第七十九話:神造りの男
「――ヘファイストス! てめえ……!」
最初に怒りの声を上げたのは、バルガンだった。彼の声は、神聖な工房の空気を震わせる。
「旧神の技術を、己の欲望のために弄ぶか! ドワーフの誇りを汚す、万死に値する裏切り者め!」
その叫びに、裏切り者のドワーフ――ヘファイストスは、せせら笑うように肩をすくめた。
「誇りだと? いつまでも古臭い伝統に縛られている、お前のような出来損ないに、俺の偉業が理解できるものか。俺は、旧神を超える。この手で、新たな神を創造するのだ!」
ヘファイストスが、炉心の前にあった水晶の操作盤に手をかざす。
すると、彼が作り上げていたゴーレムが、炉心から供給される莫大なエネルギーを吸い上げ、その形成を完了させた。
それは、もはやゴーレムというよりも、神話に出てくる魔神の姿だった。
体は、炉心の光を反射して虹色に輝く、流体金属でできている。決まった形を持たず、常にその輪郭をゆらめかせている。その両腕は、武器ではなく、純粋なエネルギーの刃となっていた。
「見ろ、我が神『アルケウス』の御姿を! さあ、栄えある最初の生贄となれ!」
ヘファイストスの号令と共に、アルケウスが、音もなく、しかし恐るべき速度で俺たちに襲いかかってきた。
「――舐めるなッ!」
俺は、これまで通り、リリアの『振動付与』を込めた『ブレイカー・ボルト』を、その胴体へと撃ち込んだ。鋼鉄ゴーレムですら粉砕した、俺たちの必殺の一撃。
だが――
ボルトは、アルケウスの流体金属の体に、まるで水に石を投げ込んだかのように、波紋を立てて沈み込んでいく。そして、振動魔法の効果が発揮される前に、完全にそのエネルギーを吸収され、無力化されてしまった。
ボルトが沈んだ箇所は、次の瞬間には、何事もなかったかのように修復されている。
「無駄だ、バルガン!」とヘファイストスが高笑いする。「お前の脳筋戦術など、我が神には通用せん! アルケウスは、ただ硬いだけのゴーレムではない。あらゆる攻撃を受け流し、自己修復する、生命そのものなのだ!」
アルケウスが、反撃に転じる。
その腕が、鞭のようにしなり、エネルギーの刃が俺たちを薙ぎ払った。俺たちは、必死にそれを回避するが、刃が掠めた床や壁は、バターのようにたやすく溶解していく。
俺たちは、完全に防戦一方に追い詰められていた。
「アルクさん、ダメです!」
その時、リリアの切羽詰まった声が響いた。
「あのゴーレム自体を攻撃しても意味がありません! 本体は、あそこにいるヘファイストスです! 彼が、リアルタイムでゴーレムの動きも、性質も、全てを制御しています!」
リリアの言う通りだった。
俺たちが右に動けば、アルケウスは的確に左から回り込んでくる。俺が射撃の体勢に入れば、その腕を盾のように変形させて防いでくる。
俺たちは、ゴーレムと戦っているのではない。
その向こう側にいる、ドワーフ王家最高位の、天才職人と戦っているのだ。
だが、どうすればいい?
あの無敵の神体を突破して、奥にいるヘファイストスを叩くなど、不可能だ。
俺たちは、完璧に、詰んでいた。
神の工房の、灼熱の空気の中で、俺たちの汗だけが、冷たく、肌を濡らしていた。




