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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第四章 おっぱい慟哭編
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第5話 その身に起きたこと その5

「今の状況から言えることは――、リリシーナの髪色は、一部だけ欠落を引き起している――という事だな」

「ふふっ。はい、そうなりますね」


 シドー先生は、この髪について解説を始めていた。ただ、私にではない。嬉しそうな笑顔で隣に座っているシビアナにだ。返事をしているのもこいつ。私は、透明になった髪を隠すため、再び飾り羽を装着。


 一応、色の変化が分かる様に、前髪の少しを簡単な三つ編みにして、飾り羽から出した。その後は、精も根も使い果たしたかの如く、ずっと机に頭をうつ伏して座っている。意気は消沈しきり、半ば放心状態だ。


 だって、そうでしょ? ここまで頑張って、先生の所へ来たっていうのに、結局一番知られたくないシビアナにバレた。しかも、髪の毛は元に戻ってなくて、ぬか喜び。そして、おっぱいは小さいまま。我が努力は全て水泡へと帰し、事態は全く好転していと突きつけられたのだ。であれば、こうもなるわっ。ううっ……。


 最悪だよ最悪ー。何一つ、良い事なんてありゃしない。もうね、疲れたよ、わたしゃあ。人生に疲れた。はあ……、お腹空いたよお……。おにぎり食べたいよお。それは、焼きおにぎりがいいよお……。こんな感じで弱り切っている私を置き去りにして、二人の議論は続く。


「取り敢えず、シビアナ。怒りと驚きの感情――赤と水色の欠落は確定だろう」

「はい。逆に、黄色、緑、紫……。つまり、喜び、不安、憎悪といった感情は、今まで通りのようですね」

「うむ。そのようだな」


 先生は、話を聞いていて、透明になっているのが全ての色に対して言えるのか、疑問に思ったとの事。部分的である可能性を、検証しておきたくなったそうだ。


 だから、透明になるか私を実際に驚かせて変化を見ようとした。朝起きて、一番最初に抱いた激情であろう、驚きをね。その驚きがあっても、髪は透明のままだった。だから、色が無くなっている可能性は、あったわけだ。

 

 で、それは失敗したが、シビアナは成功してたんだって。だから、先生は唖然として、こいつはあんなに嬉しそうにしていたのだ。今日一番の、ほくほく顔であった理由もこれ。驚かせた上に、私の髪が透明になっていく様を、直に見れたわけだからね。そりゃあ、さぞかし面白かったでしょうよ。


 そして、シビアナはついでとばかりに、私を怒らせた。怒りの感情を確認したって訳だ。しかし何故、怒りなのか。次に確かめるのは、他の感情でもいい気がする。だが、これにも一応ちゃんとした理由があった。


 その言い分は、こうだ。「殿下は、髪が透明になって驚いた後、絶対に怒っていた。だからやった」だとさ。ホント、私の事を憎らしいほど、よく分かってらっしゃるよ。この言い分を聞けば、強く咎めることが出来なくなるのも含めてね。


 確かにブチギレたからな、私。で、髪は透明のままだった。それを、自分の目でも確認したかったらしい。これは、赤色も既に透明へと変化しているのではと、あいつが疑っていたからでもある。寝る前は赤髪だったわけだし、それがそのまま透明になったのかもしれないってね。


 そして、その可能性を考慮していた先生も、シビアナに乗って作戦は見事に成功。あれだけ怒れば、私の髪は間違いなく変化する。だが、透明から赤に変わる事はなかった。これはつまり、驚きの感情と同様、色が透明になっているってことの証明だ。二人は、きちんと確認できたって事さ。


 と、まあこの様に、一応筋の通った説明を受けた。だけどさ、これちょっとおかしくない? 確かに、さっきのは普段なら間違いなく、色の変化が起きていた。ここで変わっていた、紫とか黄色とかと同じようにね。これは、私が保証する。だから、赤は欠落しているだろう。しかし、それでもシビアナにしては、やり方が些かお粗末だ。


 だって、驚きの時と同様に、色が着いている状態で怒った方が、分かり易いじゃん。色が透明になっていくわけだから、誰でも断言が出来るよね。でも、さっきの方法は、断言できるとしても私と、まあシビアナくらいしか出来ないだろう。だから、証明になったとはいっても弱い。穴だらけだ。もっと違う方法でやるべきだった。


