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第三章  「強襲上陸 後編」

ノドコール国内基準表示時刻1月4日 午前05時32分 ノドコール南部洋上


「――二時上空、友軍機!」

「――――!?」

 UH‐60JA輸送ヘリコプターから半信半疑で見上げた先を、二つの黒い機影が矢の様に海側へ飛び去って行く。上陸作戦の第一撃を担ったジャリアー攻撃機だ。ヘリコプター群の遥か上空を過り、水平線の彼方に消えていくそれらを見送り切らない内に、別の編隊が彼らと入れ替わりに水平線を超えて陸地へと向かっていく。ヘリコプターにいる側からすれば、戦闘機の鋭い爆音が耳を劈くのに十分な高度差であった。


 陸地に近づくにつれてヘリコプター編隊は徐々に高度を落とし、同時に海上に点在する破壊の痕跡が、機上の二等陸尉 沢城 丈一からは否が応にも目に入る。黒煙を噴き上げつつ、その船体の半分を海面の下に傾ける船が一隻。沈みつつあるのではなく、廃船を海図上の水深の浅い場所に意図的に座礁させ仮設の防御拠点としていたのだ。船上に据え付けられた過剰ともいえる数の砲座や機銃座を見ればローリダ人の意図が手に取るようにわかる。しかしその結果として、目指すロギノール港に近い海上の各所に、廃船を流用した海上砲台であった筈の残骸が無残な姿を晒している。

 海上からの侵入者に対するローリダ人の積極的な反抗の意図は、彼らが水平線上に敵を見出す前に挫折を見ることになった。泊地攻撃能力を有する新型対艦誘導弾は上陸部隊の前路掃討に十分な威力を発揮し、艦隊がさらに接近すれば、護衛艦の艦砲射撃による火力支援も受けることができるだろう。彼我の射程には絶望的なまでの差が存在している。


 ロギノール港より三〇海里を隔てた海上に展開する二隻の海上自衛隊揚陸輸送艦 LST‐4101「じゅんよう」、LST‐4102「ひよう」を発進した一二機のUH‐60JAと八機のUH‐1JY……低空でロギノール港に向かうそれらヘリコプター編隊には二三〇名から成る水陸機動団の戦闘要員が分乗し、彼らは海上から上陸侵攻する本隊に先駆けて空中機動と強襲により市内の要所を制圧確保する任務を与えられていた。沢城はそのいち支隊を構成する偵察隊(リーコン)こと水陸機動団 偵察中隊に所属している。


 二等陸尉という階級の通り、幹部――それも自衛隊幹部の本流たる防衛大学校卒業の幹部――でありながら、前年に水陸機動団に着任した沢城の偵察中隊における立場は、その実中隊長付という甚だ心許ないものでしかなかった。

 長ではなく長付であるのには理由があった。水陸機動団という、島嶼上陸作戦の先鋒を担う一種の精鋭部隊において、偵察中隊は敵の配置された沿岸部への浸透偵察、強襲といった戦略的な重要さ、状況の過酷さの度合いに関し通常よりさらに一段上の任務に従事することを要求されている。兵科分類上はそうと区分されてはいないが、事実上の特殊部隊と言ってもいい。しかし水陸機動団の前進たる「特殊部隊」、西部方面普通科連隊の気風をもっとも色濃く受け継いだ精鋭部隊と呼ばれ、それはまた当の偵察中隊隊員も強く自覚するところであった。


 福岡県久留米の陸上自衛隊幹部候補生学校、それに続く静岡県 陸上自衛隊富士学校における幹部レンジャー教程を修了し、三等陸尉として長崎県大村に所在する陸上自衛隊 水陸機動団本部に着任した途端に、沢城はこの偵察中隊への配属を命ぜられた。命ぜられたというより、有無も言わさず放り込まれたと言った方が正しいかもしれない。偵察中隊とは言っても無条件でその一員に加われるわけではなく、二週間の選抜訓練とそこからさらに半年近くに亘る専門訓練がこの新品幹部を待ち構えていた。

 沢城自身の実感としても、過酷さにおいてレンジャー課程の五割増しに思えた二週間は、身内たる水陸機動団からの志願者ですら音を上げる程辛く厳しいものではあったが、それを過ぎた後に経験した水路潜入、沿岸域への浸透、航空強襲といった専門訓練は、実施部隊に足を踏み入れたばかりの新品幹部を大いに魅了したものだ。

 さらには偵察中隊独自の技術として、千葉県習志野駐屯地は空挺教育隊に派遣され、パラシュート降下の訓練を受けることが出来たのも大きな収穫であった。いざ九州及び沖縄、南西諸島でいち有事起こった際、この偵察中隊が初動に際し先鋒を務めることが、この訓練を経験しただけで沢城の前には明白になったと言ってもいい。

