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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第三章 おっぱい大脱走編
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第13話 対決! ササレクタ!!

「うははははははは!」

「玉ちゃああああん!!」

「目が回るでありまああああああす!!」


 私は左腕でイルミネーニャを抱え、右手でグスコの左足を掴んで振り回しながら、外壁門を目指して爆走していた。


『ぐあああああああああ!?』


 兵達は、果敢に私へと向かって来るが、敢え無く散華。四方八方へどんどん吹っ飛んでいく。

 ふふふ……。そう! 地剛石より頑丈なグスコという武器を手に入れた今! 最早誰も、この私を止めることなど出来はしないのだよ! ふはははは!


「あわわわわ! 姫姉これやり過ぎだよ!」


 イルミネーニャを捕まえたのは、つい先ほどの事。

 グスコを振り回していたから、兵は周囲に近づけず余裕で回収。


「はーはっはっは! 心配すんな! これも訓練訓練!」


 偶に良いのが入り、思った以上に飛んでいく者もいるが、まあ気にしない。


「いや、訓練にも程が――。あれ今の!? 近衛騎士が吹っ飛んでいった!?」


 近衛騎士? 何それ? うはははは!


「殿下ーー! 手を離して欲しいでありますーー!!」


 グスコは、体を起こして私の手を剥がそうと頑張っているが、ぐるぐる回っているせいで思うように出来ないでいる。


「はーはっはっは! んんー? 聞こえんなあああ!!」

「ふえええん! そんなああー、でありますぅぅー!」


 そして現在、目の前には巨大な外壁門。

 その前に盾の列がずらりと並ぶ。最後の陣は、もう目と鼻の先にまで迫ってきていた。


「おらおらおらあああ!!」

「あだだだだだだー、であります!」

『ぐはあああああああ!!』


 私は、並み居る兵をどっかんどっかんとぶっ飛ばし猛進を続ける。


 しかし、流石はグスコ。鉄壁のさらに上という意味で名付けられた、『剛壁』の異名は伊達ではない。悲鳴を上げてはいるが、いくら兵に衝突してもピンピンしている。普通の兵ならぐったりするところを、彼女は元気よく体をじたばたさせていた。


 こいつの頑丈さは、この鎧もることながら、本質はその異常なまでの打たれ強さ。私の一撃を生身でもろに受けて、すぐに立ち上がったてきたのは、軍の連中で言えばこいつとイージャンくらい。しかも、ケロッとしていたのはこいつだけ。イージャンは、苦痛で顔を歪ませていたからな。


 本当のところ、何故こいつが剛壁だなんて呼ばれているのかは、また別のところが大きい由縁となっている。だが、それでもそれを支えているのは、この頑丈な体であることに違いはない。

 

「よおおおし! 辿り着いたぞおおおお!」


 程なくして、最後の防御陣が私の間合いに入った。

 盾盾盾……。隙間なく並べられた盾一線。鉄でできたその縦長の盾が、鈍い光を放ち私の前に立ち塞がる。そして、それらを構えるのは、グスコに匹敵しそうな重い鎧に身を包まれた重装歩兵たち。


 これはもう、重い鉄の塊に盾がくっついている様なものだ。押しのけて入るには、相当の力がいるだろう。そして、その盾の列が層になって、内側に三重四重と門の中心まで続く。騎馬の突進さえ耐えれるであろうこの陣は、まさに鉄の壁である。


「来たぞおおおお!! 何としてでも、ここを死守せよおおお!!」

『おおおおおおおおおお!!』


 指揮官の号令に、兵達が上げた気迫の轟音が、びりびりとお腹に響く。

 おうおう、気合十分だな! 


