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リストで生き延びます!~悪役令嬢、社畜スキルでハッピーエンドを手に入れる~  作者: 「大和 尚羅夢」小花羅夢一生推し


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11/19

暗流と事故の予兆

アルベルトの顧問となって二ヶ月が経ち、学園内でのアリシアの立場は着実に変わっていた。

「アリシア様、おはようございます」

「今日の魔法史のレポート、少しアドバイスをいただけませんか?」

「この間の地方税の問題、どうやって分析されたんですか?」

廊下ですれ違う生徒たちの態度は、敬意と憧れを込めたものになっていた。かつての「悪役令嬢」のイメージは、もはやほとんど消えていた。

【マスター、現在の学園内評判指数:好意的 78%! かつての悪役令嬢から、学園の有能な先輩へ、見事なイメージチェンジです!( •̀ ω •́ )✧】

ベルの報告に、アリシアは少し照れくさそうに微笑んだ。しかし同時に、一抹の不安も感じていた。

(評価が上がるのは嬉しいけど……)

彼女の目が、廊下の向こうにいる数人の上級生グループに留まった。彼らはアリシアを見ると、すぐに視線をそらし、何かひそひそと話し始めた。

(あの人たち、最近よく私のことを見ている気がする)

アリシアは内心でつぶやいた。彼らは皆、名門貴族の子女たちだ。彼女の父、ローレンベルク公爵家と対立関係にある家柄も含まれている。

「ねえ、アリシア様、気にしてます?」

リリアンが心配そうに声をかけてきた。彼女も、あのグループに気づいていたようだ。

「大丈夫、リリアンさん。ただ……少し、気になるだけ」

「あの人たち、最近アリシア様のことをよく噂しています。『平民みたいに働きすぎ』だとか、『殿下に取り入っている』だとか……」

リリアンの声には怒りが込められていた。

「そんなことないのに! アリシア様はいつも誰かのために頑張っているのに!」

「ありがとう、リリアンさん。でも、気にしないで」

アリシアは優しく微笑んだ。

「噂は噂。私はただ、自分のやるべきことをやるだけだから」

しかし内心では、違った。彼女は確信していた──誰かが彼女のことを快く思っていない。そして、その「誰か」は、単なる嫉妬以上の感情を抱いているかもしれない。


その日、アリシアは図書館で資料整理を手伝っていた。リリアンと一緒に、魔法実験記録の分類をしている最中だった。

「それじゃあ、この一年分の記録を年代順に並べて、それから……」

「あの、アリシア様」

リリアンが突然、奇妙な顔をして言った。

「最近、実験室がすごく寒くないですか?」

「寒い?」

「ええ。特に、三号実験室。昨日、実習で行ったんですが、暖房魔法が効いているはずなのに、すごく寒くて。それに、魔晶石のランプも、なんだかチカチカしてるし」

アリシアの手が止まった。

(寒い? 魔晶石が不安定?)

彼女の頭の中で、ベルが静かに作動し始めた。

【関連情報を検索中……】

【三号実験室:先月から魔晶石交換の記録あり。しかし交換後も、魔力消費量が通常の150%を記録】

【学生からの苦情:過去二週間で「寒すぎる」という報告が7件】

【担当教員のコメント:「気のせいではないか」】

(これは……)

アリシアは立ち上がった。

「リリアンさん、三号実験室、今誰か使っていますか?」

「今日の午後は、上級魔法実習が入っているはずです。でも、まだ始まってないから、誰もいないと思います」

「わかった。ちょっと行ってみる」

「え? アリシア様、どうかしたんですか?」

「ただ、気になっただけ」

アリシアは急いで図書館を出た。彼女の頭の中では、様々なピースがつながり始めていた。

1.

魔晶石の異常な消費

2.

3.

室温の低下

4.

5.

照明の不安定

6.

7.

最近の魔晶石交換記録

8.

(もしや……)

彼女は走り出した。


三号実験室は、確かに誰もいなかった。ドアを開けると、一陣の冷気が顔にまとわりついた。

「やっぱり……寒い」

アリシアは震えながら中に入った。実験室は広く、中央には巨大な魔晶石を動力源とする実験装置が設置されていた。壁には、様々な計器と制御盤。

彼女の目は、魔力流量計に釘付けになった。

針が、通常の位置をはるかに超えて振れている。

(ありえない……この数値だと、魔晶石が……)

「ベル、緊急分析!」

【はい! 三号実験室の魔力環境、分析開始!】

【警告:異常な魔力蓄積を検出!】

【魔晶石内部で、魔力の過剰貯蔵が発生しています!】

【このままでは、最大で48時間以内に暴走する可能性:87%!】

アリシアの背筋が凍りついた。

(魔晶石暴走……?)