 同時に、正隊員となって中隊長付を命ぜられても、沢城はこれを不満には思わなかった。ごく一般の中隊の様に防大を出て延長教育を受けただけで、この精鋭部隊の中隊長が務まるとは、彼には到底思えなかった。中隊長になるには、まず実戦経験を積み、同じく選抜訓練から這い上がってきた部下を納得させるだけの実績を上げねばならないと沢城は思ったのだ。陸上自衛隊の上層部は、偵察中隊を明らかに「日本版海兵隊武装偵察隊(フォース・リーコン)」にしようとしている――



『――機長より各員へ、海岸線を視認!……すごい!……まるで地獄だな』

「…………?」

 操縦士の絶句に、沢城は思わず機外に頭を乗り出すようにした。天を焦がさんばかりに黒煙を噴き上げる港の全容、水平線を超え、やがて地平線の一角としてそれが見え掛けたところで、次には炎すら上がっているのが手に取るように見えた。対艦誘導弾による破壊の痕跡。炎はローリダ人が埠頭に配置した兵器や人員を灼き続け、ヘリコプター群はさらに陸地に迫っていく。


 その眼下――群青から濃緑色に転じた海原を割るように、無数の小型の船影が港に向かっていくのが見える。船ではなく、水陸機動団の誇る水陸両用強襲車(AAV)の第一波であった。各車ごとに二十名前後の兵員を乗せ、時速二十ノットに達する平均速力を維持しつつ彼らは陸地へと迫る。対艦誘導弾攻撃により崩壊した岸壁の一角、そこが彼らの目指す処であった。ヘリコプターはAAV群を睥睨するように追い越し、そして陸地上空へと達する。

「前方、対装甲擲弾(RPG)!」

 同乗の陸曹が叫んだ。成宮 覚 三等陸曹。沢城とほぼ同年、しかも同時期に水陸機動団に入隊し、共に偵察中隊の選抜訓練を潜り抜けた間柄であった。私生活では、もはやアダルトDVDの貸し借りをする程に親密なこの二人の間には、曹と幹部という階級差の他に重大な相違が存在する。三年前、沢城が防衛大学校で部隊研修と卒業論文の作成に忙殺されていた頃、ヒラの二等陸士であった成宮は上陸部隊の一員としてスロリアの土を踏んでいる。従軍経験の有無こそが、今の沢城にとって最も意識するこの部下との最大の相違であった。


「え……!?」

 思わず声を出し、半壊した倉庫の一角から延び上がってきた白煙の筋に目を強張らせる。自衛隊では当たり前のようにRPGと呼称されるロメオの対装甲擲弾、その黒く小さな矢を思わせる弾体が埠頭の各所から昇り、真白い噴煙に放物線を描かせつつ低空を乱舞した。狙いは拙く、ヘリコプターにとっては明確な脅威とはなりえないが、掃討し切れずに残った敵が意外と多いことを沢城は思い知らされた。

「反撃しますか? 分隊長?」

 今度は傍らの二等陸曹に呼び掛けられ、沢城はまるで上級生に呼び止められた下級生の様に表情をびくつかせる。事実、母校たる防衛大学校に入校したての頃、横着を上級生に見とがめられた記憶が思い出された。分隊の最先任、松中 健斗二等陸曹の精悍な顔が、その上級生の厳めしい顔と重なる。松中二曹もまた、三年前のスロリアで銃火の洗礼を潜った歴戦の勇士、しかも最激戦地とされた「地獄の谷」ことイル‐アムからの生還者だ。

「いや!……後続に任せよう。このまま放送局まで真っ直ぐに飛ぶ!」

「了解!」

 我が意を得たりと、松中二曹が頷いた。新任幹部はいつも上官からも、そして部下からも試されている。そして戦闘の最中たる今においても、自分が陸曹に試されていることを沢城は悟った。敵は対装甲擲弾を有しているがその数は決して多くない。上陸第一波が彼らの抵抗を吸収して引き付け、そこを航空支援の攻撃ヘリ部隊が叩けば済む――その攻撃ヘリ部隊には、防衛大の同期がいる。


「街に入る! 各員下方を見張れ!」

「了解!」

 対艦ミサイルの攻撃範囲から除かれたがために、ロギノールの街そのものはなお健在であった。ノドコール様式の、日干し煉瓦を積み上げた建築物の、立錐の余地なく蝟集(いしゅう)するロギノールの街……それ故に伏兵を隠し易く、沢城には同時に防衛大と幹候校で学んだ戦例が思い出される――「スロリア紛争」の前年、クルジシタン首都アーミッドにおける反政府勢力掃討作戦で、自衛隊の急襲を受ける側となった武装勢力は、対装甲擲弾の射手を潜ませ陸自ヘリの撃墜を図った。擲弾の被弾とその結果としてのヘリの墜落は、当初半日程度で終わる筈だった作戦を、市街を舞台にしたまる二日間に及ぶ過酷な消耗戦へと変貌させ、普通科中隊長であった沢城の先輩もまたこの戦いで死んだ……