 私はちらりと、外壁門の上に目をやる。

 ササレクタが腕を組んでこちらを見ている。その横にはレイセインだ。


 私は既に、あいつの戦闘領域に足を踏み入れている。視線も感じていた。ずっと私を見ているのは分かっていた。でっかい目が二つ、こちらを睨みつけている。そんな感じ。だがそれでも、あいつらは全くもって微塵も動きを見せない。


 普通なら、棍棒の十や二十は飛んできそうなもの。それか、あいつ自ら戦闘に加わりそうなもんなんだがな。でも、そんな気配が全然ない。


「あいつらひょっとして……。差しでやるつもりか?」


 いや、でもなあ……。それだと軍と共闘する意味がなくないか? うーん。逆に共闘できない理由でもあるのかな……。――ああ、そうか。


 私は、あいつらが軍と共に攻めてくるのかと思っていた。

 しかし、よくよく考えてみると、私とササレクタがやり合うとなれば、逆に軍の連中は邪魔になる。ていうか被害が出るよね、間違いなく。訓練なんて言ってられなくなる可能性があるのか。だから、一旦演習を終わらせて、ここから軍の連中を撤収させてから改めて、か……。


 あいつらの目的は、あくまで私の拘束。だから、この軍事演習の勝敗は別に関係なし。軍を使ったのは、大方私の体力を削ぐためだったってとこかい。舐められたものだな。だが、元よりそのつもりだったのか? ふーむ。そう考えると確かに……。


「まあでも……。シビアナは、これが目的だったのかもしれないな」


 ササレクタが外壁門の上にいるだけ、それだけで十分なのだ。私は警戒を余儀なくされ、本来できるはずだった攻撃の選択肢が少なくなり行動が制限。さらにササレクタの挙動に対して、常に意識を割かなくてはならない。これだと、普通に軍とやり合うよりは、しんどいわな。


 つまり、シビアナが軍を寄越した本当の狙いは、ササレクタの威を借り、私を委縮させ少しでも損耗させることにあった――、ということだ。今思えば、確かに動きは用心深くなり、動きが鈍ったと感じる部分がある。そして、その上で本命のササレクタをぶつける、と。


 やりそうだなあ、あいつ……。ふっ。だが、これしきの事で体力を削れるとは、些か調子が良すぎるんじゃないか? 私は西都まで一日で走っていけるんだぞ? それを知らないわけではなかろうに。 


――ま、いいさ。それよりも、今はこっち。

 最後まで油断する気はないが、ササレクタ達が参入してこない可能性が高いと分かった以上、この好機を逃す手はない。


「グスコ!」


 私は、右手で振り回している彼女に向かって叫んだ。


「はいぃぃ、でありますー!」

「お前さっき、離して欲しいって言ったよな!」

「言ったでありますー!」

「うむ! では望み通り離してやるぞ! すうぅぅぅ……」


 私は深呼吸をして、右手へさらに力を込める。そして、グスコを振り回す速さを更に上げた。

 

「それじゃああ、お前もおおお! 飛んで行けえええええ!!」


 この勝負、けりをつけさせてもらおうか! 


「うえええ!? ちょ、ちょっと待って下さいであります! 殿下ああああー!!」

「ええ!? 姫姉、まさか投げるの!?」

「おうよ! この陣を貫いてくれるわ!」


 そしてえええ――!


「私の勝ちだあああ!! シビアナああああああ!!」


 テレルとの旅行、宜しくお願いしまーす!

 私は、グスコを最後の陣に目がけて、思いっきり投げつけた。






 外壁門を駆け上がると、そこにはとても見晴らしのいい場所だった。外壁の外に広がる浩々たる王都の景色を一望でき、朝食の支度に上がっている煙も無数に見えた。吹いてくる風の中に、微かにご飯の炊けるあの良い匂いもする。そして、その手前には勿論、二人の女性の姿があった。


「よお……」

「はあ、やっと来ましたわね」


 一人は、太股まで伸びた水色の長い髪が、優雅に棚引く長身の美女。

 言わずと知れた西方将軍ササレクタ。


 そして、もう一人は、ササレクタの後ろでビクビクしながら、顔が青褪めている私の侍従官。

 青色の髪を持つ中性的な顔立ちをした麗人。一見短髪のようにも見えるのだが、数本の三つ編みが右耳あたりから胸元まで伸びているのが分かる。


「お、おはよう……ございます……。殿下……」

「ああ、おはよう」


 レイセインだ。こちらも長身だな。私より背の高いシビアナとササレクタの間くらいか。おっぱいは、シビアナ級である。やっぱすごいデカいよなー、こいつ。あれだけ大きいと、ごく自然に羨望の目がいく。じー……。


