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リストで生き延びます!~悪役令嬢、社畜スキルでハッピーエンドを手に入れる~  作者: 「大和 尚羅夢」小花羅夢一生推し


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9/19

特別顧問の日常

アルベルトの非公式顧問となって一週間が経った。

アリシアの日常は、以前とはまったく異なるものになっていた。朝は学園の授業を受け、午後はアルベルトの執務室で“仕事”をする。夜は時折、現場視察や資料調査に同行する。

【マスター、本日もスケジュールは満杯です! まずは午前中の魔法理論、午後は執務室での会計監査補佐、夜は……って、もう予定入ってます?(;゜Д゜)】

「夜は倉庫の棚卸し支援よ。先週からの続き」

アリシアは朝食を急いで食べながら、今日の計画を頭の中で整理していた。彼女の手元には、小さな手帳が開かれている。そこには、細かく時間単位でスケジュールが書き込まれていた。

(まずは魔法理論の予習をして、それから執務室で昨日の続きの帳簿を……)

「おはよう、アリシア様」

リリアンが笑顔で近づいてきた。最近、二人は朝食を共にすることが多くなった。

「おはよう、リリアンさん。今日の実技試験、準備はできてる?」

「はい! アリシア様に教えていただいた勉強法で、理論もすっかり頭に入りました!」

リリアンは嬉しそうに答えた。アリシアが教えたのは、かつてのプロジェクト管理で使っていた“タスク分解”の手法だった。複雑な魔法理論も、小さな単位に分けて一つずつ習得すれば、決して難しくない。

(これも、仕事で培ったスキルが役に立つんだな)

アリシアは内心で微笑んだ。


午後、アリシアはアルベルトの執務室にいた。

広すぎる部屋の一角に、彼女専用の小さな机が用意されていた。今、その上には山のような帳簿が積まれている。

「今月の王室厨房の経費報告……なるほど」

アリシアの目は、数字の列を素早く追っていた。彼女の手元には、自作の“チェックシート”が置かれている。項目ごとの予算と実績の差異、前月比、前年同月比……

「殿下」

「何だ?」

アルベルトは自分の机から顔を上げた。彼も大量の書類に囲まれていた。

「厨房の食材費、ここ三ヶ月で毎月5%ずつ上昇しています」

「冬が近いからだろう。食材が高騰する時期だ」

「はい、それも一因です。でも……」

アリシアは計算用紙を手に、アルベルトの机へと歩み寄った。

「他の食材の値上がり率は平均3%です。しかし、高級ワインとスペシャルティスパイスのみ、毎月8%から10%の上昇です」

アルベルトの目が鋭くなった。

「それで?」

「厨房の記録によると、ワインの消費量は先月までと変わっていません。スパイスも同様です。つまり、値段が上がっているのに、量は増えていない」

アリシアはグラフを描いた紙を差し出した。

「もし本当に必要で購入しているなら、価格上昇に伴い消費量が減るはずです。でも、記録上は消費量が一定です。これは……」

「不正の匂いがするな」

アルベルトが低く呟いた。

「厨房の責任者は?」

「シェフのギルベール氏です。二十年のベテランです」

「あの男か……」

アルベルトの表情が曇った。

「ギルベールは父王の代から仕えている。信用が厚い」

「だからこそ、誰も疑わなかったのかもしれません」

アリシアはためらったが、続けた。

「殿、殿下。もしよろしければ、私が直接確認に行っても?」

「お前が?」

「はい。厨房の“棚卸し”を手伝うふりをして、実際の在庫を確認します。帳簿の数字と実際の在庫に差があれば、それが証拠になります」

アルベルトはしばらく考え込んだ。

「……よかろう。だが、一人では行かせるわけにはいかん。衛兵を一人つけよう」

「いえ、それでは不自然です。私一人で、何も知らない様子で行きます」

アリシアの目は真剣だった。

「大丈夫です。ただの“整理好きな令嬢”が、厨房の片付けを手伝いたがっているだけですから」

アルベルトは彼女をじっと見つめた。その目は評価しているのか、それともまだ疑っているのか、アリシアにはわからなかった。

「……わかった。だが、何かあればすぐに報告しろ」

「はい!」

【おおっ! マスター、ついに不正調査! でも危険ですよ? もしバレたら……(;一_一)】

ベルが心配そうに警告する。だがアリシアはもう決めていた。

(これが、私の仕事だ)

