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第八十三話:英雄の帰還

旧神の大工房を後にしてから、俺たちの帰路は、驚くほどに穏やかだった。

あれほど猛威を振るっていた凍てつく荒野の吹雪は鳴りを潜め、空喰らいたちが空を舞うことも、もうなかった。まるで、聖地が再び眠りについたことで、この地の荒ぶる魂が、鎮められたかのようだった。


工房馬車の中は、静かな興奮に満ちていた。

バルガンは、番人から与えられた神々の記憶を反芻するように、ぶつぶつと呟きながら、見たこともない理論の設計図を羊皮紙に描き殴っている。

リリアは、指先から小さな光の蝶を生み出しては、それを飛ばして遊んでいた。世界の理に触れた彼女の魔法は、もはや詠唱すら必要としない、意志そのものの発露へと昇華しつつあった。

俺もまた、【アイテムボックス】が、ただのスキルではなく、仲間たちの想いを繋ぐ、自分自身の一部であるかのような、不思議な一体感を感じていた。


やがて、俺たちの目の前に、懐かしい辺境の砦が見えてくる。

俺たちが生きて帰還し、さらに、拘束したヘファイストスを馬車から引きずり出した時、砦は、建国以来とでもいうべき、熱狂的な大歓声に包まれた。

熊のようなギルドマスターは、俺たちの肩を叩いて、涙を流して喜んでくれた。


俺たちが砦に到着したという報せは、すぐに王都へと伝えられた。

数日後、砦には、エレオノーラ率いる王家の近衛騎士団と、そして、バルガンの故郷であるドワーフの国からの公式な使節団が、慌ただしく到着した。


「――よく、生きて戻ってくれた。そして、我が騎士団の仲間たちの仇を……感謝する」


エレオノーラは、もはやライバルではなく、ただ一人の戦友として、俺に深く頭を下げた。


ドワーフの使節団の長は、バルガンの前に進み出ると、ドワーフの最も丁重な礼をもって、こう言った。

「我らが国の、最大の恥をすすいでくれたこと、ドワーフの民を代表し、心より感謝申し上げる。偉大なる鍛冶師、バルガン殿。国を出たお前の罪は、この功績により完全に赦免された。いつでも、英雄として、故郷へ帰ってきてほしい」


その言葉に、バルガンは、ぶっきらぼうに「フン」と鼻を鳴らしただけだったが、その髭に隠れた口元が、確かに笑っていたのを、俺は見逃さなかった。

ヘファイストスは、二つの国の代表団によって、厳重に王都へと護送されていった。彼の裁きは、両国の法によって、厳正に下されることになるだろう。


そして、俺たちも、王都へと帰った。

俺たちが王都の門をくぐった日、街は、祭りのような熱気に包まれていた。

俺たちが北の果てで国を救う大戦を繰り広げていたというニュースは、吟遊詩人によって脚色され、すでに伝説の物語として、人々の間に広まっていたのだ。


人々は、俺たちの名前を呼び、歓声を上げ、その道を花で埋め尽くした。


再び、国王陛下の御前に召された俺たちは、今度は謁見の間ではなく、数多の貴族たちが列席する、大広間にいた。

そこで、俺たちは、この国における最高の栄誉である、『救国の英雄』の称号と、それぞれの子爵位を授かることになった。


平民のポーターだった、俺が。

呪われた魔女と蔑まれた、リリアが。

国を捨てた異端者だった、バルガンが。

今や、この国の、誰からも尊敬される貴族であり、神話に謳われる英雄となった。


俺たちが望んだ、全て。

いや、望んだ以上のものを、俺たちは、この手で掴み取ったのだ。

鳴り止まない拍手と喝采の中で、俺は、少しだけ、不思議な気持ちになっていた。


――俺たちの冒険は、これで、終わりなのだろうか。

全てを成し遂げた英雄の、この先の道は、どこへ続いているのだろう、と。

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