彼女は急いで制御盤に近づいた。そこには、先月の魔晶石交換記録が貼られていた。

《交換日:35日前》

《担当:技術課 ロジャー技官》

《特記事項:在庫切れのため、旧式魔晶石を暫定使用》

「旧式……!?」

アリシアの声が震えた。旧式魔晶石は、新型に比べて容量が小さく、安定性も低い。過負荷がかかると、簡単に暴走する。

彼女は制御盤のスイッチを切ろうとした。しかし、スイッチは固く、動かない。

(ロックされている!?)

「ベル、緊急解除コードは?」

【解析中…… 通常の管理者コードでは解除できません。特別な権限が必要です】

【警告:魔晶石の内部温度、危険域に近づいています!】

アリシアはあわてて実験室を出ると、一番近くの教員室へ走った。

「すみません! 三号実験室が危険です!」

担当教員は面倒くさそうな顔を上げた。

「何だ、君は。アリシア・フォン・ローゼンベルクか。どうした?」

「魔晶石が暴走する可能性があります! すぐに実験室を封鎖し、魔晶石を停止させないと!」

教員は鼻で笑った。

「大げさな。たかが魔晶石一つ、暴走するわけがない。それに、あの魔晶石は一ヶ月前に交換したばかりだ」

「旧式です! 記録に、旧式の暫定使用と書いてあります!」

教員の表情がわずかに変わった。

「旧式? そんなはずは……在庫管理表では新型となっていたが……」

「間違いありません! 今すぐ確認してください! 魔力流量計が異常値を示しています!」

アリシアの必死の訴えに、ようやく教員が動き出した。

「わかった、わかった。ちょっと見に行こう」

だが、遅すぎた。

二人が実験室に戻る途中、廊下の向こうから「ブーン」という低い唸り声が聞こえてきた。

「まずい……!」

アリシアが走り出す。実験室のドアの隙間から、青白い光が漏れている。

「止まれ! 中に入るな!」

教員が叫んだが、アリシアは聞かなかった。彼女はドアを蹴破り、中へ飛び込んだ。

実験室内は、魔晶石が発する青白い光に包まれていた。装置が軋み、火花が散る。

「制御盤……!」

アリシアは煙と熱気の中、制御盤にたどり着いた。キーパッドに手を伸ばすが、指先が震えてうまく動かない。

(落ち着け、アリシア……深呼吸して……)

彼女は目を閉じ、一呼吸置いた。そして、記憶をたどる。

アルベルトの執務室で見た、魔晶石制御のマニュアル。緊急停止手順……

「まず、メインスイッチを切る。次に、補助電源でシステムを……」

彼女の指が動いた。コードを入力する。一文字、また一文字。

エラー音。

(ダメだ、このコードじゃない……)

「ベル! 緊急停止コード、解析できた?」

【解析中…… 80%…… 90%…… 完了!】

【コード:Alpha, Theta, 7, 9, Omega, Delta!】

アリシアは素早く入力した。

一瞬、何も起こらない。そして──

「ピーッ!」

警告音が鳴り響き、魔晶石の発光が弱まった。唸り声が次第に小さくなり、やがて静かになった。

アリシアはその場にしゃがみこみ、必死に息を整えた。胸が痛い。煙で目が染みる。

「大丈夫か!?」

教員が駆け寄ってきた。彼の顔は真っ青だ。

「魔晶石、止まった……? 本気であんなことが起こるとは……」

「まだ……油断できません」

アリシアは立ち上がり、よろよろと魔晶石に近づいた。表面に、細かい亀裂が入っている。

「完全に停止したわけじゃない。魔力がまだ残留しています。専門家を呼んで、安全に処分する必要があります」

「わ、わかった。すぐに連絡する」

教員が慌てて去っていく。アリシアは一人、危うく大事故になるところだった実験室に残された。

彼女の手が震えているのに気づいた。今までの緊張が、一気にこみ上げてくる。

(あぶなかった……もし気づくのが遅れてたら……)

