第一二章 「邂逅 前編」
エウスレニア王国国内基準表示時刻1月6日午後21時11分 首都ラルバ アンガニ王太子国際空港
赤青白黄。
彩の異なる光の奔流が、機窓からは手に取る様に臨むことができた。さながら光りの奔流であった。気窓からは遥か地平線の近く、飛行場の辺縁に隣接する立体式高速道路を行き交う車の生む光が、機内の諏訪内 佐那子にとっては今となっては羨ましく、そしてあれの存在する世界に戻りたいという願望すら強く掻き立てる――その佐那子の身は、願望が叶うことの無い世界に置かれている。
光と空調……乗客に空の旅を愉しませるために最低限必要な快適さが新日本航空368便から消えて、どれくらいの時が過ぎただろうか? と、佐那子は考えた。時計を見ようにも、それは368便がその所属する航空会社の所有物では無くなってすぐに取り上げられていた。時計だけではなく、時刻を知るのに有用なもの――あるいは、それ以上の情報を知るのに必要なもの――の全てが、とうに機体を占領した連中の手の内にある。それら情報機器による外部との内通を防ぐのは勿論の事、テロリストが人質を完全に隔離し、精神的に追い込むための、それは有名な「ノウハウ」のひとつであった。
両脇をエウスレニア王立空軍の戦闘機に守られて――というより、遠巻きに見張られる様にして――368便はエウスレニア領空に入り、そして首都ラルバ上空にすんなりと誘導された。
王国首都ラルバ アンガニ王太子国際空港の、エウスレニア文化の古式ゆかしさと、日本現代建築的な機能美の融合した国際線ターミナルビルを横目に368便が着陸を果たしたとき、未だ太陽は高く、それ故に着陸と同時に空調を切った機内の気温は加速度的に上昇した。未だ一月でありながら、気候的に熱帯に属するエウスレニアでは当然の成り行きだった。
意図的であることはあからさまである程の飛行場の片隅まで滑走し、機はそこで一切の動きを止める。その後には静寂と緊張とが残り、その後には室温の上昇と湿度の急激な浸透とが続いた。異国――それも、貧しい国――の航空会社によっては、燃料費節約という観点から着陸直後に一切の空調装置を切る旅客機も存在する。そのことを佐那子は自身の経験から知っている。しかし自分が今乗り合わせている新日本航空機の客層からして、機内にそのような事を知っている者が多いとは佐那子には見受けられなかった。
着陸から滑走、そして完全なエンジン停止から一時間も経たない内に、不快指数の極限値をあっという間に振り切った機内にあって、自分たちの城も同然の旅客機内をかくの如き状況に追い込んだハイジャック犯たちの意図が、空調を動かすのに必要な燃料の節約にあることを佐那子は察した。その代わりに、機内に乗客たちの怨嗟の呻きが満ち始める――
「――商談でグナ‐タロスに行った時の事を思い出しますよ」
と、ハンカチで汗を拭いつつ隣席の商社員が言った。グナ‐タロスは佐那子も知っているし行ったこともある。ここエウスレニアから海空七千キロメートル余りを隔てた、猿の様な身形をした――言わば猿人とも言える――種族が住まう国だ。日本人に対し友好的な姿勢を有する種族でもある。
「季節はちょうど夏の終わりごろでね、暑さには慣れっこだったけど、向こうの連中体臭きつくてさ……何ていうか獣の臭いがするんだ。空調が動いてる間も臭いがしてたのに、それが止まって室温が上がり始めた途端、ぼくの呼吸も止まりそうになった……それが二時間、二時間も続いたんだよ。死ぬかと思ったよ。向こうの役人は平然と賄賂を要求してくるし、ぼくの服と身体にも連中の臭いが染み付いてしまって、手続きに寄った日本大使館の同胞にもいい顔されないし散々だったね。あとで聞いた話だと、グナ‐タロス労働者党のコネで入って来た新入りの係官が通関手続きに手間取ったらしくてさぁ……やっぱり世界が違っても、社会主義ってやつは駄目だねえ」
「ああ、あの臭いね。でも市井の人たちはみんな気さくでいい人たちよ」
「それは認める」
佐那子の言葉に応じたところで、商社員の表情が強張った。何時しか二人に注がれていた硬質な眼差し――グナドス人の青年には表情が無く、そして手に握られた拳銃の銃口の無機的なぎらつきが、彼の二人に対する感情を代弁しているかのように見えた。青年が拳銃を微かに振り、それは佐那子と商社員から会話を奪うのに十分な効果を発揮した。それでも佐那子は、詰として青年を睨み返す。
