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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第一章 おっぱい鳴動編
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第17話 決着

「ぬお!?」


 顔を赤らめていたハゲが、血相を変えた。

 咄嗟に体を後ろに半回転して、私の踵落としを紙一重で避ける。

 私の踵がそのすぐ傍を空気を切り裂きながら、一気に通り過ぎていった。


「ちぃ!」


 私の踵はそのまま勢いが止まらず足元の地面へまっしぐら。


 踵が地面に届いた瞬間、爆音とともに地面が凹み放射線状に割れる。

 足はそのまま地面にめり込んでいった。

 土煙が爆風とともに私の周囲に舞い上がり、辺り一面瞬く間に広がっていく。


 遠く周囲にまで衝撃が伝わったのか、土煙の隙間から中庭の外壁にひびが入るのが目に入った。



 



「はあ、はあ、はあ……」


 呼吸が荒い。

 思いっきり力を使ったからな。

 つ、疲れた……。


 気付けば全身の赤い輝きも消えていた。


 明日の朝体起こせるかな……。

 そこまで力を込めたつもりはないから大丈夫とは思うが。


「はー……」


 首を動かすだけでも痛いあの状態のことを思いだすと気分が滅入る。

 

 この身体強化は強力だが、その代償がある。

 すんごく疲れるだけではなく、体を酷使した反動が他にも出てしまうのだ。

 つまり筋肉痛。

 その度合いは込める力が大きければ大きいほど酷くなる。

 だから込める力は加減が必要だ。


 まあ、込める力が大きいほど髪の輝きが増すから、それを目安に調整しているんだけどね。

 それでも最初の頃は込める力の加減がよく分からず、何度も地獄を経験したもんだが。


 最近は込める力の加減を感覚で掴んできているから、輝きで判断せずとも上手く調整できるようになってはいる。

 

 

「よい、しょっ」


 私は地面に突き刺さった足を抜いた。


「わっ?」


 足を引き抜く力が強かったみたいだ。

 足が抜けた拍子に、体勢を崩してしまう。

 踏ん張ろうとしたが、疲れていたのでそのまま地面にへたり込んでしまった。


 そんなへとへとな私に大きな影が近づいてきた。

 その影を見上げると、腕を組んで先生がこちらを見下ろしていた。

 その巨体からは相変わらず鋭い眼光がとんできていたが、雰囲気は先程までとは違って静かだった。


 先生はしばしこちらを見ていたが、徐に口を開いた。


「まったく……。この割れた地面を見るとぞっとするな」


 辺り一面の惨状に目をやりながら、そんな感想を述べる先生。


 私たちの周囲は地面が陥没し、私の足が埋まっていた穴を中心に亀裂が広がっていた。

 そしてそこを囲むように、斑模様の地割れが無数に点在している。

 遠くを見れば外壁にひびが。

 

 おお、外壁の一部がぼろっと落ちたわ。


「思いっきりやりましたからね」

「思いっきり……。避けられなかったから流石に一年くらいは延期だったやもしれん」


 死んでいたとは言わないんだよねえ……。

 いや死なれちゃ困るけどさ。


 強がりか。それとも本気でそう思っているのか。


――本気っぽいなあ……。

 まあいいけど。

 

「当たるとは思っていませんよ。踵落とす前にちゃんと叫んでたでしょ」


 叫べば流石に気付く。

 別に先生を狙ってた訳じゃないしね。

 あくまで本命は足元の地面だった。

 じゃないとこんな惨状にはなっていない。


「死ねって言っておっただろうが! それにわしが避けたら悔しそうにしておったぞ!」

「いやーはっはっはっ」

「はあ……お前な……」


 私の答えに呆れたらしい。

 信用無いなー。

 いや避けると思ってましたよ。――本当だってば。



 溜息をついて目を閉じていた先生は、やがて目を開けると私の方を見た。

 その面持ちは何やら申し訳なさそうに、照れくささそうに。

 そんな風に見えた。


「気は……済んだか?」

「――ええ、まあ……」


 おかげ様でさっぱりしました。


 私は思いっきり力を出したせいか、毒気がすっかり抜けて無くなってしまっていた。

 自分の中の感情も一緒に出してしまった感じ。

 ていうか結婚できない憂さを晴らしたということだな、これ。

 それなりに鬱憤が溜まっていたから、ここにきて一気に爆発してしまったと。

 