『――機長より各員へ、間もなく降着地点(LZ)……!』

 パン! パン!パン!――UH‐60の広いキャビンに89式カービン銃の銃声と硝煙が蔓延する。そこに、機上整備員(FE)の構えるMINIMI5.56ミリ機関銃の軽快な発射音が重なる。充満する硝煙に咳き込む者は多く、その全てが今次の作戦で初陣を迎える者であった。戦闘員を降着させるべき地上に敵影は見えないが、見えない敵に対する威嚇と、周辺にいる敵以外の者に対する警告の射撃――富士や北海道、九州の市街戦訓練施設で何度も繰り返した突入の手順だった。姿勢の安定したヘリコプターの機上、松中二曹が自らファストロープを投げ下ろし、部下に降下を促した。

「降下!」

 先遣の三名が勢いを付けてファストロープを滑り降りる。先行した三名――89式カービン銃を構えた二名と14式分隊支援火器(SSA)を有する一名――が降着地点を守り、その後に分隊全員が続く。沢城は自ら後続の一番手を担った。89式カービンを背中に回し、文字どおりにロープにしがみ付いて地上へと滑る。

「――――ッ!」

 ロープから手を離すタイミングが早過ぎた、と思ったときには、沢城の両脚は烈しく地面を踏み締め、着地時の衝撃と装備の総重量に抗いかねて沢城は転んだ。慌てて半身を起こし、背中に回した89式カービンを構える。その背後から延びた手が沢城の肩を烈しく叩き、唖然とした沢城の眼前で、気配は89式カービンを構えつつ路地へ向かって駆ける松中二曹の後ろ姿となった。続々と続く降着、隊員は指揮官たる沢城を置いてきぼりにするかのように周囲に散会し、あるいは据銃しつつ松中の後を追っていた。

「分隊長、行きますよ」

 最後に降着し、いつの間にか傍らにいた成宮三曹が軽く肩を叩き、沢城に前進を促した。乾いた風がUH‐60のダウンウォッシュで増幅され、砂塵と堆肥の臭いを運んで来た。成宮と他二名を伴い、沢城は路地へ向かって走る。日干し煉瓦造りの高層建築物の合間、それを駆け足で潜り、緩やかな坂道を超えた先に、パラボラアンテナとロッドアンテナの構成する機械の杜が見えた。此処ノドコールに辿り着く前、本土と「じゅんよう」の艦上で幾度となく繰り返されてきた訓練とブリーフィングで、その屋内構造に至るまで脳内に叩き込んだ重要目標――ロギノール放送局――の特徴的な天井だ。引っ切り無しに聞こえてくるヘリコプターのホバリング音、兵員を降着地点に送り届けた後、機体を翻して上昇に入るヘリの機影の蠢く気配が、作戦が順調に推移しつつあることを地上の沢城に感じさせた。


『――敵と接触(コンタクト)! 前方の街道!』

 誰かの怒声がイヤホンに響くのと同時に、烈しい銃声が聞こえる。沢城たちのいる区域と放送局の所在する区域を別つように延びる畦道、そこを挟んだ向こう側の街で複数の人影が蠢いている。ローリダ軍の戦闘服を纏った者もいれば、私服姿も見受けられた。道の向こうの家屋の屋上、天窓から身を乗り出した人間が機銃をこちらに撃ちかけている。その発射音は鈍く、ばら撒かれた弾幕が土壁を抉っては接近した自衛隊員の心胆を寒からしめた。

『――攻撃を受けている!』

『――応戦許可を! 繰り返す、応戦許可を!……』

 悲鳴混じり、あるいは怒りに任せた交信が共通回線を輻輳し始めるのを聞く。成宮たちを伴って畦道にほど近い家屋の陰まで進み、沢城は戦闘防護服の胸から分厚いタブレット端末を取り出した。スイッチを入れた端末画面の中、カメラに向かい銃を向け、家屋の陰から銃を撃ち掛けてくるローリダ人民兵の陰が他分割で表示されるのを、沢城は半ば戦慄と共に凝視する――幾下各隊の曹クラスの軽量ヘルメットに繋がれたCCDカメラ、それが捉え、|基幹連隊指揮通信システム《ReCS》の専用回線により各員に共有した画像から、沢城は自分が下すべき決断を確信する。


