、どんどん小さくなって、そして――! ぺったんこになった自分の胸を思い浮かべる。絶壁の未来。そうなったら、結婚だってできやしない。
「ひっぐ……」
「リ、リリシーナ……?」
頑張った。私は今までずっと頑張ってきたんだ。周りにいる巨乳どもに、羨望と嫉妬の思いを抱こうとも、それを必死に耐えながら。いつか自分も、ああなるんだって、ずっと夢見て頑張ってきたんだ。それなのに――。それなのに、それを嘲笑うかのような仕打ちの数々。
「ふぐ……」
感情が込み上げてくる。今まで耐えてきたそれを、もう止めることができない。じんわりと目が潤んで、着ている服の輪郭がぼやけてくる。そして、ぽたりと零れた涙が、その服に落ちて濡らした。
「うあああああん!」
最早、我慢の限界。私は、盛大に泣き始める。もう、いやだああああああ! どうして、私ばかりこんな目に遭わなければいけないのよおおお!
「うわあああああん!」
「お、おい! リリシーナ!?」
「うわあああああああん!」
「どうしたというのだ!?」
「ぜぇん゛ぜぇい゛ぃぃ~!(先生~!)」
振り向いて、駆け寄ってきていた先生を見る。しゃがみ込んで心配そうにしてくれるその顔に、今まで話すことを躊躇っていた事を、打ち明けずにはいられなかった。
「――ぱいがああ」
「ぱいが?」
「私のおっぱいがああああ」
「んん? お、おっぱい?」
既に、私の声は鼻声。ぐずっと鼻をすする。そして、
「小さくなりましたああああー!」
そう告白すると、堪らず「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!」と思いっきり泣きだした。
「ぶっはっ!」
何かが噴き出すような音が聞こえる。その音がした方を見れば、机にうつ伏せとなり、その机をずだんずだんと何度も叩きつける姿がある。「あははははは!」と普段の優雅さからは、遠くかけ離れた笑い声を上げるシビアナというアホがいた。
信じらんない。私が、こんなに辛く苦しんでるのに、大爆笑するなんて。悔しい。悔しくて堪らない。もう、我慢できない。もう、もう――!!
「うあああああん! お前なんて、大っ嫌いだあああああ!」
思いの丈をぶつけ、私は丸太のように太い先生の腕に抱き着いた。自分の腕を回して足も絡ませる。そして、泣き叫ぶ声と同じように力を込めた。
「びええええええん!!」
「あだだだだああああ!?」
先生は、しがみついた私ごと、自分の腕をぶんぶんと振り回した。だけど、その程度で吹き飛ばされる私ではない。ひしっとしがみつき、そのまま泣き叫ぶ。そして、しばらくこうやって、先生と二人で叫んでいると、シビアナがふらふらとこっちに近づいてきた。
「ご、ごめんね、リリィ。ちょっと調子に乗り過ぎたわ」
ちょっとだと!? 私は、キッと睨み付ける。
「ちょっとじゃ、ないわい!」
お前は、私の心を深く傷つけた自覚がないのか! ああ、ないだろうね! だから、そんなに笑っていられるんだ! しかも、笑い過ぎて目に涙を溜めやがってさ! お前は、私みたいに清らかな涙を、流したことないんでしょうよ! シビアナが涙を見せる時って、こういう時ばっか。悲しい時に流す涙なんて、見たことがない。
「あとな! 顔もにやけてるし、全然謝罪になんか、なってないんだよ!」
ホント腹立つ! これっぽちも悪いなんて思ってないんだ、こいつは! すると、シビアナの顔が困ったような面持ちに変わった。
「そうね。ちょっとじゃなかったわね。ごめんなさい」
お、おう? やけに素直じゃないの。まあ、それなら許してやらんでも――。
「けど、しょうがないじゃない。だって、髪の毛だけじゃなく、おっぱいも、ち、小さくなるな……って!? ぶっふううっ!」
「っ!?」
シビアナは何を思い出したか、途中から我慢できなくなって、派手に息を噴き出す。それを、私の顔に叩き付けた。そして、引きつけを起こしそうな勢いで笑い始める。
「あははははははははははは――!」
こいつ、また笑ったああああああ! やっぱりだ! やっぱり、全然悪いなんて思ってないんだあああ! 尚、困った顔をしていたのは、笑いそうになる顔を隠そうとしていたからのようだ。今気付いた。
「うあああああああん! じぇん゛じぇい゛ぃぃ~!(先生~!)」
私は悔しくて、抱きついている腕に額も押し当てると、さらに力を込めた。先生は、再び腕をぶんぶんと振り始める。
「あだだだだだだだだだ!? よせ、リリシーナ! 本当に腕が折れる! これ、シビアナ! 笑うでない!」
「あははははははは――! は、はい……! 申し訳ありません、シドーさ、ぶぅっはあ!」
「おおい!?」
こいつ、また噴き出したあああああ!
