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リストで生き延びます!~悪役令嬢、社畜スキルでハッピーエンドを手に入れる~  作者: 「大和 尚羅夢」小花羅夢一生推し


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13/19

戦争、リスト失効の日

北の町からの帰還から一週間が経ち、学園はいつもの平穏を取り戻していた。

アリシアはアルベルトの執務室で、鉱山労働者の労働環境改善案の最終調整をしていた。北の町で目の当たりにした過酷な労働条件、子どもたちの栄養失調、それでも懸命に生きる人々の姿──それらが彼女の胸に深く刻まれていた。

「ここ、作業場の換気システムをもう一段階強化するべきです。特に、深部鉱区では……」

「アリシア」

アルベルトの声が、突然真剣な響きを帯びた。彼は窓辺から、遠くの空を見つめている。

「何か、おかしい」

「え?」

アリシアも窓に近づいた。西の空が、夕暮れには早すぎる赤みを帯びている。いや、赤いというより──

(炎……?)

「通信室に連絡を!」

アルベルトの声が鋭く響く。執務室のドアが開き、従騎士が駆け込んでくる。

「殿下! 緊急報告です! 西の国境から──」

その時、遠くで何かが爆発する音がした。窓ガラスが微かに震える。

「何だ!?」

「蛮族の襲撃です! 国境の監視所が突破されました!」

一瞬、時間が止まったように感じた。アリシアの頭が真っ白になる。

(蛮族……? でも、和平条約が……)

「兵力は?」

アルベルトの声は冷徹だった。彼は既に指揮官モードに切り替わっている。

「詳細は不明ですが、少なくとも数千。通常の襲撃規模をはるかに超えています」

「学園の防衛体制は?」

「守備隊が応戦中ですが、圧倒的に不利です。すぐに避難命令を──」

「遅い」

アルベルトは机の引き出しを開け、短剣と魔法の護符を取り出した。

「学園の守備は私が指揮する。お前は、女子生徒と非戦闘員の避難を指揮せよ」

「しかし殿下、それは危険すぎます! 王族が──」

「命令だ!」

アルベルトの一喝に、従騎士は黙ってうなずいた。

そしてアルベルトは振り返り、アリシアを見た。

「お前も避難しろ。すぐに」

「で、でも……」

「聞け、アリシア。これは戦争だ。お前のできることではない」

「でも、私だってお役に立ちたいんです! リストを作れば、避難計画を──」

その時、学園の警鐘が鳴り響いた。緊急事態を知らせる、甲高い音。

アリシアの頭の中を、無数のリストが駆け巡った。

避難経路。食料の備蓄。医療施設の確保。安全な場所。情報伝達の手段──

(できる。きっとできる。私はこれまで、どんな問題もリストで解決してきた)

しかし、彼女の思考は次の瞬間、粉々に砕かれた。

窓の外で、巨大な炎の柱が立ち上がった。爆発音。叫び声。金属がぶつかり合う音。

戦場の音だ。

「殿下! 正門が突破されました! 蛮族が学園内に侵入してきます!」

「くっ……」

アルベルトは歯を食いしばった。彼の目には、決意の色が浮かんでいる。

「衛兵隊、全員ここに集まれ!」

執務室に、武装した衛兵たちが次々と集まってくる。その数、二十人ほど。学園の守備隊のほとんどだ。

「状況は絶望的だ。しかし、逃げる時間を作らねばならない」

アルベルトは兵士たちを見渡した。

「私は、この場所で敵の主力を食い止める。その間に、お前たちは生徒たちの避難を支援せよ」

「殿下! それはあまりに無謀です!」

「他に選択肢があるか?」

アルベルトの声は静かだが、揺るぎない決意に満ちていた。

「私がここに立てば、敵は私を狙う。その間に、できるだけ多くの者が逃げられる」

彼は一人一人の顔を見つめた。

「これが、王族としての私の役目だ」

アリシアの胸が、激しい痛みに襲われた。彼は、死を覚悟している。

(ダメ……そんなのダメ……)