「こちら沢城、分隊長より達する。各員交戦を許可する。交戦を許可する!」

『了解!』

 共通回線に満ちる応答は力強く、同時に友軍の射撃音が一帯に重なる。沢城もまた這う様に畦道の側に達し、随伴する成宮たちに手信号を示した。

『小銃擲弾。誘導。目標前方の敵兵』

「…………!」

 一名が小銃擲弾を89式カービンの銃口に繋ぐのを見計らい、沢城は狙いを付けるよう努めた。ローリダ人たちは正面の松中二曹たちへの応戦に傾注するあまり、別の物陰から畦道を窺う沢城たちの気配に気付いてはいない風であった。カービン銃のピカディニーレールに繋いだレーザー発振器のスイッチを入れ、ダットサイトの光点を敵の蠢く屋上に重ねる。レーザー誘導装置を備えた06式改小銃擲弾を、正確に目標に誘導するためのレーザー光線――

「――テッ……!」

 沢城の命令一過――ポンッ!――気の抜けたような発射音が、コケシのような黒い弾体を蒼空の一点に投げ上げる。その描く軌道の途上、噴出したガスが擲弾本来の軌道を瞬時に修正し、擲弾は屋上のすぐ上で炸裂した。屋上で何かが弾ける音と同時に、悲鳴の重複を沢城は畦道越しに聞いた。

『――敵が沈黙したぞ! 各員、前へ!』

 畦道に通じる高台を駆け上り、隊員は勢いに任せて啓かれた前方へと向かった。沢城もそれに追いつこうとして、いきなり成宮に引きずり戻され、家屋の陰に押し込められた。

「な……!?」

「分隊長、伏せて!」

 迫撃砲弾の滑空音――生涯最初の交戦を前に気が動転し、空を滑る砲弾の音を聞きそびれていたことに気付いた時には、畦道とそれを挟む一帯に着弾の火柱が生まれ始めていた。道を穿ち、脆い家屋を崩壊させる程の砲撃の連続、震える大地、崩れ落ちる日干し煉瓦の破片から頭を守って伏せつつ、隊員は砲撃に耐える……その中で、迫撃砲の滑空音と発射間隔、そして着弾時の振動が、陸上自衛隊制式の81ミリ迫撃砲のそれに酷く似ていることに沢城は気付く。「スロリア紛争」で陸自の迫撃砲の性能に衝撃を受けたローリダ軍が、陸自の81ミリをコピーした迫撃砲を急造し配備しているという風聞が、今更のように現実味を帯びてくる。


 着弾により噴き上げられた砂埃が視界を閉ざし、同時に砲撃も止んだ。砂埃で砲撃の評価が得られにくくなったが故の砲撃停止なのだと察した時には、沢城はマイクを摘み、先行した松中二曹を呼び出した。

『――ハイ、松中』

「こちら分隊長、位置知らせ。おくれ」

『――現在放送局の直前……いや、職員宿舎から百五十メートル程南です』

「損害は?」

『――軽傷二名、しかし戦闘続行可能……あと、職員宿舎の屋上に迫撃砲と思しきもの二門を視認……驚いた。陸自(うち)の81ミリとクリソツだ』

「突入……あるいは迂回できるか? おくれ」

『――……駄目ですね。遮蔽物なし、あと宿舎に重機と狙撃兵を視認……いま撃ってきた!――』

 銃声――弾丸の石壁を掠めて跳ねる音を、回線の向こうで沢城は聞いた。人間に当たらなかったことは容易く察せられた。

『――狙撃兵のやつ、こっちを見失ったようです。それにしても……あの宿舎、まるで要塞だな』

 事前に収集された情報では、鉄筋コンクリート造りの二階建ての建造物が、放送局の南東に隣接するようにして所在していることがわかっている。屋上を有するそれが、いざ事ある際の砲座として機能することを建てたローリダ人が期待していたのか否か、今のところ沢城の他誰にも判断する材料を持てないでいた。雲海を劈くジェットエンジンの爆音が迫り、それは空を見上げた沢城の眼前で、戦場のずっと上空で旋回を繰り返すジャリアー攻撃機の機影として映った。


「まずいですね……このままじゃ分断されてしまう」

「そうだな……」

 成宮三曹に応じつつReCSタブレットで支援用回線を開き、沢城は航空支援を呼び出した。

「松中二曹、隊員の中に誘導装置を持っている者はいるか? おくれ」

『――自分が持っています。おくれ』

「これより航空支援を要請する。レーザーを使うぞ。宿舎を照射したら知らせろ。終わり」

『――了解!』

 弾んだ了解の声を聞くや、沢城は通信回線をReCSの指示する回線に合わせた。それが上空を飛ぶジャリアーの回線であることに、沢城は純粋な感動すら覚えた。

『――こちらヴァルキリー01、目標指示(ターゲッティング)要請(リクエスト)

