泥棒
扉ガチャ
電気カチッ
A「やや、お前は誰だ。」
B「むむ、お前こそ誰だ。」
A「俺はこの家の主だ。お前は誰だ。」
B「俺は泥棒だ。」
A「なにっ。泥棒だと。」
B「そうだ、泥棒だ。今ちょうどお前の部屋を漁っていたところだ。」
A「本当か。」
B「本当だ。しかし金目の物が見当たらない。」
A「そうだろうな。隠してあるからな。」
B「なんだとどこに隠した。」
A「言うわけにはいかない。」
B「そうか。」
A「そうだ。」
B「仕方ない。それでは帰る。」
A「待て。」
B「なんだ。」
A「そうすぐに諦めるな。」
B「どういうことだ。」
A「俺は本当はお前に隠し場所を言いたい。」
B「なに、なぜだ。」
A「考えに考えて金目の物を隠したんだ。誰かに自慢したい。」
B「それだったら、知り合いにでも言えばいいだろう。」
A「俺も最初はそう思っていた。だが、それでは意味がないことに気付いた。」
B「なぜだ。」
A「知り合いだと『ふ~ん』で終わってしまう可能性が高い。」
B「確かにリアクションは薄いだろう。」
A「それでは困るんだ。」
B「お前は精一杯考えたんだもんな。」
A「その点お前は違う。この部屋を漁ったが金目の物を見つけることができなかったという過去を持つ。」
B「そうか、それなら俺は自ずとお前の言葉に集中するようになる。」
A「『こんなところに隠していたのか』とか言うだろ。」
B「ああ。俺はそれを言おうと思っていた。」
A「それに、相手が泥棒の方が話が切り出しやすい。」
B「たしかに。知り合い相手だとタイミングが分からないし、その後会話がもたない。」
A「どうだ。」
B「泥棒は好都合、って訳だ。」
A「そうだ。」
B「それならば言え。」
A「しかし、言えぬ。」
B「なに、なぜだ。」
A「お前は本当は泥棒でないかも知れん。」
B「なんだと。」
A「泥棒でなければ、言う意味がなくなってしまう。念には念を入れて確認したい。」
B「どろぼう【泥棒/泥坊】
人の物を盗むこと。また、その人。ぬすびと。
と書いてある。」
A「それが泥棒か。」
B「goo辞書基準で考えると、俺はまだ何も盗んでいないし、これが初犯だから、泥棒ではないな。」
A「なに。それでは冒頭で泥棒と名乗ったのは嘘なのか。」
B「そういうことになる。」
A「お前は泥棒未遂か。」
B「俺は泥棒未遂だ。」
A「この嘘つき。」
B「申し訳ない。」
A「なんでそんなくだらない嘘をついたんだ。」
B「不覚だったんだ。」
A「嘘つきは泥棒の始まりだ。」
B「待て。その言い回しはややこしくなる。止めるんだ。」
A「そうか。分かった。」
B「そうするんだ。」
A「仕方ない。それでは言うわけにはいかない。帰れ。」
B「待て。」
A「なんだ。」
B「俺はやっぱり金目の物を盗みたい。」
A「やはりそうだろうな。」
B「そのために来たのだからな。」
A「うむ、これは困ったぞ。」
B「うむむ。」
A「うむむ。」
B「なんか面倒なことになってしまって済まない。」
A「それは構わない。」
B「ありがとう。」
A「気にするな。」
B「かたじけない。」
A「そうだ。」
B「なんだ。」
A「こうすればよいのでは。」
B「どうすればよいのだ。」
A「今から何かを盗み、お前が泥棒となってから金目の物を盗むのだ。」
B「なるほど、それはいい考えだ。」
A「そうだろう。」
B「よし、それでは盗みに行ってくる。」
A「待て。」
B「なんだ。」
A「どこに行くのだ。」
B「盗みに行くのだ。」
A「具体的にどこに行くつもりだ。」
B「時間も遅いしコンビニに行くつもりだ。」
A「場所は分かるのか。」
B「ああ。俺はこの近所に住んでいるからな。」
A「そうだったのか。この辺というと公園の辺りか。」
B「いや、駅前の方だ。」
A「どっち口の方だ。」
B「あの辺はだいぶ入り組んでいるから説明が難しい。後で話す。」
A「そうか。」
B「そうだ。それでは行ってくる。」
A「待て。」
B「なんだ。」
A「なにを盗むつもりだ。」
B「とりあえず、おにぎりでも盗ってこようと思う。」
A「何味だ。」
B「ツナマヨだ。」
A「そうか。」
B「そうだ。それでは行ってくる。」
A「待て。」
B「なんだ。」
A「財布はちゃんと持ったか。」
B「ああ、ちゃんと持ってる。」
A「お金は足りているか。」
B「足りなくてもカードがある。」
