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リストで生き延びます!~悪役令嬢、社畜スキルでハッピーエンドを手に入れる~  作者: 「大和 尚羅夢」小花羅夢一生推し


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「未来」という名の共同プロジェクト

戦争は、七日後に終結した。

蛮族の主力部隊は王軍に撃退され、残党も各地で掃討されていった。学園は大きな被害を受けたが、幸い人的被害は最小限に食い止められた。アルベルトの奮戦が、多くの命を救ったのだ。

戦後一ヶ月が経ち、学園は徐々に日常を取り戻しつつあった。

アリシアは、今では完全にアルベルトの公的な顧問として認められていた。彼女の戦時中の行動──特にアルベルト救出の一件──は、学園中に知れ渡り、もはや「元悪役令嬢」などという者は誰もいなかった。

「アリシア様、北街区の復興計画案が届いています」

執務室で、アリシアは報告書の山と格闘していた。戦後の復興は、彼女のリスト作成能力が最も必要とされる領域だった。

「ありがとう。まずは被害状況の一覧表を作成しましょう。優先順位をつけないと」

彼女の手元には、既に「学園復興マスタープラン」と題された分厚いファイルがあった。そこには、修復が必要な建物、不足している物資、心のケアが必要な生徒たち──すべてが項目別に整理され、優先度が色分けされていた。

