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間が悪い侵入者

作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)
掲載日:2026/09/27

深夜の静寂を破るのは、警報音ではなく──まさかのマナー指導!?

裏社会で名を馳せた凄腕の鍵師・黒田が忍び込んだのは、よりにもよって筋金入りのマナー講師・吉川の大邸宅だった。闇に紛れて完璧に仕事をこなすはずが、監視カメラ越しに飛んでくるのは「土足厳禁!」「背筋を伸ばしなさい!」という理不尽すぎるスパルタ説教。プロのプライドと美徳の間で揺れる泥棒が辿り着く、前代未聞の「完璧すぎる御用」の結末とは?

深夜二時、鍵師としての腕を買われたベテラン泥棒の黒田は、都内の一等地にある大邸宅の書斎へと首尾よく潜入を果たした。狙うは金庫の中に眠るという数百万円相当の金貨。

黒田が忍び足で絨毯を踏みしめ、重厚な金庫へ手を伸ばそうとしたその時、部屋のスピーカーから耳をつんざくような甲高い声が響き渡った。

「ちょっとあなた! 土足で人の部屋に上がるなんて論外よ! マナーの欠片もないじゃないの!」

驚いて跳び上がった黒田が音の主を探すと、部屋の隅にある監視カメラの赤いランプが点滅していた。

「ひ、人がいるのか!?」

「当たり前でしょ! 私はこの家の主、マナー講師の吉川よ! あなた、部屋に入る時は『お邪魔します』の一言もなく、しかも土足で絨毯を汚すなんて……一体どんな教育を受けてきたの!?」

スピーカー越しの吉川の迫力に圧倒され、黒田は思わず足元の靴を脱ぎ、揃えて玄関の方角へ向けた。

「そう、靴は揃えて脱ぐ! それは基本中の基本よ。でも、靴下のまま歩くのも感心しないわね。スリッパはお持ち?」

「持ってるわけないだろ! 俺は泥棒だぞ!」

「泥棒だろうと人間でしょう! 訪問先の床を汚さないのは最低限の配慮よ! それにその格好は何? 黒ずくめのジャージなんて、夜間の訪問着として失礼極まりないわ!」

吉川の理不尽な説教は止まらない。金庫のダイヤルを回そうとすれば、「指の角度が美しくない!」「背筋を伸ばしなさい、猫背で見苦しい!」と矢継ぎ早にダメ出しが飛んでくる。

最初は反論していた黒田だったが、長年の指導力で鍛え上げられた吉川のマナー指導は恐ろしく説教くさい。気づけば黒田は、言われるがままに背筋をピンと伸ばし、上品な動作で金庫と向き合っていた。

「そう、その姿勢よ。美しく盗みなさい。……あら、でも残念ね。その金庫、ダイヤルを三回間違えると警察に通報される仕組みなの」

「えっ!?」

黒田が焦って金庫から手を引くと、すでに遠くからウーウーとサイレンの音が近づいてきていた。

「さあ、警察の方がお見えになるわ。お客様をお迎えする姿勢として、あなたはどこに座るべき?」

「え、えーっと……上座……じゃなくて下座! ドアに一番近いところ!」

「正解よ! ほら、早く正座して!」

サイレンの音が邸宅の前で止まり、バタバタと駆け込んで来た警察官たちが目にしたのは、整然と並べられた靴と、部屋の隅で寸分の狂いもない綺麗な正座をし、深く頭を下げて待っている黒田の姿だった。

「お手数をおかけして大変申し訳ありません。どうぞ私をお引き立てください」

あまりにも完璧なお辞儀と丁寧な言葉遣いに、警察官たちは深く感心しながら、怪盗に手錠をかけたのだった。

お読みいただきありがとうございました!

プロの鍵師 vs マナー講師という謎の対決劇、楽しんでいただけたら幸いです。どんな職業やシチュエーションであれ、美しいマナーと正しい姿勢は人の心を動かす……のかもしれません(笑)。

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