「こちらチャーリー分隊……あー……ヴァルキリー、放送局南東の掃射を要請。目標はこれよりレーザーで指示する……おくれ」

『――ヴァルキリー01……放送局上空で旋回待機する。攻撃準備クリア』

『――分隊長、目標照射しました……早めに頼みます……!』

 割り込んできた松中二曹の声が、明らかに上ずっていた。有効な照射を得るべく、前に出過ぎているのかもしれない。沢城とてそれを聞き、胸の潰れる思いに囚われてしまう。

「ヴァルキリー、目標を照射した。目標が見えるか?」

『――ヴァルキリー……目標を視認(ターゲットインサイト)! これより攻撃!』


 冷たい雲間を割り、頭上に迫りくる爆音が一筋――布を裂くような機関砲の射撃音が一瞬。その一瞬の間に大量に降り注いだ機関砲弾が、鉄の雨となって宿舎全体を砕き火花を走らせる。鉄筋造りではあってもそれに耐えるには、宿舎の造りはあまりにお粗末であった。掃射を終えたジャリアーは悠々と上昇に転じ、そのまま雲間の向こうへと消えていった。その後には、つい先刻まで人間の居た建物であった筈の何かが廃墟として遺される。

「松中二曹、こちら沢城、効果知らせ。おくれ」

『――こちら松中……迫撃砲の全滅を確認……敵兵の生存者……確認できず……あっ崩れた!』

 土砂崩れを思わせる音が、放送局の方向から轟くのを沢城は聞く。沢城は反射的に立ち上がって走り、成宮三曹たちも彼に続いた。瓦礫の山、あるいは散乱する人体の一部を軍用ブーツが踏み締める。そんなものに揺れ動かされるべき心は、戦闘が始まった時点ですでに捨て去っていた。松中二曹らと合流し、完全な廃墟と化した宿舎に迫る。幾人かの民兵がフラフラと蠢いているのが見え、沢城自身が反応するより早く、付き従う部下の射撃がそれらを次々に撃ち斃していく。生き残り、戦意を失った敵兵の大半が武器を持たず、甚だしきは腕の欠損している者もいた。


 交戦の術も意思も失った者たちに対する無慈悲なまでの銃撃――それが一過し、半壊した屋内の様子を前に、沢城は思わず歩を止めた。

『――続いてのお便りは、エスメクタ市の「女神エリアン」様から……約束の地スロリアにて、異教徒の軍勢を前に奮闘している義勇兵の皆様に心からの敬意を表します。信仰と同胞を守るために銃を執った若人たちに、勝利とキズラサの神の祝福あらんことを。悪魔ニホンの軍勢に永遠の業罰の下されんことを……「女神エリアン」様、「疾風のアクストラ」様、「天国の薔薇」様より同じ曲の所望が御座いました……それではお聞きください。「聖地の護り」――』

「…………?」

 罅の入った薄い壁を伝い、ローリダ語と思しき何かの放送が聞こえて来る。抑揚に乏しい、だが若い女性の声でのアナウンス。意味こそわからないが、沢城はその声に誘われるまま壁沿いに歩を進め、勢いを付けて外れかかった戸を蹴破った。

「――――っ!」

 反射的に構えたカービン銃の銃口の先、空虚なまでに広い部屋が広がる。硝煙の臭いとは違う生活の匂いが不意に広がり、沢城の意識を戦場から日常へと一瞬傾かせた。軽く頭を振り、沢城は壁沿いにカービンを構えつつ部屋を探る。人間のいた痕跡を探り出すことはできなかったが、床で割れていた酒瓶や飲料水の瓶は比較的新しかった……と同時に、隅に置かれたラジオ受信機と思しき大きな機械から、アナウンスに続くローリダ語の歌曲がより明瞭に、そして勇ましく響き渡るのを沢城は見る――ローリダ語であることは判るが、正確な意味はやはり判らない。


『その咆哮は雷鳴 決起の響き

剣戟の克ち合うに似たり

聖地へ、アイゼルムへと

神よ我らを守り給え

聖地の護りたらんとする者は誰ぞ

聖地の護りは盤石なり』


「何スか? ローリダの歌スか?」

 と、続行して来た成宮三曹が聞いた。沢城はそれに答えず、ただ黙って手振りで成宮たちに前進を促した。瓦礫の山を登り、あるいは下るにつれ、そこに埋もれる死体の数が目立って増えてきたが、彼らに対し何がしかの感情を持ち合わせた隊員はいないかもしれない。それだけ、彼らは前に進むことに夢中であった。


 宿舎跡を抜けた先で、放送局と強襲部隊との間を隔てるものが何一つ存在していないことを沢城たちは知る……否、四階建ての放送局本屋の周囲を取り巻く様に掘られた塹壕が強襲部隊を待ち構えていた。塹壕で蠢く民兵の影、武装も一瞥しただけで機関銃に対装甲擲弾と、異常なまでに充実していることを沢城は察する。ただし彼らは明らかに浮足立っていた。局員宿舎を改造した「要塞」があっという間に抜かれたのが、よほど堪えたように見えた。