「アリシア」

ドアが開き、アルベルトが入ってきた。彼の傷はほぼ癒えていたが、左腕にはまだ包帯が巻かれている。

「殿下、今日のスケジュールですが──」

「それより、これを見てくれ」

アルベルトは机の上に、分厚い文書の束を置いた。表紙にはこう書かれている。

『戦後復興及び王国再建に関する五年計画(草案)』

「これは……?」

「お前のリスト作りにヒントを得た」

アルベルトは椅子に腰を下ろし、慎重に左腕を机の上に置いた。

「従来の復興計画は、常に場当たり的だった。しかし、お前の方法──問題を細分化し、優先順位をつけ、計画的に実行する──それがこの計画の基盤だ」

アリシアはページをめくった。そこには、彼女が学園復興のために作成したものと同じ、しかしはるかに大規模なリストが広がっていた。

インフラ再建。経済振興。人心安定。安全保障。

すべてが細かく分類され、数値目標が設定され、担当部署と期限が明記されている。

「これは……すごい」

彼女の目が輝いた。

「でも、殿下がお一人で作られたんですか?」

「お前の助けがなければ完成しなかった」

アルベルトは淡々と言ったが、耳の先がほんのり赤くなっているのに、アリシアは気づいた。

「夜な夜な、お前が作ったリストを参考にした。その“問題を分解する”手法は、国家運営にも応用できる」

「殿下……」

アリシアの胸が熱くなった。彼女の小さな習慣が、王国全体の復興計画に活かされている。

「でも、まだ不完全だ」

アルベルトは文書を指さした。

「ここに、重大な欠落がある」

「欠落?」

「人的資源の項目だ。誰がこの計画を実行するか。その中心となる人物が明記されていない」

アリシアは首をかしげた。

「それは、殿下では?」

「私だけでは足りない」

アルベルトは彼女をまっすぐ見つめた。

「この計画を成功させるには、問題を細かく分解し、優先順位をつけ、着実に実行する能力が必要だ。そして、それを最も得意とする人物がいる」

彼の目が、アリシアを捉えた。

「お前だ、アリシア・フォン・ローゼンベルク」

「え……私が?」

「そうだ。お前を、王国復興顧問官に任命する」

アリシアは息を呑んだ。それは、信じられないほどの栄誉だった。しかし同時に、途方もない責任でもある。

「で、でも、私はまだ学生です。経験も──」

「お前は戦時中、数百人の命を救った。混乱の中、冷静に避難指揮を取り、さらに……」

アルベルトは一瞬言葉を切った。

「……私の命をも救った。それ以上の実績が必要か?」

「それは……でも、国民の皆さんが、私のような者を──」

「国民は、結果を求める」

アルベルトの声には、確信があった。

「お前がこれまで成し遂げてきたことを知れば、誰も異論はない。学園祭の成功。無駄の排除。そして戦時中の指揮」

彼は立ち上がり、窓辺に歩み寄った。

「王国は今、大きな転換点に立っている。古い体制では、もはや復興はできない。新しい発想、新しい方法が必要だ」

振り返ると、アルベルトの目は真剣そのものだった。

「お前は、その“新しい方法”を体現している」

アリシアは言葉を失った。胸の中で、様々な感情が渦巻いている。光栄。不安。喜び。責任感。

「……お引き受けします」

彼女は顔を上げ、アルベルトをまっすぐ見つめた。

「でも、一つだけ条件があります」

「言え」

「私の方法でやらせてください。リストを作り、計画を立て、着実に実行する。時には非効率に見えることもあるかもしれません。でも、それが私のやり方です」

アルベルトの口元が、ほんの少し緩んだ。

「そのために、お前を雇ったのだ。好きにするがいい」

「ありがとうございます、殿下」

その日から、アリシアの生活はさらに忙しくなった。学業に加え、王国の復興計画の策定に携わることになったのだ。

彼女の机には二つのリストが並んだ。

左側:学業に関するタスク

右側:王国復興に関するタスク

そして、時折、三つ目の小さなリストが追加される。

真ん中:アルベルト殿下に関する気づき

・傷の具合(改善中)

・睡眠時間(不足気味)

・好物(苦いコーヒー、でも砂糖を二杯入れる)

この三つ目のリストは、彼女だけの秘密だった。


戦後三ヶ月が経ち、復興は軌道に乗り始めていた。学園はほぼ元通りになり、街も徐々に活気を取り戻していた。

ある夕方、アリシアは執務室で最終チェックを終え、書類を整理していた。今日は珍しく、アルベルトが先に帰っていた。

(殿下、最近疲れているみたい。もう少し休ませないと……)

彼女はそう考えながら、最後の書類にサインをした。その時、ドアがノックされた。

「入って」

現れたのは、老執事だった。彼は丁寧にお辞儀をすると、革張りのフォルダーをテーブルに置いた。

「アリシア様、殿下からお預かりした書類をお届けに参りました」

「ありがとうございます。何の書類ですか?」

「殿下が直々に作成されたものです。ご一読ください」

老執事は再びお辞儀をすると、静かに退出した。

アリシアはフォルダーを開いた。表紙には、こう書かれていた。

『長期的な戦略的協力及び相互発展に関する基本合意書(草案)』

「戦略的協力……?」

彼女はページをめくった。中身は、驚くべきものだった。

第一条:目的及び基本理念

第二条:相互の権利及び義務

第三条:協力範囲及び方法

第四条:紛争解決機制

第五条:契約期間及び更新

それは、完全な契約書の形式をとっていた。しかし、内容は──

「第十条:生活の質の保証に関して」

アリシアは声を出して読んだ。

アルベルト・リヒターは、アリシア・フォン・ローゼンベルクの生活の質を保証することを約束する。具体的には以下の通り」

「一、一日の労働時間は十時間を超えないこと」

「二、週に一度の完全休養日を確保すること」

「三、午後のティータイムを尊重し、中断しないこと」

彼女の手が震えた。ページをめくる。

「第十一条:相互の成長及び発展について」

「甲と乙は、互いの成長を支援し、助け合うことを約束する。甲は乙の政治的・社会的成長を支援し、乙は甲の統治を補佐する」

「第十二条:感情の健全な発展及び維持」

「甲と乙は、互いの感情を尊重し、健全な関係を築くことに努める。定期的な対話の機会を設け、誤解や齟齬が生じないよう注意する」

アリシアはフォルダーを抱え、椅子に腰を下ろした。頭がくらくらする。

(これは……これって……)

