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リストで生き延びます!~悪役令嬢、社畜スキルでハッピーエンドを手に入れる~  作者: 「大和 尚羅夢」小花羅夢一生推し


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12/19

噂と庇護

魔晶石事故から一週間が経ち、学園内には不穏な空気が流れ始めていた。

アリシアは図書館で資料を整理している時、ふと隣の書架の陰から聞こえる囁きに耳を止めた。

「……あの人、本当にあんなことできるの?」

「だって急に頭良くなったでしょ? おかしいと思わない?」

「それに、あの事故、ちょうどよく気づいたよね。まるで予知してたみたいに」

アリシアの手が止まった。彼女は息を潜め、さらに聞き耳を立てた。

「私、聞いたんだ。闇魔法を使うと、人の思考が読めるらしいよ」

「え、それって……」

「だから、殿下に取り入れることも、事故を予知することもできるんじゃない?」

冷たいものが背中を伝う。アリシアはそっとその場を離れ、図書館を出た。

廊下でも、似たような囁きが聞こえてきた。

「最近、急に有名になったよね」

「殿下の寵愛を受けてるからさ」

「でも、なんで殿下があんな子を……」

アリシアは足を早めた。胸の奥で、何かがぎゅっと締めつけられる。

(噂……私のことを、そんな風に……)

【マスター、学園内でのあなたに関する噂の分析を行いました】

【主要な噂:1. 闇魔法の使用 2. 殿下への媚び 3. 事故の自作自演】

【噂の発生源:特定できず。複数の情報源から同時発生】

【拡散速度:急速。過去72時間で学園の67%に到達】

ベルの報告に、アリシアはため息をついた。

(誰かが、意図的に流しているんだ)

彼女は執務室へ急いだ。今日もアルベルトと、地方の税制改革案について議論する予定だった。


執務室では、アルベルトが既に待っていた。彼の机の上には、一枚の報告書が置かれている。

「遅いな」

「すみません、殿下。少し……」

「構わん。それより、これを見ろ」

アルベルトは報告書を差し出した。そこには、学園内で流布している噂の詳細が記されていた。

「お前のことを、闇魔法使いだと囁く者がいるらしいな」

アリシアはうつむいた。

「はい……聞きました」

「気にするな。愚かな者の戯言だ」

アルベルトの声は冷たく、しかしどこか怒りを込めていた。

「だが、無視もできん。噂が広がれば、お前の活動に支障が出る」

「どうすれば……」

「私が処理する」

アルベルトは立ち上がり、窓辺に歩み寄った。

「既に、学園長に話を通した。これ以上、根拠のない噂を流す者には、懲戒処分を下す」

「でも、それでは……ますます反感を買うだけでは?」

「だから何だ?」

アルベルトが振り返った。彼の目には、鋭い光が宿っていた。

「お前は私の顧問だ。その名誉は、私の名誉と等しい。お前を貶める者は、私を貶める者と同じだ」

アリシアは息をのんだ。その言葉の重みに、押しつぶされそうになる。

「殿、殿下……そんな……」

「聞け、アリシア」

アルベルトは一歩近づいた。

「この世界は甘くない。お前が何かを成し遂げようとすれば、必ず邪魔する者が現れる。嫉妬する者が、足を引っ張る者が」

彼の声は低く、真剣だった。

「お前ができることは二つだ。諦めるか、戦うか」

「私は……諦めません」

アリシアは顔を上げ、アルベルトをまっすぐ見つめた。

「私は、殿下のお役に立ちたい。この王国のために、働きたい。それだけです」

一瞬、沈黙が流れた。

そして、アルベルトの口元が、わずかに緩んだ。

「……ならば、戦え。そして私が、お前の盾となる」

彼は机に戻り、書類の山から一枚を抜き出した。

「だが、その前に、お前自身の安全を確保せねばならん。最近、妙なものを受け取っていないか?」

「妙なもの……?」

「匿名の手紙。怪しい贈り物。何か、不審なものは?」

アリシアは考え込んだ。

「特に……ありません。ただ、この間、図書館で誰かが私の机にメモを置いていったのを見ましたが……」

「どんなメモだ?」

「『気をつけて』とだけ書いてありました。筆跡はわからないのですが……」

アルベルトの眉が曇った。

「警告か、あるいは脅迫か。どちらにせよ、軽視はできん」

彼は執務室のベルを鳴らした。すぐに、老執事が現れた。

「殿下、お呼びでしょうか」

「アリシアの護衛を手配せよ。学園内での移動には、常に衛兵一名が同行するように」

「殿下!」

アリシアが声を上げた。

「そんな、大げさすぎます。私、ただの学生です」

「私の顧問だ」

アルベルトの声には、一切の妥協がなかった。

「そして、お前の安全は、今や私の『重要な業務事項』だ。勝手な行動で、私の業務を増やすな」

その言葉に、アリシアは顔が熱くなるのを感じた。

(私の安全が……殿下の業務事項……?)

