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エッセイ

『小説家になろう』にテンプレ作品ばかりを溢れさせているのは、作者ではない、読者だ

作者: いかぽん

 『小説家になろう』というサイトで、もっとテンプレ以外の面白い作品も読みたいと思っている、読者の皆さまに伝えたい。

 『小説家になろう』というプラットフォームに、いわゆるテンプレ作品を溢れさせているのは、作者ではない。

 その真の立役者は、読者である。


 『小説家になろう』というサイトでは、数千pt以上の評価を受けるには、(一部例外は存在するが)基本的にはテンプレ作品を書くしかない。

 テンプレ作品を書けば数千、数万という総合評価ptを得られる作者でも、そうでない作品を書けば、数百ptしか得られない。

 実力があるから評価されるのではなく、テンプレを書いたから評価されるというのが、今の『小説家になろう』の実情だ。


 また『小説家なろう』では、総合評価ptの値が、そのまま書籍化チャンスに直結すると言って過言ではない。

 すなわち、『小説家になろう』で作品を投稿して書籍化に漕ぎつけたければ、テンプレを書くのが一番順当な手段である。


 よく作者のプライドに訴えかけて、テンプレ以外の作品を書こうよと言っているエッセイ作品を見るが、その内容は要約するとこうなる。

 「お前は、プライドに殉じて、小説家になるチャンスを逃せ」(※1)


 これは、目的を達成するための方法論として、間違えている。

 間違えているのは、小説の作者ではない。

 そう訴えかけている、エッセイの作者が間違えている。


 気持ちは分かるが、働きかける相手を間違えている。

 彼は作者ではなく、読者に働きかけるべきなのだ。


 テンプレ作品でない面白い作品を多くの作者が書くようにするためには、そういう作品が評価されるための市場が必要だ。

 テンプレ作品でない面白い作品が投稿されたときに、それが日刊総合ランキングにグンと乗っかり、そのままランキング首位まで一気に駆け上がれるような、そんな評価市場こそが必要なのだ。


 そして評価市場は、誰が作っているかと言えば、読者である。

 個々の読者の評価の仕方、それが全読者数分寄り集まった総体が、評価市場を形成している。


 意外と知らない人が多いようなので改めて書いておくと、『小説家になろう』における作品の総合評価ptは、この計算式で求められている。


 総合評価pt = 評価合計(文章+ストーリー) + ブックマーク数×2


 ランキング上位の連載作品の小説情報を見てもらえれば分かると思うが、この総合評価ptのうち、大部分を占めるのは、文章評価やストーリー評価ではなく、ブックマーク数による評価ptである。


 1万ptの総合評価ptを獲得している連載作品があったとしたら、その内訳は概ね、4,000~4,500件のブックマークによる8,000~9,000ptと、文章評価:ストーリー評価による1,000~2,000程度のptによって成り立っている。

 両者の関係が逆転していることは、ランキング上位の連載作品では、まずありえない。

 ブックマークの数こそが、総合評価ptを決定する最重要項目である。


 ランキング上位に上るようなテンプレ作品の場合、だいたい読者5~7人に1人程度の割合でブックマークが付き、読者100~200人に1人程度の割合で評価点(文章:ストーリー評価)が付く。


 『小説家になろう』で高い評価を得るための方法。

 まず、1日で総合評価ptおおよそ60pt以上稼ぎ、日間総合ランキング300位以内に載るのが、数千~数万ptという総合評価ptを得るために必要な、第一ステップだ。

 正直ここまでなら、1~2年ぐらい『小説家になろう』で活動して、その間に逆お気に入りユーザーさん100人越えとかなっていれば、テンプレに頼らず面白い話を書くだけで、十分到達できるラインである。

 (逆に言うと、その前提がなければ面白い作品を書いただけでは到達できないラインだ、ということでもあるのだが……)