最後のページに、署名欄があった。アルベルトの署名は既に記されていた。もう一方の欄は、空白だ。

そして、一番下に小さく書かれた一文。

『本契約は、生涯にわたる相互協力関係を構築することを目的とする』

ドアが開いた。

アルベルトが立っていた。彼は普段の執務服ではなく、式典用の礼服を着ている。銀髪はきちんと整えられ、金色の瞳はいつも以上に真剣だった。

「読んだか」

「殿、殿下……これは……」

「契約書だ。私とお前の、今後の関係を規定するもの」

アルベルトはゆっくりと部屋に入り、アリシアの前に立った。

「戦後の復興が一段落した。これからは、より長期的な展望が必要だ。王国の未来を考えるにあたり、私は一つの結論に達した」

彼の声は、微かに震えていた。アリシアにはそれがわかった。

「私はお前がそばにいることを望む。顧問としてだけではなく、人生の伴侶としてもだ」

アリシアの息が止まった。

「この契約書は、私のその意思を形にしたものだ。お前のリスト作りに対する敬意も込めて」

アルベルトは一歩近づいた。

「第一条から第九条までは、公的な関係を規定している。王国と顧問官としての、我々の役割と責任だ」

「でも、第十条から……」

「第十条からは、私的な関係だ」

アルベルトの目が、柔らかく光った。

「お前が無理をしすぎないよう、休む時間を確保すること。ティータイムを大切にすること。そして……」

彼はためらった。

「……お前のその、全てをリストにしようとする癖を、私は理解している。だから、この契約書で、我々の関係もリスト化した」

「殿下……」

アリシアの目から、涙が一粒こぼれた。

「でも、これは契約書です。愛情じゃなくて、義務と権利が──」

「それが私のやり方だ」

アルベルトはそっと彼女の涙を拭った。

「お前がリストで世界を理解するように、私は契約と規則で世界を理解する。これは、私なりの求婚の形だ」

彼はフォルダーを指さした。

「そこには、お前を幸せにするための全ての条項を書いた。公的なものも、私的なものも。私が考え得る限りの、全ての約束だ」

アリシアはフォルダーをもう一度見つめた。一ページ一ページに、アルベルトの気遣いが込められていた。

労働時間の制限。休日の確保。ティータイムの尊重。

そして、最後のページの余白に、小さく書き加えられた一文。

『補足:アリシアが特に希望する事項があれば、随時本契約に追加することができる。アルベルトはその実現に最大限努力する』

「殿下は……本当に、全部考えてくださったんですね」

「当然だ。お前は、細部までこだわる人間だ。ならば、私も細部までこだわらねばならない」

アルベルトは小さくため息をついた。

「正直に言おう。私はこれまで、誰かをここまで考えたことはなかった。戦略も、政策も、常に大局から見ていた。しかし、お前は違う。お前は細部を見る。一人一人の幸せを、小さな約束の積み重ねで実現しようとする」

彼の手が、アリシアの手を包んだ。

「それでいい。私は大局を見る。お前は細部を見る。二人でなら、完璧なバランスが取れる」

アリシアはフォルダーを抱きしめた。涙が止まらない。

「でも、殿下……私はまだ、学生です。王族の妃なんて……」

「時間はある」

アルベルトの声は穏やかだった。

「卒業するまで待つ。それまでに、お前がふさわしいと認められるだけの実績を積めばいい。そして、それはお前なら必ず成し遂げられる」

彼はフォルダーからペンを取り出し、アリシアに手渡した。

「今すぐ決めろとは言わない。よく考えてからでいい。一週間後でも、一ヶ月後でも、一年後でも構わない」

「殿下……」

「だが、一つだけ約束してほしい」

アルベルトの目が真剣になった。

「考える時、リストを作るな。頭で考えず、心で感じろ。これが、私からの唯一の注文だ」

アリシアはペンを受け取り、署名欄を見つめた。アルベルトの力強い署名の隣に、自分の名前を記す場所。

彼女は深く息を吸い込み、目を閉じた。

(心で感じる……)

ベルを呼び起こそうとした。データを分析させ、成功率を計算させ、リスクを評価させようとした。

しかし、ベルの声は聞こえなかった。代わりに聞こえたのは、自分の心臓の鼓動だけだ。

(殿下は、私のリスト作りを理解してくれた)

(殿下は、私の仕事を認めてくれた)

(殿下は、私の命を救ってくれた)

(殿下は、私がリストを作るのをやめろと言った)

一つ一つ、心で感じる事実が浮かび上がる。

そして最後に、最も確かな事実。

(私は、殿下が好きだ)