彼女は厨房へと向かった。


厨房は、朝の準備が一段落した比較的静かな時間帯だった。

「ごめんください。アリシア・フォン・ローゼンベルクと申します」

シェフのギルベールは、ずんぐりした中年男性で、威圧的な存在感があった。彼はアリシアを一瞥し、不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「お嬢様、厨房は汚いですよ。そんな綺麗な服で来られても困ります」

「あ、はい。実は……私、物を整理するのが趣味でして」

アリシアはできるだけ無邪気な笑顔を作った。

「学園祭の準備で、少しだけ厨房のお手伝いをしたことがあるんです。その時、在庫管理の大切さを実感しまして……」

彼女の目は、厨房の棚に並ぶ食材や調味料へと走った。

「もしよろしければ、今日の午後、在庫の整理をお手伝いできないでしょうか? ただ、数えてリストを作るだけなんですけど」

ギルベールの表情が変わった。警戒の色が浮かんだ。

「ふん、お嬢様の趣味が、うちの厨房まで及ぶとはな。でも、余計な手間をかけるわけにはいきません」

「もちろん、邪魔はしません! ただ、数えるだけです。それに……」

アリシアは一歩近づき、声を潜めた。

「実は、殿下が最近、経費の節減に厳しいんです。厨房の無駄をなくせば、殿下の評価も上がるかもしれません」

ギルベールの目が一瞬、鋭く光った。

「……殿下が、そうおっしゃっているのか?」

「間接的には、そうですね」

アリシアは曖昧にうなずいた。完全な嘘ではない。アルベルトは確かに経費削減に熱心だった。

「……わかった。だが、触っていいのは食材庫だけだ。調理場には入るな」

「はい! ありがとうございます!」

アリシアの計画はシンプルだった。帳簿に記載されている在庫数と、実際の在庫数を照合する。特に、高価なワインとスパイスに注目する。

作業は予想以上に大変だった。食材庫は広く、様々なものが雑然と置かれている。しかし、アリシアは前世の経験を生かした。

まず、エリアを区分けする。次に、カテゴリーごとに分類する。そして、数を数えながらリストを作成していく。

(ワインの在庫……帳簿では百二十本のはずだけど……)

アリシアの眉が曇った。数え終わった数は、百十本だった。十本足りない。

(でも、これだけだと証拠にならない。廃棄されたかもしれないし、壊れたかもしれない)

彼女は次のステップへ進んだ。消費記録を確認する。厨房には、毎日の食材使用量を記録する台帳があった。

(先月のワイン使用量、二十本。でも、王室の公式晩餐会は三回だけ。通常の食事で十七本も使う?)

不自然だ。アリシアは小さなノートを取り出し、計算を始めた。

【マスター、消費記録と実際のイベント数に明らかな不一致があります! これは怪しい!(`・ω・´)】

(わかっている。でも、もっと確実な証拠が必要)

アリシアは目を上げ、厨房の様子を観察した。料理人たちは各自の仕事に忙しそうだ。その中で、一人の若い見習いが、何かを隠すように棚の後ろに手を伸ばしているのに気づいた。

(あれは……)

彼女はさりげなく近づいた。見習いは、空になったワインボトルを、こっそりと別の箱に隠していた。

「それ、どうするんですか?」

「わっ!」

見習いは驚いて飛び上がった。手に持っていたボトルが、床に落ちそうになった。

「す、すみません! お嬸様!」

「大丈夫。ただ、その空き瓶、どうするつもりだったの?」

見習いは青ざめた。

「こ、これは……廃棄するものです。壊れていたので……」

「壊れていた? でも、ラベルはきれいだね」

アリシアはそっとボトルを受け取った。高級ワインのボトルだ。中身は空だが、確かに壊れてはいない。

「このボトル、どこで手に入れたの?」

「し、知りません! シェフが捨てろって言ったので……」

見習いは震えていた。アリシアは彼の表情を見つめ、全てを悟った。

(シェフが、部下に証拠隠滅をさせている)

彼女は深呼吸を一つした。

「大丈夫。君は何も悪くない。このボトル、私が預かるね」

「だ、でも……」

「シェフには、私が廃棄すると伝えておくから。君のことは、何も言わない」

見習いは涙目でうなずいた。

アリシアはボトルを隠し、厨房を後にした。胸の中で、複雑な感情が渦巻いていた。

(不正を見つけた……でも、これで誰かが罰せられる)