「ニホンの猿め……!」
言い棄て、グナドスの青年は踵を返す。離れ行く青年の背中を、佐那子の眼光は尚も追い続けた。
「代表者と話がしたい! 代表者は誰だ!?」
日本語ではなかった。グナドスの言葉だ。ただし口調からグナドス語を母語としていない者の発音であることが佐那子には判った。初老の異国人が独り、席から立ち上がり武装したグナドスの女に話し掛けている。異国人であるにも関わらず突き付けられている短機関銃の銃口を前に、初老の異国人の表情には明らかな狼狽の色があった。それでも彼は話しを続ける。
「何事だ?」
と、グナドスの男が短機関銃の女の傍らに立った。長い金髪と割れた顎が印象的な、鉄塔の様な体躯の男――彼がこのハイジャッカーたちの指導者的な立場にあることは、この数時間の不快な空の旅の中で368便の乗客たちに共有された認識であり、それは事実であった。言うが早いが男は同志の女に目配せしたが、それは単に応対の役割を代る意思表示であるだけで、短機関銃の銃口は依然として初老の異国人に向いていた。
「私はデオラ‐カルビム。エドナ人だ。此処に居る妻と一緒にニホンに嫁いだ娘に会いに行く途上だ」
「それで?」
「……このような馬鹿なことは止めて欲しい。みんな疲れている。脅迫ではすべては解決しない。ニホンの政府と話し合うなら、此処のみんなを飛行機から降ろして、その上で君たちも此処から降りてやるべきではないのか?」
「…………」
こめかみから脂汗を滲ませ、あるいは恐怖に語尾すら震わせてエドナ人の紳士は話した。同じく汗を掻いていたが、彼自身の父親程の異邦人を冷厳にも睨み続けるグナドスの若者の無表情は、それだけでも彼らのやり取りを伺う日本人に、緊張を与えるに足る光景であった。
「――馬鹿なやつだ。話し合いなんて通じる筈が無いのに」
呻くような、だが嘲る様な声を佐那子は背後に聞いた。身形のいい老夫婦が其処にいたことを佐那子は思い出す。国産の高級デジタルカメラを首から下げた恰幅のいい夫は、漏れ聞く会話から察するに会社の経営者だった筈だ。しかし佐那子は、彼と同じく無謀と思うのと同時に、一抹の希望を抱く。ハイジャッカー達が折れ、テロ事件がひとつの争乱として円満に収まるのではないかという希望――
――パン!
「――――?」
絶句するのと同時に、混乱する。硝煙と火薬の臭いが換気機能を喪失したキャビン内に満ち、その後には拳銃を握ったまま立つグナドス人の無表情と、彼に正対する形で、何が起こったのか判らぬまま立ちつくすエドナの老紳士とが残された。老紳士の強張った眼が彼の足元、そして胴体に向かい、赤い血を滲ませ始めた腹の一箇所を見出して固まった――妻の悲鳴。
「…………っ!」
何が起こったのか察し、佐那子は弾かれる様に席から立った。呼び止める隣席からの声はもはや聞いていなかった。佐那子の向かう先、CA姿の女が無表情をそのままに立ち塞がる。拳銃を握る挙動まで、エドナ人を撃ったグナドスの男に似通っていた。
「席に戻れ。ニホン人」
「私は医師です。退きなさい……!」
佐那子自身は自覚しなかったが、彼女の眼つきと口調は、武装したハイジャッカーすら怯ませるのに十分な効果を発揮した。むしろ気圧されて動けない女を押し退ける様にして、佐那子は長身を早く歩ませた。その佐那子の見る先、腹部を抑える老紳士の掌が、鮮血の噴出しを抑えられずに朱に染まり始めている……それを彼自身が自覚するのと同時、足下から崩れるように彼は座り込み、そして倒れた――佐那子の歩調が更に速くなる。
「女っ!」
老紳士に迫る寸前、目を剥いたグナドス人が立ちはだかる。有無を言わさず振り上げられた拳銃を握ったままの手。振り下ろされた拳銃の銃床が佐那子の顔面に向かう。直視――見開かれようとして結局背けた佐那子の眼、顔そのものも背けた結果として、銃床は佐那子の前額を強く掠めた。それでも衝撃は強く、佐那子は辛うじてその場で踏み止まる。佐那子を殴ったグナドス人も、そして殴られた佐那子もまた、其々に違う理由で苛立っていた。
「…………」