「アリシア」

アルベルトが彼女の前に立った。彼の手には、小さくも重厚な印章があった。王家の紋章が刻まれた、金と赤の石でできた印章。

「これを預ける」

「殿、殿下……?」

「王族の緊急権限を行使する印章だ。これがあれば、残された衛兵たちを指揮できる。学園内のどの施設も開放できる」

アルベルトはアリシアの手を取ると、その手のひらに印章を置いた。

「もし……私が戻らなければ、これを使って生き延びろ」

「やめてください!」

アリシアの声は、思わず泣き声になっていた。

「そんなこと言わないで! 一緒に逃げてください!」

「できない」

アルベルトの目は、悲しみと決意が入り混じっていた。

「私が逃げれば、敵は追ってくる。逃げ遅れた者たちが、皆殺しにされる」

彼の手が、そっとアリシアの頬に触れた。その手は、わずかに震えていた。

「お前は生き延びろ。お前の頭脳と、そのリストが、この国に必要だ」

「でも、殿下がいなければ……」

「命令だ」

アルベルトの声は、再び硬くなった。

「生き延びよ。それが、私への最大の貢献だ」

彼は振り返り、衛兵たちの方へ歩き出した。

「全員、配置につけ! 正面には盾兵、両翼には弓兵! 魔法兵は後方から支援を!」

「殿下!」

アリシアが叫んだ。しかし、彼はもう振り返らない。

(どうして……どうしてこんなことに……)

彼女の頭の中は、完全に真っ白だ。リストを作ろうとしても、思考がまとまらない。恐怖と絶望が、理性を飲み込んでいく。

【警告:危機的状況を検出】

【生存率推定:学園内での生存 23%】

【アルベルト殿下の生存率:正面戦闘を選択した場合 8%】

【提案:直ちに避難を】

ベルの声が響く。しかし、アリシアはもう、システムの助言に耳を貸せない。

(リスト……リストを作らなきゃ。何か、できることがあるはず……)

彼女は震える手でメモ帳を取り出し、書き始めようとした。

しかし、ペンが動かない。文字が書けない。

ただ、「殿下を助けたい」という想いだけが、胸の中で渦巻いている。

(私のリストは、いつだって役に立った。問題を解決してきた。でも、これには……)

戦争。死。別れ。

彼女のリストは、生と死の選択には無力だった。

外では、戦闘の音がますます近づいている。叫び声。剣戟の音。魔法の炸裂音。

「アリシア様!」

リリアンが、涙で顔をくしゃくしゃにして駆け込んでくる。

「どうしよう、みんなパニックになってて……男子生徒たちまで戦いに行こうとしてて……」

「リリアンさん……」

アリシアは必死に平静を装おうとした。

「大丈夫。避難する方法を考えるから」

「でもアルベルト殿下は! あのままじゃ、きっと……」

「殿下は大丈夫よ」

その言葉は、自分に言い聞かせるための嘘だった。アリシア自身、全く信じていなかった。

「まずは、あなたたちを安全な場所に」

アリシアは印章を握りしめ、廊下へ出た。そこには、恐怖に震える生徒たちが大勢いた。

「みんな、落ち着いて! 地下室に避難するから!」

彼女の声は、自分でも驚くほど冷静だった。リストは作れなくても、やるべきことはわかる。

(まず、子どもと女性を優先して。次に負傷者。そして……)

「アリシア様、男子生徒たちが、殿下のところに行きたいと言ってます」

一人の教員が報告する。アリシアは深く息を吸い込んだ。

「ダメです。殿下は、私たちに逃げる時間を作ってくれているんです。無駄にしないで」

彼女は印章を高く掲げた。

「これは、アルベルト殿下から預かった王族の印章です! 殿下の命令で、私は皆さんを導きます! 従ってください!」

印章を見た生徒たちは、一瞬静かになった。王族の権威が、混乱に秩序をもたらす。

「では、移動を始めましょう! 怪我人は前に! 女性と子どもはその後!」

アリシアの指示で、避難が始まった。彼女の頭は、機械のように動いている。

(経路A:廊下が破壊されている。経路B:安全だが遠回り。経路C:最短だが敵の侵入経路に近い)

(経路Bを選択。時間はかかるが、安全が最優先)

「こっちです! 急いで!」

生徒たちの列が、地下室へと続く階段を下りていく。アリシアは最後尾に立ち、全員が入ったか確認する。

その時、また爆発音。天井から埃が落ちてくる。

「早く!」

全員が地下室に入ると、アリシアは重い鉄の扉を閉めた。鍵をかけ、魔法の封印を施す。

地下室は薄暗く、生徒たちの嗚咽が響く。子どもたちが震え、母親が必死に抱きしめる。

(食料は三日分。水は一週間分。医療品は最低限……)

アリシアは、地下室の備蓄を確認する。彼女の頭は、まだリストを作ろうとしている。現実から逃れるために。

しかし、心は違うところにある。

(殿下……)

