第5話 その身に起きたこと その5
「今の状況から言えることは――、リリシーナの髪色は、一部だけ欠落を引き起している――という事だな」
「ふふっ。はい、そうなりますね」
シドー先生は、この髪について解説を始めていた。ただ、私にではない。嬉しそうな笑顔で隣に座っているシビアナにだ。返事をしているのもこいつ。私は、透明になった髪を隠すため、再び飾り羽を装着。
一応、色の変化が分かる様に、前髪の少しを簡単な三つ編みにして、飾り羽から出した。その後は、精も根も使い果たしたかの如く、ずっと机に頭をうつ伏して座っている。意気は消沈しきり、半ば放心状態だ。
だって、そうでしょ? ここまで頑張って、先生の所へ来たっていうのに、結局一番知られたくないシビアナにバレた。しかも、髪の毛は元に戻ってなくて、ぬか喜び。そして、おっぱいは小さいまま。我が努力は全て水泡へと帰し、事態は全く好転していと突きつけられたのだ。であれば、こうもなるわっ。ううっ……。
最悪だよ最悪ー。何一つ、良い事なんてありゃしない。もうね、疲れたよ、わたしゃあ。人生に疲れた。はあ……、お腹空いたよお……。おにぎり食べたいよお。それは、焼きおにぎりがいいよお……。こんな感じで弱り切っている私を置き去りにして、二人の議論は続く。
「取り敢えず、シビアナ。怒りと驚きの感情――赤と水色の欠落は確定だろう」
「はい。逆に、黄色、緑、紫……。つまり、喜び、不安、憎悪といった感情は、今まで通りのようですね」
「うむ。そのようだな」
先生は、話を聞いていて、透明になっているのが全ての色に対して言えるのか、疑問に思ったとの事。部分的である可能性を、検証しておきたくなったそうだ。
だから、透明になるか私を実際に驚かせて変化を見ようとした。朝起きて、一番最初に抱いた激情であろう、驚きをね。その驚きがあっても、髪は透明のままだった。だから、色が無くなっている可能性は、あったわけだ。
で、それは失敗したが、シビアナは成功してたんだって。だから、先生は唖然として、こいつはあんなに嬉しそうにしていたのだ。今日一番の、ほくほく顔であった理由もこれ。驚かせた上に、私の髪が透明になっていく様を、直に見れたわけだからね。そりゃあ、さぞかし面白かったでしょうよ。
そして、シビアナはついでとばかりに、私を怒らせた。怒りの感情を確認したって訳だ。しかし何故、怒りなのか。次に確かめるのは、他の感情でもいい気がする。だが、これにも一応ちゃんとした理由があった。
その言い分は、こうだ。「殿下は、髪が透明になって驚いた後、絶対に怒っていた。だからやった」だとさ。ホント、私の事を憎らしいほど、よく分かってらっしゃるよ。この言い分を聞けば、強く咎めることが出来なくなるのも含めてね。
確かにブチギレたからな、私。で、髪は透明のままだった。それを、自分の目でも確認したかったらしい。これは、赤色も既に透明へと変化しているのではと、あいつが疑っていたからでもある。寝る前は赤髪だったわけだし、それがそのまま透明になったのかもしれないってね。
そして、その可能性を考慮していた先生も、シビアナに乗って作戦は見事に成功。あれだけ怒れば、私の髪は間違いなく変化する。だが、透明から赤に変わる事はなかった。これはつまり、驚きの感情と同様、色が透明になっているってことの証明だ。二人は、きちんと確認できたって事さ。
と、まあこの様に、一応筋の通った説明を受けた。だけどさ、これちょっとおかしくない? 確かに、さっきのは普段なら間違いなく、色の変化が起きていた。ここで変わっていた、紫とか黄色とかと同じようにね。これは、私が保証する。だから、赤は欠落しているだろう。しかし、それでもシビアナにしては、やり方が些かお粗末だ。
だって、驚きの時と同様に、色が着いている状態で怒った方が、分かり易いじゃん。色が透明になっていくわけだから、誰でも断言が出来るよね。でも、さっきの方法は、断言できるとしても私と、まあシビアナくらいしか出来ないだろう。だから、証明になったとはいっても弱い。穴だらけだ。もっと違う方法でやるべきだった。
しかし、私には分かる。お粗末だと感じれば感じる程に、それは確信へと変わっていく。心の中でほくそ笑む、奴の顔が目に浮かんでくる。やっぱり、ついでなのだ。赤色の確認は、あくまでおまけ。本当は、私を怒らせて面白がるための、いい口実が出来たと考えたに違いない。言い訳も、ちゃんとあるし。
あと単純に、色の着いた感情にするのが面倒くさかっただけだ。透明になるのは、驚かせるだけで確認できていたわけだからね。そして、この二つが組み合わさって、奴はあの凶行を増長させたのだ。私を、ただただおちょくるために。そう。我欲を満たす為ならば、何よりも先にそれを実行する。それが、シビアナなのである。
ホントね。こいつが、なれば良かったのにね。髪の毛が透明になるのも、おっぱいが小さくなるのもね。そして、この世を儚んで涙すれば良かったのに。
まあ……。赤髪の方は気になるなら、後でまたやればいいか。別に焦る事もないだろう。うーん……。でも、出来ればもうやりたくないあ……。怒るのって疲れるのよ。どっと気疲れする感じ。あと、無理矢理怒るのって、私多分やれそうにないしね。だからさ、結局のところ、これでもういいじゃないって思うよ。
「興味を引くのは、紫だな」
「そうですね」
先生の言葉に、私も興味が湧く。紫――? 何でかな?
