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リストで生き延びます!~悪役令嬢、社畜スキルでハッピーエンドを手に入れる~  作者: 「大和 尚羅夢」小花羅夢一生推し


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勝利と警告

学園祭当日、空は雲一つない晴天に恵まれた。

アリシアは朝早くから動き回っていた。彼女の手元には、最終版の『学園祭当日マニュアル』が握られていた。それは、彼女がここ二週間かけて作成した、全ての準備とトラブルシューティングの手順をまとめたものだ。

【本日、学園祭プロジェクト最終日! 現在の総合進行状況:98%! マスター、ここまでよく頑張りました!(๑•̀ㅂ•́)و✧】

ベルの声が軽快に響く。しかしアリシアの表情は引き締まったままだった。

「最後の1%が一番難しいんだ。ベル」

彼女は中庭の一角にある臨時指令所——実行委員会の本部テントに陣取り、次々と報告を受ける実行委員たちに対応していた。

「模擬店A地区、食材が予定より早くなくなりそうです!」

「すぐに予備在庫から調達を。リストの3ページ、項目15の手順に従って」

「魔法実演の舞台、照明装置の調子が少し……」

「技術担当のカイルを呼んで。彼が解決策を知っているはず。マニュアル7ページ」

「入場者数が予想を上回っています! 混乱が発生するかもしれません!」

「予備の誘導スタッフを動員。混雑緩和ルートを開放して」

アリシアの指示は迅速で的確だった。二週間、学園祭の全ての詳細を頭に叩き込んだ彼女にとって、これらの問題は既に予測済みのものばかりだ。

彼女の手元には、学園祭の全体図が描かれた羊皮紙が広げられていた。そこには、各エリアの混雑状況、スタッフの配置、在庫状況がリアルタイムで更新されていく。

「アリシアさん、これは……まるで戦場の指揮所みたいですね」

実行委員長が、感嘆の混じった声で呟いた。二週間前まで完全に機能不全だった委員会が、今では見事に連携して動いている。

「全ては準備のおかげです」

アリシアはそう言いながら、新たな報告書に目を通した。彼女の目には、濃い隈ができていた。ここ二週間、ほとんどまともに眠っていない。

しかし、その疲れよりも、プロジェクトが順調に進行していることへの満足感の方が大きかった。


昼過ぎ、学園祭のハイライトである魔法実演が始まった。

アリシアも観客の一人として、少し離れた場所から見守っていた。舞台の中央には、リリアンが立っている。二週間前とは別人のように、自信に満ちた表情を浮かべていた。

音楽が流れ始め、リリアンの魔法が夜空——いや、青空に星々を散りばめた。

『星屑の舞』

光の粒子が優雅に舞い、観客から歓声が上がる。次から次へと、魔法科の生徒たちが見事な魔法を披露していく。全てがスムーズに、計画通りに進行している。

「……すごい」

隣で、誰かが呟いた。振り向くと、クラウド第二王子が立っていた。彼はいつもの軽薄な笑みではなく、純粋に驚いた表情を浮かべていた。

「一ヶ月前、あの魔法科の子たちがぐちゃぐちゃだったのを知っている僕からすれば、これは驚異だよ。君の仕業だろう?」

アリシアはそっと首を振った。

「私はただ、少し手伝っただけです。本当の力は、彼ら自身が持っていました」

「ふん、謙遜するなよ」

クラウドはからかうように笑った。

「兄さんも、かなり感心しているみたいだぜ。ここ一週間、学園祭の準備報告を聞くたびに、『効率的だ』とか『無駄がない』とか、珍しく褒めるような言葉を口にしていた」

アリシアの心臓が少し高鳴った。アルベルトが彼女の仕事を評価している?

(……評価されている、のか?)

