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第八十六話:南海を越えて

俺たちの新たなる羅針盤が示した、最初の目的地。

それは、海を越えた南の大陸、灼熱の太陽が支配する『陽灼けの大砂漠』のどこかだった。


俺たちは、王都での全てを清算し、工房馬車『ブレイカー・ベース』を南へと走らせた。

緑豊かな王国を縦断する旅は、穏やかで、そして、俺たちの故郷への別れの旅でもあった。道中、俺たちがかつて救った村や街を通り過ぎる。その度に、人々は俺たちに気づき、手を振ってくれた。その温かい光景を、俺たちは、決して忘れないだろう。


数週間後、俺たちは、王国の最南端に位置する、巨大な港町に到着した。

潮の香りと、陽気な船乗りたちの喧騒が、俺たちを迎える。ここから先は、馬車の道ではない。俺たちは、この巨大な移動要塞と共に、海を渡るための船を探さなければならなかった。


案の定、俺たちの風変わりな馬車を見て、ほとんどの船乗りたちは、眉をひそめて首を横に振った。

「冗談だろ。こんな鉄の塊、俺の船に乗せられるか」


そんな中、ただ一人、俺たちの申し出に、面白そうに目を輝かせた船長がいた。

日に焼けた肌と、炎のような赤い髪を持つ、豪快な女船長。彼女は、この南海の交易路で知らぬ者はいないという、やり手の独立商人だった。


「――面白いじゃないか。あんたたちが、あの『ブレイカーズ』だろ? 王都を救った英雄様が、今度は砂漠で宝探しってわけかい。いいだろう、この船が、あんたたちの足になってやるよ!」


俺たちは、彼女の大型ガレオン船に、工房馬車ごと乗り込み、ついに未知なる大海原へと漕ぎ出した。


船旅は、俺たちにとって、初めての経験だった。

どこまでも続く青い海と空。夜になれば、遮るもののない満天の星。リリアは、初めて見る海の景色に、子供のようにはしゃいでいた。バルガンは、船の構造に興味津々で、甲板長を質問攻めにしている。


一度だけ、全てを飲み込むかのような巨大な嵐に遭遇したが、俺たちは、船乗りたちと協力して、その危機を乗り越えた。リリアが風を読む魔法で船の進路を助け、バルガンが嵐で損傷したマストを即席で補強し、俺は、高波で甲板から流されそうになった船員を、アイテムボックスの力で引き寄せた。


この船旅で、俺たちは、また一つ、新しい絆を得た気がした。


そして、二週間の航海の末。

俺たちの目の前に、ついに、新たな大陸の輪郭が見えてきた。


「……あれが……」


黄金色に輝く、広大な砂浜。その後ろには、蜃気楼のように揺らめく、どこまでも続く大砂漠が広がっている。空気は乾き、太陽の光が、肌を焦がすように突き刺さる。

俺たちの故郷とは、文化も、気候も、生態系も、全てが違う、全く新しい世界。


やがて、船は、エキゾチックな香辛料の匂いが漂う、活気ある港町へと入港した。

白壁の家々、丸いドーム状の屋根、そして、行き交う人々の、ゆったりとした色鮮やかな衣服。


俺たち三人と、俺たちの相棒『ブレイカー・ベース』は、港町ザフィーラの、灼熱の大地に、その第一歩を、力強く記した。

失われた時代の謎を解き明かす、俺たちの本当の冒険が、今、この場所から始まる。

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