「緑は、青と黄色が合わさった色だ。これは、青を確認していないから分からぬ。水色も似たようなものだな。だが、紫の方は、はっきりとしておる。この色は、赤と青を混ぜることで作りだせる色だ。しかし、その赤が欠落しているのにも関わらず、ちゃんと色として現れている」
「はい」
「色そのものが、喪失しているわけではないようだな。感情によって現れる、決められた色の変化が起こらないだけか」
「その代わりに、透明になると――」
「うむ。そのようだな」
ああ、そういう事。成る程ねえ……。流石、先生。そう言えば、天才画家テオルン先生も何か言ってたよね。色には、基本となる五色があるって。確か――、赤紫色と水色と黄色。それと黒と白だったか。これで、大抵の色は作れるって言ってた。
でも、何でこの色なんだろうね。私だったら、白と黒は同じだけど、後は――赤、青、黄色とかって思っちゃう。先生も言ってるが、赤と青を足したら紫じゃん。それで、赤を多めにしたら赤紫でしょ? だから、基本って感じがしないんだよね。
そう思った私は、彼女に何故かと聞いてみた。そしたら、画家になったら分かるってさ。適当に、あしらわれてしまったよ。
「ううむ。とはいえ――」
先生が唸る。
「今言ったことも、法則性があればの話だ。別の色は、実際どうか分からぬ。あくまで仮説となろうな。こうなると――」
先生の視線が、突き刺さっているのを感じる。後、シビアナのも。
「やはり、全ての色を確認しておきたいところだ」
「ふふっ。はい、そうなりますね」
机に顔を置いている私は、それを聞いて、いやんいやんと頭を左右に転がした。先生、それは無理。ていうか、やだ。幾つあると思ってんのよ。全部見るのに、どれだけ時間が掛かるやら。繊細な私の心は、それに耐え切れない。もうね、疲れてんですよ。お腹空いてんの。絶対やらないからな。
「ま、こやつがこの調子では無理か……」
そうそう。今度にして。少しずつやりゃあいいのよ。解決策が、すぐにでも見出せるなら、別だけどさ。
「なら、これは後回しにするとして、問題は――」
問題? ああ、そうだったわ。髪が透明になった事で、どうしても確認をしておかなければいけない事がある。
「この状態で、血統の力が使えるのかどうかだ」
「はい」
これも、やっておかないとな。はー、面倒くさー。新たな髪色の発現が認められた時、王家の女性には能力が判明するまで、それをきちんと調査する義務が生じるのだ。これは、王家の掟として定められている。
先生だけでなく、シビアナにも知られるところとなった今、やらないわけにはいかない。でも、私としては、それよりもさっさと解決策を練りたいだけどなあ。
「今まで通りに、使える可能性もある。だが、色が無くなったわけだからな。そうなると、どうしても考えてしまうのが、力の消失か若しくは変質だ。しかしそれも、使ってみない事にはな」
取り敢えず、この三つだよね。変質なら、どんな事が出来るようになっているのやら。ちなみに、血統の力を調べる方法は、一応ある。それに従って、順々に試していけばいい。だが、この方法には運も必要だ。確実じゃないんだよね。
だけど、私の場合は、能力の特質が分かり易かったのもあって、この方法で結構簡単にどんなものか判明した。先生もいたしね。逆に、この方法に頼らず、偶然自分の力を見出した者もいたとか。運が良かったわけだ。
でも、中には自分がどんな力を使えるか分からないまま、その人生を終えた者もいたみたい。王家の掟で定められているから、延々と調べ続けたんだろうね。これは、大変だったろう。この髪も、そうならない事を祈るばかりだよ。