彼女は執務室へ急いだ。


「これが証拠です」

アリシアは空のワインボトルと、作成した不一致リストをアルベルトの前に置いた。

アルベルトは黙ってそれらを見つめていた。彼の表情は、次第に険しくなっていく。

「……ギルベールめ」

低く、冷たい声だった。

「二十年も仕えておきながら、このような真似を」

「殿下」

アリシアはためらったが、続けた。

「ギルベールシェフは、確かに不正を働いています。でも、彼が長年厨房を支えてきたことも事実です。もし厳罰にすれば、他の使用人たちの士気にも影響するかもしれません」

「それで、どうしろと言う?」

「まずは、直接お話しになりませんか? 証拠を見せて、自白を促す。そして、盗んだ分の賠償と、これ以上の不正の禁止を条件に、謹慎処分にする」

アリシアの目は真剣だった。

「それと同時に、厨房の管理体制を改めます。在庫管理を二人で行う、定期的な棚卸しを義務付ける、高価な食材の使用には殿下の直接承認が必要、など」

アルベルトはしばらく黙ったまま、アリシアを見つめていた。

「……お前は、常に“解決”を考えるな」

「え?」

「問題を見つけたら、ただ報告するだけではない。どう解決すべきかまで考える」

アルベルトの口元が、わずかに緩んだ。

「それが、お前の強みだ。単なる監視役ではなく、実際の改善案まで提案できる」

彼は立ち上がり、窓辺に歩み寄った。

「よかろう。お前の案で行こう。ギルベールを呼びつける」

「はい。でも殿下、一つだけお願いがあります」

「何だ?」

「私のことは、伏せていただけませんか? 私が調査したことは」

アルベルトは振り返り、怪訝そうな顔をした。

「なぜだ? これも手柄の一つだ」

「手柄はいりません。それに……私が表立つと、今後他の部署の調査が難しくなります」

アリシアはうつむいた。

「“整理好きなお嬢様”という顔は、まだ使えるはずです」

一瞬の沈黙の後、アルベルトが小さく笑った。

「……ますます、お前は面白いな」

彼はうなずいた。

「わかった。今回だけは、そうさせてやろう」

「ありがとうございます!」

その夜、アリシアは倉庫の棚卸し支援に向かった。

広大な王室倉庫は、何年も整理されていないらしく、物が山積みになっていた。

「これは……ひどいな」

アリシアはため息をついた。彼女の前に広がるのは、文字通りの“山”だった。武具、書類、美術品、日用品……すべてが無秩序に積まれている。

【うわあ……ここ、前世紀から整理されてないんじゃないですか?(;゜Д゜)】

「そうね。でも、整理すればきっと使いやすくなるはず」

アリシアはさっそく作業に取りかかった。まずは大まかな分類から。

「武器はこっち。書類はあっち。美術品は特別な保管場所が必要ね……」

彼女は一人、黙々と作業を続けた。かつて、オフィスの倉庫を整理した経験が役に立った。要らないものを捨て、必要なものを分類し、ラベルを貼る。

一時間ほど経った頃、背後から声がかかった。

「まだやっているのか」

振り向くと、アルベルトが立っていた。彼もまた、書類の山を抱えている。

「殿下! はい、少しだけ……と思ったら、はまってしまって」

「ふむ。ずいぶんきれいになったな」

アルベルトは倉庫を見渡した。確かに、一時間前とは見違えるように整頓され始めていた。

「どうやって整理した?」

「まずは大分類です。武器、防具、文書、日用品、美術品……それぞれをエリア分けしました。次に、使用頻度でさらに分けます。よく使うものは手前に、めったに使わないものは奥に」