 そして、腰の左右に大中小一本ずつ帯剣。腰の後ろには、交差するように小刀を二本帯刀しているはず。ここからつかの部分が見える。普段の彼女は、計八本の刀剣をいつもその腰に着けている。そして、右と左の両手には、木剣が握られていた。


「セイン姉えええええ!!」

「イルミも……。おはよう……。大変だった……ね……」


 今の状況を、互いに労う私の侍従官達。微笑ましいこって。


「うあああああん! 聞いてよセイン姉! 姫姉がね――!」

「こら。ちょっと後にしろ」

「はう……」


 そういうのは、後で二人の時にでもやってくれ。


「あ! ササレクタ様、おはようございます!」


 ササレクタに気付いたイルミネーニャが、朝の挨拶を始める。しかも敬語。前はさ、「おはようだぜ!」とか「ういっす!」とか言ってたんだよねえ、この子。だが最近では、その敬語にも慣れてきて、公私の使い分けも覚えてきている。

 

「ええ。おはようですわ、イルミネーニャちゃん。お久しぶりですわね」

「はい!」


 レイセインは勿論の事、イルミネーニャもササレクタと面識がある。何度もお酒を飲んだ仲だしな。あいつが昨日帰ってくる事知ってたら、一緒にお酒を飲んでたかもしれないね。


「あ……。こんな恰好で、申し訳ございません……」

「う・ふ・ふ。別にいいですわよ。事情は存じてますわ」

「ははは……。ありがとうございます」


 さて、イルミネーニャの挨拶も終わった所で。


「レイセインは、どうしてここにいる?」


 一応聞いとかないとな。情報収集だ。シビアナ関連は、特に情報が物を言う。どんな些細な事でも知っておくようにと、半ば癖みたいになってしまっているのだ。

 

「ササレクタ様に……。捕まっ――頼まれ……ました……」


 彼女は、いつも通り短い言葉で、ぽつりぽつりと呟くように答えた。

 成る程ね、そういう事……。


「う・ふ・ふ。一人では心許なかったものですから、助っ人をお願いしましたわ」

「お前な……」


 レイセインは、普段と変わりなく、王宮に向かってたんだろうなあ。

 だけど、ササレクタがここに向かっている途中に見つけられて、それでとっ捕まったんだな……。

 で、有無を言わさずここに連れてこられたと。彼女も災難であったわけか。


「しかし、姫ちゃん……。派手にやりましたわねえ」


 ササレクタが呆れた様子で溜息をつく。


「ふふん」


 下を見れば、被害を免れた軍の残りが、こちらに歩いてきている。だが、倒れてピクリとも動かない大勢の兵達もそこかしこに転がっていた。ちょっとした惨状が広がっている。大体、私がグスコを手に入れたあたりからその惨状が始まっていて、外壁門に近づくにつれその被害は多くなってるな。


 そして、最後の陣があったその外壁門の前には、そこに向かって真っ直ぐに延びた一直線の道。

 その両脇には、死屍累々となった重装歩兵たちが。

 いや、死んでいるわけじゃないんだけど……、似てるからさ。


 ここからは、「しっかりするでありまあああす!」「救護班! 早くこっちに!」「目を開けろおおお! お前、結婚式挙げるって言ってたじゃないかああ!!」とか叫ぶ声が聞こえていた。