 しかし、私には分かる。お粗末だと感じれば感じる程に、それは確信へと変わっていく。心の中でほくそ笑む、奴の顔が目に浮かんでくる。やっぱり、ついでなのだ。赤色の確認は、あくまでおまけ。本当は、私を怒らせて面白がるための、いい口実が出来たと考えたに違いない。言い訳も、ちゃんとあるし。


 あと単純に、色の着いた感情にするのが面倒くさかっただけだ。透明になるのは、驚かせるだけで確認できていたわけだからね。そして、この二つが組み合わさって、奴はあの凶行を増長させたのだ。私を、ただただおちょくるために。そう。我欲を満たす為ならば、何よりも先にそれを実行する。それが、シビアナなのである。


 ホントね。こいつが、なれば良かったのにね。髪の毛が透明になるのも、おっぱいが小さくなるのもね。そして、この世を儚んで涙すれば良かったのに。


 まあ……。赤髪の方は気になるなら、後でまたやればいいか。別に焦る事もないだろう。うーん……。でも、出来ればもうやりたくないあ……。怒るのって疲れるのよ。どっと気疲れする感じ。あと、無理矢理怒るのって、私多分やれそうにないしね。だからさ、結局のところ、これでもういいじゃないって思うよ。


「興味を引くのは、紫だな」

「そうですね」


 先生の言葉に、私も興味が湧く。紫――? 何でかな?


「緑は、青と黄色が合わさった色だ。これは、青を確認していないから分からぬ。水色も似たようなものだな。だが、紫の方は、はっきりとしておる。この色は、赤と青を混ぜることで作りだせる色だ。しかし、その赤が欠落しているのにも関わらず、ちゃんと色として現れている」

「はい」


「色そのものが、喪失しているわけではないようだな。感情によって現れる、決められた色の変化が起こらないだけか」

「その代わりに、透明になると――」

「うむ。そのようだな」


 ああ、そういう事。成る程ねえ……。流石、先生。そう言えば、天才画家テオルン先生も何か言ってたよね。色には、基本となる五色があるって。確か――、赤紫色と水色と黄色。それと黒と白だったか。これで、大抵の色は作れるって言ってた。


 でも、何でこの色なんだろうね。私だったら、白と黒は同じだけど、後は――赤、青、黄色とかって思っちゃう。先生も言ってるが、赤と青を足したら紫じゃん。それで、赤を多めにしたら赤紫でしょ? だから、基本って感じがしないんだよね。


 そう思った私は、彼女に何故かと聞いてみた。そしたら、画家になったら分かるってさ。適当に、あしらわれてしまったよ。


「ううむ。とはいえ――」


 先生が唸る。


「今言ったことも、法則性があればの話だ。別の色は、実際どうか分からぬ。あくまで仮説となろうな。こうなると――」


 先生の視線が、突き刺さっているのを感じる。後、シビアナのも。


「やはり、全ての色を確認しておきたいところだ」

「ふふっ。はい、そうなりますね」


 机に顔を置いている私は、それを聞いて、いやんいやんと頭を左右に転がした。先生、それは無理。ていうか、やだ。幾つあると思ってんのよ。全部見るのに、どれだけ時間が掛かるやら。繊細な私の心は、それに耐え切れない。もうね、疲れてんですよ。お腹空いてんの。絶対やらないからな。


「ま、こやつがこの調子では無理か……」


 そうそう。今度にして。少しずつやりゃあいいのよ。解決策が、すぐにでも見出せるなら、別だけどさ。


「なら、これは後回しにするとして、問題は――」


 問題? ああ、そうだったわ。髪が透明になった事で、どうしても確認をしておかなければいけない事がある。


「この状態で、血統の力が使えるのかどうかだ」

「はい」


 これも、やっておかないとな。はー、面倒くさー。新たな髪色の発現が認められた時、王家の女性には能力が判明するまで、それをきちんと調査する義務が生じるのだ。これは、王家の掟として定められている。


 先生だけでなく、シビアナにも知られるところとなった今、やらないわけにはいかない。でも、私としては、それよりもさっさと解決策を練りたいだけどなあ。


「今まで通りに、使える可能性もある。だが、色が無くなったわけだからな。そうなると、どうしても考えてしまうのが、力の消失か若しくは変質だ。しかしそれも、使ってみない事にはな」


 取り敢えず、この三つだよね。変質なら、どんな事が出来るようになっているのやら。ちなみに、血統の力を調べる方法は、一応ある。それに従って、順々に試していけばいい。だが、この方法には運も必要だ。確実じゃないんだよね。


