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第九十四話:東方の龍の国

次なる目的地は、遥か東の大陸。

俺たちの船旅は、穏やかな貿易風に乗り、順調に進んだ。

バルガンは、旧神の知識と、サンドレヴィアタンの甲殻を元にした、新型の軽量防具の開発に没頭し、リリアは、船の上から海の魔物たちの生態を観察し、その魔法体系を熱心に研究していた。

俺もまた、揺れる船の上で、寸分の狂いもなく的を射抜くための、新たな射撃訓練を続けていた。


穏やかな時間は、俺たちを、心身ともに、さらに強くしてくれていた。


そして、三週間の航海の末。

俺たちの目の前に、霧の向こうから、水墨画のような、幻想的な大陸が姿を現した。

天を突くように、鋭く切り立った山々。その麓に広がる、青々とした竹林。そして、山肌を縫うようにして流れ落ちる、無数の滝。


「……綺麗……」


リリアが、その神秘的な光景に、感嘆のため息を漏らす。

船長によれば、この大陸に広がるのは、古くからの伝統と、独自の文化を持つ、『龍の国リュウ』と呼ばれる、東方の王国だという。


俺たちの船が着いたのは、白雲港ポート・シラクモと呼ばれる、活気ある港町だった。

反り返った美しい屋根瓦の建物、店先に吊るされた色とりどりの提灯、そして、着物のような、ゆったりとした衣服をまとった人々。王都とも、砂漠の国とも違う、静かで、しかし、凛とした空気が、この街には流れていた。


俺たちは、いつものように、情報収集から始めた。

訪れたのは、冒険者たちが集う酒場ではなく、街の長老や、学者たちが集まるという、静かな茶屋だった。

俺たちが、魔法の羅針盤が示す場所――大陸の中央にそびえる、ひときわ巨大な山脈について尋ねると、茶屋の主である、物静かな老人が、ゆっくりと口を開いた。


「……ほう。旅のお方たちが目指すのは、『天衝く大樹てんつくたいじゅ』でございますかな」

「天衝く大樹?」

「はい。雲の上まで、その枝葉が届くと言われる、神代の樹にございます。じゃが、あそこは、我らリュウの民にとっても、禁足地。みだりに近づくことは、許されませぬ」


老人は、その理由を語ってくれた。

大樹の麓には、古くから、『龍の眠るやしろ』があるのだという。

そして、その社には、この国を守護する、賢く、そして、気高き、一体の古龍が、眠っているのだと。


「龍は、この国にとっては、神の使い。それを害する者は、国中の民を敵に回すことになりましょう」


俺たちは、顔を見合わせた。

次なる旧神の遺産は、どうやら、ただの遺跡ではない。

この国の民から、神として崇められている、生きた龍によって、守られているのだ。


鋼鉄の番人たちとは、訳が違う。

力ずくで突破することは、許されない。

俺たちは、この国の守護神である龍に、俺たちの旅の目的を伝え、その意志を認めさせなければならない。


それは、武力や技術だけでは、決して越えられない、あまりにも高い壁だった。

俺たちの、探求者としての、真の器が試される時が、来たのだ。

俺たちは、静かな茶屋で、次なる戦いの、全く新しい戦略を、練り始めた。

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