 問題は、ここから先だ。

 日間総合ランキング300位以内に載ると、かなりの数の読者が作品を読んでくれることになるのだが、ここでもやはり、テンプレの壁が立ちふさがる。


 テンプレで、タイトルやあらすじが読みたくなるような作品であれば、日間総合300位で1日300人近い読者(※2)が付く。

 すると、そのうちの5~7人に1人=50人程度がブックマークを付け、100~200人に1人=2人程度が評価点を入れる。

 評価点の期待値を9ptとすると、これで1日に118ptの総合評価ptが付く。


 すると、翌日には日間総合ランキングの150位ぐらいに着地する。

 ランキングが上がると、それに比例する形で読者数が増える。

 ここで600人の読者に見てもらうことで、1日のpt数は前日の倍の236ptに増える。

 そうすると、翌日には75位ぐらいに着地して……といった形で、倍々ゲームで評価点が増えてゆくわけだ。


 一方、日間総合300位に載っても、読者数が150人ぐらいにしかならない場合はどうなるか。

 1日に59ptしか得られずに、翌日には日間総合ランキングから除外されることになる。


 これが現在の『小説家になろう』というサイトの、ざっくりとした数値感であると言って良いと思う(わりと実際値に近い数字を使ったつもり)。

 テンプレ作品は、その作品を読もうとする読者の絶対数が多いために、同格の面白さを持つ非テンプレ作品よりも、ランキング上位に上がりやすいという構造になっている、


 ただ、この構造を誰が作っているかと言えば、(もちろん、『小説家になろう』のランキングシステムだと言うこともできるのだが、一方では)実は僕ら読者が作っているのだと言うこともできる。

 これは僕ら読者がその行動を変えれば、変わる可能性がある部分だということだ。


 作者がテンプレでない面白い物語を書いても、ランキング上位に上ることは困難だ。

 だから、作者に対してもっと非テンプレを書けよ、もっと熱くなれよ、なんて言っても、そこに実効性はない。


 しかし一方で、テンプレでない面白い作品が高評価される市場が、読者たちの手によってもし仮に作られたとしたら。

 これはほぼ確実に、非テンプレの作品の投稿数は増えるし、それらがランキング上位の大部分を占めるような『小説家になろう』ができあがるはずだ。


 ただ、そうは言っても、テンプレ好きの読者が多いことは、否めない事実だ。

 彼らに対して、もっとテンプレ以外の作品を読もうよ、と言ってもこれは詮無い話だ。


 変化のカギを握っているのは、非テンプレ作品が日間総合300位に載ったときに、その作品を読む150人の読者たちだ。

 彼ら150人の中には、二種類の人種が存在すると思われる。


 ひとつの人種は、テンプレはもう飽き飽きだよと思って、非テンプレの面白い作品を望んでいる層。

 もう一つの人種は、テンプレでもそうでない作品でも、面白ければいいよという雑食種だ。

 そして、前者の行動が変わるだけでも、『小説家になろう』は大きく変わりうる。


 彼らは具体的に、どうすれば良いか。

 読んだ作品に、片っ端から評価点を付けていくのである。


 別に必ず5:5評価を付ける必要はない。

 ストーリー評価4でも3でも、かなり大きな足しにはなる。

 ただ、必ず読んだら評価を付けてゆく。


 こうすることによって、もし仮に、「非テンプレ作品は、読者は少なめだが、評価点が付きやすい」という評価市場ができたら、どうなるか。


 仮に、非テンプレの面白い作品を望んでいる層が、150人のうち75人いたとしよう。

 そしてその75人全員が、評価点を付けたとする。


 テンプレ作品は日間総合300位で300人の読者がついてブックマーク50件、評価点2人で18ptの合計118pt。

 非テンプレ作品は日間総合300位で150人の読者がついてブックマーク25件、評価点76人で734pt。


 両者の関係は、余裕で逆転する。


 選挙のようなものだ。

 なろうテンプレ党には、圧倒的な数の支持層がいて、そこに圧倒的な票田を持つ。

 何もしなければ、彼らが勝つのは必然だ。


 無党派層やアンチ政権与党が投票率を上げることによって、この現実は変わりうる。

 幸いなことに、なろうテンプレ党の支持層は、投票に行くのがめんどくさいと言って、100~200人に1人程度しか評価点を投票しない。

 これは『小説家になろう』を変える、チャンスだ。




※1:小説家になるチャンスを逃せ……作者は書きたいものを書くべきではない、という意味ではない。Typemoonの奈須きのこさんは本当は小説を書きたかったが、売れなかったので『月姫』というエロ同人ゲーを作ることによって、自分が書いた物語とテキストを見せることに成功した。『東方project』のZUNさんは、本当は音楽を売りたかったが、それを萌え系シューティングゲームに乗せて聞かせるという手段を取って成功した。自分の書きたいものを多くの人に見てもらうための工夫と譲歩は、成功するためには必要だということ。またもちろん、評価と成功を無視して好きなものを書くのは、それはそれでアマチュアとしてのあるべき姿。


※2:300人の読者……連載作品ならば話別ユニークアクセスの第1部分のアクセス数の合計、短編作品ならば作品ユニークアクセスをもって、読者数としている。全年齢の作品で同じ作品を最初から読み返す読者はほとんどおらず、いても全体の1割に満たない程度の無視できる数字だろうという想定。


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