鬼ごっこ
怖い…怖い…見つかったら喰い殺される。
息を潜め校庭の隅にある草むらで身を隠す。
どうしてこんなことになったのだろうか?
数十分前。
キーンコーンカーンコーン。
給食が終わり昼休み始まりのチャイムが鳴った。
「なぁ、校庭で鬼ごっこやろうぜ」
「おぅ」
人数は6人。鬼を決める為にジャンケンをしようとした時。
「ねぇ、僕も入れてよ」
見知らぬ男の子が突然言った。
外見は小学生よりも小さい。
幼稚園の年中さんくらいに見える。
「別にいいけどお前どこのクラスだ?一年生?」
「そんなのどうでもいいじゃん」
男の子はそう言って無理やり強引に割り込んできた。
ジャンケンをして鬼を決めた。
鬼はその見知らぬ男の子になった。
「じゃあ10秒数えたら追っかけて来いよ」
僕も友達もみんな(こんな小さな男の子に捕まる訳がない)などと余裕をかましてそこまで男の子から離れずに数を数え終わるのを待っていた。
「…7〜8〜9〜10!」
数を数え終わると男の子は軽くその場でステップを踏んだ。
アレ?目の錯覚かな?
男の子の体が5倍くらい大きくなっている。
服は破け、中から赤黒い肌に真っ青な血管が浮き出ているのが遠目からでもわかった。
友達達もみんな驚き言葉を失い、ただ呆然と立ち尽くしている。
その男の子だったモノはとてつもないスピードで友達の一人を捕まえた。
「つ〜かま〜えたっ」
「…あっ…あぁ………」
捕まった友達は声も出ない。
バキッ
グシャッ
『それ』は友達を軽くひねると同体が千切れムシャムシャと食べ始めたのだ。
鬼ごっこをしていた僕達だけじゃなく校庭にいた全員が言葉も出せず、ただ呆然と『それ』の食事を見ていることしか出来なかった。
食事を終えた『それ』が次のターゲットを睨む。
「逃げろーーーー!!!」
その一言で金縛りが解けたかのように、みんな一斉に逃げ出した。
「きゃあぁぁぁ!!」
また一人捕まったらしい。
グシャッ
鈍い音が聞こえたような気がした。
僕はスピードではかなわないと思い、校庭の隅にある草むらへ身を隠した。
そして今に至るのだ
一体どれくらい時間が経ったのだろう?
短いようで、とても長い時間を草むらの中で過ごしているような気がした。
先生達は何をしているのだろう?
誰か警察を呼んでくれていないだろうか?
僕は茂みの中からこっそりと外の様子を伺うことにした。
校庭にはこの学校の生徒だったと思われる肉片があちこちに散らばっている。
そして辺り一面が真っ赤に染まっている。
血の海とはこの事を言うのだろう。
ガサッ
「!!!」
後ろを見ると『それ』が真っ直ぐこちらに向かって来ている。
僕は見つからないでくれと心の中で何度も唱えた。
すると『それ』は進路を変更し、僕を通り過ぎようとした。
その時!
ピリリピリリ
携帯電話が鳴ってしまったのだ。
僕は携帯電話を呪った。
それと同時に全速力で走った。
しかし『それ』は物凄いスピードで追ってくる。
20メートル程で捕まった。
「ぎゃあぁぁぁ!!」
すると突然目の前が真っ暗になった。
そばには丸められた体育マット。バスケットボールもある。
そうだ。僕は放課後に『かくれんぼ』をしていたのだ。
体育倉庫に隠れていつの間にか眠ってしまったらしい。
携帯電話の時計を見ると夜の7時を過ぎていた。
「やべっ!早く帰んなきゃ」
ほかの友達はきっと僕が見つからないから先に帰ってしまったのだろう。
真っ暗な体育倉庫を手探りで出口に向かった。
その時!
ガラガラガラ
体育倉庫の扉が開いた。
先生か誰かか?
とりあえず見つかるとマズそうなので再び隠れた。
その人影はゆっくりと体育倉庫をひたひた回って僕が隠れているそばで立ち止まり一言こう呟いた。
「見〜つけた」