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第八十八話:砂漠の洗礼

黄金の砂丘が、どこまでも続く。

俺たちの工房馬車『ブレイカー・ベース』は、灼熱の太陽の下、その砂の海をゆっくりと、しかし着実に進んでいた。

車内に設置されたバルガン特製の冷却装置が、快適な温度を保ち、リリアが付与した『冷却の祝福』が、俺たちの体から汗を奪っていく。アイテムボックスには、尽きることのない水が満ちている。

準備は、完璧だった。


だが、この砂漠は、俺たちの想像以上に、獰猛な牙を隠し持っていた。


旅を始めて、五日目の昼下がり。

それまで、風の音しか聞こえなかった静寂が、突如として破られた。

ズズズズズ……と、地面そのものが振動している。


「――来るぞ!」


バルガンが、運転席で叫んだ。

直後、俺たちの馬車の進行方向、わずか数メートル先の砂が、巨大な渦を巻いて陥没。そこから、山のように巨大な、甲殻に覆われた何かが、轟音と共に姿を現した。


「……砂の、海竜サンドレヴィアタン……!」


リリアが、古い文献で読んだことがあるのか、震える声でその名を呟いた。

それは、砂の中を、まるで海の中を泳ぐかのように移動する、この砂漠の生態系の頂点に君臨する魔物。その巨大な顎は、鋼鉄の馬車ですら、ビスケットのように噛み砕くという。


「グルルルルル……」


地響きのような唸り声を上げ、サンドレヴィアタンが、その巨大な顎を開けて、俺たちに襲いかかってきた。


「――させるか!」


俺は、即座に『ブレイカー・ボルト』を、その眉間へと撃ち込む。

だが、ボルトは、分厚い甲殻に、キィン!と甲高い音を立てて弾かれた。傷一つ、ついていない。

鋼鉄ゴーレムを砕いた一撃が、全く通用しなかった。


「クソっ、硬えだけじゃねえ! すぐに砂の中に潜りやがる!」


バルガンの言う通り、サンドレヴィアタンは、攻撃を終えると、すぐに巧みに砂の中へと潜り、こちらの攻撃をやり過ごしてしまう。

これでは、埒が明かない。


「――あいつは、振動で俺たちの位置を把握してるはずだ!」と俺は叫んだ。「なら、もっと大きな振動で、おびき寄せる!」

俺の意図を、二人の仲間は瞬時に理解した。


バルガンが、ポーチから特殊な部品を取り出し、一本の鉄杭に装着する。着弾後、一定時間、強力な音波振動を発生させる、彼が作った探査用の道具だ。

リリアが、その杭に、振動をさらに増幅させる魔法を付与する。


俺は、その即席の『振動おとり弾』を、俺たちから百メートルほど離れた砂丘へと、全力で射出した。

砂の中に突き刺さった杭が、ドクン、ドクン、と、巨大な心臓の鼓動のような、力強い振動を放ち始める。


狙い通り、サンドレヴィアタンは、その巨大な振動に気を取られ、そちらへと向かっていく。

そして、獲物おとりを丸呑みにしようと、砂の中から、その全身を、大きく、無防備に、躍り出させた。

硬い頭部の装甲の下にある、柔らかい、腹部を晒して。


「―――そこだッ!!」


俺は、その一瞬の隙を見逃さなかった。

アイテムボックスから、本命の『ブレイカー・ボルト』を、そのがら空きの腹部へと、正確に撃ち込む。


グシャァッ!


今度は、確かな手応えがあった。

サンドレヴィアタンは、声なき絶叫を上げ、その巨体をくねらせると、やがて、どしん、と音を立てて、動かなくなった。


俺たちは、砂漠の洗礼を、見事に乗り越えた。

だが、同時に、この地の厳しさを、改めて思い知らされていた。

俺たちは、倒した巨大な魔物の亡骸から、バルガンが「こいつはすげえぞ!」と唸るほどの、硬く、そして軽い甲殻を回収すると、再び、砂漠の奥深くへと、馬車を進めた。

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