「ふう……。しかし、本当に透明になっていようとはな……」
先生の溜息が聞こえた。神の悪戯という、不可思議な現象を研究していても、この症状は未だに信じられないご様子。然もありなん。透明化は、どうやらこの国始まって以来の珍事なのだそう。
視線も感じるから、またこっちを見ているらしい。そして、ぽつりと呟かれた言葉が、この耳に届いた。
「白ではなく、透明か……」
白? 先生、昨日もそんな事言ってたな。しかし、妙に拘るね。そう思っていると、シビアナが答える。その言葉が、思い起こさせてくれた。
「白――。リリファルナ様ですね」
「――ん? うむ、そうだ……」
リリファルナ様か。そう言えば、そうだったな。リリファルナ様は、私の叔母に当たる方で、父様の姉上。この方の銀髪が、白とそして黒に変わっていたそうだ。
そして、王女というだけでなく、別の事でも結構な有名人だった。特に、音楽家集団であるロック教団では、伝説の人として今でも語り継がれている。そう。リリファルナ様は、歌い手であり、作曲家だったんだ。しかし、王族出身の音楽家ってだけで、有名になったんじゃない。その理由は他にあった。
ロック教団は、歌ったり踊ったりしている奴らばっかりだが、一つの宗教だ。経典もある。その中に、教団の至上命令ともいうべき、使命が記されている。
それは、神に捧げる歌曲を見つけ出すこと。神に捧げるその歌曲を演奏し終えた時、この世は此岸と彼岸の花が咲き乱れ、神の祝福で満たされると言う。彼らは、その祝福を得るため探し続ける。歌曲を作り続けているのだ。
リリファルナ様は、それを成し遂げるのではないかと言われていたらしい。そこへ至るための、一番近い場所にいるってね。『天色の歌姫リリファルナ』。こう呼ばれていたのも、そのためだろう。だけど、それが叶う事は終ぞなく、伯母上は戦場でその命を落としている。
「先生」
リリファルナ様の事で、気になることが出来た。それを尋ねるため、頭を持ち上げる。
「ん? 復活したか。どうした、リリシーナ?」
「リリファルナ様の白って――、何が出来たんですか?」
私は知らないが、多分先生は知っている。それと、もしかしたらシビアナも。こいつは、リリファルナ様に会ったことがあるからな。
しかし、これはもちろん機密だ。禁種のね。だから、駄目元で聞いてみた。でも、髪に関する事だし、私は王女。そして、この状況なら、触りの部分は無理だろうが、少しくらいのちょい出しぐらいは、聞けるかなって思ったんだ。機密に抵触しない程度ならってさ。先生なら、上手い事暈せるだろうし。
先生は、少しの間私をじっと見ていたが、考え込むように腕を組んだまま、その目を下に落とした。うーん。こりゃ駄目かなー。しかし、その口から出たのは、教えないという類の言葉ではなかった。
「さて、何だったか……」
お。これは、聞けそうな予感。突っぱねる感じでもないし、シビアナも止めようとしない。これなら、いけるか?
「そうだな――」
先生は、窓の外へと顔を向ける。ちょっとわくわく。
「歌が、上手く歌えるようになっていたか」
「ほほう……」
そんな能力があるのか……。知らなかった。まあ、血統の力でどんなものが現れたかは、禁種扱いで秘匿だからそれは当然なんだけど。でも、何か歌姫らしい力だよね。上手にってのは、どんな風に歌えたのだろうか。
「ふっ。あいつは、音痴であったからな」
「え?」
今、変なこと言わなかった、先生? 音痴って聞こえたんですけど。伝説の歌姫なのに?