 だけど、私の場合は、能力の特質が分かり易かったのもあって、この方法で結構簡単にどんなものか判明した。先生もいたしね。逆に、この方法に頼らず、偶然自分の力を見出した者もいたとか。運が良かったわけだ。


 でも、中には自分がどんな力を使えるか分からないまま、その人生を終えた者もいたみたい。王家の掟で定められているから、延々と調べ続けたんだろうね。これは、大変だったろう。この髪も、そうならない事を祈るばかりだよ。


「ふう……。しかし、本当に透明になっていようとはな……」


 先生の溜息が聞こえた。神の悪戯という、不可思議な現象を研究していても、この症状は未だに信じられないご様子。然もありなん。透明化は、どうやらこの国始まって以来の珍事なのだそう。


 視線も感じるから、またこっちを見ているらしい。そして、ぽつりと呟かれた言葉が、この耳に届いた。


「白ではなく、透明か……」


 白? 先生、昨日もそんな事言ってたな。しかし、妙に拘るね。そう思っていると、シビアナが答える。その言葉が、思い起こさせてくれた。


「白――。リリファルナ様ですね」

「――ん? うむ、そうだ……」


 リリファルナ様か。そう言えば、そうだったな。リリファルナ様は、私の叔母に当たる方で、父様の姉上。この方の銀髪が、白とそして黒に変わっていたそうだ。


 そして、王女というだけでなく、別の事でも結構な有名人だった。特に、音楽家集団であるロック教団では、伝説の人として今でも語り継がれている。そう。リリファルナ様は、歌い手であり、作曲家だったんだ。しかし、王族出身の音楽家ってだけで、有名になったんじゃない。その理由は他にあった。


 ロック教団は、歌ったり踊ったりしている奴らばっかりだが、一つの宗教だ。経典もある。その中に、教団の至上命令ともいうべき、使命が記されている。


 それは、神に捧げる歌曲を見つけ出すこと。神に捧げるその歌曲を演奏し終えた時、この世は此岸しがんと彼岸の花が咲き乱れ、神の祝福で満たされると言う。彼らは、その祝福を得るため探し続ける。歌曲を作り続けているのだ。


 リリファルナ様は、それを成し遂げるのではないかと言われていたらしい。そこへ至るための、一番近い場所にいるってね。『天色あまいろの歌姫リリファルナ』。こう呼ばれていたのも、そのためだろう。だけど、それが叶う事はついぞなく、伯母上は戦場でその命を落としている。


「先生」


 リリファルナ様の事で、気になることが出来た。それを尋ねるため、頭を持ち上げる。


「ん? 復活したか。どうした、リリシーナ?」

「リリファルナ様の白って――、何が出来たんですか?」


 私は知らないが、多分先生は知っている。それと、もしかしたらシビアナも。こいつは、リリファルナ様に会ったことがあるからな。


 しかし、これはもちろん機密だ。禁種のね。だから、駄目元で聞いてみた。でも、髪に関する事だし、私は王女。そして、この状況なら、触りの部分は無理だろうが、少しくらいのちょい出しぐらいは、聞けるかなって思ったんだ。機密に抵触しない程度ならってさ。先生なら、上手い事ぼかせるだろうし。


 先生は、少しの間私をじっと見ていたが、考え込むように腕を組んだまま、その目を下に落とした。うーん。こりゃ駄目かなー。しかし、その口から出たのは、教えないという類の言葉ではなかった。


「さて、何だったか……」


 お。これは、聞けそうな予感。突っぱねる感じでもないし、シビアナも止めようとしない。これなら、いけるか?


「そうだな――」


 先生は、窓の外へと顔を向ける。ちょっとわくわく。


「歌が、上手く歌えるようになっていたか」

「ほほう……」


 そんな能力があるのか……。知らなかった。まあ、血統の力でどんなものが現れたかは、禁種扱いで秘匿だからそれは当然なんだけど。でも、何か歌姫らしい力だよね。上手にってのは、どんな風に歌えたのだろうか。


「ふっ。あいつは、音痴であったからな」

「え?」


 今、変なこと言わなかった、先生? 音痴って聞こえたんですけど。伝説の歌姫なのに?