 

 気は済んだか、かあ……。

 私の魂胆なんて、まるっとお見通しだったみだいだ。

 付き合いが長いからね。

 私が結婚できなくて八つ当たりしたのは分かってたんだろうなあ。


 まあ……私が結婚できないのに、自分が先に婚約して結婚することに思うとこがあったって事か。

 罪悪感とまではいかないと思うけど、悪い気がしてたらしい。

 だから、こんな喧嘩に付き合ってくれたんだろうね。

 人がいいというか何というか。


――まあ先生らしいかな。

 



 ともかく我が策略は潰えてしまった。

 この体じゃあ、このまま喧嘩を続けるのは無理だしね。


 結婚する者がまたここに一人。ローリエがいるから二人か……。


 はあ……まあ――。


 気持ちも落ちついたし、興もそがれた。

 もういいかな。


 私は疲れた体を起こして立ち上がると先生に向けて姿勢を正した。

 そして、ゆっくりと礼をする。



「先生、御婚約おめでとうございます」

「うむ……。ありがとうリリシーナ」


 一応祝福の言葉は送ろうではないか。

 だが……。


「まああれです。婚約であって結婚ではない訳で。これからどうなるかは、まだまだ分かりませんねえ」


 結婚まで時間はあるのだよ。


「ぬっ……。貴様まだ何か企んでおるのか?」

「いやいや。ローリエも気が変わるかもしれませんねってことですよ」


 ぎゅふふふふ。


「ぐぬぬぬ……」


 さあて王宮に帰ったら、結婚の準備をさせない方法でも探しますかね。

 くーくっくっく……おや?


  

 唸っている先生の後ろから人影が近づいてくるのが見えた。

 どうやら3人ともこちらに来たみたいだ。


 私と先生の喧嘩が終わったのを察したか。







「こ、これは……」

 イージャンは中庭の惨状を目の当たりにして驚いているようだ。

 その場に屈んで地面の亀裂を触っている。


「殿下」


 シビアナがローリエを後ろに連れながらこちらまで歩いてきた。

 私の前に来るとシビアナがローリエに向かって頷く。

 何かを促している様に見えた。


 どうしたの?


 ローリエは私とシビアナを遠慮気味に見ていたが、何か意を決しようにシビアナの前に出ると、私に話しかけてきた。


「あ、あの……リリシーナ様は、その……」

「うん?」


 ローリエが躊躇いながらも言葉を繋げる。


「旦那様……いえシドー様と……わ、私の結婚に反対……なのでしょうか……?」

「うっ!?」


 なんて澄んだ瞳なんだ……!

 涙を浮かべて、そんな悲しそうに……ううっ。

 わ、私を見ないでくれっ。そんな目で見られていると――。


 ぎゃああああ!

 私の中の邪悪な心が悲鳴を上げる。

 後ろめたさが半端ないんですけど!


 あわわわわ。

 そうだった。先生の結婚を阻止するということはローリエの結婚も阻止するってことだったぁ……。

 先生の結婚阻止に必死になっていたから、全く考えが及ばなかったわ。

 これはまずい。


「ごほんっ。いやいやそんなことは無い……。まあローリエが先生に誑かされてと思ってた訳だから」

「おいっ嘘をつくな」


 おっと。先生からご指摘が入ってしまった。


「はははははは」


 笑って誤魔化せ。

 お、そうだ。


「でもローリエいいのか? お前は若い。他に好きな人が出来るかもしれないぞ?」

「お、おい」


 先生が何か言いたそうだが放っておく。

 この子の意思を聞いてなかったしね。

 実際のところ、どう思っているんだろう。




「――私はシドー様とずうっと一緒がいいって、そう思っています」


 ローリエは真っ直ぐと私を見て言いきった。

 笑顔で。


 純真で、本当に素敵な笑顔だった。

 

 ああ、これは惚れるわぁ……。

 先生もこれにやられたな?

 あと仕草がいちいち可愛いんだよね。

 今がまさにそれだ。

 ちょっと照れて顔を赤くして、もじもじしてるその姿たるや……!