「さて、リリシーナ」
「はい?」
「少し、やってみるか」
ありゃりゃ。聞けるのはここまでか。無理矢理、話を終わらせたようなこの感じ。これ以上は、深入りさせたくないようだ。禁種だもんね。仕方がない。やっぱり暈されたが、これだけでも教えてくれたのは、ありがたいって事さ。
「分かりました。それじゃあ、やってみましょう」
ま、少しは教えてもらったからね。どの道、確認しなければいけないのもある。それに、感情の変化に比べれば、かなり楽だし、ここは先生の言う通りやってみたりますか。私は、ゆっくりと立ち上がった。よっこらせーっと。何か手がかりになる様な事でも、見つかればいいんだけどなあ。
「シビアナも、良いか?」
「ふふふ。はい、楽しみですね。一体、何が起きるのか――」
全く、気楽なもんですよ、こいつは。この言い様、完璧に他人事だもんね。
「――あ。でも先生」
シビアナの言葉で気付いた。
「ん?」
「危険は、ないのでしょうか?」
変わり方が変わり方だ。血統の力が変化していた場合、自分へ害となるようなものに変わっている可能性もあるよね。本当に何が起きるか分からない。だから、私も髪が透明になって、すぐに力を使うのを躊躇ったんだよ。
「そこは、考慮しておる。少しでも妙に感じたら、すぐに言え。強制的に解除させる」
「え? そんな事できるんですか?」
「まあな」
ほー……。それは知らなんだ。
「あと、儂とシビアナのどちらかが、おかしいと判断しても、同じく強制解除する。頼むぞ、シビアナ」
「はい。心得ました」
シビアナが、頷いて答える。
「一応、驚きによって引き起こされた透明とは、区別しておくか。効果は、別々かもしれん。今から行うのは、赤が透明になった場合の確認だな」
「はい。じゃあ、赤髪の時と同じようにやればいいですか?」
これは一応、王家公認の方法と同じ順序だ。
「ああ、そうだな。まずは、それで試してみるか。その後は、まあここで出来るものだけ、やってみるとしよう」
「分かりました」
私は、いつものように目を瞑り、気持ちを集中させる。
「リリシーナ、ほんの少しで良いからな。極力、力を込めぬようにしてやってくれ」
「了解――」
そう言って、ゆっくりと静かに深呼吸を始めた。使う力は少なく、息は深く、深くだ。――お、来た来た。どうやら、力は無くなっていないようだ。その力の流れが、体を巡っているのを感じる。さてさて、普通なら、ここで髪が赤く光り出すんだが――。それを見るために、目を開いてみた。
「あら」
「どうした?」
「あー……、いえ。その……、力は感じているですけど……」
先生に答えながら、飾り羽から出した三つ編みの前髪を持ち上げる。
「光らないんですよねえ……」
そう。全く光っていない。いつもなら輝いているはずなのに、変化はなかった。
「ふうむ……。そうか……」
力の変質ではなく、消失だったのだろうか。でも、力の流れはあるみたいなんだが……。
「リリシーナ。血統の力は、感じると言ったな?」
「はい。それは間違いなく」
「では、そのままやってみるか……。出来そうか?」
「そうですね……。やってみましょう」
私は、再び気持ちを集中。深呼吸を始める。「すうぅぅぅ……」と勢いよく息を吸い込んでいく。うーん。しかし、何とも美味しそうな匂いだ。この香ばしさに刺激されて、食欲がどんどん湧いてくる。
これは、正油が焦げる匂いかあ。間違いない。昨日の宴会やお風呂でも嗅いだ、あのお団子の匂いと同じものだ。私は、すぐに分かった。はああん。涎出そう……。
「――ぐう!」
先生とシビアナに、じっと見守られていた静かな室内へ、乙女にあるまじき低い音が無情にも響く。
「…………」
私は、集中を解いて無言のまま、自分のお腹を見る。ねえ……。何でこんな匂いが、いきなり漂って来るの……? ちょっと考えたくない事態発生。空きっ腹のお腹から音が鳴った。
「――くふっ!」
シビアナが、笑いを噴き出し、口許を手で隠しながら、ばっと勢いよく顔を背ける。こいつ!?