佐那子は顔を上げ、そして彼女を殴ったグナドス人を睨んだ。睨む内、打たれた額から生温かいものが垂れ始めるのを佐那子は自覚する。それは彼女の眼にも流れ込んで片方の視界を紅く染める。銃床に切られた額、傷口から流れた落ちた血は、佐那子の眼を抜けて頬に達した。
「…………」
流血と無表情――佐那子の形相を前に、グナドス人は怯んでいた。佐那子を前にした彼の目の焦点の揺らぎが、彼自身がやったことの結果を、グナドス人が明らかに予想していなかったことを物語っていた。有無を言わさず佐那子は手を伸ばし、男の厚い胸板を押し退けて歩く。男の弁解など最初から期待していなかった。
「大丈夫ですか?」
佐那子は膝をついて老紳士に語り掛けた。老紳士の眼を覗き、顔色の青白さを見遣った後で目を傷口に向ける。その後は医師が病院でやるような型通りの診察処置が続く――彼女自身手を朱に汚し、客席を顧みて声を上げ、水と消毒液、そしてタオルを求める。座席を伝い手渡され、集まって来る処置に必要なタオルとなけなしの水――もはやハイジャック犯すら佐那子に手を出せず、固唾を呑んで佐那子の処置を伺うばかりであった。
「急所は外れてる。動脈の損傷も無いみたい。大丈夫よ」
頭を上げた老紳士、ひいてはその妻と思しき老女の顔が、患部から顔を上げた佐那子の眼前にいた。佐那子を見遣る老紳士が微かに笑う。緊張しきった自分に対する、いわば「労い」だと佐那子には思えた。
「……でも、もうこの飛行機には乗せられない」
そこまで言って、佐那子は口を噤むようにした。これ以上ハイジャッカー達の顔色を伺うのは医師としてのプライドが許さなかった。願わくば彼女自身の意思のみでこの夫婦を飛行機から出したかった。背後、人間の気配が歩み寄るのを佐那子は感じる。それも、融和を一切感じさせぬ冷たい気配だ。あの男だ――佐那子は察し、振り返った。
「…………」
ダキと呼ばれるあの男――あの黒い肌の青年が、細長いサングラス越しに不遜な闖入者を見下ろしている。彼の足許に在って無機的な眼光を受け止める佐那子の眼は、額から流れ出る血で片方が塞がっていた。独つしかない眼で、佐那子は眼に見えぬ気迫を受け流そうと身じろぐのだった。
「……この人を此処から出して。病院での治療を要求します」
「そんな戯言……お前に何の権限があって言う?」
「私は医師です。医師としての見地から言ってるの」
「ではニホン政府にそう言え」
言うが早いが、ダキという名の異邦人はグナドス人に目配せした。おそらくは老紳士にそうした様に、怒気に任せて反抗者を撃つ以外に虜囚に対する選択肢をグナドス人は持たなかったのであろう。嬉々としてダキに歩み寄るCA姿の女の手には、分厚い携帯電話が握られている。まず一般には出回っていない、衛星回線専用の携帯電話だと佐那子は察した。何故ならそれは、新世界でも未開地が多い佐那子の仕事場にも、欠かせない「道具」のひとつなのだから――
「もう電話先の番号は入力してある。お前達の使うケータイと同じだ」
「あなた達……!」
「全ては、ニホンの政府が決めることだ」
佐那子の怒りに、正負いずれにしても感傷を抱いた素振りを、ダキは見せなかった。
遠方からまた他の翼のジェットエンジンが轟き、368便の傍らを過る。そして翼は金属音を響かせつつ夜の空を昇っていった。
ノドコール国内基準表示時刻1月6日 午後20時56分 ノドコール中部上空
漆黒の天の遥か下方で、銀色の雲海が所在無げに流れていた。
闇に馴れた眼からは、それが手に取るようにわかる。この際、操縦席計器盤を照らし出す紫外線灯の光は邪魔にならなかった。「気象観測機」の操縦席周りの配置は絶妙だ。設計者は良い仕事をしていると操縦桿を握るセドルス‐ド‐ハーストは思っている。
「気象観測機」黒鶴2号はローリダ共和国国外直轄領ナヴィゲウスを午後に発ち、そして深夜にノドコール北部上空に達した。ここ二カ月の間、セドルスたち「気象観測機」の操縦士にとって、今となってはそれは決まり切った空路であった。ニホン軍がスロリアの国境を越え、戦争が始まっても空路は平穏そのものだ。何より、空と地上から一切の妨害が及ばない成層圏の只中に黒鶴2号の空路は在る。そこに在って、セドルス達はノドコールの地上を只管「観察」することに傾注している。下界のニホン軍の動き、あるいは連中に抗う現地同胞の戦いぶりを――
