表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

超短編

結婚生活のスパイスは。

作者: しおん


僕はもうすぐ結婚三年目を迎える、サラリーマン。妻は元同社のOLで、結婚を機に寿退社をした。今は専業主婦として僕の生活を支えてくれる、人生のよきパートナーだ。

そんな彼女だけど、半年に一度ぐらいのペースで日常に爆弾を落としてくる。


変わらない日常にちょっとしたスパイスが欲しいと感じることが無いといえば嘘になるが、あれはあまりにもやり過ぎというもので、同僚に愚痴をこぼしては頑張れよと慰められる始末。


前回から約半年、もうすぐその日がやってくるだろう。


前回ので懲りて辞めてくれたりする様な女性ではないので、小さな希望すら持てない。その行事めいたものがなくなる事より、今はその内容が少しでも容易になっていてくれることを願うばかりだ。


意を決して玄関を開けると、青ざめるような匂い。そして、それが嘘であるかの様に上機嫌な妻の顔。不安要素しかないままに、僕は食卓についた。


今夜はカレーライス。

レストランで出されても見劣りしない様なそれは玄関に立ち込めていた匂いの発生源に他ならない様で、料理の温かさを主張する白い湯気とともに鼻が曲がる様な香りを振りまいていた。下手したらスプーンが溶けて霧散するのではなかろうか。


最悪の事態も想定しつつスプーンですくい上げたそれは、ゴロゴロとしたじゃがいもやにんじんの合間に奇妙な物体を仕組ませていた。


小魚の様なそれは少なくともカレーでは見かけない食材であることは間違いなく、匂いによって失われた残り少ない食欲が一瞬でマイナスにまで落ち込むのは必然であった。


ここまで読んで察してもらえたであろうが、我が家で半年に一度起こる大問題は、愛する妻の創作料理なのだ。


普段ならば喫茶店程度の出来を期待できる食事を堪能できるはずなのだが半年に一度、なぜかよくわからない行動を起こし、世間一般でゲテモノと称される料理を披露するのだ。


テレビ番組で見かけるであろう罰ゲームなど可愛いもので、オムライスにはケチャップのかわりに大量のタバスコと刻まれたハバネロや唐辛子が使用されていたり、ハンバーグには細かく切られた鯵やたらこが練りこまれていたり。見た目には問題がない様に見えることが、一番の問題なのである。


そんな彼女が今夜作ったのは、カレーライス。

王道な料理ばかりがなぜこんなに犠牲となっていくのか甚だ疑問が残るが、いまは我が身が第一だ。

辛いのか、甘いのか、苦いのか、しょっぱいのか。味の予想がつかない匂いの為対策も出来ない。


キラキラと輝かせた妻の瞳には申し訳ないが、今すぐスプーンを置きたい心境だ。すくい上げてしまったことを後悔している。


意を決して口に含むと、口の中には独特な匂いと共に、難解な味が広がった。カレーの味はするのだが、何かがおかしい。

魚介の様な、和風な……しいていえば味噌汁の様な味がするのだ。


「ごほっごほっ……今回は何入れたの?」


食べたことのないその味にむせかえりながらも妻にそう尋ねると、残念そうな顔で


「コクをいれて見たんだけど……失敗しちゃったみたい」


みたいじゃなくて、確実に失敗だ。

そして、コクって何だ。少なくとも投入できるものではなかったはずなのだが……確か、一日ねかしたりして生み出すものだったような。


「コクって、具体的には何をいれたんだい?」


僕の質問にぱたぱたとキッチンに走る姿は、とても愛らしい。けれど彼女の口から飛び出してきた言葉に、僕の口は塞がらなくなった。


「えっとねー……かつお節に昆布、椎茸、海老、塩麹、お味噌に煮干しと蟹味噌かな?出汁をとるだけじゃ勿体無いと思って、ちゃんと具材として中に残してあるからきっとすごいコクがでてると思うの」


楽しそうに話す彼女に、狂気を感じたのはきっと気のせいだ。

そして、そのコクとやらを少なくとも具材として煮込んでほしくはなかった。


「次は頑張るから、待っててね」



満面の笑みの彼女に、やめてくれとは言えない僕なのであった。



読んでくださり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