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第22話 十二月二十四日

この世界には、収穫祭や皇子の戴冠式など祭りは数少ない。

しかし、イベントが多い生活を知っていると、そのイベント毎に様変わりする街の雰囲気や料理など楽しかったと思い返してしまう。




十二月二十四日、この世界では何の変哲もないただの一日。

その日、シェフは従業員と一緒にクリスマスイブを祝おうと計画していた。

他のイベントもあったが、いつものお礼にプレゼントを渡すいい機会だと考えたのである。


それに向けて、ケーキを用意した。

この店を始めてからケーキは作っていない。

ケーキのような甘味が強いお菓子は、この世界に存在しないため、好まれるか不安だったのである。

しかし、クリスマスと言えばケーキ、少し実験的な意味が含まれてしまうが、準備することにした。

他にも、七面鳥などクリスマスならでは、と言われる料理も用意した。




「お疲れ様でした」

「今日は何を食べようかな」

「すいません。今日の夕食は決まっていますよ」

「「「え?」」」


店じまいの後、いつも通り好きな料理を選びに行こうとしたカナたちを止める。

ドールを呼び、食事の準備をさせる。

いつもと違う料理がどんどん運ばれてくることに驚いているが、だんだんと楽しみを隠せないような笑顔になっていく。

その顔を見て、シェフはサプライズを成功させたような笑みを浮かべた。


「シェフ様、これは一体どういうことですか?」

「私の国では、今日から明日にかけて、ある種のお祝いを行う習慣があります。それで、皆さんと一緒にお祝いをしようと。料理もその習慣に合わせたものを用意しました」

「そうなんだぁ」


普段見ない多くの料理に、三人は何から食べようか迷っている。

しかし、一度手をつけると、いつもの料理のようにおいしいため、料理はどんどん減っていく。

シェフは、あまりの勢いに少し不安になる。

もしかして、後で出そうと思っていたケーキを食べる前に、満腹になってしまうのではないかと。


「最後にデザートもありますので」

「らいじょうぶ。甘いものは、別腹よ」

「カナさん、口の中にある状態でしゃべらないでください」


すべての皿がきれいになくなったところで、ケーキを用意する。

そのケーキは、プチケーキと呼ばれる小さいサイズのケーキで、複数種類ある。

ホールサイズを用意しようと思ったが、好き嫌いが分かれると困るので、この形にした。


「ケーキです。いつもと違うので、感想をいただければ嬉しいです」

「きれい」


生クリームの白、イチゴの赤、ラズベリーの紫などが組み合わされたケーキは、見た目にもおいしいデザートに仕上がっていた。


「食べる順番はありますか?」

「いいえ、好きな順番で食べてください」


一つ食べるごとに、おいしいと言ってくれる三人に、シェフも満足気な顔になる。

最後に感想を聞くと、甘さの強さや好きな種類が分かれる意見となり、ケーキの味付けの難しさを再確認する結果となった。

しかし、店に出すことについて聞いてみると、満場一致で問題ないという判断になった。

ケーキバイキングを試してみてもいいかな、と思うシェフであった。


本日最後のサプライズを実行するため、少し待っていてくださいと声を掛ける。

ドールに皿を下げさせると同時に、三人の目につかないように箱を受け取る。


「カナさん、マイナさん、クーちゃん、いつもありがとうございます」

「え? いきなり何?」

「改まってどうしましたか?」

「シェフさま?」

「三人にプレゼントです。形は違いますが、プレゼントを渡す習慣がありますので用意しました」


三人にそれぞれ箱を渡す。

その箱には、ラッピングしてリボンも付いていて、日本風のプレゼント箱にした。

三人は戸惑いながら、箱を開ける。


どのプレゼントにするか迷ったが、一つは三人お揃いネックレス、もう一つはそれぞれ別のものを用意した。

ネックレスはマイナとクーをお揃いにしようとすぐに決めたが、カナをどうするか迷った末、全員一緒のものにした。

そして、カナには洋服を、マイナには着物を、クーにはぬいぐるみを用意した。

この三つは、以前の会話で興味を示していたものを選んだのである。


「「「ありがとうございます!」」」


嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめるクー、洋服を広げて嬉しそうなカナ、少し涙ぐんで着物を見ているマイナ、それを見てシェフは幸せを感じていた。

すると、マイナは浮かべた涙を拭って、シェフに近付いてきた。

そして、少し頬を染めて、ありがとうございますともう一度言うと、シェフの頬にキスをした。

それを見ていたクーも真似をして頬にキスをしてきた。

カナは、そんなシェフをいたずらっ子のようにニヤニヤと見ていた。

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