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第九十九話:星が託した意志

俺たちが、絶望の未来に抗うと宣言した、その時。

水晶玉から分離した、あの小さな希望の光は、まるで意志を持つかのように、ふわりと、俺たちの間を漂った。


それは、バルガンの前を通り過ぎ、俺の前を通り過ぎ――そして、リリアの目の前で、静かに、その動きを止めた。

リリアは、驚きも、恐れもせず、ただ、その光を、まっすぐに見つめ返している。

彼女は、そっと、その小さな光に、手を差し伸べた。


光は、逃げなかった。

まるで、帰るべき場所を見つけたかのように、彼女の指先に、優しく触れる。

そして、そのまま、彼女の体の中へと、吸い込まれるように、溶けていった。


「―――あ……」


リリアの瞳が、カッと、大きく見開かれる。

だが、それは苦痛の表情ではない。彼女の脳内に、膨大な、しかし、温かな『意志』が流れ込んでいくのが、俺にも伝わってきた。

彼女は、膝から崩れ落ちそうになるのを、必死にこらえている。


「リリア! 大丈夫か!」

「……はい……大丈夫、です……」


彼女は、俺の手を借りて、ゆっくりと立ち上がった。

その顔には、先ほどの絶望の色は、微塵も残っていなかった。

ただ、何か、とてつもなく大きなものを、その小さな体で受け止めたような、静かで、荘厳な決意が、浮かんでいた。


「……見えました」と、彼女は呟いた。


「見えた? 何がだ、嬢ちゃん」

「あの、絶望の未来……その、本当の『理由』が」


リリアは、俺たちの目を見て、はっきりと告げた。

「あの未来は、わたしたちの旅が、引き起こすものではありませんでした。あれは、わたしたちが、旅の途中で、出会ってしまう、避けられない『敵』によって、もたらされる未来だったんです」


「敵……? あの秘密結社か?」

「いいえ」とリリアは首を横に振った。「もっと、古く、もっと大きな……。わたしが見たのは、王座に座る、一つの『影』。この世界のものではない、別の次元から、この星の遺産を狙う、本当の黒幕。わたしたちが砂漠で戦った連中は、その『影』の、手足に過ぎませんでした」


俺たちは、息を呑んだ。

旧神の遺産は、俺たちに、本当の敵の姿を、示したのだ。


「そして……」とリリアは続けた。「あのビジョンは、警告です。『このままでは、あなたたちは、その敵に必ず敗北する』という、星からの、悲痛な警告だったんです」


絶望の未来は、確定した運命ではなかった。

俺たちが、今、この場で、その事実を知るために、見せられた、最悪の可能性。

そして、リリアと融合したあの光こそが、その運命に抗うための、星が俺たちに託した、一筋の希望。


俺たちの目の前で、『星の記憶』は、その役目を終えたかのように、ゆっくりと輝きを失っていく。

最後に、あの龍の思念が、俺たちの心に、直接響き渡った。


『……鍵は、託された。記憶は、今や、ただの道標みちしるべに過ぎぬ』

『行け、小さき者たちよ。この星が、未だ夢見たことのない、新たなる未来を、その手で、紡ぎ出すのだ』


大樹の胎内の光が、俺たちを、そっと、外の世界へと押し出していく。

次に俺たちが気づいた時、俺たちは、あの龍の社の、静かな境内に、再び立っていた。


俺は、アイテムボックスから、魔法の羅針盤を取り出す。

砂漠と、この国の、二つの光点は、今は、俺たちの帰るべき場所を示すかのように、穏やかな輝きを放っている。

そして、地図の上で、第三の光点が、これまで以上に強く、点滅を始めていた。


それは、海の、遥か彼方。

まだ見ぬ、最後の大陸。

そこが、俺たちが、本当の敵と対峙するために、最後の力を得る場所。


「……行こう」


俺は、仲間たちの顔を見た。

俺たちの旅は、もう、逃避でも、探求でもない。

世界そのものの運命を背負い、星が託した希望を届けるための、ただ一つの、戦いの道となったのだ。

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