「散開! 散開しろ!」

 沢城は手を振り上げて怒鳴り、彼自身も瓦礫の陰に潜む。それと同時に敵の射撃が始まり、放送局近傍より降着を果たした各分隊も徐々に終結を始めていた。


『戦陣に高鳴るは数万の胸

決然たりし若人の瞳

若きキズラサ者の忠誠は無限

神よ若人を嘉し給え

聖地の護りたらんとする者は誰ぞ

聖地の護りは盤石なり』


『――小銃擲弾! 誘導! 目標敵の歩塁!』

『――照準よし……テェっ!』

 ローリダの歌は未だに鳴り響いていた。勇ましい曲調の歌を背景に陸曹や陸士の怒声が響き、そこに彼我の銃声が重なる。レーザー誘導装置付き小銃擲弾が歩塁に数発着弾し、爆風から逃れた残余の敵兵もまた、迫り来る陸自部隊の小銃や機銃の掃射に圧倒され斃されていった。

「各員、上階に注意、狙撃兵の存在に留意して進め」

 指示を下しつつ沢城もまた前に出た。屋内に潜む狙撃兵対策に、15式特殊用途銃(SPR)を有する分隊選抜射手(マークスマン)を残して前進を企図したところを、他方向から前進を果たした偵察中隊員が数名、遮るもののない平地を駆け足で進むのを見る。そこに、やはり別方向より前進を果たした松中二曹の指示が飛ぶ。

『――地雷及びトラップにも注意。なるべく舗装路の隅を警戒しつつ進め。先着の者より正面口より侵入し、後続の突入を支援』

 松中二曹の懸念については、杞憂に終わった。塹壕の面する方向に火線を敷くだけで良しとしたのか、はたまた地雷を埋める余裕が無かったのか――周囲に巡らされた舗装路を大回りする形で沢城たちは放送局に達し、彼らは小銃を構えつつガラス張りの正面玄関より屋内に突入する――


『殉教者のおわします空の彼方

乙女の祈るは戦勝のみにて

アドケンナの加護当に降るべし

神よ殉教者を祝福し給え

聖地の護りたらんとする者は誰ぞ

聖地の護りは盤石なり』


 肌寒さすら覚える屋内に足を踏み入れた途端に、ローリダの歌は一層大きく、かつ明瞭に聞こえてきた。「前世界」の西洋の軍歌を思わせる勇壮かつ荘厳な響き。ローリダ人にとっての軍歌であることはもはや違えようも無いように思われた……と同時に、放送局である以上、歌曲が此処からノドコールの全土に流されているのではないかという想像すら、沢城の脳裏には生じた。一階で合流を果たしたアルファ分隊の指揮官 後藤二等陸尉が沢城に近付き、囁くように言った。

「――放送室は二階だ。そこを制圧すればこの不愉快な歌とはおさらばってわけだ」

「……そうですね」

 年季の面では新品幹部でしかない沢城に対し、一般入隊からの叩き上げで戦闘経験も豊富な後藤二尉に、この場の裁量権は既に移っている。二手に別れようと後藤二尉は言い、沢城はそれに従った。放送室に向かう途上、同じく合流を果たした松中二曹に分隊の半分を託してさらに別経路からの突入を指示し、沢城は成宮三曹以下四名を率いて二階に達した。締め切られたままのドアの前、ローリダ語で「放送編集部」とプレートの嵌められたそこに達したところで、沢城は成宮三曹を顧みた。

『爆破する』

『了解』

 手信号による短い交信の後、成宮三曹はドアの継ぎ目に沿って導爆線を貼り付け、点火装置を繋げた。沢城は幾下隊員に退避を命じ、成宮三曹に手信号で点火を命じた。本土の市街戦訓練施設でも散々にやりこんだ事だ。

『――爆破!』

 烈しい光――それに続く烈しい衝撃。それに気圧されるまでもなく鍛え上げられた身体が反射的に動く。89式カービン銃を構え、沢城は分隊の先頭を切って半壊したドアを蹴破った。二階から三階に亘り天井の吹き抜けた放送室はそれ故に、かつ完全に照明が落ちていることに起因する薄暗さもまた、空間の広範なることを却って外部からの侵入者に強く印象付けさせてしまう。

 

『最後の一矢 血の一滴

我ら全てを神に捧げん

聖地に斃れるはこれ本望

神よ勇者を慈しみ給え

聖地の護りたらんとする者は誰ぞ

聖地の護りは盤石なり』


 室外にいたときより一層強く歌曲の鳴り響く中を、沢城はさらに銃を構えて進んだ。得体の知れない機器の居並ぶ間を潜り、同時に三階部分に渡されたキャットウォーク上を複数の人影が走るのを沢城は見出す。

「接敵! 上方より二名!」

 共通回線に叫ぶが早いが、沢城は撃った。一人は仕留め損ねたが、もう一人は確実に斃した。直後に四方八方から彼我の銃声が交差し、沢城たちは反射的にデスクの陰に身を潜める。敵のいる方向に向かい、89式カービンだけを突き上げて連射する隊員もいる。敵の正確な位置が判らない以上命中は期待していない。ただ弾丸をばら撒くことによる制圧効果を狙っての連射であった。身を伏せたまま沢城はカービンを構え、敵が潜むと思しき方向へ引鉄を引き続けた。碌に狙いは付けていなかった。