いや、観察じゃないな――旋回点に達した黒鶴2号を左に傾けつつ、セドルスは呟いた。今自分が担っている飛行は、むしろ「通信の中継」だ。
決して未知の任務というわけではなかった。昔、戦闘機の操縦士として植民地の前線基地に勤務していたときに同様の任務に関わったことがある。セドルスと彼の同僚が、機材の制約から前線指揮所からの通信が及ばない遠距離での作戦飛行に従事した際、空軍は戦闘空域の後方に通信装備を充実させた輸送機を進出させることで通信の問題を解決しようと図った。つまりは輸送機に戦闘機隊の交信を実況させ、遠く離れた戦闘空域の状況を把握せんとしたのである。それは成功した……現在、セドルスの乗る黒鶴2号はその胴体下に特殊な通信機材を抱き、ニホン人が勝手に設定した「戦闘空域」の外苑を飛び続けている。
可搬式携帯電話基地局――戦闘機用の増加燃料タンクを改造したカプセルに包まれた専用アンテナは本来ニホン製で、ニホン人にとっては身体の一部も同様の機械たる「ケータイ」を、彼らの領域の外でも使える様に作られた「電波増幅器」であるとセドルスは聞いている。「ケータイ」……忌々しい機械である。通信中継用カプセルの導入、地上用の可搬式中継局設置と前後して、彼の根拠たる専用飛行場「鶴の巣」においても「ケータイ」は「侵略」を始めた。兎に角、あれば便利なのはわかる。しかし休養の際にもあれで呼び出されるのはセドルスには堪らない。セドルス自身は拒否したが、上司に無理矢理持たされたのだ。
一切の遮蔽物の無い高高度からの運用の効果として、中継カプセルは地上の広範囲に「ケータイ」の恩恵をもたらすことを可能にする。ニホンの「ケータイ」は抵抗する義勇軍の前線において、促成の無線通信機としてその効果を余すところなく発揮していると聞く。その「ケータイ」の多くが、ニホンが「転移」する前に作られたという旧型機だ。旧知の共和国中央情報局幹部によれば、ニホン製の旧型ケータイを入手するのは容易だったという。より新型、高性能の「ケータイ」に目が無いニホン人にとって、それらは路傍に転がる石ころも同然のゴミ屑にしか見えないらしい……しかし恐ろしいものである。世界中何処に在っても、他所の誰かと会話をすることが出来る技術というのは……
「……恐ろしいな」
『――機長、何か?』
後席の副操縦士、ロダスの声がセドルスの意識を喚起した。肩書きは操縦士ではあっても、ロダスは今回の飛行では基地局の中継する電波を観測する任務に徹している……否、ここ数回の飛行ではそうだ。黒鶴2号も含め、四機の気象観測機がこの任務に従事している。おそらくは戦争が終わるまでセドルス達の飛行は続くだろう。戦争の終わり――それがどういう結末であるのか、セドルス達には想像する力を持たなかった。
『――ニホン人ってのは、愚かな連中ですね』
「何故そう思う?」
『――連中、こうやって自分たちが作ったものを、我々に利用されているという想像すら出来ていないのかもしれませんよ』
「確かに、三百年前の独立戦争と同じだな。あの時も独立の英雄たちはギルタニアの武器を取って立ち上がり、勝利した」
『――じゃあ、今回の戦いは勝つ?』
「おれにはそうは思えない」
『――え?』
「…………」
自分でも、すんなりと答えてしまったことにセドルスは自分でも内心で驚いていた。しかし根拠のある回答だ。ギルタニアの貴族主義者と違い、あのニホン人が、自分たちの利器を敵国に委ねたままという大ポカを、野放しにしておくはずなど在り得る筈が無いのではないか? ニホンの歴史はただふたつ、「武」と「謀」に集約されると、セドルスはとある高級士官から聞いたことがあった。
「ロダス、機材の稼働状況はどうか?」
『――順調ですね。でもこのまま画面を見続けるとどうも眠たくなる』
「言い換えれば退屈ってことだな」
『――しかし前線の同胞にとっては必要な支援です』
「そうだな。必要……必要な支援だ」
必要……必要……自分に言い聞かせるように、セドルスはその一言を脳裏で反芻させ続けた。しかし言い聞かせんと努める程に疑念は広がり、圧し掛かって来るのだ。いまの自分の飛行に、何の意義があるのだろうか?……と。
そしてこうも考える――おれ達を飛ばしている連中は、いま何を考えているのだろう?