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!」
「ぬおう!? いだだだだ――!」
より一層力を込めると、先生の振りも速くなる。だが、それは無意味だ。この程度で吹き飛ばされる私ではない。それから、引き剥がそうと、肩に手を掛けても無駄だ。その程度の力で、どうにかなる私ではない。
「あははははは――!」
そして、泣き叫ぶ隣で、笑いながら「やっぱ駄目! もう無理!」とか言って、しゃがみ込んで床をばんばんと叩き出すシビアナ。許さない。こいつは、絶対に許さない。こうして、研究室には泣き、笑い、そして苦痛にもがく叫びがこだまする。ごちゃまぜになって響き続けた。
「えっぐ、えっぐ――」
「はあ……。落ち着いたか、リリシーナ?」
先生に言われて、しがみついたまま、こっくりと頷く。泣いたおかげで、幾分か気持ちもすっきり。三人の声で大騒ぎだった研究室は、しばらくして収まっていた。すっかり静かになっている。そして、気付けば、前髪の三つ編みも色が変わっていた。今は悲しみの青……。
「ほれ、これで涙を拭け」
「あ゛い゛……(はい……)」
受け取った手巾を目に当て、それから鼻を「ずびびびー!」と噛んだ。
「はあ、はあ、はあ……」
隣からは、疲れ切った息遣いが先程から聞こえてきている。どっかのアホが、笑い過ぎて死にそうになっていた。右手両膝を床について、苦しそうに肩で息をしている。左手は脇腹辺りを擦っていた。あれだけ笑った代償だろう。ずっと笑っていると痛くなる。
「はあ、はあ――。ホ、ホントにごめん、リリィ。我慢できなかったの……」
私はその言い様にカチンときた。はああ!? お前、馬鹿なの!? ぐったりするまで、笑い転げやがってさあ! 片腹痛いわ! こっちが全力で片腹痛しだわ! そう憤りながら、ぷいっとそっぽを向く。ふんだ! 許してやるもんか! 今日の事は一生覚えておくからな! 事あるごとに、ねちねちと言ってやる!
「ふうー……。シドー様……」
シビアナが、息を整えるように一つ大きく溜息をつく。
「はあ……。リリシーナ」
先生の右腕が動く気配がした。私は引き剥がされまいと、抱きしめている左腕に、再び自分の腕を絡ませる。そして、足にも力を込めて腕にしがみつく。まだ! まだこの腕は返さないの!
だけど、その手は引き剥がそうとするものではなかった。
「全く、お前はいつも騒動を起こしよる」
そう言いながら先生は、私の頭をポンポンとゆっくりと叩く。あれ?
「飽きぬ事よ。なあ、シビアナ」
「ふふ! はい、シドー様」
先生、慰めてくれてんの?
