第23話 引退
「この店の店長を引退しようと思う」
店を開いてから二十年、シェフは従業員に向かってそう言った。
二十年が経過してもシェフの姿は変化していない。
一部の人間にダンジョンマスターの存在が知られているとはいえ、一般市民には浸透していない。
二十年も経過して、見た目が変わらないのは異常である。
それも含めて、店長を引退すると告げたのだ。
従業員も増え、顔ぶれも変わっている。
カナとクーは、奴隷から解放し、嫁に行っている。
マイナだけは、奴隷から解放されても、シェフの側で働いている。
ただ、狼人族は人間と違って老いるのが遅いので容姿は、ほとんど変わっていない。
従業員には、シェフとマイナが恋仲でないかと噂されているが、その真実は分かっていない。
さらに、各地の権力者から要望があって支店も出した。
その支店は、ダンジョンの年数が経過したことで使用できる機能を使用しており、お客が入るとDPが獲得できるようになっている。
また、食材の一部もダンジョンから転送している。
すべての店の従業員は奴隷であるが、一定期間働くと、奴隷から解放されている。
しかも、奴隷から解放されたとき、礼儀、算術や料理などのスキルを身に付けているため、再就職にも結婚にも引く手数多であった。
ただ、あまり店から離れたがらないので、新たな支店の店長になったりしている。
実は、カナもクーも別の街で支店長をしている。
店の運営と、お金とDPの収入は安定しており、従業員も成長した。
シェフは、店を任せて、各地に足を運ぼうと考えていた。
この世界の各地の料理を食べてみたいと考えていたのである。
その結果が、冒頭の一言に繋がる。
その思いをマイナに明かしたとき、「私もご一緒します」と言われた。
断ろうとしたが、にこやかに押し切られたという過去もあったりする。
「みんな、後は頼む」
そう言って、店長は一人の女性をともなって、店を出て行った。
ある一冊を手にしたときかから始まったダンジョンでありながら、めしやであるという異例のダンジョン経営。
それを始めたダンジョンマスターは、二十年居続けたダンジョンから旅立っていった。
そのダンジョンマスターは、旅立つときにもその本を持っていったという。
20151025 後書きに追記しました
《謝辞》
本話を持って完結とさせていただきます。
一度、大幅な見直しを行ったりしてしまい、継続してお読みいただいた方には申し訳なく思っています。
ただ、無事(?)完結することができました。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
打ち切りのようであるとご意見をいただいておりますが、それは私の表現力不足によるものです。
本作品のような話の結末へ上手く繋げることができず、このような結末になってしまい、誠に申し訳ございません。