『――こちら斎藤、一名射殺!』

『――成宮、一人倒した!』

 部下の弾んだ声を聞きつつ、沢城は全弾を撃ち尽くした弾倉を外し、二本目の弾倉を機関部に繋いだ。その時点で別方向からの友軍の突入もまた始まっていた。放送室で伏撃をかける積りが、自衛隊側の動きが早く、しかも肝心の兵の数がローリダ人には足りていなかった。最終的には三階部分からの後藤二尉たちの突入が、広い放送室における全てを決した。

『――制圧完了(クリア)! 四階へ行くぞ!』

 後藤二尉の弾んだ声を聞きつつ、沢城は分隊に集合を命じた。部屋に充満する硝煙の臭いが濃く、それ故にむずがる鼻を摘まんで誤魔化す者もいる。分隊に重傷者がいないことに内心で安堵し、沢城は四階への前進を命じた。


『異教の獣 まさに地に満つ

掃滅の旌旗 いま当に翻らん

我ら神の名の下獣を平らげん

神よ敵を滅ぼし給え

聖地の護りたらんとする者は誰ぞ

聖地の護りは盤石なり』


『――畜生! そういうことか!』

 と、後藤二尉が共通回線に毒付くのを、沢城は四階に通じる階段を昇りながらに聞く。

四階に敵影は無く、後藤二尉たちのいる最上階の一室まで容易に辿り着くことが出来た。ローリダの歌が、今となっては酷く不快なものに聞こえていた。『受信制御室』と銘打たれたドアが、開け放たれたままの部屋に足を踏み入れたところで、沢城は茫然とその場に立ち尽くす――

「ロメオの本国放送ってわけか……」

 今なお遠方からの放送を受信し続けている通信装置の前で、沢城は茫然と言った。制御盤のダイヤルと数値は、通信装置がローリダ共和国からの放送を今に至るまで延々と受信し続けていること。放送内容に至ってはローリダ共和国が紛争への不干渉を謳いつつ、その実ノドコールのローリダ人勢力に対し同情的な姿勢を取っていることを如実なまでに示していたのだ。そのとき、血相を欠いた隊員が制御室に駆け込み、外を指差して言った。


「放送局の北西に武装勢力の終結を視認。此処の奪回を企図しているようです」

「くそっ! 増援を要請しろ。それと使える支援火力を確認」

 ReCSタブレットに指を走らせ、沢城は顔を綻ばせた。

「……UAVにアクセス可能……この距離だと艦砲射撃が使えるのではないでしょうか」

「沢城、やってくれるか?」

 拒否という選択肢は当然考えられなかった。沢城は松中と成宮の両陸曹を伴い、四階からアンテナに通じるテラスに駈け出す。遠方からはすでに銃声の交差が始まっていた。放送局の外にいた友軍と迫る敵兵との間で交戦が始まっているのだ。

 敵の位置把握に適当な場所を探るべく沢城の頭が巡り、アンテナの尖塔、整備用の梯子を見出して沢城は駈け出した。戦闘地域の上空五千フィートを飛行する小型UAV、タブレットでその制御を掌握し、監視装置を放送局近傍で固定する。上空の電子の目は、放送局に向かい幹線道路を進む武装勢力の車列と、彼らの前進を妨げんと家屋より銃撃を加える友軍の姿を映し出していた。数の劣勢、さらには装備の劣勢から、友軍の方が苦戦を強いられているように沢城には見えた。


 尖塔を昇り切ったところでUAVのオプション欄を開き、護衛艦による艦砲射撃が使用可能になっていることに沢城は安堵した。護衛艦が艦砲射撃の可能な海域にまで迫っているということは、港湾方面の作戦が順調に進捗していることを示していた。画面の中、応戦を続けていた友軍が武装勢力から徐々に距離を取り始めている。通信塔の下、松中二曹が腕を上げて「○」を作っているのを沢城は見た。彼らが向こうの友軍と交信し話を通してくれたのだと察する。

