表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/109

第八十五話:新たなる羅針盤

俺たちが、貴族の地位と、それに伴う全ての富を返上すると申し出た時、国王陛下やギルドマスターは、心底驚いた顔をしていた。

だが、俺たちの決意が固いことを知ると、彼らは、その自由な生き方を尊重し、温かく送り出してくれた。俺たちが得た莫大な財産は、ギルドが管理する、戦争孤児のための基金として寄付されることになった。


俺たちが手元に残したのは、最高の工房へと生まれ変わった、相棒の馬車『ブレイカー・ベース』と、旅に必要な最低限の資金だけ。

それで、十分だった。


王都を出発する前の、最後の夜。

俺たち三人は、工房で、それぞれの時間を過ごしていた。

バルガンは、旧神から与えられた知識を元に、全く新しい理論の武具の設計図を描いている。

リリアは、番人から譲られた、魔力結晶を静かに見つめ、その内部に秘められた古代の魔法体系を読み解こうとしていた。

俺は、目を閉じ、自分の内側にある【アイテムボックス】というスキルの、そのさらに奥にある、温かな『感覚』と向き合っていた。


その時だった。

リリアが、魔力結晶に、自らの魔力をほんのわずかに流し込む。

バルガンが、新たなインスピレーションを得て、設計図に、神代のルーン文字を描き加える。

俺が、仲間たちとの繋がりを、これまで以上に強く、意識する。


三つの『鍵』が、呼応した。


リリアの持つ結晶が、一条の光を放ち、工房の中央の空間に何かを投影し始めた。

バルガンの描いた設計図のルーン文字が、羊皮紙から浮かび上がり、その光の中へと吸い込まれていく。

そして、俺の体から溢れ出た、仲間たちとの絆を象徴する光が、それら全てを一つに結びつけた。


俺たちの目の前に現れたのは、一枚の世界地図だった。

だが、それは、ただの地図ではない。夜空に星が瞬くように、いくつもの光点が、その地図の上で、ゆっくりと脈打っている。


「……これは……」


俺たちは、息を呑んだ。

光の一つは、間違いなく、俺たちがいるこの王都を指している。

そして、もう一つの、ひときわ大きく輝く光は、遥か北の果て――『旧神の大工房』の位置を示していた。


そして今、俺たちの目の前で、三つ目の光点が、まるで俺たちを呼ぶかのように、ひときわ強く、点滅を始めた。

その場所は、俺たちがいる大陸ではない。海を越えた、遥か南。灼熱の太陽が支配する、広大な砂漠の大陸。


「……そういうことか」


俺は、全てを理解した。

番人が俺たちに与えたのは、ただの知識や技術ではなかった。

それは、世界中に散らばった、旧神たちの遺産を探し出すための、新たなる『羅針盤』だったのだ。


同時に、背筋が凍るような事実に思い当たる。

もし、この羅針盤を、俺たち以外の誰か――例えば、ヘファイストスの背後にいた、あの秘密結社も、手にしているとしたら。

これは、ただの探求の旅ではない。失われた時代の、神々の力を巡る、新たな戦いの始まりだ。


俺たちの、あてのない自由な旅は、始まったその日に、終わりを告げた。

代わりに、俺たちには、この世界の根幹に関わる、あまりにも壮大で、そして、危険な使命が与えられた。


俺は、地図に示された、南の大陸を指さす。


「――次の目的地が、決まったな」


バルガンが、獰猛に笑う。リリアが、学者のように目を輝かせる。

俺たち『ブレイカーズ』は、今、失われた時代を追い求める『探求者シーカー』となった。

俺たちの、本当の冒険が、今、始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