表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/50

咲いてはならぬ花

——「深く息を吸って」

——「自分の中心と繋がって」

——「花に、応えさせなさい」


教授の声が、訓練場に澄んで響いた。

宙に浮かぶ魔法陣たちが、青白く揺れている。


生徒たちは、学院中枢に根を張る《目覚めの樹》の周りに集まっていた。

その大樹は、魔力核と繋がっており、

ここで生徒たちは初めて“実魔法”を顕現させるのが通例だった。


そして僕――

フローラルな制服に身を包み、

胸の中で壊れかけの太鼓みたいに心臓を鳴らしながら、

その輪の中に立っていた。


教授(視線を合わせず):「……準備はいいの?」


ハル:「わかりません、正直に言って」


少し先にいたアイリラは無言で僕を見ていた。

セレネは金の指輪を指で回していた。

ライラは静かに微笑み、

カエリスは魔力分析端末から目を上げもしなかった。


教授が杖を持ち上げる。


「第一段階:アストラルフラワーの投影」

「一人ずつ、自分の花を顕現させなさい。――ハル、君は最後」


(……その情報、先に欲しかった)


少女たちは次々に手を上げ、呼吸を整え、花を開かせていった。


炎をまとったバラ。

水でできた浮遊するユリ。

光を放つヒマワリ。


そのどれもが、美しくも危うい。


そして、僕の番が来た。


教授:「……ハル、前へ」


唾を飲み込む。

一歩前に出る。

目を閉じる。


“集中して。繋がって。咲かせて。”


……何も起きない。

ただ、熱と――圧力。


そのとき――


バキィィッ!


胸から衝撃が走り、粉塵が舞う。

魔法陣が一部崩壊。

その中心で、ひとつの《結晶の花》が静かに浮かび始めた。


音もなく回転する花。

その周囲に、軋むような緊張感と冷気が満ちる。


その瞬間、場が凍った。

数人の生徒が後退する。

教授は反射的に防御魔法を張った。


教授:「ハル!止めて!これ以上は――」


けど、僕は……

何もしていなかった。


花が、勝手に暴走していた。


足元に一枚、鏡のような光。

その隣にもう一枚。

まるで空間が、割れていくかのように。


そして次の瞬間――


すべてが静止した。


花は、自己崩壊するようにパリンと砕け、消えた。


残ったのは、静寂と――僕の荒れた息。


カエリス(無表情に):「……興味深いわ。空間歪曲を伴う花の記録は存在しない」


セレネ(小さく口笛):「爆発はしないって言ったけど……現実が壊れかけるとは思わなかった」


アイリラは何も言わなかった。

ただ、僕を見つめていた。

そして初めて……その瞳に“軽蔑”ではなく、“恐れ”が宿っているのが分かった。


その後、医務室。


教授が無言で魔力波を確認している。


教授(低く):「次からは、監視下以外での顕現を禁止する。いいね?」


僕は無言で頷く。少し手が震えていた。


教授(真剣な声で):「これは遊びじゃない、ハル。

君の花は――規則に従わない。

つまり、君自身も……“例外”なのよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