「強襲班チャーリーより艦隊統制部へ、砲撃支援を要請。目標及び位置データをこれより送信する。おくれ」

『――こちら護衛艦「すずなみ」。位置的に本艦が支援可能……UAVと照準を接続(リンク)した……目標情報更新ターゲットデータアップデート

 イヤホンに空電混じりの女性の声が聞こえる。護衛艦の戦闘中枢たる戦闘情報室(CIC)の、緊迫したやり取りが脳裏に浮かぶ。

「データ送信完了……何時でもいいぞ。おくれ」

『――弾種GPS、目標座標EW2……単射五発、試射127ミリ速射砲撃ちーかた始め!』

 「すずなみ」CICを与る女性幹部の号令一下、十数秒の時間を置き着弾が連続する。海上から撃ち出された五発の砲弾は、僅かな時差を置いて武装勢力の隊列を直撃し、数にして一個大隊に及ぶ敵兵を消滅させた。弾着の振動と共に舞い上がる土埃が突風に乗り、尖塔の上に陣取る沢城の頬を叩いた。砲撃はなおも続き、本射を構成する十発がその狭い区域に叩き込まれた後には、そこにはもはや完全な虚無が生じていた。

「こちらチャーリー、支援感謝する……敵は消滅した……文字通り消滅した。おわり」

『――おわりじゃない! 射撃止めの指示はどうした?』

「…………!?」

『――ホラ、射撃はもういいのか? 続けるのか?』

「射撃止め……射撃止め!……です」

『――若いな。オマエ階級は? 所属は?』

「……強襲班チャーリー分隊長、沢城二等陸尉……であります」

『――防大出のペーペーか。今度は気をつけろ。支援要請はお前以外にも沢山出てるんだ。世話を焼かせるな!』

「…………」

『――返事は!?』

「は……ハイ!」

『――おわり(オーバー)

 怒った女の憤懣と共に回線が切られ、同時に羞恥と憔悴がこみ上げてきた。何気なく尖塔の下を見下ろした先、松中と成宮がニヤニヤと意味ありげな笑みを浮かべて分隊長を待っている。共通回線を通じ、叱責を聞いていたのに違いなかった。尖塔から下り立ったところで、成宮三曹が言った。

「分隊長、後藤先任から命令です。一個分隊を連れて下にいる部隊を迎えに行って来いと」

「リョウカイ……」

「分隊長、下にはおれの飲み友達がいましてね。助けてくださって感謝します」

 そう言い、松中二曹は笑って沢城の背中を叩いた。完全に啓開された一階に達して外に出たとき、地面を揺るがして走り行く鋼の山を目の当たりにし、沢城は思わず唸った。早朝には海上を驀進していた筈の水陸両用強襲車が、その雄牛のような巨体を揺るがし瓦礫の山を踏み越えている。その後を、完全武装の水陸機動団の隊員が散開して走り抜けていく……上陸作戦が順調に進捗していること、港町から敵が一掃されつつあることを沢城ならずとも悟る光景であった。

 沢城たちの足もまた上陸部隊と同じ方向に向かい、上空をジェットエンジンの爆音が複数、重なって東西南北に過る。空護より発進したジャリアー攻撃機の機影もまた、猛然と低空を過って消える。


「チャーリー分隊か?」

 と前方、向かい合って駆けて来た隊員が言った。沢城の見るところ武装は14式SSA。階級は一等陸曹……と直後に、沢城の階級章を目にしたその精悍な顔が一瞬固まった。

「失礼しました。チャーリー分隊ですか?」

「そうだ。分隊長の沢城だ。貴官は?」

「ブラヴォ分隊を与る高津一曹です。沢城二尉が支援を呼んでくださったので?」

 沢城は頷いた。高津一曹に礼を言わせる暇を与えないかのように、彼は切り出した。

「ブラヴォ分隊の損害は?」

「重症一名、軽傷二名……今一名の後送を要請したところです」

「とにかく……全員無事で良かった。先は長いからな」

 沢城は放送局に行くよう手招きした。後続の車両部隊が放送局の周囲に集まり始めていた。帰路の途上、車内のみならず車体上にも隊員を満載したAAVが二両ほど、北へと疾駆していくのが見えた。

「あいつら飛行場の確保に向かうんですよ。夜までに再使用可能にしろという命令でね……無茶な話だ」

「高津さん、生きてましたか!」

 音程の外れた声に、高津一曹の顔が苦笑に歪んだ。松中二曹が駆け寄り、おどけ気味に敬礼した。

「何だ松中、まだ生きてたのか? いい加減死ねばよかったのに」

「ひどいなあ……」

「放送局に行こう。負傷者の収容もできる」

 毒舌の応酬に顔を綻ばせつつ、沢城は隊員に後退を促した。負傷者の乗った担架を担いだ隊員がふたり、沢城たちの側を放送局に向かい通り過ぎて行く。この地に足を踏み入れた時には未だ薄暗さの残っていた空は、今となっては雲ひとつ無く、すっきりと蒼く晴れ渡っていた。


 一月四日午後。日本国平和維持軍、ロギノール方面派遣隊は、午後13時00分を期してロギノール全域の制圧を宣言する。早朝から僅か八時間足らずの内に完遂された制圧作戦の迅速なることも然ることながら、八時間の内に生じた十名の死者、五十名あまりの重軽傷者という日本側発表の損害は、その軽微さにおいて新世界の軍事関係者を瞠目させた。




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