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第21話 新たな試み

その日、店を閉めた後に食事をしながら反省会をしていたとき、突然警報が鳴り始めた。

急いで確認しようとしたとき、カナが入口の方を指差して声を出した。


「シェフ様、誰か来ましたよ?」


その声に入口の方を見ると、赤い髪の女性が立っていた。

強気に見える印象を受けるが、その全体が整っており、多くの人が美しいと判断するだろう。

しかし、現在その顔には明らかに怒りが浮かんできた。


「あなた!」

「はい?」

「好き放題やってくれましたわね!」

「はぁ」

「やったままで許されると思っていますの!?」


シェフは全く理解できず、生返事になっているのだが、女性は感情のままに言い立て続ける。

聞く方には若干誤解を受けるような言葉遣いになっており、シェフの後ろでは


「シェフ様、最低」

「シェフ様も男ですから」


と、カナとマイナがひそひそと話をしている。

クーは満腹で眠いのか、コックリコックリしている。

後ろが気になるが、その前に、目の前の女性に質問を投げ掛ける。


「あなたは、どなたですか?」

「「「え?」」」

「わ、私のことを知らないのですか!?」

「はい」

「世間知らず、ですわね。教えて差し上げましょう。私はリリィですわ!」


そう答えた女性は、明らかに分かるドヤ顔を見せていた。

しかし、それを聞いたシェフは頭に疑問符を思い浮かべる。


「カナさん、マイナさん、知っています?」

「「いいえ」」

「な、何て失礼な、~~~」


リリィと名乗った女性は気付いていなかったが、話の途中から後ろに銀髪の女性が立っていた。

その銀髪の女性が、話している最中のリリィの耳を無言で引っ張ったので、途中で言葉が途切れたのである。


「リリィ?」

「お姉様!? 痛い、痛いですわ」

「少し落ち着きなさい」


銀髪の女性の顔は、にこやかな表情が浮かんでいるが、リリィは恐怖を感じていた。

リリィが分かったというように首を上下に振ると、銀髪の女性はリリィの耳を離した。


「リリィが失礼をしました。私はローズと申します」

「あ、ご丁寧にどうも。私はシェフとお申します。後ろにいるのが」

「カナさん、マイナさん、クーちゃん、ですわよね。存じておりますわ」

「知り合い、ですか?」

「いいえ」


自己紹介をした後、二人からは敵意を感じない(一人からは睨まれている感じがするが)ので、腰を落ち着けて話をすることにした。

マイナに飲み物とお茶請けを出してもらうようにお願いをして、二人と同じテーブルに着く。


「何の御用ですか」

「あなたの店のせいで、私たちの収入が減ってしまったのですわ」

「そうですか」

「この店の料理が恋しくて、私たちのところに長居してもらえなくなってしまったのよ」

「あなた方のところでは料理は出さないのですか?」

「出すわけがないですわ!」

「そ、そうなのですか」

「ダンジョンに料理が出たら、おかしいですわ!」

「え? ダンジョン?」

「あらあら、私としたことが言い忘れていましたわ。私たちもダンジョンマスターですわ」


詳しく聞くと、ローズとリリィはそれぞれ《白薔薇のダンジョン》と《黒百合のダンジョン》のダンジョンマスターをしているということだった。

その二つは、《めしや ダンジョン》の両隣にあるダンジョンで、上位ランクに位置付けられている。

階層も深いため、冒険者が長い間ダンジョン内にいることで、DPを稼いでいた。

しかし、この店ができてから、滞在時間が短くなってしまい、DPの収入が減ってしまったらしい。


「ダンジョンに侵入者がいるだけで、DPを稼げるのですか?」

「十年も経てば、そういう機能が付きますわ」

「え? 十年?」

「私たちは、五十年もダンジョンを経営しておりますの」

「え? 五十年? では、あなた方のね!!?」


シェフが何かを口に出そうとしたとき、ローズから殺気を感じて口を閉じた。

その殺気を感じたときにも、ローズの顔はにこやかなままであったが。


「だ、ダンジョンマスターは年齢を重ねませんのよ」


そう答えたリリィもローズの雰囲気に震えていた。


シェフはダンジョンマスターについて疑問に思っていることを先輩に聞いてみることにした。


「ダンジョンマスターは一般的に知られているのですか?」

「一般的には知られておりませんわ。ただ、冒険者ギルドのギルド長など一部の方は知っておりますわ」


リリィの話をまとめると、すべてのダンジョンにダンジョンマスターがいるわけではないので、この世界ではあまり知られていないらしい。

ただ、ダンジョンマスターの一部は、冒険者ギルドと協定、例えば初心者ダンジョンとして維持するなど、を結んでいる。

ローズとリリィのダンジョンも協定を結んでいるが、その詳細については秘密ということであった。


「それで、私はどうすればよろしいのですか?」

「何かいい解決策はありませんか?」


そう言われたので、シェフは思索に耽る。

先ほど言われた内容で、ダンジョンの年数が経過すると、あらたな機能が追加されるという点に注目した。

つまり、自分が知らない機能があるということだ。

その点に関して、ある(・・)機能がないかを聞いてみると、あると回答を得た。

その機能があるなら、未来の青い狸、いや猫さんの道具のようなことができる。


「こういうのは……」

「なるほど、つまり……」


ダンジョンマスター三人で話し合って、アイデアを形にしていく。

ある程度形になったところで、実践してすることになった。


リリィがダンジョンを出ていき、数十分後戻ってきた。


「成功しましたわ」


そう言ったリリィの手は、クッキーを持っていた。

二つのダンジョンから、あるアイテムを使って、このダンジョンの料理を取り寄せることができるようにしたのである。

もちろん、その際には料金が必要になるが、ダンジョン内でいつでも料理が食べられる。

つまり、二つのダンジョン内で、おいしい料理が食べることができるようになるため、冒険者が長居をしてくれる。

一方、店にはお客が来なくても収入が得られる。

しかし、取引としては店側の方が不利益に見える。

そこは、情報など別の方向で補うことで合意した。


「もう一つ提案があります。あなた方のダンジョンで狩ったモンスターを使った料理を提供する、というシステムを導入してみたいのですが」

「それは面白そうですわ」

「おいしく頂けるモンスターもいますからね」


シェフの提案も採用された。

同じアイテムで、食べることのできるモンスターを店に送ることで、次回店に来たときに安く食べられるようになるというシステムである。

つまり、冒険者はより探索に励み、店には様々な食材が送られてくるようになることを期待している。




この仕組みは、冒険者たちにも非常に喜ばれ、三人のダンジョンマスターの期待以上の成果を上げることになる。

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