「…………ぐすっ」
何か、ほろりときちゃったな。昔は、この大きな手で撫でられていたっけ……。ふふ! あとね、悪い事したら拳骨。痛かったなあ。これって、実はシビアナも経験あるんだよね。回数は、私に比べ圧倒的に少ないけど。
頭の上から波の様に伝わってくる安心感。それに安堵すると、子供の頃も思い出させてくれた。ちょっと嬉しかったのは内緒。
「リリシーナ」
「…………」
ぽんぽんと撫でられていることに、身を任せていると、先生が話し始める。
「その胸も透明になった髪も、元に戻すことが出来るかもしれん」
「――え?」
今なんて言ったの? 私、治るの? 顔を上げて先生を見る。
「ホ、ホントに……?」
「まあ、可能性としてはある」
その言葉が、一面暗雲の垂れ込む我が乙女心に、一条の光となって天上から突き抜けてくる。力強く差し込むその光が、荒野と化した不毛の大地に降り注いだ。
そして、そこには最後の希望という名の、一輪の蕾んだ花。その蕾が、光を浴びて瞬く間に綻び始めた。我が心は、美しくも儚い煌めきを瑞々しく湛えて咲いた、その花の如し。
「ぜん゛ぜい゛ーーーー!(先生ー!)」
私は嬉しくて、先生の首に抱き着いた。先生、大好き! やっぱり頼れるのは、この人しかいないよおおお! 何と心強い事か。それに比べればシビアナなんて、ぽぽぽいのぽーいである。
「こ、こら! 離れよ! 年頃の娘が、みだりに抱き着くでない!」
いいじゃん、いいじゃん! この喜びを体で現さなければ、気が済まないの!
先ほどとは打って変わって、穏やかな雰囲気。そんな中で、私たちは席に戻って話をしていた。今度は、今朝起こったことを包み隠さず伝えている。目が覚めたら、髪が透明になっていただけでなく、おっぱいも小さくなっていたことをだ。
先生は、胸の前で腕組みをしながら、その話を聞いてくれていた。その間シビアナは、さっき私も見ていた数枚の紙切れを、許可を取って眺めていた。
「――と、まあこんな感じです……」
説明し終えると、先生が少し険しい顔になっているのに気付く。
「全く……。何故、それも一番最初に言わなかったのだ?」
「だってぇ……」
両手の人差し指の先を、顔の下あたりでくっつけると、何度か押し合う。私、女の子ですもん。だから、話したくなかったんですもん。
「そうと聞けば、血統の力を試せなどと、言わなかったかもしれないのだぞ?」
「え?」
どういう事? でも、調べないといけないよね?
「効果は、もう出ておったのだ」
「出ていた?」
「そうだ」
私は首を傾げる。
「えーと。それは一体――」
「お前は、寝ぼけて血統の力を使っておったのだよ」
そう言われて、目を見開く。
「あ!」
「だから、起きた時に胸が小さくなっていたのだ。その根拠は、今やった力の行使の結果だな」
おっぱいは、既に小さくなっていた。その状態で血統の力を使ったら、さらに小さくなったのだ。この二つの事実を知っていれば、既に一回使っていたかもしれない――。私のような先入観がなければ、こういう仮説に誰だって行きつく。
でも、その初めの一回を、使った覚えはない。だから、私が知らない時――眠っていた時に、寝ぼけて使っていたという事になるわけだ。しかし、これは先生だからこそ、簡単に思い付くことだった。
「ああー……。そうだったあああー……」
机の上に寝そべるようにして、ふにゃふにゃと倒れこむ。何やってんだあ~、私は~……。ああやって言われて、ようやく気付ける自分に嫌気がしてきた。
「だが、儂とお前なら、今のを見ずとも、事前に気付けた可能性は高い」
「はあー……。確かに……」
倒した姿勢をゆっくりと直す。その通りだよ……。自分一人じゃ駄目だったが、先生となら――。
「寝ぼけて力を使っていたのは、修行していた子供の頃にも、よくあったからな」
「でしたよねー……」
そう。多分これを思い出していた。そして、既におっぱいが小さくなっていることを伝えていれば、「寝ぼけて使ったから、おっぱいが小さくなったのでは?」という仮説を思い付いていただろう。
それから、血統の力を使うのは、もう止めておこうという判断を下していたはず。効果が分かったわけだからね。調査は終了。王族の義務も果たせている。ただ――。
「一応、赤髪から透明になった状態で、寝ぼけて使ったのだから、胸が小さくなるというのは、そちらの効果としておくか」
「はい」
先生が言うように分けて考えると、透明になった水色の場合は、それはそれで違う効果があるかもしれない。そうなると、調査は続行。試さなければならなくなる。
