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第九話:工房の主

俺は意を決して、古びた工房の扉をノックした。

だが、中から響くリズミカルな槌音にかき消され、返事はない。もう一度、今度は強く扉を叩く。それでも反応は同じだった。


(……仕方ない)


俺はそっと、扉に手をかけて押し開けた。

途端に、むわりとした熱気が肌を撫でる。工房の中は、薄暗がりの中に炉の赤い光だけが揺らめき、壁という壁には作りかけの武具や、用途の分からない金属の塊が無数に立てかけられていた。

どれもが見事な造形をしているのに、よく見るとどこかに必ず致命的な亀裂が入っている。まさに、噂通りの場所だった。


工房の中心で、一心不乱に槌を振るっている小柄な人影。

岩のようにがっしりとした肩。見事に編み込まれた赤茶色の髭。ドワーフだ。彼が、バルガンに違いない。


「……あの、すみません!」


俺は声を張り上げた。

すると、槌音がぴたりと止む。ドワーフはゆっくりとこちらに顔を向けた。その目は、年季の入った職人特有の、厳しさと鋭さに満ちている。


「あぁ? 誰だ、客か? 見りゃ分かるだろう、今は手が離せん」

「依頼をしたいんだ。武器を作ってほしい」


俺がそう言うと、バルガンは心底うんざりしたように顔をしかめ、手に持った槌を放り投げた。


「武器なんざ、もう作っとらん。どうせお前も、話の分からん連中と一緒だろう。『頑丈で長持ちするやつを』だの、『絶対に壊れない保証を』だの、聞き飽きたわ」


その言葉には、彼のこれまでの苦悩が滲んでいた。彼は吐き捨てるように続ける。


「俺の打つ武具は、最高の素材を使い、一撃の威力を最大にするためだけに作られとる。耐久性なんぞ二の次三の次よ。それが分からん奴に売るもんはねえ。さっさと帰れ」


やはり、頑固な職人だ。普通の頼み方では、門前払いされるだけだろう。

だが、俺は怯まなかった。むしろ、彼のその言葉を聞いて確信が深まった。俺が探していたのは、この男しかいない。


俺は真っ直ぐに彼の目を見て、はっきりと告げた。


「壊れてもいい」


バルガンの眉が、ぴくりと動く。


「いや、むしろ……一撃を放っただけで砕け散るくらい、極限まで威力を高めた武器が欲しいんだ」


カン、と静まり返った工房に、冷えかけた鉄が小さく鳴る音だけが響いた。

今まで俺に見向きもしなかったバルガンが、初めて、その鋭い目を俺の全身に向ける。


「……何だと、小僧? もう一度言ってみろ」


その声には、先ほどまでの刺々しさは消え、純粋な戸惑いと、ほんのわずかな興味の色が混じっていた。

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