リリアンや他の生徒たちが、この実験室を使うはずだった。彼らが中にいる時に暴走が起きていたら──

考えるだけで、背筋が寒くなる。

「アリシア!」

廊下から駆け込んでくる足音。振り向くと、アルベルトがいた。彼の後ろには、数人の衛兵と、魔法技師たち。

「聞いた。魔晶石暴走の危険があったと?」

「はい、殿下。でも、今は一時的に鎮静化しています」

アルベルトは鋭い目で実験室内を見回した。彼の表情は、いつにも増して険しい。

「報告を受け、急いで来た。君が危険を冒したと聞いたが……」

「大丈夫です。ただ、コードを入力しただけですから」

アリシアはできるだけ平静を装おうとした。しかし、震える声がそれを裏切っていた。

アルベルトは一歩近づき、彼女の顔をじっと見つめた。

「……顔に煤がついている」

「え?」

彼の手がそっと伸び、アリシアの頬を拭った。その手触りに、アリシアは思わず息をのんだ。

「危険を冒すな。次からは、まず衛兵か私を呼べ」

「で、でも、時間がなかったので……」

「たとえ時間がなくてもだ」

アルベルトの声には、いつも以上の厳しさがあった。

「お前の命は、私の顧問として貴重だ。無駄に危険に晒すな」

アリシアはうつむいた。胸の奥で、複雑な感情が渦巻いている。叱られているのに、なぜか嬉しい。

(私のことを……心配してくれた?)

「殿下、魔晶石の調査が完了しました」

魔法技師の一人が近づいてきた。

「ご指摘の通り、旧式魔晶石が不適切に設置されていました。しかも、制御システムのロックが、通常の管理者権限では解除できないように改造されています」

アルベルトの目が鋭く光った。

「改造、だと?」

「はい。意図的な工作の可能性が高いです」

沈黙が流れた。実験室内の空気が、一気に重くなる。

「……誰が?」

アルベルトの声は、氷のように冷たかった。

「調査します。だが、現時点では……」

「わかった。徹底的に調べよ。誰がこの魔晶石を設置し、誰がシステムを改造したか。すべてを洗い出せ」

「かしこまりました!」

技師たちが去ると、アルベルトは再びアリシアを見つめた。

「聞け、アリシア。これは偶然の事故ではない」

「え……?」

「旧式魔晶石の不適切使用。システムの意図的なロック。これらが重なって、今日の事故が起きた」

アルベルトの目が細くなった。

「誰かが、わざと事故を起こそうとした。あるいは、少なくとも、事故が起きることを承知でこの状態にしていた」

アリシアの背筋が寒くなる。

(わざと……?)

「でも、誰がそんな……」

「お前のことを快く思わない者は、この学園に何人もいる」

アルベルトの言葉は、鋭い刃のようだった。

「お前の急速な台頭を、面白く思わない貴族たち。私の顧問となったことを、嫉妬する者たち」

彼は一歩前に出た。

「今日から、警戒を強めよ。不審なものは口にしない。知らない者からの贈り物は受け取るな。そして、何かあればすぐに報告しろ」

「は、はい……」

アリシアの声は小さかった。恐怖が、少しずつ心を覆い始めていた。

(私のせいで、誰かが傷つくかもしれない……)

「一つ、いいか」

アルベルトが突然、声のトーンを変えた。

「今日、お前は多くの命を救った。もし気づくのが遅れていれば、この実験室を使うはずだった生徒たちが、大けがを負っていたかもしれない」

彼の目には、わずかながら称賛の色が浮かんでいた。

「その観察力と、迅速な対応を評価する」

「殿、殿下……」

「しかし、だからといって、無謀になるな。自分の安全を第一に考えろ」

そう言うと、アルベルトは実験室を出ていこうとした。が、振り返らずに一言付け加えた。

「……今夜は、ゆっくり休め。明日の業務は、午後からでよい」

「ありがとうございます、殿下」

アルベルトが去ると、アリシアはようやく深く息を吐いた。

彼女はよろよろと実験室を出ると、廊下のベンチに腰を下ろした。足が震えている。

(誰かが……私を傷つけようとしている?)

