表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/50

火とともに座る

食堂はにぎわっていた——

けれど、僕はまた一人だった。


トレイを手に、うつむいたまま、できるだけ目立たない席を探した。

女子たちは楽しげに話し、笑い、ときおりこちらをちらりと見た。

悪意があるわけじゃない。

だけどその「気まずさ」が、どんな暴言よりも重く響いた。


僕は隅の席に座り、食事を見つめるふりをした。

空腹じゃなかった。

胃が…固く結ばれていた。


「また制御できなくなったらどうしよう」

「この場所にいる僕って、ただの悪い冗談なんじゃ…?」

「僕は…どうすればいいんだ?」


——「この席、空いてる?」


その声に、肩がびくっと跳ねた。


顔を上げると、そこにいたのは…


アイリラ・ヴィレイン。

赤橙の髪を緩く編んだ三つ編み。

氷のような透明な瞳。

無言の炎のように静かで、強い存在感。


「う、うん。もちろん」


彼女は無言で座った。

その気配は、熱を秘めた火花のようだった。

敵意はない。けれど、温かさとも違う。

冷たい言葉か、警告でも飛んでくるかと思ったが——


…彼女はただ、黙って食べた。


しばらくして、小さく呟くように言った。


「…一人で食べるの、好きじゃない」


何と返せばいいかわからなかった。

それは言い訳?それとも、優しさ?


「君なら、誰とでも一緒に食べられると思うけど」

「僕なんかとわざわざ座らなくても…」


「わかってる。

——だから、あなたの隣に座ったの」


余計に意味がわからなくなった。


「人を混乱させるの、好き?」


「好きよ。

そうすると…舐められずに済むから。」


——

少し間があった。僕も、彼女も食事を進めた。


そして、彼女が突然訊いた。


「あなたの花が危険だって、どうして思う?」


その問いは責めるような口調ではなかった。

純粋な興味だった。


「…魔力を反射したり、増幅させたりするからだって…言われてる」


「違うわ」

「それは“強い”だけ。危険なのは、あなた自身よ」


「…僕?」


「自分が“咲いている時”、どんな自分なのか、まだ知らない。

だから怖いの」


彼女を見つめた。


「制御できない力は、武器じゃない。それは炎よ。

そして炎は、敵か味方かなんて区別しない」


「…君は何なんだ?炎?それとも守る者?」


そのとき——アイリラが、初めて笑った。


それは明るい笑顔ではなかった。

疲れたような、だけど真実の笑顔。


「私は…両方。

そして、毎日こう思ってる。

“今日こそは炎よりも、守り手であれ”ってね」


——

食事を終える頃には、言葉はほとんど交わされなかった。

でも何かが確かに、変わっていた。


立ち上がるとき、彼女は横目で僕を見た。


「もしかしたら——

あなたは“脅威”なんかじゃない。

ただ、誰も上手に育て方を知らない花なのかもね」


そして、彼女は立ち去った。


僕は残されたまま、

でも初めて——この広い食堂で、

少しだけ、“ひとり”じゃなくなった気がした。

あなたの花は、どう育てられるべきだと思いますか?」

この章が響いたら、ぜひ評価を。

お気に入り登録で、ハルの旅とアイリラとの距離を追い続けよう。

次回:ハルは自分の“咲き方”を見つけられるのか——

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