でも、絶対やらないから。だって、嫌な予感しかしないんだもん。取り敢えず、透明の時の効果は分かったんだから、これでもういいんだよ。
「しかし、あの寝相の悪さが、未だに治っておらんとは……。今でも思い返すと冷や汗が出そうだ……」
「はははは……」
寝ぼけて身体強化してから寝返りを打って、隣で寝てた先生に蹴り入れたりとかしてたんだよね……。
「はあ……」
一通り説明を聞き終わると、自分のアホさ加減が身に染みてきた。げんなりして溜息が零れる。
「どうした?」
「私は、豊胸の薬が変化して、二つの症状が同時に現れたんだと思ってたんですよね……」
これが私の先入観。
「そのように解釈しておったのか」
「はい……」
原因は一つ。効果は二つ。だから、言わなくていいって考えちゃったんだよね。原因さえ分かれば、どちらも対処できるんじゃないかってさ。恥ずかしかったのも、その後押しをしていたわけだ。
でも、まさか一本の線のように繋がっていたとは……。原因が一つ。効果も一つ。そして、その結果としての効果がもう一つ……。別々じゃなかったのか……。
いやあ、これは本当に大失態だねえ……。全然気付かなかったなあ。もう、絶対これだって思ってたもの。でもさ、という事はだよ? 私は、改めてこの事実に気付いて後悔する。
先生に初めから話しておけば、おっぱいは二度も小さくならなかったって事なんだよね……。とほほ……。そして、先ほどの醜態も晒さずに済んだのだ。
「まあ、ともかく――」
顎を摩っていた手を、胸の前に戻して腕を組み直すと、先生は結論を簡潔に纏めてくれた。
「透明化の原因は、豊胸の薬と血統の力。そして、引き起こされたその結果が、その胸だということだな」
「ですね」
うん、多分これで間違いないだろう。
「とはいえ――、まさかこんな事になろうとはなあ……」
「ううっ……」
これなら、お腹が鳴る方が、どのくらいマシだったか。
「ふーむ。しかし、見た感じ小さくなったか、いまいちよく分――」
「先生?」
「い、いや。うむ、何でもない……」
気まずそうに目と顔を逸らす先生。ったく。何言おうとしてんだよ……。それに、こればっかりは、見間違えるわけないっての。毎朝、鏡の前で色んな角度から確認してんだぞ? しかも、持った感触が全然違う。
私のおっぱい揉みは、もはや熟練の職人技。達人の域だ。お風呂に入った時に、いつも揉み解しているからか、少しでも違うとすぐに違和感を覚えるまでに至っていた。僅かな差異も見逃さない。それは、服の上からでも同じ事。
「ああ、そうだ――」
ん? 先生が顔を私に向け直す。
「念のために聞くが、他に何か変わったところはないか?」
「うーん。いえ、これといって……」
「そうか……」
さっきみたいな、押し込まれるような感じも、別の箇所にはない。座ったままではあるが、体を左右に捻ってみる。しかし、これも普段通り動かせた。身体強化をした時に感じる、あの感覚もなし。特に何ともないみたいだ。
「先生」
「何だ?」
ちょっと気になったことを聞いてみよう。
「血統の力って、自分の害になるなんて事、今までになかったんですか?」
流石に全部を知らないのは分かってる。でも、リリファルナ様や他の女性の王族とも近くしく、それなりに面識はあったはず。禁種であるその力について知り得ても、守秘義務を守れば問題ない立場でもある。私の血統の力も知っているくらいだからね。
となると、見る機会はあったんじゃないかな? さっき言ってたリリファルナ様の分以外にも。なら、その中に、危険な能力はなかったのだろうか? こういう意味で尋ねてみた。
「…………」
「先生?」
突然黙りこくってしまった先生を、訝しげに見る。
「儂は知らんな……。それは、ジャムシルドに聞いてみるがいい」
私は、その雰囲気と言い方に違和感を覚えた。あったのか……? いや、あったんだな。これはそういった沈黙だ。先生は、敢えて分かりやすく間を取ってくれたのか。
「はい」
その暗黙の意図を受け取ったという意味も込め、頷いて答えた。しかし、これはそんな危険があっても、トゥアール王家が血統の力の調査を、禁止せず続けているという事でもある。この理由は、王家の掟、責務といったところか……?
ああでも、先生が強制的に解除する方法があるって言ってたよな? これがあるから、止めないのかも。この方法も、何か禁種っぽいよね。血統の力と関係してるし。聞くだけ無駄かなあ?