ノドコール国内基準表示時刻1月6日 午後21時17分 ノドコール中部
薄暗い空間の中で、乗り合わせたC‐2輸送機の機体が小刻みに揺らぐのを全身で感じ取る。降下地点に近いのだと察した。離陸前のブリーフィングでは現地上空の気象は雪、その上に南西に向かい強い風が吹き降りていると聞いている。降下地点と飛行経路の位置関係を鑑みれば、此処から飛び出すタイミングの計り方、そして此処から飛び出した後については困難な決断が予想された。風向、風速、C‐2の針路、速度……降下に必要な数字を脳裏で列挙し、やはり脳裏で何度も使い古した計算式に打ち込んでは思案を続ける――
「――――」
C‐2は尚も震えていた。降下について考えるのを、二等陸曹 高良 俊二は止め、眼差しを薄らと開けた。C‐2のキャビン内で正対して座る円らな眼が、神妙なまでに彼の覚醒を待ち構えていた事に俊二は気付く――厳密に言えば、彼の視線には覚醒する前から俊二は気付いていた。ケンシン――三等陸曹 伏見 憲伸――が相変わらずの隔意半分、物欲しげが半分という、奇妙な眼差しで正対する俊二の様子を伺っている。
「……どうした?」
「俊二、おまえ、どう降りる?」
先輩面を作り、ケンシンは問いかけた。先輩面こそしているが、部隊の先達として後進に問い掛けをするのに必要な気迫と自信が、明らかに足りていない様に俊二には見えた……と、同時に複数の視線が自身に注がれるのを俊二は感じ取る。特に最も至近、すぐ横に座るトウジ――二等陸曹 賀上 冬二が、からかう様な眼差しを俊二に向けていた。「そうだな……」一息吐き、俊二は続けた。
「……前にいるケンシン先輩の後を追い掛けて、ケンシン先輩がやるように降りて見せるさ」
「…………!」
唖然の後に怒りが、少年の面影を残したケンシンの顔に紅く点滅して発現する。後輩を困らせる積りが、逆に軽くあしらわれたのだとケンシンが察した時には、明るい笑顔がキャビンの一角に伝播を始めていた。
「じゃあオレがいなかったらどうするんだ!? 戦場じゃ何時も一緒ってわけじゃないんだぞ?」
「そのときは降車ボタンを押して停めてもらう」
「バスじゃねえよ!」
怒声に笑い声が重なり、キャビンに響く。俊二とケンシンを伺うトウジ――二等陸曹 賀上 冬二、ブレイド――二等陸曹 柳 斗夢の二人……俊二も交えた卒業旅行の大学生の様な雰囲気を醸成する四人の一方で、離陸時から微動だにせず眼を瞑り続けているもう三人を見返し、俊二は緩みかけた意識を引き締めんと試みた。
ヤクロー――准陸尉 須藤 八九郎と「ハットリくん」……そしてチームリーダーたるコブラ――二等陸尉 鷲津 克己の横顔は、抑制された機内照明の真下で無表情を維持しつつ、死人のように青白く意識の底に沈んでいるように見えた。大昔のハードボイルド小説の主人公を思わせる精悍な体躯と風貌……そして陰を持つ男。その彼が今、俊二の眼前で戦闘用個人装備に身を包んで鎮座している。その姿を一瞥するだけでも、事情を知らぬ常人の畏怖を誘う事だろう……それを言ってしまえば、俊二もまた他人の事を詮索できない外見に変貌してしまっている。自由降下用の落下傘と一体化した特殊作戦軍装。俊二も含め、彼ら六人はこの戦争が始まるずっと前から――
『――機長より各員へ、降下予定地点まであと10分』
「――――」
注視する俊二の眼前で鷲津二尉が不意に顔を上げ、そして目を開けた。俊二にはそれが、深い眠りから醒めた伝説の勇者の様に清々しく見えた。と同時にヤクローと「ハットリくん」もまた彼らの「ボス」に倣う。全員の注目が自ずと一人に集まる。死線を前にした緊張感でも無ければ国家の命運を背負う覚悟でも無い。生還前提の冒険に臨む希望と闘志の漲りと、冒険そのものに対する拭い難い欲求が、D分隊を構成する各人の眼光に宿っている。
「てめえら、やることは判ってるな?」
返事は無い。ただし任務に臨む気迫が波動となり、六人の精神の芯を震わせる。共鳴であった。
「おれ達の任務は、現在此処から遥か下の地上で、ロメオの狂信者どもに追い込みをかけられてる友軍を救い出すことだ」
「救い出す? どうやって?」
と応じるヤクローの声には余裕の響きがある。しかし余裕をこくには余りに地上の状況が逼迫していることを、俊二はその表情から隠し通すことに失敗していた。俊二とてこれより完遂すべき任務の全容を、今更になって知らされたわけではない。前線基地で知らされた戦況の安寧ならざること――鷲津とヤクローの意図が、状況の徹底した周知とその際の緊張の払拭に在ることを、俊二としても理解している積りであった。
「いまから此処に降下りて、敵の指揮官を殺る……そういうことでしょう?」
眼を怒らせてケンシンが言った。性別すら眩ませるほどの白皙の美貌が、怖気を揮う程の無表情へと転じていた。逼塞の打開を、若い感性と闘志が求めていた。