【緊急分析! この発言、複数の解釈が可能です!】

【1. 純粋な業務上の配慮(確率:35%)】

【2. 個人的な関心の表明(確率:45%)】

【3. 両方(確率:20%)】

【マスター、心拍数が急上昇しています!(゜Д゜;)】

(ベル、静かに……!)

「か、かしこまりました……」

アリシアはうつむき、小さく呟いた。

老執事が去ると、アルベルトは再び書類に目を落とした。しかし、彼の口元には、ほんのわずかな笑みが浮かんでいるように見えた。

「さて、本題に戻ろう。この税制改革案だが……」

議論はいつも通り続いたが、アリシアの頭の中は別のことでいっぱいだった。

(殿下は、私のことを……気にかけてくれている)

胸の奥で、温かいものが広がっていく。


その翌日から、アリシアには衛兵が一人つくことになった。名はマルクス。寡黙だが、鋭い目をした若い衛兵だ。

「アリシア様、今日のスケジュールをお聞かせください」

「えっと、まずは魔法理論の授業、それから執務室で……」

アリシアは少しきまり悪そうだった。周りの生徒たちが、好奇の目で彼女と衛兵を見ている。

「ねえ、見て。護衛つきだよ」

「やっぱり、殿下の寵愛を受けてるんだ」

「でも、それだけ警戒が必要ってことじゃ……」

囁き声が聞こえる。アリシアは目を伏せ、足を早めた。

授業が終わり、執務室へ向かう廊下で、リリアンが駆け寄ってきた。

「アリシア様! 大丈夫ですか!? 聞きました、噂のこと……」

「大丈夫よ、リリアンさん。殿下が対処してくださるって」

でも、リリアンの表情は暗かった。

「私、誰が噂を流してるか、少し調べてみたんです。それで……」

彼女は声を潜めた。

「ヴァルケンシュタイン侯爵家の令嬢、エリザ・フォン・ヴァルケンシュタインが、最近よくあなたのことを悪く言ってるみたいです」

アリシアの背筋が凍る。ヴァルケンシュタイン──魔晶石事故の背後にいたとされる、父の政敵だ。

「彼女は、あなたの父上と私の父上が、最近領地問題で対立してるんです。それで、あなたに仕返しを……」

「わかった。ありがとう、リリアンさん。でも、これ以上は危険だから調べないで」

「でも!」

「お願い。あなたを巻き込みたくないの」

リリアンは悔しそうな表情を浮かべたが、うなずいた。

「……わかりました。でも、何かあったら、必ず教えてくださいね」

「うん、約束する」

執務室に着くと、アルベルトが書類の山と格闘していた。彼は顔を上げずに言った。

「遅い」

「すみません、殿下。授業が少し延びて……」

「構わん。それより、これを見ろ」

アルベルトは一枚の紙を差し出した。それは、匿名で執務室に届いたという手紙だった。

『警告する

アリシア・フォン・ローゼンベルクは闇の力に染まっている

彼女が近くにいると、不運が訪れる

学園から追放すべきだ』

文章は歪な筆跡で書かれ、最後には不気味な模様が描かれていた。

アリシアの手が震えた。

「これは……」

「脅迫状だ。ただし、稚拙な」

アルベルトは紙をちぎり、灰皿に放り込んだ。小さな炎が、紙を瞬時に飲み込む。

「これで四通目だ。どれも内容は似ている。お前が闇魔法を使っている、危険だ、追放しろ」

「殿下、なぜ私に……」

「お前が私の顧問だからだ」

アルベルトの目が冷たく光った。

「お前を失脚させれば、私の力も弱まる。それは、私の敵にとって好都合なのだ」

彼は立ち上がり、窓辺に歩み寄った。

「ヴァルケンシュタイン侯爵は、父王の時代から我が家と対立している。彼は今、税制改革に反対している。お前が作成した改革案が、彼の利益を損なうからだ」

「でも、それと私が……」

「お前を攻撃すれば、改革案そのものの信用を落とせる。『闇魔法使いの作った案』となれば、誰も支持しなくなるだろう」

アリシアは言葉を失った。彼女の個人的なことが、こんなに大きな政治問題と結びついているとは。

「では……私はどうすれば?」

「何もするな」

アルベルトが振り返った。彼の表情には、確かな自信が満ちていた。

「私が全て処理する。お前は、いつも通りに業務を続けよ。それが、最も効果的な抵抗だ」

「でも、噂が……」

「噂は、真実の前では無力だ」

アルベルトは机に戻り、書類を整理し始めた。

「お前の実績が、お前を守る。学園祭の成功。魔晶石事故の防止。税制改革案。これらは全て、お前の能力の証だ」

彼はふと、手を止めた。

「それに……私がいる」

その一言に、アリシアの胸がきゅっと締めつけられた。

「殿、殿下……」

「さて、仕事に戻ろう。今日は、地方の医療改革案の最終確認だ」

アルベルトはいつもの業務モードに戻っていた。しかし、アリシアにはわかった。彼がわざと冷静を装っているのだと。

(殿下は、私のために戦ってくれている)