「さて、リリシーナ」

「はい?」

「少し、やってみるか」


 ありゃりゃ。聞けるのはここまでか。無理矢理、話を終わらせたようなこの感じ。これ以上は、深入りさせたくないようだ。禁種だもんね。仕方がない。やっぱりぼかされたが、これだけでも教えてくれたのは、ありがたいって事さ。


「分かりました。それじゃあ、やってみましょう」


 ま、少しは教えてもらったからね。どの道、確認しなければいけないのもある。それに、感情の変化に比べれば、かなり楽だし、ここは先生の言う通りやってみたりますか。私は、ゆっくりと立ち上がった。よっこらせーっと。何か手がかりになる様な事でも、見つかればいいんだけどなあ。


「シビアナも、いか?」

「ふふふ。はい、楽しみですね。一体、何が起きるのか――」


 全く、気楽なもんですよ、こいつは。この言い様、完璧に他人事だもんね。


「――あ。でも先生」


 シビアナの言葉で気付いた。


「ん?」

「危険は、ないのでしょうか?」


 変わり方が変わり方だ。血統の力が変化していた場合、自分へ害となるようなものに変わっている可能性もあるよね。本当に何が起きるか分からない。だから、私も髪が透明になって、すぐに力を使うのを躊躇ったんだよ。


「そこは、考慮しておる。少しでも妙に感じたら、すぐに言え。強制的に解除させる」

「え? そんな事できるんですか?」

「まあな」


 ほー……。それは知らなんだ。


「あと、儂とシビアナのどちらかが、おかしいと判断しても、同じく強制解除する。頼むぞ、シビアナ」

「はい。心得ました」

 

 シビアナが、頷いて答える。


「一応、驚きによって引き起こされた透明とは、区別しておくか。効果は、別々かもしれん。今から行うのは、赤が透明になった場合の確認だな」

「はい。じゃあ、赤髪の時と同じようにやればいいですか?」


 これは一応、王家公認の方法と同じ順序だ。


「ああ、そうだな。まずは、それで試してみるか。その後は、まあここで出来るものだけ、やってみるとしよう」

「分かりました」


 私は、いつものように目を瞑り、気持ちを集中させる。


「リリシーナ、ほんの少しでいからな。極力、力を込めぬようにしてやってくれ」

「了解――」


 そう言って、ゆっくりと静かに深呼吸を始めた。使う力は少なく、息は深く、深くだ。――お、来た来た。どうやら、力は無くなっていないようだ。その力の流れが、体を巡っているのを感じる。さてさて、普通なら、ここで髪が赤く光り出すんだが――。それを見るために、目を開いてみた。


「あら」

「どうした?」

「あー……、いえ。その……、力は感じているですけど……」


 先生に答えながら、飾り羽から出した三つ編みの前髪を持ち上げる。


「光らないんですよねえ……」


 そう。全く光っていない。いつもなら輝いているはずなのに、変化はなかった。


「ふうむ……。そうか……」


 力の変質ではなく、消失だったのだろうか。でも、力の流れはあるみたいなんだが……。


「リリシーナ。血統の力は、感じると言ったな?」

「はい。それは間違いなく」

「では、そのままやってみるか……。出来そうか?」

「そうですね……。やってみましょう」


 私は、再び気持ちを集中。深呼吸を始める。「すうぅぅぅ……」と勢いよく息を吸い込んでいく。うーん。しかし、何とも美味しそうな匂いだ。この香ばしさに刺激されて、食欲がどんどん湧いてくる。


 これは、正油が焦げる匂いかあ。間違いない。昨日の宴会やお風呂でも嗅いだ、あのお団子の匂いと同じものだ。私は、すぐに分かった。はああん。涎出そう……。


「――ぐう!」


 先生とシビアナに、じっと見守られていた静かな室内へ、乙女にあるまじき低い音が無情にも響く。

 

「…………」


 私は、集中を解いて無言のまま、自分のお腹を見る。ねえ……。何でこんな匂いが、いきなり漂って来るの……? ちょっと考えたくない事態発生。空きっ腹のお腹から音が鳴った。


「――くふっ!」


 シビアナが、笑いを噴き出し、口許を手で隠しながら、ばっと勢いよく顔を背ける。こいつ!?


「ふ、ふふふふふ! ど、どうやら、血統の力は、殿下のお腹が鳴るように、くふ! へ、変化したみたいですね……! ぷふふっ!」

「アホか! そんな訳ないだろうが!」


 今のは、ここに漂っているこの匂いに、反応しただけだ! ――え? そうだよね? 透明になって、初めてやった事だから、徐々に心配になって来る。ああいやいや、大丈夫だ。髪に集まった力は、体に纏わらせていない。まだ、これからだった。


 ったく、冗談じゃないわ。私に、恥をかかせるためだけの能力なんて、要らんからな。しかし、どうしてこんな匂いが、急に漂ってきているのだろう? ゴトキールは、王宮に戻ってからって言ってたから、料理なんてしてないはずなんだが……。