「相当やらかしてくれた野郎みたいですね……そのザルキスってロメオ野郎は」
ブレイドが言った。その語尾には七割の怒りと三割の苦々しさが俊二には聞こえた。「重要目標」たるキズラサ国北部方面軍司令官 ロイデル‐アル‐ザルキス――近年になって有効に機能し始めた、防衛省情報本部中枢の重要監視目標検索体系の「カテゴリーP」(人物)の内要が正しければ、映画や漫画に出てくる典型的な「悪者」という表現がこいつにはよく似合う。この戦争の直接の原因を引き起こし、日本から平穏なる年末年始を奪ったローリダ人――「ベース‐ソロモンの虐殺」を主導したローリダ人たる彼の捜索と殺害が、現在D分隊が傾注している任務であった。
「やらかすも何も、やつ一人の命では償えない程の罪を犯した男だ。でも償わせる……そのためにはやつ一人では足りないから、更に多くを殺す必要がある」
「……報復だな」
「いや、斬首作戦アルよ。シュンジ君」
「…………!」
はっとして顔を上げる俊二、それを覗き込む「ハットリくん」の仮面――その空虚な眼が俊二の困惑を受け止め、そして伺っている。斬首作戦――俊二達の様な「軍事関係者」にとって、それは今となっては使い古された言葉だった。特殊部隊を以て前線後方を問わず敵中枢をピンポイントで強襲し、指揮を執る人材を「抹殺」する。これを繰り返すことにより最終的には敵軍の指揮系統を完全に破壊する。ときとしては軍事指導者だけではなく政治的な指導者ですらその目標となり得る――文字通りに敵の首魁を殺し、組織としての敵の生命を断つための作戦。言い換えれば、「前世界」のベトナム戦争の頃より伝統のある「汚い仕事」。しかし――
「――おれとしては腑に落ちません。情報本部はどうやってそのザルキスの所在を掴んだんですか? というか確実にやつの所在を掴んでいるんですか? 其処に居るだろうから突っ込んで行って、其処にいたら殺して来いって、まるでヤクザ映画みたいな話じゃないですか」
鷲津二尉が、唐突に口を開く。
「まさかヤマを掛けたって訳でも無いだろうしな。連中なりの確証があるんだろう。おれ達の任務の中には、その東京の御宣託を信じて敵中で死ぬことも入っているようだぜ」
「信じて無いんですね隊長も……おれもだけど」
俊二は改めて鷲津を見、鷲津はおどけたように肩を竦めて応じた。
「内通者でもいるのかな」
「シュンジ……ロメオの中にそんな気が効くやつがいるかよ。やつらは徹頭徹尾、異教徒と異種族は殺せ、殺せ、もっと殺せってノリだろうさ」
ケンシンが言った。「そうでもない」という鷲津の声が、皆の注意を喚起する。
「目標地点近くで携帯電話の通信量が異常に上がっているって話、地上でもしたよな。ロメオの中に携帯中毒がいるって話も驚きだが、その通話の中に、北部方面軍の指揮統制や特定の人物からの資金援助といった、明らかにザルキス個人しか把握し得ない内容が含まれている。傍受した防衛省からすれば、だからこそ今から降りてザルキスを殺して来いって話でもある」
「東京に居ながら衛星で見たとか、傍受して聞いたからできるとかそういうノリってわけですか? そんなの……ネットで見た、掲示板に書いてあったって類と全く変わらないのにな」
呆れたようにトウジが言った。
「――直に行って来て、見て、聞いて還って来ることに勝る情報収集の手段は、ひとつもないアル」
「ハットリくん」もまた言った。大昔、日本が大日本帝国と自称していた頃、そう語った情報戦の大家がいたという……D分隊が課せられているのはそこからさらに先、見て、聞いた後に政府中枢が下した「決心」の後にある。それが絶対に「失敗せない」任務であるからこそ、D分隊にもお声が掛ろうというものであった。
「それで、直に行って見て、聞いて来る役割はおれたちってわけだ……そのさらに先の役割も」と、それまで沈黙を守っていたヤクローが言った。鷲津が頷いた。
「……おれたちは七人、たった七人だ。だがこの七人がこれまでの膠着した戦況を変える。どうだてめえら、ウキウキすっだろ?」
鷲津が微かに声を笑わせた。追従するように俊二とトウジ、ブレイド、そしてケンシンが笑う。ただし、追従を躊躇うかのような引き攣った響きもまた、彼ら若者の笑いからは聞こえた。万単位の敵兵の犇めく前線後方に勇躍突入する七人――単なる冒険ならば兎も角、それは戦術としては、あまりに無謀との誹りを免れ得ないであろう。
「またこれだよ……」トウジが呆れたように言う。心から辟易しているのではない。むしろ鷲津の無謀に対する同調と余裕を、俊二は彼の言葉に聞いた。悪戯に加担する少年の様な感覚で死地に潜らんとする同僚。俊二は内心で驚いている――こんな男達が、自衛隊にはいる。そして自分もまた、彼らの一員として死地への突入を内心で歓ぶ様になってしまっている。