【アルベルト殿下の好感度推定値、現在-5! ついに一桁台に突入です!ヽ(✿゜▽゜)ノ】

ベルの報告に、アリシアは内心で安堵のため息をついた。

魔法実演が大成功のうちに終わり、夕方の閉会式が近づいてきた。

全てのイベントが予定通りに終了し、大きなトラブルもなく。アリシアはついに、緊張の糸が緩むのを感じた。

(……終わった。成功した)

彼女は臨時指令所のテントに戻り、最後の報告を受けた。

「全ての模擬店、売り切れまたは営業終了です」

「出し物、全て無事終了」

「負傷者、軽傷3名のみ。全員手当て完了」

「後片付けスケジュール、順調に進行中」

実行委員長が、アリシアの前に進み出た。

「アリシアさん……いや、アリシア様。本当に、ありがとうございました」

彼の目には、本物の感謝の色が浮かんでいた。

「この学園祭は、過去最高の成功を収めることができました。それは、間違いなくあなたのおかげです」

周りの委員たちも、こっそりとうなずいていた。二週間前までは、アリシアを疑いの目で見ていた者たちも、今では心から認めている。

アリシアは少し照れくさそうに微笑んだ。

「皆さんが頑張ってくれたからです。私はただ……リストを作っただけですから」

しかし、その「リスト」が全てを変えたのだ。誰が何をすべきか、いつまでに、どうやって。その明確さが、混乱していた委員会を機能させた。

閉会式が始まった。校長の挨拶、各賞の授与。そして最後に、実行委員長が壇上に立った。

「今年の学園祭は、多くの困難がありました。しかし、一人の生徒の献身的な努力によって、それらは全て乗り越えられました」

委員長は、アリシアのいる方向を見た。

「アリシア・フォン・ローゼンベルクさん。あなたの並外れた組織力と問題解決能力がなければ、この成功はありえませんでした。心から感謝します」

拍手が起こった。最初は小さいが、次第に大きくなり、やがて中庭全体を包むほどの拍手になった。

アリシアは、少しきまり悪そうにうつむいた。前世でも、プロジェクトの成功で表彰されることはあったが、こんなに大勢の前で拍手されるのは初めてだった。

(これで……少しは、認められたかな)

彼女の胸に、ほんのり温かいものが広がった。

閉会式が終わり、生徒たちがそれぞれ帰り支度を始めた頃、アリシアは一人、静かな庭園のベンチに座っていた。

夕日が西の空を赤く染め、一日の喧噪が静まっていく。疲れが一度に押し寄せ、彼女はつい目を閉じそうになった。

その時、背後から足音が聞こえた。

振り向かなくても、誰だかわかった。あの威圧的な存在感は、もう彼女にもわかるようになっていた。

「アルベルト殿下」

「……座っていよ」

アルベルトは、アリシアの隣のベンチに腰を下ろした。珍しく、彼も少し疲れた表情をしていた。学園祭中、王子として様々な役割をこなしていたのだ。

しばらく、二人は沈黙した。遠くで、生徒たちの笑い声が聞こえるだけだ。

「学園祭、成功だったな」

アルベルトが、静かに口を開いた。

「ええ。皆さんが頑張ってくださいました」

「お前の指揮がなければ、成功しなかった」

アルベルトの言葉は、あくまで事実を述べているだけだった。しかし、それだけに、重みがあった。

アリシアは何も言えず、ただうつむいた。

「委員会の者たちが報告している。お前は、ありとあらゆることをリスト化していたそうだな。スケジュール、役割分担、予備案、トラブル対応……」

アルベルトの声が、わずかに変化した。

「そして、今日一日、お前はそのリストに従い、全てを完璧に管理した」

アリシアの背筋が凍りついた。

(全部……知っていたんだ)

