プロローグ 異世界は突然に
結婚が決まった35歳女性、有村祐奈。
それが、私だ。
仕事に打ち込みすぎて気づけば三十代半ば。
「まだ大丈夫」「そのうち良い人が現れる」なんて言葉を信じていたら、気づいた時には周りは既婚者と子持ちばかりだった。
焦って始めた婚活。
正直、楽しいものではなかった。
その中で出会った今の婚約者は、条件だけ見れば悪くない相手だった。
年収、職業、年齢、世間体。
「次はない」と自分に言い聞かせ、私は結婚を決めた。
──けれど。
結婚式の招待状を送ったその日から、少しずつ違和感が顔を出し始めた。
私の意見を軽く否定する言葉。
「それ意味ある?」「普通はこうでしょ?」
冗談みたいな口調で、私の価値観を削ってくる。
これって、もしかして……モラハラ?
そう思ったときにはもう遅かった。
両親にも友人にも結婚報告を済ませてしまっていたし、今さら「やっぱりやめます」なんて言える空気じゃない。
ため息をつきながら、今日も私は悶々とした気持ちで部屋に帰る。
──そのときだった。
目の前が、眩しく光った。
「……え?」
次の瞬間、そこには光り輝く女性が立っていた。
白く長い髪、柔らかな微笑み、そして全身からあふれる神々しさ。
「初めまして、有村祐奈。私は異世界を守護する女神です」
……女神?
夢?
疲れすぎてついに幻覚を見るようになったの?
「あなたにお願いがあります。どうか、異世界を救ってほしいのです」
女神の話によると、異世界には魔法と魔物が存在し、人々は火・水・土・風の元素魔法を使えるらしい。
だが唯一、光属性の魔法だけは、この世界から転移してきた者しか使えない。
現在その世界は、人々の戦争によって憎悪や恐怖が溢れ返り、負の感情を糧にする魔物が異常な速度で成長しているという。
このままでは世界の均衡が崩れてしまう。
光属性の魔法なら、世界を浄化し、人々を癒し、守ることができる。
そして──
「あなたは、その光属性を扱える唯一の存在なのです」
……ちょっと待って。
RPGは好き。
異世界ファンタジーも嫌いじゃない。
でも、実際に行くかどうかは別問題だ。
「家族や友達がびっくりするでしょうし……なにより」
私は叫びたかった。
「もちもちクエストの新作、明日発売なんですけど!!!」
すると女神は、すべてを見透かしたように微笑んだ。
「ご安心ください。世界を救った暁には、あなたを元の世界へ戻しましょう。こちらとあちらでは時間の流れが違います。異世界での一年は、こちらでは一分ほどですので周りの方に気が付かれることはありませんよ。それに、この世界への帰還とは別に更に願いを一つ叶えましょう」
……え、それめちゃくちゃ良くない?
「そして」
女神は一枚の風呂敷を差し出した。
「これは『なんでも風呂敷』です」
「なんでも?」
「この上に正座し、欲しいものを具体的に思い浮かべれば、風呂敷から生えてきます」
……生えてくる?
半信半疑で試してみた私は、食べたいものを思い浮かべた。
「ソロチキ……」
ニョキッ。
「出た!」
ぱくり、と口に入れた瞬間、ざりっとした感触。
「……砂?」
「味や食感を想像していなかったので、ランダム補完されたのでしょう。扱いには注意してくださいね」
なるほど、万能だけど雑な想像は危険、と。
「ゲームを出すなら、パッケージや制作会社まで想像するといいですよ?ぜひ、息抜きとして活用してください」
……そこまで言われたら。
「確かに、行かない理由なくなりましたね」
私は拳を握った。
ちゃんと世界を救えたら、願いが一つ叶う。
だったら──
(婚約者のモラハラ要素、消してもらおう!!)
「私……行きます!」
こうして私は、光属性となんでも風呂敷を手に、異世界へと転移することになった。
もちもちクエストの発売日前日に。
初めての投稿ですので拙いところもあるかと思います。
ご指摘等ありましたらよろしくお願い致します。




