第八十話:最後の弾丸
防戦一方。じりじりと、俺たちは工房の壁際へと追い詰められていた。
アルケウスの攻撃は、休むことを知らない。ヘファイストスの悪意が、その流体金属の体を通して、俺たちに牙を剥き続けていた。
「クソっ! あのゴーレムは、炉心からのエネルギー供給がなけりゃ、ただの液体金属だ! あのジジイが、常にエネルギーを送り込み、形を制御してやがる!」
壁際で、バルガンが悔しそうに叫んだ。
その言葉に、俺の脳内で、天啓の如き閃きが走った。
――エネルギーを、送り込んでいる?
――形を、制御している?
そうだ。アルケウスは、それ自体が完成した一個の個体なのではない。
炉心を『動力源』、ヘファイストスを『脳』、そして、あの流体金属の体を『手足』として、常にエネルギーが流れ続けることで、初めて成り立っている、一つの巨大な『システム』なのだ。
ならば――
「――その流れを、逆に利用する!」
俺は、仲間たちに叫んだ。
「リリア! 破壊じゃない! 相手の魔力を暴走させるような、『過負荷』の魔法は作れるか!?」
「か、過負荷……ですか? 理論上は、可能ですが……莫大な魔力が必要です……!」
「バルガン! 中が空洞の、器になるようなボルトは!?」
俺の意図を、二人の天才は、瞬時に理解した。
「……あるぜ」とバルガンが、絶体絶命の状況で、ニヤリと歯を見せた。
彼は、ポーチから、これまで見たこともない形状の、先端が蓋のようになっている特殊な杭を取り出した。
「試作品の『器の杭』だ! 中身は空っぽよ! 嬢ちゃんの魔法を、好きなだけ詰め込みやがれ!」
作戦は、決まった。
俺が、この器の杭を、アルケウスの体内に撃ち込む。
杭が内部に侵入した、そのコンマ一秒の瞬間に、リリアが、杭を器として、最大級の『過負荷』の魔法を注ぎ込む。
そして、その暴走した魔力が、アルケウスを制御しているエネルギーの流れを逆流し、本体であるヘファイストス自身を、内側から焼き尽くす!
それは、俺たち三人の、技術と、魔法と、そして、完璧な信頼関係がなければ、絶対に成立しない、最後の賭けだった。
「――終わりだ、虫けらども!」
俺たちの最後の抵抗を察したのか、ヘファイストスが、アルケウスに最後通告を命じる。
アルケウスの巨体が、これまでにないほどのエネルギーを収束させ、俺たち三人をまとめて消し炭にするであろう、必殺の一撃を放つべく、その腕を振り上げた。
もう、時間はない。
「リリア!」
「――はいッ!」
リリアが、俺の背中に手を置き、精神を集中させる。彼女の体から、これまでとは比較にならないほどの、荒々しく、そして膨大な魔力が溢れ出し、俺のアイテムボックス内にある『器の杭』へと注ぎ込まれていく。
俺は、迫りくる神の鉄槌を前に、ただ、静かに、狙いを定めた。
これが、俺たちの、最後の弾丸。
俺は、仲間たちの全てを背負い、右腕を突き出した。