「そのリストを見せろ」

突然の要求に、アリシアは目を見開いた。

「で、でも……」

「見せろ」

その声には、抗えない威厳があった。

アリシアは仕方なく、ポーチから分厚い羊皮紙の束を取り出した。それは、学園祭プロジェクトの全記録だった。

アルベルトはそれを手に取り、一ページ一ページ、慎重にめくっていった。彼の目は、細かな文字や図表、チェックリストを鋭く追っている。

「……なるほど」

十分ほど経って、アルベルトは羊皮紙を閉じた。

「よくここまで整理したものだ。各プロジェクトの依存関係、リスク評価、代替案……これは、単なる準備メモではない。完全なプロジェクト管理計画書だ」

彼はアリシアをまっすぐ見た。

「お前は、どこでこのような技術を学んだ?」

アリシアは息を詰まらせた。この質問には、真実を答えられない。

「……自然に、そうなってしまうのです。物事を整理しないと、気が済まなくて」

それは、完全な嘘ではなかった。玲子は、秩序を愛する性格だった。

アルベルトはしばらく黙っていた。彼の金色の瞳は、アリシアの顔をじっと見つめ、何かを探っているようだった。

そして、彼は突然、立ち上がった。

「今日のところは、これでよい」

アルベルトは羊皮紙の束をアリシアに返し、背を向けた。

しかし、振り向かずに、一言付け加えた。

「……そのリストは、お前の演技より、よほど有用だ」

アリシアは、その言葉の意味を理解するのに一瞬かかった。

(演技……?)

そして、全てを悟った。

アルベルトは、彼女の“変身”を演技だと思っている。元のアリシア・フォン・ローゼンベルクは、ただのわがままで無能な令嬢だった。しかし今の彼女は、違う。

彼は、その変化を演技だと思っている。

しかし同時に、その“演技”の成果——リスト化と管理の能力——を認めている。

アルベルトは何も言わず、庭園を去っていった。彼の銀髪が、夕日に照らされ、きらめいていた。

アリシアは一人、ベンチに座ったままだった。

胸の中に、複雑な感情が渦巻いている。

(認められた……でも、完全には信じられていない)

しかし、それでも、大きな一歩だった。

【重大発表! マスター、第一部のメインクエスト『学園祭の成功』、見事達成です!】

【報酬:学園内での評価大幅向上、アルベルト殿下の信頼(一部)獲得、死亡フラグの一時的回避に成功!】

【現在の公開処刑リスク:15%(初期値85%から大幅低下!)】

【おめでとうございます、マスター!(≧▽≦)】

ベルの声が、これまで以上に興奮していた。

(……死亡フラグ、回避できた)

アリシアは、ほっと胸を撫で下ろした。少なくとも、三ヶ月後の公開処刑は、もう現実的な脅威ではなさそうだ。

しかし、まだ安心はできない。

アルベルトの最後の言葉が、頭から離れない。

『そのリストは、お前の演技より、よほど有用だ』

(彼は、私のことをまだ完全には信用していない。それどころか、“演技”を看破しているかもしれない)

アリシアは立ち上がり、宿舎へ向かって歩き始めた。

夕闇が迫り、学園の灯りが一つ、また一つと灯り始めている。

(でも……それでいい)

彼女は心の中でつぶやいた。

(演技でも、本当の自分でも。とにかく、生き延びるために必要なのは、結果だけだ)

プロジェクト第一段階:学園祭の成功。完了。

プロジェクト第二段階:生存基盤の確立。これからだ。

アリシアは部屋に戻り、机の前に座った。新しい羊皮紙を広げ、ペンを握る。

次にやるべきことは、まだ山ほどある。

しかし、今日だけは、少しだけ自分を褒めてあげよう。

彼女は小さく微笑み、羊皮紙の一番上に書いた。

『学園祭プロジェクト:完了 ✅』

『次の課題:持続可能な生存戦略の構築』

窓の外では、最初の星が輝き始めていた。

彼女は生き延びた。少なくとも、今日は。

そして明日からも、リストを作り続け、一つ一つ課題をこなしていくだけだ。

アリシア・フォン・ローゼンベルクは、新たなリストの作成に取りかかった。目には、疲れと共に、確かな決意の光が宿っていた。

【第一卷、完。しかしマスターの冒険は、まだまだ続きます!】

【次のステージへ、進みましょう!(`・ω・´)】

ベルの声と共に、アリシアのペンが、新たな計画を書き始めた。

生き延びるために。変わるために。

リストは、まだまだ終わらない。

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