胸が苦しい。彼女がただ、与えられた仕事をこなし、誰かの役に立ちたいと願っているだけなのに。

「アリシア様!」

リリアンが走ってきた。彼女の目には涙が浮かんでいる。

「聞きました! すごく危険だったんですって! 大丈夫ですか!?」

「うん、大丈夫。リリアンさん、心配かけてごめんね」

「そんなことより! あなた、私のために危険を冒したんですよね? だって、私が実験室が寒いって言ったから……」

リリアンは泣きそうな声だった。

「もしアリシア様が何かあったら、私、一生後悔するんです!」

「大丈夫。私は無事だし、事故も防げた」

アリシアは優しく微笑んだ。しかし内心では、違うことを考えていた。

(次は、うまくいかないかもしれない。次に危険が迫った時、私は気づけるだろうか)

彼女は立ち上がり、リリアンに手を差し伸べた。

「さあ、もうここには用はない。帰ろう」

二人が廊下を歩いていると、向こうから数人の上級生グループが近づいてきた。先程、アリシアをじろじろ見ていたあのグループだ。

彼らはアリシアとすれ違う時、一人がささやくように言った。

「……よくやったね、優等生さん」

その声には、明らかな皮肉が込められていた。

アリシアは振り返らず、歩き続けた。しかし、背中に刺さるような視線を感じていた。

(彼らか? それとも……)

夜、アリシアは部屋で今日の出来事を整理していた。

机の上には、新しいノートが開かれている。

『異常事象と対策リスト』

1.

魔晶石事故:発覚・対応済み

2.

3.

敵対勢力の存在:確認・要警戒

4.

5.

安全対策の見直し:必要

6.

彼女はペンを走らせ、詳細を記入していく。

『危険予兆のチェックポイント』

機器の異常(温度、光、音)

記録の不一致

関係者の不自然な行動

匿名の情報や警告

『個人安全対策』

単独行動を避ける

飲食の安全確認

定期的な連絡体制の構築

護身魔法の習得(緊急)

書き終えて、アリシアはため息をついた。

(これで、少しは安全だろうか)

【マスター、追加データがあります】

【今日の事故に関与した可能性のある人物リスト、作成しました】

【中には、あなたの父であるローレンベルク公爵と対立する貴族の子女も含まれています】

ベルの声に、アリシアは眉をひそめた。

(政治的な理由か……)

彼女は窓辺に歩み寄り、外の暗闇を見つめた。

学園の庭には、まだ誰かの灯りがともっている。

(私はただ、生き延びたいだけだった。誰かの役に立ちたいだけだった)

(なのに、なぜこんなことに……)

突然、ノックの音。

「アリシア、いるか」

アルベルトの声だった。

アリシアは慌ててドアを開けた。そこには、アルベルトが立っていた。彼の手には、小さな箱があった。

「殿下、こんな時間に……」

「魔晶石事故の調査、中間報告だ」

アルベルトは部屋に入り、箱をテーブルに置いた。

「システムを改造したのは、技術課のロジャー技官だ。彼はすでに逃亡している」

「逃亡……?」

「ああ。そして、彼の背後には、どうやらある貴族がついているようだ」

アルベルトの目が冷たく光った。

「お前の父の政敵、ヴァルケンシュタイン侯爵だ」

アリシアの息が止まりそうになった。ヴァルケンシュタイン侯爵は、父が何度も口にしていた最大の政敵だった。

(父の敵対者が、私を……)

「しかし、確証はない。証拠が不十分だ」

アルベルトは箱を開けた。中には、小さな魔法の護符が入っていた。

「これは、緊急用の通信護符だ。危機が迫った時、砕け。そうすれば、私のところに警告が届く」

「殿下……」

「常に身につけておけ。そして、決して一人で危険に立ち向かうな」

アルベルトはアリシアをじっと見つめた。

「お前は、私の顧問だ。その命は、私が守る」

その言葉に、アリシアの胸が熱くなった。涙がこみ上げてきそうになるのを、必死にこらえた。

「はい……ありがとうございます、殿下」

アルベルトはうなずき、部屋を出ていった。

アリシアは護符をそっと握りしめた。温もりが、手のひらから胸へと伝わっていく。

(危険は増している。でも……)

彼女は窓の外を見た。月が雲の間から顔を出し、銀色の光を降り注いでいる。

(一人じゃない。殿下が、私を守ってくれる)

アリシアは深呼吸を一つした。

恐怖はまだある。でも、それ以上に強い決意が、胸の中に生まれていた。

リストは続く。問題は山積みだ。

しかし、彼女はもう逃げない。

立ち向かう。守るべきもののために。

彼女は机に戻り、ペンを握った。

新しいリストが、今夜も生まれていく。

明日への備えが、今から始まる。

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