「森は忘れない」
任務内容は、明確だった。
「幻の古代魔獣を模倣する存在を探知、隔離、そして無力化せよ。
混成チームによる行動。監視は最小限。
指定エリア:ブルマーラの“幽幻の森”。」
――だが、報告書には書かれていなかった。
「これは単なる試験ではない。
それは“彼らが何者であるか”の鏡。
そして――“なりたくない自分”の輪郭までも映し出す。」
ハルは、レイ、カエリス、アイリラと同じチームに配属された。
緊張感の漂う組み合わせだった。
一方、セレネ、リラ、ネイラは
見知らぬ二人のバスターとともに別チームを組んでいた。
各チームには、ひとつの古代遺物が支給された。
**「感情の羅針盤」――
魔力には反応せず、
“心”に反応するという不思議なコンパス。
なぜそれが必要なのか。
誰にもわからなかった。
ミッション開始
その森は、明らかに異常だった。
空気は凍りつくように静かで――
木々は呼吸しておらず、
花も光を放たない。
羅針盤は、ぐるぐると意味もなく回っていた。
カエリスが呟いた。
「この森、魔法には反応しない…
“心”に反応してる。」
第一の障害
――“自分たちの幻影”
それぞれの前に現れたのは、
**自らの“最も深い後悔”**だった。
レイは、またも逃げるハルを見た。
カエリスは、崩れていく自らの理論体系を見た。
アイリラは、失望した妹の姿を見た。
ハルは、枯れ落ちた“自分の花”を見た。
けれど、ハルは――
逃げなかった。
戦いもしなかった。
ただ、前へ進んだ。
幻影が彼を止めようとしたとき、彼はこう言った。
「勝つために来たんじゃない。
理解するために来たんだ。」
その瞬間、幻影は消え去った。
第二の障害
――“枝と声”でできた幻の怪物
それは、誰かが**“真実を語った”ときにだけ**静まる存在だった。
カエリスは論理で説得を試み、失敗。
レイは命令を投げかけたが、届かない。
その中で、ハルはそっと前に出た。
「僕は…自分の居場所が分からないことがある。
ここにいるべきじゃないって、思うこともある。
でも――
もし君が“疑い”でできてるなら…
僕と同じだ。」
怪物は静かに葉となり、
風に舞って消えた。
そのとき――
レイは、これまでと違う目でハルを見た。
「それ、ブルマーラで習ったの?」
「ううん。
…何度も失敗して、ようやく気づいたんだ。」
こうして第一段階の任務は終了。
負傷者は――なし。
けれど、心の中は…
誰もがこれまでになく、むき出しだった。
そして森は、まだ
“最も深い記憶”を見せていなかった。