目を開ける。涙でぼやけていた視界が、次第にはっきりする。

彼女はペンを握り、署名欄に自分の名前を記した。

アリシア・フォン・ローゼンベルク

文字は少し震えていたが、確かな筆跡だった。

「……よろしくお願いします、殿下」

彼女は顔を上げ、アルベルトを見つめた。

「契約期間は、一生ですね」

アルベルトの目が、わずかに見開かれた。そして、彼の口元に、本当の笑みが浮かんだ。これまで見たことのない、柔らかく温かい笑み。

「ああ。契約違反は許さない」

「私もです。殿下がティータイムを邪魔したら、厳重に抗議しますから」

「なら、今すぐにでも守らねばな」

アルベルトはベルを鳴らした。すぐに、執事が現れた。

「紅茶を二人分。それと、アリシアの好むケーキも」

「かしこまりました、殿下」

執事が去ると、アルベルトは窓辺の小さなテーブルにアリシアを招いた。

夕日が部屋に差し込み、二人を柔らかな光で包む。

「さて、最初のティータイムだ」

アルベルトは言った。

「契約第十条第三項の履行として」

アリシアは微笑んだ。

「では、そのティータイムの間、一つだけ確認させてください」

「何だ?」

「この契約書、殿下がお作りになったんですよね?」

「ああ」

「では、第十条の『午後のティータイムを尊重し、中断しないこと』という項目は、誰が追加したんですか?」

アルベルトの耳が、ほんのり赤くなった。

「……私だ。何か問題があるか?」

「いえ、ただ……」

アリシアはフォルダーを抱きしめながら、小さく笑った。

「殿下も、私のことをよく見ていてくださったんですね」

「当然だ。契約相手のことを知らねば、良い契約は作れない」

「それで、殿下は私のことがお好きなんですね?」

アルベルトは一瞬、言葉に詰まった。そして、そっとため息をつくと、うなずいた。

「……そうだ。お前が、好きだ」

その言葉に、アリシアの胸がきゅっと締めつけられた。嬉しさと、少しの照れくささと、そして確かな幸福が、一度に押し寄せてくる。

「私もです。殿下のことが、大好きです」

彼女は素直に言った。リストもデータもいらない。ただ、心のままに。

紅茶が運ばれてきた。アリシアの好み通り、ミルクたっぷりに。

二人はしばらく、ただ紅茶を味わった。言葉はいらない。この瞬間の静けさが、全てを物語っていた。

やがて、アリシアが口を開いた。

「殿下」

「何だ?」

「この契約書、一つ追加条項を入れてもいいですか?」

アルベルトの眉が動いた。

「言ってみろ」

「第十三条:定期的な進捗確認について」

「進捗確認?」

「はい」アリシアは真剣な顔で言った。「この契約の履行状況を、定期的に確認する必要があります。少なくとも月に一度は、二人で振り返りをする。問題があれば修正し、改善点があれば追加する」

一瞬の沈黙の後、アルベルトが小さく笑った。

「……やはり、お前はお前だな」

「それが私です。リストと進捗管理がないと、落ち着かないんです」

「よかろう。追加するがいい」

アルベルトは紅茶のカップを置き、アリシアを見つめた。

「だが、一つだけ条件がある」

「はい?」

「その進捗確認は、ティータイム中に行うこと。第十条第三項に違反してはならん」

アリシアの目が輝いた。

「かしこまりました。では、次回の進捕確認は──」

「今日から一ヶ月後だ。場所はここで、時間は午後三時。紅茶はアールグレイで、ケーキは──」

「はいはい、リストを作りますから」

アリシアは笑いながら、小さなメモ帳を取り出した。

新しいリストが、今始まった。

タイトルは:『一生分の契約履行計画』

最初の項目は:『一ヶ月後の進捗確認の準備』

彼女はペンを走らせながら、ふとアルベルトを見上げた。

彼は窓の外を見つめ、夕日を背にしている。その横顔は、いつもよりずっと柔らかく見えた。

(この人と、一生かけてリストを作っていける)

その思いが、胸を温かく満たした。

契約書も、リストも、すべては形に過ぎない。

大切なのは、その中に込められた想い。

二人の想いが、これから一つ一つ、現実になっていく。

アリシアは微笑みながら、最初のリストを書き終えた。

これから始まる、長い長い共同プロジェクトの、ほんの始まりに過ぎない。

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