 ホント仰仰しい言いようである。

 私はきちんと手加減をしたのだ。大事に至っている者は皆無であるというのに。全く。


 最後の陣へ真正面から投げつけられたグスコは、その盾の列を貫き外壁門のど真ん中の門に叩きつけられた。

 その射線上にいた重装歩兵は盾ごと宙に飛ばされ、飛ばされなかった歩兵たちの上へ覆い被さるように落ちていった。

 私は、そうやって出来た道を通り、外壁門を駆け上がって来たのだ。


 そして、グスコが門にぶつかった時に鳴り響いた、大きな鐘の音を鳴らすような低く重い大音。図らずも、これがこの訓練の終わりを告げる合図となった。


 ちなみに、グスコは門にぶつかっても問題なし。よろめきながらではあったが、すぐに立ち上がって他の兵士たちの介抱を始めている。


「ま、勝負ごとに手は抜かんよ」


 カトゼの教えにもある。『勝負には、如何なる時も死力を尽くし真剣であれ』と。


「ですわねえ……」

「でも、棍棒の十や二十は飛んでくると思ってたんだがな」


 私は、ササレクタの近くにあった、棍棒の束が入っている樽を見ながらそう言った。


「棍棒が?」

「そ。お前の射程距離に入ってたじゃん」


 あとは、お前自身が飛んでくるかもって思ったんだけどね。

 グスコを投げた瞬間は、大きな隙になる。そこを狙って襲い掛かって来るってさ。だから、その時は特に警戒していた。でも、結局そうはならなかったから、取り越し苦労だったけど。


「はあ……。あのね、姫ちゃん……」

「ん?」

「イルミネーニャちゃんに当たったら、どうするんですの?」

「おお!」

「ササレクタ様ー!」


 イルミネーニャが感謝感激の声を上げて、自分の顔の下あたりで両手を合わせて握った。目はうるうる。

 確かに言われてみればそうだわ。例えササレクタの投擲でも、私だったらさっきの近衛騎士みたいに弾けるから気にしてなかった。でも、万が一ってのがあるよね。素直に感心したわ。うんうん。


 だけどさ。何でササレクタって、シビアナ以外のうちの侍従官に、こんなにも人気があるんだろうかね。ちょっとした気遣いにも敏感に反応してない? ま、いいけども。


「さて……」


 外壁門の惨状に目をやっていたササレクタは、視線をこちらに戻した。


「それで、姫ちゃん……。何処に行くんですの?」


 知ってるくせに白々しいねえ。シビアナから聞いているだろ、お前。


「ちょっと野暮用さ」


 私がそう言ってはぐらかしてみるとササレクタは、


「典範院に――、用があったんじゃないんですの?」 


 と、手に持った紙切れをピラピラさせ、にやりと笑いそう言った。

 私が書いた書置きだ。こいつ……。


「何でお前がそれ持ってんだよ?」

「あの後、姫ちゃんにって伝言を言付かったんですの。それですぐに部屋へ戻ったら、これがありましたわ」

「お前、戻ってきてたのかよ……」


 結構、間一髪だったらしい。着替えてたりしてたからな……。


「化粧部屋までの扉は、全て閉まっている。でも、その部屋の窓は開け放たれている。床にはこの書置き。そして、姫ちゃんの姿は何処にもない……。ピンときましたわ」


 鍵を掛けて普通に廊下から出て行ったとは、思わなかったんだろうな。

 流石、お前の勘の良さには舌を巻く。私の部屋にはゼニシエンタ――、いや、あの子は朝食食べに行っているからシトエスカか。あの子に開けてもらったってとこかな。窓は閉めておくべきだったなあ。今後の参考にしよう。


「で、典範院には寄って来たのか?」


 書置きには、『典範院へ調べものをして来る。朝食は昼食と一緒に後で食べるから、用意しなくていい。公務が始まるまでには戻る』と、書いておいた。

 あそこは、広く迷路のようになっている。人を探すには苦労するだろう。時間稼ぎには持って来いだ。

 だから、そう書いたんだが――。


「まさか。わたくしが、こんな手に引っ掛かる訳ないでしょ?」


 ササレクタは、くしゃりと書置きを握り潰した。だろうな。

 そして、握り潰された紙切れは、米粒より小さくなって、開いた彼女の手から零れ落ちる。


 こいつの動きが少し分かってきたな。私が倉庫でごそごそしている時にはもう、こいつは外を走っていたのか。多分私と同じように窓から飛び降りてさ。


 王宮内を走っていくより、外の方が障害物が少ない分、速く走れる。それに、私はずっと走っていたわけではないからな。大広間を抜ける時は歩いてたし馬車にも乗った。随分と差がついていただろう。