アリシアは説明しながら、ラベルの貼り方を実演してみせた。

「ラベルには、内容と日付を書きます。これで、何がどこにあるか、いつしまったかが一目でわかります」

アルベルトは感心したようにうなずいた。

「効率的だ。これなら、必要なものがすぐに見つかる」

「はい。それに、在庫管理も楽になります。何がどれだけあるか、すぐに把握できますから」

アリシアはふと、あることに気づいた。

「そういえば、殿下もお仕事ですか?」

「ああ。少し、調べものがあってな」

アルベルトは倉庫の奥へと歩いていった。アリシアは一瞬迷ったが、その後を追った。

倉庫の一番奥には、古い書類が積まれたエリアがあった。アルベルトはそこから、分厚い帳簿を取り出した。

「十年以上前の、地方税の記録だ。ある領地の税収が、ある年を境に急激に減っている。原因を調べようと思って」

「私もお手伝いしましょうか?」

「……よかろう」

二人は小さな机を挟んで向かい合い、古い帳簿を調べ始めた。倉庫の中は静かで、ページをめくる音と、時折交わされる短い会話だけが響く。

「この領地、五年連続で凶作と報告されています」

「ふむ。しかし、隣接する領地は、同じ年に豊作だ」

「気候の違いでしょうか? それとも……」

話は次第に深まり、時が経つのも忘れてしまった。

アリシアは、アルベルトの分析力の鋭さに感心した。彼は単に数字を見るだけでなく、その背景にある事情まで読み取ろうとする。

(殿下って、本当に頭がいいんだな……)

【警告! マスターの心拍数、上昇中です! 現在、平常時の120%!(゜Д゜;)】

ベルの警告に、アリシアははっとした。

(し、静かにしてよ、ベル!)

「どうした? 顔が赤いが」

アルベルトが不思議そうに尋ねた。

「あ、いえ! 何でもありません! ちょっと、暑いだけです!」

アリシアはあわてて顔を扇いだ。内心では、ベルを叱りつけたい気持ちだった。

(まったく、変な警告出さないでよ!)

【でもマスター、データは正直ですよ? 殿下と二人きりで作業している時の心拍数、明らかに上昇してます!( ̄▽ ̄*)】

(うるさい!)

「……アリシア」

「は、はい!」

アルベルトが突然、真剣な表情で彼女を見つめた。

「今日の件、感謝している」

「え?」

「ギルベールの不正。お前が気づかなければ、さらに長く続いていただろう」

アルベルトの声には、珍しく素直な感謝の色が込められていた。

「それに、この倉庫の整理も。ずっと手を付けられずにいたのだ」

「い、いえ、そんな……私はただ、自分のできることをしただけです」

アリシアはうつむいた。顔がさらに熱くなるのを感じた。

【心拍数、140%突破! マスター、かなりやばいですよ!(;゜Д゜)】

(ベル、本当に黙って!)

アルベルトは何も言わず、再び帳簿に目を落とした。しかし、彼の口元に、ほんのわずかながら笑みが浮かんでいるように見えた。

その後も作業は続き、気づけば夜も更けていた。

「今日はここまでにしよう」

アルベルトが時計を見て言った。

「もうこんな時間か。門限に間に合うか?」

「大丈夫です。まだ三十分あります」

アリシアは書類を整理し、立ち上がった。少しふらついた。

「おっと」

アルベルトがさっと手を伸ばし、彼女の腕を支えた。

「大丈夫か? 疲れているな」

「あ、はい……少し、集中しすぎたかもしれません」

アリシアの心臓が、また高鳴り出した。彼の手の温もりが、腕を通じて伝わってくる。

【緊急事態! 心拍数180%! マスター、もう限界です!(>_<)】

(わ、わかってるから、静かにして……)

アルベルトはそっと手を離した。

「明日は、ゆっくり休め。午後の執務室には、来なくてもよい」

「でも、お仕事が……」

「心配するな。一日くらい、どうということはない」

彼は倉庫の出口へと歩き出した。

「それに、お前が倒れては元も子もない。顧問は健康でいてこそ価値がある」

振り返らずにそう言うと、アルベルトは去っていった。

アリシアは一人、倉庫に残された。

胸の中では、心臓がまだ速く鼓動している。

(なんだろう、この気持ち……)

彼女はそっと、アルベルトに支えられた腕に手を当てた。

温もりはもうないが、その感触はまだ残っている。

【マスター、分析完了しました】

【対象:アルベルト・リヒター第一王子】

【現在の好感度推定値:+25(信頼と評価)】

【追加データ:マスターとの二人きりの時間、殿下のストレスレベルが平均より15%低下】

【結論:これは……もしかして……(゜∀゜)】

「ベル、それ以上は言わないで」

アリシアは小声で呟いた。

彼女は倉庫を出て、学園へと向かう夜道を歩き始めた。

空には星が輝いている。

(明日も、仕事が待っている)

リストはまだ終わらない。問題は山積みだ。

しかし、なぜか彼女の心は軽かった。

誰かの役に立てる。そして、それが認められる。

それだけで、すべての疲れが吹き飛ぶような気がした。

アリシアは小さく微笑み、足取りを速めた。

明日も、新しい一日が始まる。

彼女は、それが楽しみで仕方なかった。


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