「ふふふ――!」

「おい! お前、笑い過ぎだぞ!」


 眉間に寄った皺を解す先生を余所に、シビアナは未だに肩を震わせながら、口許を押させている。こいつ、ホンット腹立つわあ! しばらくそうやって笑っていたが、ようやく満足したのか一息入れた。


「ふう……。ゼニシエンタ達が到着したのでしょう。王宮から、食材などを持って来て貰っています。簡単なものになりますが、それを使って朝食を作るようにと、伝えておきましたから」

「おおー」


 何だ、そうだったのか。どうやら、こいつが手配していた模様。


「そういう事だ。すまぬな、シビアナ」

「いえ、このくらい彼女達に掛かれば余裕ですので」


 彼女()? 誰が来てるんだろう? しかし、ゼニシエンタは来てるのか……。なら、大いに期待できるな。美味しい朝食が頂けそうだ。よし――。


「先生、取り敢えずもう一回やったら――」

「分かっておる。先に朝食を取ろう」


 わーい! やったね! 腹が減っては戦にならないのだよ。それに、考えも上手く纏まらなくなるし、多少はお腹に何か入れていた方が良い。うんうん、いいじゃんいいじゃん。よし、さっさと終わらしてしまおう。


「では、やりますね――」

「うむ」


 途中で止めたせいか、力の流れも消えていた。もう一度、始めからだ。まずは深呼吸。今度は鼻からではなく口から息を吸う。力の感覚は、すぐに戻ってきた。でも、やっぱり髪は光らない。


 うーん。これだと、どれくらい力を込めたか分かりにくいんだねえ。私は、改めてこの事実に気付く。慣れてきているとはいえ、今はまだ、光った方がやり易いようだ。

 

 そして、恐らく髪に集まっているであろう力を、いつもやるように全身へと広げていった。さあて、何か起きるかな? 初っ端で分かれば、ありがたいが……。――ん? すると、ここで違和感を覚える。力が広がらない。ある二点へと集中し始めた。


 二点――。それは胸の辺り。ていうか、おっぱいだった。何でだよ!? 意味が分からない。何故に、おっぱいなのか。どうして、ここへ行き着くのか。――え? ちょ……。ちょっと、どうなってるの、これ……? 異変に気付く。力の流れが止められない。しかも、込めた以上に吸い取られ、おっぱいに向かってどんどん流れて溜まっていくようだった。


 私は、体中から汗が噴き出すような感覚に襲われた。どうしよう。嫌な予感がして堪らない。制御不能の力。その力が集まっていく先は、私のおっぱい。そして、こんな状況に陥っている、そもそもの原因は何か。それは、神の悪戯――豊胸の薬。その効果は何だったか。これが、否が応でも思い出されていた。


 ちょ、ちょちょちょっと、待ってよ! もしかして、これ――。爆発するんじゃないの!? 私の心は、この恐怖で一気に覆い尽くされた。しかも、力の流入は未だに続いていく。やばい! やばいやばいやばい――!


「せ、先生!!」


 私は、慌てて先生に叫んだ。


「む!? どうした!?」

「ちょっと、中止して欲しいんで――! あれ……?」


 突如として、力の気配が霧散した。おっぱいに溜まったはずの力の存在を、まるで感じなくなった。何だったんだ、今のは……? 


「え?」


 しかし、次の瞬間、私の体に異変が起きる。それは、ほんの一瞬、感じただけだった。胸を締め付けるような感覚。圧迫されていくような、押し込まれていくような――。


「――!?」


 ぞっとした。気が付いた可能性に、背筋が氷の柱へ当てられたように、冷えていく。私は、素早く二人から離れた。すぐにでも、確認したかったからだ。そして、先生たちに背を向けると、服を引っ張り、出来たその間から自分のおっぱいを、恐る恐る覗き込んだ。


「ひょお――!」


 分かった事実に驚愕し、息が勝手に吸い込まれる。


「お、おい。大丈夫か、リリシーナ?」


 どうして、どうしてこうなった!? 体の震えが止まらない。服を掴んだこの手も震えている。おっぱいがあ……。私のおっぱいがあっ……! 誰か嘘だと言ってほしい。だけど、見間違えるはずはない。それは、どんな事をしても変えられない現実――。


 おっぱいが、また小さくなってんるんですけどおおおおおおお!! 絶望で、目の前が真っ暗になりそうだった。私の大切なおっぱいが、更に小さくなっていたのだ。

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