 にしても早いな。イルミネーニャがササレクタを見つけたときには、既に遥か遠くの外壁門の上にいた。

 あいつの足の速さは知っているが、それでもちょっと早すぎる。


「ササ、お前腹減ってる・・・・・・・?」

「う・ふ・ふ。淑女にそんなこと聞くもんじゃないですわよ?」


 何だよその切り替えしは。

 お前が淑女なわけないだろうが。


「何か?」


 睨むな睨むな。そして、私の心を読むな。


「いや………。で、何を頼まれたんだよ?」


 シビアナから言伝って言ってたからな。捕獲の事以外にも何かありそうだ。

 さっきみたいに、厭味ったらしい一言だったら腹立つが。


「陛下から姫ちゃんへ。まあ、出頭命令――、ですわね」

「父様?」 


 その答えに私は少し驚いた。

 何で父様が? しかも、こんなに朝早く。いや、ていうかさ。


「おい待て。シビアナじゃないのか?」

「は? 何故このわたくしが、あの女に頼まれごとを、されなければならないのかしら?」


 シビアナが、こいつに依頼したんじゃないのかよ? 王女や王女代行執行権では、将軍に命令できない。だから依頼という形で、どうにかして協力してもらっていると思ったんだが……。どういう事だ……? 


「本当に違うのか?」

「違いますわよ」


 これは一体どうなっている?

 シビアナは、ササレクタを使って私を捕獲しようとしてたんじゃないのか? 


 それがあいつの本命の策だったはず。詰めの策。だが、そうじゃないようだ。ササレクタは、父様の命令でここに来たって言っている。シビアナではなく父様……。捕獲と出頭命令。目的は同じようなものだが、別個だったって事だよな……。


 じゃあ、今までの私の予想は、全て間違っていたって事か。いやまあ、シビアナとササレクタが手を組んでたって思ってたから仕方ないが……。だけど、何か忘れてないか? 何か見落としている?


 シビアナからササレクタへの捕獲の依頼。それは私の勘違い。ササレクタがここにいるのは偶然で父様の命令だから。よって軍の訓練なんかに参加はしない。そして、その軍の演習の最終項目……。あれはイルミネーニャの奪取。私の捕獲が目的じゃあない。あれ? 私を捕獲する策は?


 他に罠みたいな物は見当たらない。ササレクタ達がいなければ、このまますぐにでも先生の所を目指せそうだ。そう、いなければ。――これか? シビアナが父様に頼んで、ササレクタに命令を出して貰った……。


 いや、流石にそれは不可能だろう。時間が合わない。あいつは私の部屋を出て、すぐに父様の命令を受けているようだ。そして、私の部屋に戻ってきている。その証拠があの書置きだ。


 どこか別の場所でシトエスカにでも事の詳細を聞いてから、書置きを貰ってきたっていう可能性もある。だが、そんなのはどっちでもいい。あいつは既に外壁門にいた。シビアナが父様に命令してもらう時間はない。これはやはり偶然だろう。


 別だ。ササレクタとシビアナは別。ササレクタはシビアナの策に関係していない。だから、演習中の私への牽制も、意図的にではなかったんじゃないだろうか。外壁門の上に偶然いたササレクタが、結果的にそうなった。いるからそうなった。ただそれだけ。ということになるよね。


 それじゃあ、シビアナはどうやって私を捕まえる気だったんだ? こうなっては何もないじゃないか。

 それとも、こんな状況を作って、シビアナに何か得でもあったのか?


 私は、しばし熟考を重ねていく。それは何だ? 何が目的? 何が出来る? それは――。そして、不意に答えが一つ、零れ出た。


「――私の足止めが出来ている」


 …………。

 あ! 


「あいつの目的は、ただの時間稼ぎか!?」

「いきなり、どうしたんですの?」


 私がここに来た時には、それがまだ必要だった。

 つまり――。


 今現在進行中で、別の場所に罠を張りつつあるって事じゃないのか!?

 くそ! やられた!! ここじゃない! あいつの本命はこの先――、先生の研究所だ!! 


 しまったあああ! テレルと旅行が出来るって、すっかり舞い上がってしまったあああああ!