彼女は印章を握りしめたまま、壁に背を預けた。その手のひらから、アルベルトの温もりがまだ残っているような気がした。

「アリシア様……」

リリアンが傍に座り、そっと彼女の手を握った。

「大丈夫ですか?」

「……うん」

嘘だ。全然大丈夫じゃない。彼女は今、崩れそうだった。

「殿下は、きっと戻ってきます」

リリアンの声も震えている。彼女も、同じくらい怖いのだ。

「ええ、きっと」

アリシアは目を閉じた。地下室の外では、まだ戦闘の音が響いている。遠くで、何かが崩れ落ちる音。

(ベル……)

【はい、マスター】

(殿下の生存率、再計算して)

【計算中……】

【現在の生存率:5.7%】

【敵の包囲網が縮小しています。撤退の可能性は限りなく低いです】

数字が、アリシアの胸を貫く。でも、彼女は驚かなかった。最初からわかっていたことだ。

(私に、できることは?)

【分析中……】

【あなた一人で戦場に介入した場合の生存率:0.3%】

【殿下を救出できる確率:0.08%以下】

(それでも、何か方法は?)

【方法は一つだけ:奇襲による救出】

【しかし、成功率は極めて低く、あなた自身の命も危険に晒します】

【最も合理的な選択は、ここに留まることです】

(合理的……か)

アリシアはゆっくりと目を開けた。地下室の薄暗がりの中で、生徒たちの顔が見える。子どもたちの泣き顔。恐怖に震える少女たち。必死に耐える少年たち。

彼女は彼らを守る責任がある。アルベルトが命をかけて与えた時間を、無駄にしてはいけない。

(でも……)

胸の奥で、何かがちぎれそうな痛み。

(殿下を、見捨てられない)

彼女は立ち上がった。

「アリシア様?」

「ちょっと、外の様子を見てくる」

「だめです! 危険すぎます!」

「大丈夫。すぐ戻るから」

アリシアはそう言い、地下室の小さな換気口へ向かった。そこからなら、外の様子をうかがえる。

換気口の格子越しに見える光景に、アリシアは息をのんだ。

学園の中庭は、炎に包まれていた。建物の一部が崩壊し、そこかしこに倒れた者たちの姿。

そして、中央広場で──

アルベルトだった。

彼はまだ立っていた。銀の鎧は傷だらけ、髪は血と埃で汚れている。しかし、その背筋はぴんと伸び、剣を構える手は微動だにしない。

周りには、数十人の蛮族兵が取り囲んでいる。アルベルトの周りには、倒れた衛兵たちの姿。生きているのは、彼一人だけのようだ。

(殿下……)

アルベルトが剣を振るう。一撃で、二人の敵をなぎ倒す。しかし、すぐに別の敵が襲いかかる。

彼の動きは、明らかに鈍っている。足を引きずり、片手を脇腹に押さえている。深手を負っているのだ。

(助けに行かなきゃ……)

しかし、どうやって? アリシアは戦い方を知らない。魔法も、初歩的なものしか使えない。

(ベル、最短ルートを)

【マスター、本当にですか? 成功率は──】

(計算はいい。ルートを)

一瞬の沈黙の後、視界に地図が浮かぶ。地下室から中央広場への最短ルート。敵の配置をかわす経路。

成功率:1.2%

(ありがとう、ベル)

アリシアは地下室に戻ると、リリアンの前に跪いた。

「リリアンさん、お願いがある」

「な、なに?」

「もし私が戻らなかったら、皆を導いて。印章を預ける」

「だめ! あなた、何を考えてるの!?」

「殿下を助けに行く」

「そんなの無理です! あなた、戦えないでしょう!?」

「戦わない。連れ戻すだけ」

アリシアは微笑んだ。それは、自分でも驚くほど穏やかな笑みだった。

「私は、リストの専門家だ。問題解決のプロだ。それに、殿下からは『生き延びろ』って命令されてる」

彼女は立ち上がった。

「だから、殿下を連れて、生きて戻る。それだけだ」

「アリシア様……」

リリアンの目に涙が光る。

「約束して。必ず、戻ってきて」

「うん。約束する」

アリシアは最後に印章を握りしめ、地下室の扉へ向かった。

心臓は狂ったように鼓動する。足は震える。でも、彼女の決意は揺るがない。

(リストは役に立たない。計画も意味がない)

(でも、それでも──)

彼女は深呼吸を一つした。

(私は、殿下を助けに行く)

扉を開け、外の戦場へと一歩を踏み出した。

炎の熱気と、血の匂いが立ち込める。

アリシア・フォン・ローゼンベルクは、最後の仕事に向かった。

リストも計画もない。あるのは、ただ一つの想いだけ。

彼を、生きて連れ帰りたい。

それだけだ。

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