第九十七話:星の記憶
社の奥へと続く光の道。
俺が、その入り口から石段を降りていくと、リリアとバルガンが、固唾をのんで俺を待っていた。俺の顔に浮かぶ、安堵の色を見て、二人の表情も、ぱっと明るくなる。
「……アルクさん!」
「どうだった、アルク!?」
「ああ。認められた。俺たちの、『誠意』が、龍に届いた」
俺の言葉に、二人は、心からの安堵のため息を漏らした。
バルガンは、社の祭壇に目をやり、そこに置かれたままの、自らが作り上げた龍の鐘を見て、満足げに頷いている。リリアの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
俺たちは、もう一度、三人で向き合う。
そして、今度こそ、共に、社の奥へと続く、光の道へと足を踏み入れた。
その道は、俺たちが想像していたような、ただの通路ではなかった。
一歩足を踏み入れると、周囲の景色が歪み、俺たちは、まるで巨大な木の幹の内部にいるかのような、不思議な空間に立っていた。壁には、年輪のように幾重もの光の筋が走り、天井は、遥か高く、どこまでも続いている。
天衝く大樹の、胎内。
ここ自体が、龍の社と繋がる、異次元の空間なのだ。
俺たちは、その光の道に導かれるまま、ゆっくりと、大樹の中心へと向かっていく。
周囲の空気は、生命力そのもので満ち溢れていた。ただ呼吸をしているだけで、旅の疲れが癒え、力が漲ってくるかのようだ。
やがて、俺たちは、大樹の最も中心にある、広大な空洞にたどり着いた。
そこには、何もなかった。
祭壇も、装置も、何一つ。ただ、静寂があるだけ。
「……ここが……?」
俺が戸惑いの声を上げた、その瞬間。
俺たちが持つ、三つの『鍵』――俺の【アイテムボックス】の感覚、リリアの魔力結晶、そしてバルガンの旧神の知識が、再び、強く共鳴を始めた。
空洞の中央、何もないはずの空間に、一点の光が灯る。
そして、その光は、瞬く間に、俺たちの目の前で、巨大な球体を形作った。
それは、砂漠で見た『太陽の心臓』のような、熱を放つエネルギー体ではない。
どこまでも澄み切った、巨大な水晶玉のような、情報体。
その水晶の中を覗き込んだ俺たちは、息を呑んだ。
そこには、星々が生まれ、輝き、そして、やがて滅んでいく、壮大な宇宙の歴史が、まるで映像のように、延々と映し出されていた。生命の誕生、進化、そして文明の興亡。俺たちが知る歴史も、知らない神々の時代の歴史も、全てが、そこにはあった。
龍が言っていた、『星の記憶そのもの』。
第二の旧神の遺産。それは、この世界の全てを記録した、アカシックレコードそのものだった。
「……これが……」
俺たちが、その神々しい光景に、魂を奪われていた、その時。
水晶に映し出されていた、過去の映像が、突如として、未来のビジョンへと切り替わった。
そこに映し出されたのは――
見渡す限り、荒廃した大地。
黒く染まった空。
そして、大地に突き刺さる、無数の、禍々しい黒い杭。
その中心で、絶望に染まった顔で、天を仰ぐ、俺たち三人の姿。
「……なっ……!?」
それは、俺たちが、世界の破滅に立ち会っている、最悪の未来のビジョンだった。
俺たちが、この旅の果てにたどり着く、絶望の結末。
俺たちは、ただ、その恐るべき光景を前に、凍りついたように、立ち尽くすしかなかった。
第二の遺産は、俺たちに、希望ではなく、あまりにも残酷な『予言』を突きつけてきたのだ。