 ああ! 私の馬鹿馬鹿! あいつの策に、自分からどっぷり浸かりにいってどうするんだよ!


 シビアナが先生の研究所で待ち構えている。そんな気はしていた。可能性を考慮していた。だが、これで決定的。

 私はまんまとシビアナの策に引っ掛かり、その先にある策を仕込むのに必要な時間を与えてしまっていたのだ。


 しかも、それはかなり大掛かりとみた。でなければ、こんな手の込んだ時間稼ぎはしないはず。そして、今もその時間稼ぎは継続中である。


 やばいぞ! 急がなくては! これでは本当に、伸ばした手を踏みつけられ高笑いされる!


「ササ! 話は分かった! 父様の所には後できちんと行くから――!」


 そう言って、この場を足早に去ろうとするが、ササレクタが素早くその進道を立ち塞ぐ。


「駄目ですわよ。今から行ってもらいますわ。何のためにわたくしがここにいると思って?」

「いや、行くから! 絶対行くから!」

「説得力ありませんわよ。姫ちゃんには前科がありますしね。それに、逃げられたら私の責任になりますわ」


 おおう! 何てこったい! 昔の出来事が、こんな所で私の足を引っ張るとは!


「でも、どうしても行きたいというのであれば――」

「あれば!?」


 何かあるのか!?


わたくしも、付いて行きますわよ?」

「何だとっ!」


 駄目じゃん! 私は、お前たちに小さくなったおっぱいと、この透明になった髪の事を、笑われたくなくて脱走してんだよ! 秘密裏に極秘裏に処理しようとしてんの! お前が来たら意味ないじゃん!

 

「若しくは、理由を洗いざらい吐くことですわね。その理由が納得がいく、理にかなったものであればいいですわ」

「何っ!」


 それも、駄目じゃん! 納得はされそうだが、絶対笑われる。そんなのは、目に見えている。

 そして、付いて来るよな、お前! 「こんな面白そうな事、見に行かない手はありませんわ。う・ふ・ふ!」とか言って絶対付いて来るよな!? おんなじじゃん!


「あとはそう――」


 何だよ!? お前の案はもう碌なもんがない――。


わたくしを、倒していく――とか?」

「――っ!?」


 ざわりと辺りに風が吹く。

 ササレクタの気配が一気に変わった。隠していた本性がいきなりその顔を覗かせる。

 氷のようなこの冷たい気配。凍傷にも似たピリピリするこの殺気。そして、射殺すような瞳孔を絞ったあの目。本気か……。


「今言った以外に、この場を見逃す案は?」

「ありませんわね」

「そうか……」


 じゃあ、しょうがないな……。


「はあ……。結局、お前を倒すしかないようだな」

「う・ふ・ふ。簡単に言ってくれますわね……」

「あわわわ……」


 脇で怯えるイルミネーニャの声が、静まり返ったこの場所にはよく聞こえた。

 この子の体の震えも、私に伝わってくる。


「イルミネーニャ、お前は隅っこの方へ行っていろ」

「はははい!」


 脇からイルミネーニャを降ろすと、彼女はすたこらさっさと足をもつれさせながらも私から離れた。

 こいつとやるのも久しぶりだ。しかも、この感じ……。以前より強くなっているな。伊達に重樹とやり合っているわけではないか。


 ふふふ……。その実戦の中で、随分と鍛え上げてるようじゃないか。そして、その強さの飛躍を今までよりもひしひしと感じる。今年は、更に得るものがあったのかもしれないな。


 どうやら私は、ササレクタを少し見くびっていたようだ。私の想定は、去年のササレクタだったって事か。これは、余裕を見せれるような場合ではない。


「ササ……。覚悟しろ。今の私は手加減などしない」


 そう言って、ゆっくりと呼吸を整えながら構え始める。


「う・ふ・ふ。それはわたくしの台詞ですわ。ですので――」


 ササレクタも構え始める。ゆっくりと優雅に、両腕を前にし足を前後に開く。


「叩き潰して、力づくで連れて帰りますわ!!」

「上等だ!!」


 そして、お互い言葉を発した瞬間、私たちは激突した。

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