「時間だ。ザルキスを殺りに行く」
腕時計を覗き込み、鷲津は告げた。直後、減圧を告げるブザーが鳴る。減圧の後、C‐2のランプドアが開き、七人の死告天使を下界に降ろす準備が始まる――鷲津の後に続いて席から立ち上がったとき、彼の上腕に縫い付けられたワッペンで、俊二の眼が止まった。離陸の間際、出撃する隊員に配られた今次の作戦の象徴――「交差する翼」。現在に至る俊二の人生の記憶にもあった印章故に、地上でトウジと語り合ったことが思い出された。
――これ、どっかで見た様なマークだな。
――旧い漫画に出てくる紋章さ。確か名前は……
「……自由の翼」
震えを伴った俊二の呟きが、吹き込んでくる気流の烈しさに呑み込まれる。スロリアを支配する悪を倒し、スロリアに自由を取り戻すために旅発つ男達の、それは巨大な翼であった。
鷲津が語った通り、戦況は膠着している。
原因としては、キズラサ国軍を自称する武装勢力の攻勢の烈しきこともそうだが、膠着に至る直接の引鉄を弾いたのは、ノドコール王国軍を自称する現地人武装勢力の方であった。陸上自衛隊 第一空挺団派遣部隊主導の「ベース-ソロモン」奪回、それに続くKS軍反攻部隊の撃退に飽き足らず、ノドコール王国軍の一部が後退するキズラサ国軍の追撃に移行したのである。それを制止する余力も余裕も、奪回部隊には皆無に等しかった……と言う以前に、単なる武装集団――言い換えれば素人――としての彼らの行動を、むしろ戦争の専門家なるが故に自衛隊側は読めなかったのである。
「―― 一部部隊の暴走、とは言っているが、全てはアズリ将軍の差し金だ」
と前日、出撃に際したブリーフィングの最中、導師――三等陸佐 壹岐 護――はD分隊の面々を前にして語った。
「――表面上は自衛隊との協働こそ強調してはいるが、ノドコール王国軍の中には三年前の我が方の対応に対する不信感が未だに根強く残っている。むしろ三年前の蜂起を主導した積極行動派は、自分たちを切り捨てるために日本が支援をちらつかせ、蜂起を志操したとすら考えている」
「つまり三年前の独立派は、日本の支援を勝手に当て込んで蜂起したと? 支援の確証を得たわけではないのに?」
俊二の問いに、壹岐三佐は頭を振った。
「厳密に言えば、独立派の中でも特に強硬な一部勢力だな……いや、あれは派閥と言おうか」
実情は更に複雑であった。三年前のスロリア紛争以前より、ノドコールの独立勢力――より厳密に言えば、所謂強硬派――は数カ国から成る他国の支援を受けていた。決して民族自決の精神に根差した善意からの支援ではなく、更に言えば真に独立を企図した支援でも無かった。この世界における植民地及び利権獲得において、「宗主国」ローリダと競合する「列強」数カ国が、ただ単にローリダへの牽制、あるいは植民地経営を妨害する意味合いを込めて、気まぐれ程度に支援を続けていただけに過ぎない。それはまた当のローリダもまた、彼らの勢力圏内で行っている事だ。
「――てめえらで暴走しておきながら、失敗したら他人のせいってわけか? 知能の程度はローリダ人とどっこいだな。喩えノドコールが無事連中の手に戻ったとしても、未来が思いやられるぜ」
と、鷲津二尉はせせら笑ったものだ。ただし一連の蜂起の実相は鷲津もまた理解しているところだ。スロリア紛争、その前段階の一連の事件と前後し、日本政府中枢の意を受けてノドコールに侵入を果たした陸上自衛隊 現地情報隊、彼らの接触工作と統制から漏れた独立派の派閥がスロリア紛争の終結を契機として蜂起し、結果としてそれはローリダの予想外の強硬手段を前に頓挫した――ただし、自滅とも言える破滅を招来した恐慌派の背後に、それら国々の影がちらついている。
「――予想外の戦況を前に諸国は焦ったのさ。このまま我が国が戦争に勝ち、独立派すら纏め上げてノドコールに乗り込んで来ればどうなるか?……戦争が続いていれば得られるはずのものが得られなくなる。それでは彼らは困る」
つまりは戦前の下馬評通りに戦況が日本不利に傾いたとき――良くて膠着状態に陥ったとき――に、彼ら列国が仲介者として要求できる筈の対価であった。それは土地であり、あるいは土地に付随する権益であろう。本来ならば「敗戦国」日本から得られる筈のそれらが彼らの掌から零れ、むしろ日本がそれを独占し得るという展開に差し掛かった時、諸国の恐慌はそのまま行動となった。独立派にパイプを有する諸国は一致して自国の囲う派閥を焚き付け、ノドコールに彼らが介入する名分をでっち上げようと図ったのである……それが、ローリダ人が言うところの、「ノドコール大反乱」の下地となった。