「ふ、ふふふふふ! ど、どうやら、血統の力は、殿下のお腹が鳴るように、くふ! へ、変化したみたいですね……! ぷふふっ!」
「アホか! そんな訳ないだろうが!」
今のは、ここに漂っているこの匂いに、反応しただけだ! ――え? そうだよね? 透明になって、初めてやった事だから、徐々に心配になって来る。ああいやいや、大丈夫だ。髪に集まった力は、体に纏わらせていない。まだ、これからだった。
ったく、冗談じゃないわ。私に、恥をかかせるためだけの能力なんて、要らんからな。しかし、どうしてこんな匂いが、急に漂ってきているのだろう? ゴトキールは、王宮に戻ってからって言ってたから、料理なんてしてないはずなんだが……。
「ふふふ――!」
「おい! お前、笑い過ぎだぞ!」
眉間に寄った皺を解す先生を余所に、シビアナは未だに肩を震わせながら、口許を押させている。こいつ、ホンット腹立つわあ! しばらくそうやって笑っていたが、ようやく満足したのか一息入れた。
「ふう……。ゼニシエンタ達が到着したのでしょう。王宮から、食材などを持って来て貰っています。簡単なものになりますが、それを使って朝食を作るようにと、伝えておきましたから」
「おおー」
何だ、そうだったのか。どうやら、こいつが手配していた模様。
「そういう事だ。すまぬな、シビアナ」
「いえ、このくらい彼女達に掛かれば余裕ですので」
彼女達? 誰が来てるんだろう? しかし、ゼニシエンタは来てるのか……。なら、大いに期待できるな。美味しい朝食が頂けそうだ。よし――。
「先生、取り敢えずもう一回やったら――」
「分かっておる。先に朝食を取ろう」
わーい! やったね! 腹が減っては戦にならないのだよ。それに、考えも上手く纏まらなくなるし、多少はお腹に何か入れていた方が良い。うんうん、いいじゃんいいじゃん。よし、さっさと終わらしてしまおう。
「では、やりますね――」
「うむ」
途中で止めたせいか、力の流れも消えていた。もう一度、始めからだ。まずは深呼吸。今度は鼻からではなく口から息を吸う。力の感覚は、すぐに戻ってきた。でも、やっぱり髪は光らない。
うーん。これだと、どれくらい力を込めたか分かりにくいんだねえ。私は、改めてこの事実に気付く。慣れてきているとはいえ、今はまだ、光った方がやり易いようだ。
そして、恐らく髪に集まっているであろう力を、いつもやるように全身へと広げていった。さあて、何か起きるかな? 初っ端で分かれば、ありがたいが……。――ん? すると、ここで違和感を覚える。力が広がらない。ある二点へと集中し始めた。
二点――。それは胸の辺り。ていうか、おっぱいだった。何でだよ!? 意味が分からない。何故に、おっぱいなのか。どうして、ここへ行き着くのか。――え? ちょ……。ちょっと、どうなってるの、これ……? 異変に気付く。力の流れが止められない。しかも、込めた以上に吸い取られ、おっぱいに向かってどんどん流れて溜まっていくようだった。
私は、体中から汗が噴き出すような感覚に襲われた。どうしよう。嫌な予感がして堪らない。制御不能の力。その力が集まっていく先は、私のおっぱい。そして、こんな状況に陥っている、そもそもの原因は何か。それは、神の悪戯――豊胸の薬。その効果は何だったか。これが、否が応でも思い出されていた。
ちょ、ちょちょちょっと、待ってよ! もしかして、これ――。爆発するんじゃないの!? 私の心は、この恐怖で一気に覆い尽くされた。しかも、力の流入は未だに続いていく。やばい! やばいやばいやばい――!
「せ、先生!!」
私は、慌てて先生に叫んだ。
「む!? どうした!?」
「ちょっと、中止して欲しいんで――! あれ……?」
突如として、力の気配が霧散した。おっぱいに溜まったはずの力の存在を、まるで感じなくなった。何だったんだ、今のは……?
「え?」
しかし、次の瞬間、私の体に異変が起きる。それは、ほんの一瞬、感じただけだった。胸を締め付けるような感覚。圧迫されていくような、押し込まれていくような――。
「――!?」
ぞっとした。気が付いた可能性に、背筋が氷の柱へ当てられたように、冷えていく。私は、素早く二人から離れた。すぐにでも、確認したかったからだ。そして、先生たちに背を向けると、服を引っ張り、出来たその間から自分のおっぱいを、恐る恐る覗き込んだ。
「ひょお――!」
分かった事実に驚愕し、息が勝手に吸い込まれる。
「お、おい。大丈夫か、リリシーナ?」
どうして、どうしてこうなった!? 体の震えが止まらない。服を掴んだこの手も震えている。おっぱいがあ……。私のおっぱいがあっ……! 誰か嘘だと言ってほしい。だけど、見間違えるはずはない。それは、どんな事をしても変えられない現実――。
おっぱいが、また小さくなってんるんですけどおおおおおおお!! 絶望で、目の前が真っ暗になりそうだった。私の大切なおっぱいが、更に小さくなっていたのだ。




