「花を持って生まれる者ばかりじゃない。 花に選ばれる者もいる」
その朝、教室はやけに静かだった。
静かすぎるほどに。
笑い声も、
ひそひそ話もない。
あるのは、視線だけ。
教室に入った瞬間、すべての女生徒の目が私を追っているのを感じた。
以前のように――恐れや疑いではない。
今のそれは、もっと別のものだった。
認めるようなまなざし… そして、距離。
—
席に座ると、セレネが机越しに片眉を上げた。
「ふうん、星の幻を見てなお、生きて帰るとは。たいしたものね」
カエリスは目を合わせずに呟いた。
「君の花…時間に異常な歪みを生じさせてた。
絶滅した魔種でも、そうそうない現象だよ」
ライラはただ穏やかに微笑んだが、
その目には、まだ不安の色が残っていた。
そして――アイリラ。
彼女はしばらく私を見つめたあと、
何も言わずに、私の隣のベンチに腰を下ろした。
—
授業が始まった。
テーマは「初級元素操作」。
でも、私の頭の中はそこになかった。
ただ、あの幻で聞いた言葉が、ぐるぐると回っていた。
「君は咲いたのではない。
咲かされたのだ」
気がつけば、ノートの隅にその言葉を書きつけていた。
「…それ、試験には出ないわよ」
アイリラが小声で言った。
「じゃあ、君は何も見なかったふりをするの?」
彼女は何も言わなかった。
「知ってたの?」私は囁いた。
「あの言葉の意味。知ってる?」
「完全には…でも、読んだことはある」
彼女は答えた。
「古い伝承にね。人工の花…無理やり結ばされたもの。自然じゃない花」
「つまり、私が…?」
「分からない」
彼女はそっと言った。
「でも、あなたの花…内から咲いているというより、
あなたを包み込んでいるように見える」
—
寒気が走った。
「どうして今、それを言うの?」
アイリラは私を見た。
「今、みんながあなたを“見てる”。
それは強さじゃない。むしろ、弱さになることもある。
そして…もし、あの日、あなたが自分の意思なく“咲かされた”のなら――ハル」
「――その理由を、誰かが知ってるはずだ」
私は言葉を継いだ。
彼女は、静かにうなずいた。
—
授業は続いた。
けれど、私の思考はもう別の場所にあった。
もしアイリラの言うことが本当なら――
私はただの異常な存在じゃない。
私は何かの「実験」。
ある「計画」の一部かもしれない。
そしてその計画の根は、
すでにブルーマラの大地に、深く深く埋まっている。
「咲かされた者」とは、何を意味するのか?
星の花との絆を、無理やり結ばせる力とは何なのか?
ハルは選ばれし者か、それとも誰かの作った“道具”なのか?
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