きっと、君も同じはず
初めまして。
初作品で、ダメダメな物ですが、読んでいただけたら嬉しいです。
さっきまでの喧騒が嘘かのように息を潜めた深夜。
ここからは闇色が支配する時間。
俺の家だって例に漏れず沈黙が独壇場だとばかりに自身を主張している。
部屋着を脱ぎ捨て今日はこれ、と少し前に悩みに悩んで決めた服を身に纏う。
この時間はいつも身が切られそうな程の寒さに身体の芯から冷えそうになる。
厚手のコートに熱い珈琲の缶を2つポケットに仕舞い込み、カイロ代わりに握り締める。
いつもの場所は風を遮る物がないから早足で向かう。
嗚呼、やっぱり先にいるのはいつも君で。
「はぁ、ごめん…はぁはぁ、また待たせちゃったみたいだね。」
息を切らせて辿り着いた俺にふわりと笑みを浮かべゆるゆると首を振る健気な君に俺の胸は甘く締め付けられる。
はい、と温もりを分け与えるように缶珈琲を1つ渡せば、感謝の言葉と、
「こんばんは。星を見ていたので大丈夫ですよ?」
ほら、と指差す先には満天の星空。
それを見上げる君の大きな瞳に数多の星がキラキラと輝いて。
君の瞳に俺も映して欲しい、とその星達を流れ星にして追い出す。
「ユキ…逢いたかった。」
名前を呼べばそれが合図。
俺と君の関係が変わるサイン。
「…私も逢いたかったです、せ「名前を呼んで?」……あっと、…リオ。」
君に呼ばれると、それだけでこの名前に特別な何かが付加される。
でもまだ上手に呼んではくれないから、俺から催促を。
吐き出す息の白さに、このまま消えて無くなりそうなくらい君は儚くて。
俺のコートの中へ君を誘い、閉じ込める。
そうすれば互いの温もりを感じて分け合えるし、君は確かに俺の腕の中にいるんだと実感出来るから。
小さな君は俺の胸に顔を埋めて甘やかに綻ぶ。
それだけで満たされる俺の心はきっと君だけ与えられれば幸せを感じられる。
「あの、せん「ユキ、そうじゃない。2人きりの時は俺の名前を呼んでって言ってるのに。」
やっぱり呼び慣れた名称を口にしようとするから俺は君の手を取り、柔らかそうな掌に口付ける。
ぴくりと跳ねる小さな手に、ちゅっとリップ音を立てて一旦別れを告げて。
「ユキが俺の名前を呼んでくれないのなら、俺もいつもみたいにキサキって呼ぶけど?」
ゆらゆら揺らぐ瞳が悲しみに潤む。
君が俺に向けてくれるなら、どんな感情でも嬉しいと思ってしまう俺はもう後戻りなんか不可能なくらい君しか見えなくて。
「嫌、です…。他の子みたいに私を呼ばないで下さい。」
ふるふると振るえる髪から香る甘い匂い。
君から香るいつも俺を惑わせる蠱惑の香り。
普段の2人の距離よりも近く香るそれはいつもより甘さの濃さが違って酔ってしまいそうになる。
「なら…なんて俺を呼べばいいか分かる、よね?」
しまいそう、ではなく既に酔っている。
その証拠に君をこの腕の中から解き放してやれそうにないから。
再度促すように掌に口付ければ、
「…リオ。まだ、呼び慣れないので許して下さい。」
君も俺に倣うかのように俺の掌にその小さくて瑞々しい赤い果実を差し出す。
そして、その掌を返し甲へと移り、指先にも続けてくれる。
それが嬉しくて俺も腕に、頬に、瞼に口付けを次々と落とし、最後に君の黒曜石のような輝きを放つ夜色の髪を一房掬い、口付けた。
「リオ…そんなに沢山……私、まだ返しきれてません。」
そう狼狽える可愛い君の手首に噛み付くような口付けをしてから、見せ付けるように舌を出して舐めあげる。
この行為に君は何を望むのかな?
俺は、君との未来。
これはまだ言葉にするのには早すぎるから。
今はまだ俺の心の一番柔らかい場所に仕舞っておくから。
「ゆっくり返してくれたらいいよ。
だから今は…俺の愛を受け取ってくれる?」
そう告げて再び口付ける場所、それは数多くある場所と意味よりも俺にとって君に伝えたい意味で、口付けたい場所。
今から此処にするよ?と宣言するように親指で君の唇をなぞれば、
「はい。私の一生をかけて返して行きたいと思います。
なので今は、リオからの愛を受け取らせて下さい。」
そう涙に飽和した瞳をゆっくりと閉じる君。
無防備な姿を晒してくれるのは男では俺だけ?
普段は過剰に干渉する事が出来なくて何度も嫉妬にこの身を焼かれそうになり、耐えるだけ。
俺は君に同じ思いはさせてないかな?
君以外の女にどんなにモーションをかけられようがどうでもいい。
君以外はいらないから。
それを分かっていてくれたらいいけど。
それでも不安になるし、俺の愛の真偽を問うなら、応えてあげる。
「俺にはユキだけ。ユキだけいればいい。
俺が愛しているのはユキだけだよ。」
愛しいと言葉にしてゆっくり唇を重ねる。
啄むように何度も何度も貪って、君が酸素を求めて喘いだ瞬間捩じ込む舌。
踊るように絡ませ混じり吸収する。
嗚呼やっぱり此処への口付けが一番君を感じられるから好きだ。
「ん、ふっ…リオ、リオ。」
口付けの合間に漏れる俺を求める声。
可愛い、可愛い君。
もっと俺を感じて欲しくて、俺と言う男を刻み込みたくて。
君の舌と俺の指を戯れさせて、鎖骨に俺の女だと言う赤い花を咲かせて。
独占欲と嫉妬に翻弄されるなんて初めてで。
庇護欲と慈愛に満たされるのも今までに無い事で。
「好き、だよ?大好きだ、愛してる。」
初めての恋をこの年で経験する俺はきっと君が一番多く接する年代の男より重くて息苦しい恋しか経験させてあげられないと思う。
それでも、君はそれを受け入れてくれるから。
「私もリオが好きです。大好きです…愛、してます。」
俺と同じ言葉を照れながら返してくれる君に愛しさがまた溢れる。
これ以上君を好きになってしまったら、どうなってしまうんだろう?
この想いは何処まで溢れて来るんだろう?
底無しの沼に嵌まり込んだみたいな感覚に不思議と負の感情はなく、寧ろ正の感情しか湧かない。
「こんなにも好きにさせた責任、とってね?」
意地悪く笑って、君が恥ずかしそうに頬を染めて頷いたのを確認してから、約束を違えないようにと互いの唇にそれを重ねた。
きっと、君も同じはず
(これ以上はお預けだね?)
(どうしてですか?)
(だって、外だよ?俺はユキを愛せるなら何処でもいいけど、ユキは嫌でしょう?)
(あ…、)
(ふふっ 大丈夫。今日は口付けだけ、ね?)
(はい…。)
読んでいただいてありがとうございました。