――まあいいさ。それよりも、大切な本題に移ろう。こっちの方が重要だ。
「それで、先生。先ほど仰った治す方法というのは――」
「ふむ……」
先生が、顎鬚を摩る。はあ、どきどきするなあ。一体、どんな方法でこのおっぱいと髪の毛を、元に戻すことができるのだろう。結構、大変だったりするのだろうか? しかし、例え如何なる方法でも、必ず成し遂げてみせる! 何だってするぞ、私は!
「リリシーナ。すまんがその方法は、今は言えん。禁種の機密に該当するのだ」
「ええ!?」
もー、またあ? 何かずっとこればっかだよな……。折角、やる気になっているのに、いきなり水を差された気分。
「故に、それについて話すには、まずジャムシルドの許可を取ってからとなる」
「ええー……」
父様~? はあ、嫌だなあ~。出来れば、知られたくないんですけどお。絶対怒られるし~。
「こんな事になってしまったのだ。報告は必ずするのだぞ?」
「はあい……」
嫌がる理由を、間違いなく察した先生に睨まれ、私は渋々承知した。
「治す話はそれからだ。報告をして、あいつから許可を取っておいてくれ」
「分かりました……」
そう言いながら、がっくりと項垂れる。はあ、やだやだ。何て怒鳴られるやら……。私のそんな様子を見ていたのか、先生が「ふっ」と苦笑いをした。
「まあ、儂も王宮に行くのだ。お前の血統の力について、任された立場でもある。一緒に行って話すとしようか」
「わ! ありがとうございます!」
項垂れた姿勢を、元気よく元に戻す。
「ふっ。全く調子のいい奴め」
「えへへへ」
いやあ、助かるなあ。先生が味方にいると違うもんね。一方的に、がみがみ言われなくなるしー。
「ああ、それからリリシーナ。取り敢えず、血統の力を使うことは全面禁止だ。やめておけ」
「はい。分かりました」
これについては、異議なしだね。危険過ぎるもん。色があろうがなかろうが、絶対に使わない。これ以上、変なことになって堪るかっての。そして、どうやら、透明になった水色の場合も、調査しなくて済みそうだ。これは助かったわあ。まあ、やれと言われても絶対にやらなかったろうけど。
「差し当たって、ここで話しておきたいことは、これくらいか」
「ですかね? まあ、後で気付いても、王宮で話せばいいだけですし」
「うむ、それもそうだな」
とにかく、治す方法はあるのだ。これが分かっただけでも、取り敢えず今は良しとしよう。私は、ここに来る時よりも、気持ちが随分と軽やかになっているのを感じた。やっぱり、この問題を解決できるって分かったのは大きい。先生の所へ来て良かった。
「さて、それでは朝食でも取りに行こうか」
「あ、はい!」
私たちは、椅子から立ち上がった。そうそう朝ご飯! もう、お腹ぺこぺこだよー。泣き叫んだのもあって、空腹の度合いは増していた。今日の朝食、何だろな~? ふふふ! 正油を使ったものであることは確実。さっきその香ばし匂いが、漂ってきてたもんね。
「シビアナ、行くぞー」
ずっと紙を見ているシビアナに、顔を向けた。ていうか、こいつは私の一大事に何してんのよ? 全然、話にも入って来ないし。もう既に興味なしかい。
「…………」
「シビアナ?」
どうしたんだろ? 私の声に反応を見せない。不思議に思っていると、紙切れを見入っていたシビアナが顔を上げる。
「シドー様」
「どうした?」
「これは――」
その紙を差し出した。先生は、受け取った紙に目を落とす。
「ふむ、気になるのか?」
「はい」
「そうか……」
何してんのー? 別にいいじゃん、そんなのはさー。それより、早くご飯食べに行こうよー。私は、不満たらたらで、二人のやり取りに口を尖らす。
「シビアナ。朝食の準備は、まだ掛かりそうか?」
「そう――、ですね。まだもう少し掛かるかと」
ぐええ、まだ掛かるの? がっくしと肩を落とす。先生は、少し黙って紙切れを見ていたが、
「いいだろう。では、朝食が出来るまで、お前たちには少し見せておこうか」
そう言うと、部屋の奥にあった大きな箱の前まで歩いていき、その蓋を取った。