 うーん。こう小動物を思わせるような……。

 これはテレルに通じるものがあるわ。


「も、申し訳ございません!そ、その……!」


 自分が恥ずかしい事言ったのに反応しない私達に、羞恥心の限界を超えたみたいだな。

 あわあわしている。これもいいな。



 間違いない。これは先生に、惚れてるんだ。


 貴族とか……地位や権力、財産そういのは確かに魅力的だろう。

 そういうので結婚を決めるのも人それぞれさ。

 それでいいならそれでも良いとは思う。

 ちゃんと暮して行けるしね。 

 でもこの子は違う。そういう事で結婚を決めたわけじゃないみたいだ。

 

 

 ていうか……先生!

 何その顔! 初めて見るわそんな顔。


 先生はひどく赤い顔をして固まっていた。

 目が飛び出すほど見開いてるし。このおっさんは……。

 今の先生直視できないんですけど。


 先生、すっごい当たりを引いたみたいだな。

 本当にあんたには勿体ないよ。


「……ならいいさ。婚約おめでとうローリエ」

「は、はい! ありがとうございます!」

「ああ、あと先生を正気に戻してあげて」

「? は、はい!」

 

 いいもの見せてもらったよ。ありがと。







 ローリエが先生の介抱を始めると、今度はシビアナが近づいてきた。

 ただ――。


 お前何でイージャンの耳引っ張ってんの?

 何、何なの?

 ていうかイージャンも情けない顔してんのな。

 

「殿下、ローリエ様の処遇ですが……」


 おお、イージャンのことお構いなしかよ。


「あ、ああ……。――処遇?」

「殿下の力を見られております」

「ああ、そういう……」


 機密扱いになってるし、まあ口封じ的なことも可能性としてはある訳なんだけど……。


「先生に責任をもって、大切にしてもらうといいさ」


 先生の未来のお嫁さんだ。

 婚約という現時点でも保護対象ぐらいにはできるだろう。

 まあ、あのおっさんがいるから大丈夫か。


「はい。承知いたしました」

「しかしまあ何というか……。女性の手も碌に握ったこともない先生が、まさかねぇ。未だに信じられないんだけど」

「そうなのですか?」

「まあな……。ほら付き合いの長いだろ、私と先生はさ。今までの先生見てるとどうしてもな。あ! 後な、やることやってるっていうのが本当にびっくりだわ。父様もさぞ驚きになるだろう」


 あれは驚きを通り越して殺意湧いたわ。


「いえ、殿下。ちゅーまでです」

「は?」

「ローリエ様に先程確認を取りました。あの反応からして間違いありません」

「……」


 そですか……。


 ちゅーだけであの照れようかよ……。

 何だろうね、この敗北感。

 

――まあ私は高貴な身分だし? 

 そういうのは結婚してからだと思っている。うん。


 まあ、それは良いとしてさ。


「なあシビアナ……」

「はい、何でしょう?」

「お前何でイージャンの耳引っ張ってるんだ?」


 さっきから何してんだよお前ら。

 意味が分からん。


「殿下……。浮気はどこからが浮気なのでしょうか」

「浮気? 何だよ急に」

「恐らくそれは、私が決めていいことだと思うのです」

「はあ」

「妻以外の女性の笑顔に見とれるのは浮気と判断しました」

「はー……」


 イージャンあの笑顔見てたのかよ!

 お前私が作った亀裂とか見てたんじゃないのか!?

 どうしてそういうとこ見ちゃうの?


 いやあの笑顔は破壊力あったから見たら駄目だわ。

 世の男どもを虜にする笑顔だよ。あとあのローリエの雰囲気な。

 あの二つが見事に合わさって実にいい仕事をしている。相乗効果だよ。


 ていうかお前またシビアナに折檻されるぞ?

 絶対これだけじゃ済まないだろうが。


「イージャン何やってんだよ……」


 この……馬鹿!


「はっ……申し訳いつつつ!」


 またシビアナに耳を引っ張られるこの男、これでも近衛騎士隊の副隊長だよ。

 部下に見せられん姿だな。威厳が吹っ飛ぶわ。


 お前今度は何されるんだろうな……。

 考えるだけで恐ろしいわ。



 さっきの先生とローリエ。そしてこのイージャンとシビアナ……。

 この差は……何が違うんだろう。

 ちょっと疑問に思ったが、今の私にはどうでもいいことだったので結局考えるのをやめた。



――帰ろう。

 疲れたわ。

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