A「カードはコンビニでも使えるやつか。」
B「リボ払いだ。」
A「リボ払いか。」
B「リボ払いだ。」
A「リボ払いは便利か。」
B「まだ何とも言えん。つい先日登録したばかりだからな。」
A「いいな。俺も登録したい。どうやるんだ。」
B「自分で調べろ。甘えるな。」
A「そうだな、済まん。」
B「いや、いいんだ。」
A「リボ払いかあ・・・。」
B「・・・あれ、ちょっと待て。」
A「なんだ。」
B「俺は今から盗みに行くのだから、金は関係ないだろう。」
A「それもそうだったな。」
B「金を払ったのでは盗みにならないではないか。」
A「全くだ。おかしい。」
B「笑うか。」
A「笑おう。」
B「ハハハハハハハハハハハハハハハハ」
A「ハハハハハハハハハハハハハハハハ」
B「ハハハハハハそれでは行ってくる。」
A「ハハハハハハ待て。」
B「ハハハハハハいや待たん。」
A「ハハエ・・・。」
A「なぜだ。さっきまではあんなに待ってくれたではないか。」
B「もう俺は待たん。」
A「なぜだ。」
B「俺は早く泥棒になって、金目の物を盗まなければならない。」
A「そう事を急かすな。急がば回れだ。」
B「なぜ俺を止めようとする。」
A「別に止めようとはしていない。」
B「いや、さっきから無駄に話しかけてくるではないか。」
A「無駄などではない。俺は必要だから話をしているんだ。」
B「ツナマヨの情報は不必要だろ。」
A「・・・。」
B「何が目的なんだ。言ってみろ。」
A「何も企んでなどいない。」
B「嘘をつけ。」
A「いや、本当だ。」
B「嘘だ。さっきから初対面の俺にいやに親しげに接してくるじゃないか。お前は社交的か。」
A「断じて社交的ではない。」
B「本当なのか。」
A「本当だ。ほら、見てみろ。まりもを飼っている。」
B「それは本当にまりもか。」
A「そうだ。静岡県で買った。」
B「意外と寂しがり屋なのか。」
A「一匹だとかわいそうだから、二匹入りを買った。」
B「かなり寂しがり屋なのか。」
A「恋の相談はまりちゃんに、仕事の相談はりも君にしている。」
B「寂しがり屋の本店じゃないか。」
A「これで俺が社交的でないことが分かったか。」
B「お前が社交的でないことは分かった。」
A「そうか。それはよかった。」
B「しかし、それでは謎は深まるばかりだ。一体なぜお前は俺に・・・。あ、分かったぞ。」
A「なんだ。」
B「そうか、そうだったのか。」
A「なんだ。早く言え。」
B「お前は俺に親しく接する演技をし、俺を油断させようとしているんだ。」
A「油断だと。」
B「そうだ。そして油断しきった俺が外に出たらその瞬刻、警察に通報をする気なんだろう。」
A「まさか。そんなこと。思いもつかない。」
B「嘘をつけ。俺は騙されないぞ。」
A「いや、誤解だ。俺はそんな下劣な男じゃない。」
B「いや、お前は警察に通報する。」
A「なんで、俺がそんなことしなくちゃならないんだ。」
B「お前は自分が可愛いから泥棒の俺を通報するんだ。」
A「違う。いいか、よく聞」
B「いや、もうお前にはうんざりだ。聞くことなどもうなにもない。」
A「・・・なら、聞かなくても構わない。勝手に喋るぞ。
俺がお前に親しく接している理由は唯一つ、お前と仲良くなりたいからだ。初めは俺もお前のことよく知らなかったから、隠し場所を秘密にしたり、家から追い出そうとしたけれど、言葉を交わしてお互いのことを一つずつ知る度に気持ちが変わっていってな。・・・へへ、俺たちさ一緒に悩んだり笑いあったりしたよな、ついさっき。けれども俺は寂しがり屋だから、どうしても変な不安を持ってしまう。お前がコンビニからこの部屋に戻ってきてくれないんじゃないか、とか本当はサケのおにぎりの方が好きなんじゃないか、とかお前のことを最後まで信じてやれない部分があった。だからああやって話しかけてお前を無理やり止めることしかできなかったんだ、こんな俺ですまない。」
B「お前そんなこと・・・。いや、こっちこそ済まない。」
A「いいんだ、分かってくれれば。」
B「俺、もっとここにいる、そうする。」
A「いや、今度はお前を信じてみせる。」
B「でも・・・・。」
A「お前だって早く泥棒になって金目の物を盗みたいだろ。」
B「ああ。」
A「なら行ってこい。」
B「いいのか。」
A「ああ。」
B「分かった。」
扉ガチャ