「――今次の作戦に至る前、日本政府は東京で独立諸派の代表と極秘に会談した。その席上、政府は将来の独立後の新国家運営と国土復興とに関わる全面的な支援を約束している……ただし、各派の有する外野との通交を以後一切断つと言う条件で、だ」
「そんな都合のいい話、独立派の連中は呑んだんですか? 呑むとは思えねえけど」
「呑んだよ。表向きは、ね」
微笑み、「導師」壹岐は片眼を瞑って見せる。
反乱を志操した列国にとっての誤算は重なった。叛乱に報いるに、これまで植民地の要として惜しみない投資を続けて来た筈の旧王都キビルを全壊せしめるほどの反応兵器を使った攻撃……「ノドコール大反乱」に至る経緯と同じく、ノドコールの支配者たるローリダによる反乱鎮圧の迅速さと苛烈さもまた、彼らの予想を越えた。その後には十万単位に上るノドコール人の死体と王都の廃墟が残された。そして停戦を名目に叛乱の一部始終を傍観した日本人と、利権狙いから叛乱そのものを嗾けた列国に対する不信が生まれた――三年後、期せずしてノドコール復興を主導する役割を担った日本政府が提案したのは独立戦争の仕切り直しであった。それでも、当の日本政府は諸派を支援する列国が容易く手を引くとは考えていない。諸派にしてもすんなりとこれまでの支援者を切る意思も、そして力も無いであろう。
「――今回の任務は独立勢力内の親日派の立場を強化するために実施される。戦線の混乱に乗じておれたちはザルキスを討ち取る。表向きこれら全ては独立勢力親日派の成果となる」
再び機上――地上で行われたブリーフィングの内容を反芻するように鷲津は言った。ザルキス殺害を成果として独立勢力における親日派の立場を強化する。その武力を以て国益を生むという意味では、鷲津たち陸上自衛隊 特殊作戦群のまっとうな「使い方」と言えるであろう。しかし彼らに光が当たることはなく、彼らの戦いが長きに亘り記録されることは無い……その点もまた、彼らの存在意義なのであった。
Gショック・特殊作戦群モデル――「スロリア紛争」後に陸海空自衛隊で制式採用された、まず市販されることの無い特別限定仕様品でもある――の低光量表示盤に鋭い目を更に細め、鷲津二尉は告げた。
「空自が地獄への門を開く」
「――――!」
操縦席がランプドア開放を告げる。機内照明とは違う冷たい星明りが、高高度特有の冷気を伴ってキャビン内に入り込んで来る。俊二はと言えばそれを、ただ無表情に息を呑んで受け入れる。ドアの開放が終わるのに要する時間は、D分隊の全員が調整の終わった酸素マスクを被るのに十分な長さを有していた。攻防の続くベース‐ソロモンから北西に五十キロの山間部。前線指揮所を付設するに適した地形の緩やかさが、三年前に死地となったイル‐アムに似ていると俊二は思った。俊二たちの浸透を容易にするべく、先行した空自のF‐15DJが山間部の敵陣への空爆を始める時間に差し掛かっていることを、右腕に嵌めたSFモデルの表示盤が教えてくれている。
簡易座席から立ち上がり、下界に向かい歩き出すのと同時に、銃器を収めたロングバッグと一体化した落下傘が背中に重く圧し掛かる。夜間、敵地深奥への自由降下という、市井の一般人はおろか友軍の自衛隊通常部隊ですらまず考えられない戦場への接触――それは今となっては、俊二にとっては地下鉄を乗り継いで街に繰り出すのと同じくらいに有り触れた「行為」へと変貌してしまっている。
さらなる機内放送がキャビン内照明の夜間照明への切替を告げ、反射的に俊二は軽量ヘルメットにマウントされた暗視装置を引き下ろすようにした。作戦開始前に受領した四眼式の、まるで蜘蛛の眼を思わせる新型暗視装置、精度の高さは勿論、何よりも肉眼のそれとほぼ変わらない視界の広さは、一切の人工光が期待できない下界では絶大な効果を発揮する筈である――従来型の双眼式暗視装置よりは遥かに広い、淡緑色に染められた視界、これより死線を共にする男達が、やはり四眼を冷たく瞬かせ互いを伺っているのに俊二は気付く。
『――お前ら、止まるんじゃねえぞ。おれたちがやるべきはとにかく前へ、前へだ。日本のためにも……そしておれたち自身のためにも前に進むんだ』
「了解……!」
減圧の完了と同時に起動させた無線機――既に切り替わった専用回線に、俊二は小さな、だが確かな声で鷲津の言葉に応じる。同じように応じる声が二、三人、やはり共通回線に俊二の声と重なる。それ以外は無言――但し、明確な了解を示す沈黙であった。全員の了解を見計らったかの様に鷲津二尉は完全に開かれた下界を指差した。降下の合図――飛び出す順番は地上で既に決めていた。漆黒の空に向かい、タクティカルブーツの疾駆がC‐2のキャビン内に慌ただしく響く。
分隊の先頭を切り、デルタ7――二等陸曹 高良 俊二――は、ローディングランプの終端を蹴り上げた――