その日、アリシアはいつも以上に集中して仕事に取り組んだ。アルベルトの期待に応えたい。彼の信頼を裏切りたくない。

夕方、業務が一段落した時、アルベルトが突然言った。

「明日から、しばらく学園外での調査に入る」

「え? どちらへ?」

「北の鉱山町だ。労働環境の改善案を作成するため、現場を視察する」

アルベルトはアリシアを見た。

「お前も同行する。現場の声を聞くのは、お前の得意とするところだろう」

「はい! 喜んで!」

「ただし、条件がある」

アルベルトの表情が厳しくなった。

「絶対に一人で行動しない。常に私かマルクスの傍にいる。そして、怪しい者には近づかない」

「かしこまりました」

「もう一つ」

アルベルトはためらったように一瞬黙り、続けた。

「この視察は、噂からお前を遠ざける意味もある。学園を離れれば、一時的にではあるが、噂の対象から外れる」

アリシアははっとした。彼は、彼女の心の負担まで考えてくれていたのか。

「殿下……ありがとうございます」

「感謝などいらん。これは業務上の判断だ」

アルベルトはそう言ったが、彼の耳たぶがほんのり赤くなっているのに、アリシアは気づいた。

【データ更新:アルベルト殿下の『ツンデレ指数』、過去最高を記録!( ̄▽ ̄*)】

(ベル!)

その夜、アリシアは旅の準備をしながら、最近の出来事を振り返っていた。

噂。脅迫。そして、アルベルトの保護。

(すべてが、私が殿下の顧問になったから……)

彼女は窓辺に立ち、外の月明かりを見つめた。

(もし、私が普通の令嬢のままだったら、こんなことにはならなかった)

(でも……後悔していない)

胸を手で押さえる。そこには、アルベルトから渡された護符が、肌に温もりを伝えている。

(殿下のために働きたい。この気持ちは、本物だ)

突然、ノックの音。

「アリシア、まだ起きているか」

「はい! 今開けます!」

ドアの外には、アルベルトが立っていた。彼の手には、小さな袋があった。

「明日の旅に備えて、これを持っていけ」

袋の中には、魔法の保温ポットと、携帯用の魔晶石ランタン、それに簡易的な治療キットが入っていた。

「殿下、これは……」

「北の町は寒い。準備が足りないと、体調を崩す」

アルベルトはあくまで事務的に言った。

「それと、これは緊急用だ」

彼はさらに小さな箱を渡した。中には、精巧な魔法の腕輪が入っていた。

「これは、位置追跡ができる。万一はぐれた時、私がお前を見つけられる」

「殿下……こんなに気を遣わせてしまって……」

「気を遣っているのではない。単なる予防措置だ」

アルベルトは顔をそむけた。

「お前が倒れれば、業務に支障が出る。それだけのことだ」

でも、アリシアにはわかっていた。彼の言葉の裏にある、本当の気持ちを。

「ありがとうございます、殿下。必ず、無事に帰ってきます」

「ああ。では、明日の朝早くに出発する。しっかり休め」

アルベルトが去ろうとした時、アリシアは思わず声をかけた。

「殿下!」

「……何だ?」

「私……殿下の顧問になれて、本当に良かったです」

一瞬、沈黙が流れた。

そして、アルベルトが小さくうなずいた。

「……私もだ」

その一言だけを残し、彼は廊下の闇に消えていった。

アリシアはドアに背を預け、ゆっくりと滑り落ちた。

胸の中が、温かい感情で満たされていく。

(殿下が……私を必要としてくれている)

涙が一粒、頬を伝う。でも、これは悲しい涙ではない。

嬉しくて、ありがたくて、溢れ出る涙だ。

【マスター、感情分析レポート更新しました】

【現在の状態:幸福感 85%、不安 10%、その他 5%】

【『恋愛ウイルス』、症状がさらに進行しているようです! でも、悪化とは言えないかも?(`・ω・´)】

「ベル……ありがとう」

アリシアは微笑んだ。

彼女は立ち上がり、明日の準備を整え始めた。

北の町への旅。それは新たな挑戦だが、同時に、アルベルトと二人きりで過ごす時間でもある。

(どんなに危険が待っていても、大丈夫)

彼女は護符を握りしめた。

(殿下が、私を守ってくれるから)

窓の外では、星々が静かに瞬いていた。

明日への期待と、ほんの少しの不安が、アリシアの胸の中で同居している。

でも、それでいい。彼女はもう、一人じゃないから。

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