第七十八話:旧神の大工房
番人たちが創り出した岩の橋を渡る。
一歩、また一歩と進むにつれて、俺たちの体を苛んでいた極寒の空気が、嘘のように和らいでいった。代わりに、まるで巨大な生命体の胎内にいるかのような、温かく、そして、凄まじい魔力が脈打つ気配が、俺たちを包み込んでいく。
橋を渡りきった俺たちの目の前に現れたのは、山脈そのものをくり抜いて作られた、巨大な門だった。
その表面には、番人たちに刻まれていたものよりも、さらに古く、そして複雑なルーン文字が、それ自体が意志を持つかのように、ゆっくりと明滅を繰り返している。人間やドワーフのためではない。遥か古代、神々がこの地を歩いていた時代に作られた、神々のための門。
俺たちが畏敬の念に打たれながらその門をくぐると、そこに、言葉を絶する光景が広がっていた。
「……ここが……『旧神の大工房』……」
バルガンの、震える声が響く。
そこは、洞窟などという陳腐な言葉では表現できない、一つの世界だった。
天井は見えず、星空のように輝く無数の魔力結晶が、巨大な地下空間を照らし出している。眼下には、溶岩の川が流れ、その熱を利用した巨大な槌が、自律して何かを鍛え続けていた。光の帯が、完成した部品を運び、空飛ぶ小型ゴーレムが、それらを組み立てていく。
ここは、創造と破壊の全てが詰まった、神の心臓部。
俺は、ただただ、その光景に圧倒されていた。
「……アルクさん、あちらです」
リリアが、かすかに残る、異質な魔力の痕跡を指し示した。
俺たちは、その痕跡と、雪の上に残っていたものと同じ、一人のドワーフの足跡を頼りに、この神の工房の、さらに奥深くへと進んでいく。
道中には、俺たちがこれまで戦ってきたゴーレムとは比較にならないほど巨大な、古代の戦闘機械が、まるで博物館の展示物のように、静かに眠っていた。
やがて、俺たちは、工房の最も中心にあると思われる、巨大な空間にたどり着いた。
そこは、この工房全体の動力源であろう、巨大な炉心が、まるで小さな太陽のように、眩い光と熱を放っていた。
そして、その炉心の前に、一人のドワーフが立っていた。
俺たちの気配に気づき、そいつはゆっくりとこちらを振り返る。
フードは被っていない。その顔には、深い皺と共に、己の才能に溺れた、狂気と傲慢の色が浮かんでいた。
裏切り者のドワーフ。
彼の傍らには、一体の、未だかつて見たこともないゴーレムが、炉心からのエネルギー供給を受けて、その巨体を形成しつつあった。それは、俺たちがこれまで見てきたどのゴーレムよりも、洗練され、そして禍々しい気を放っている。
「――来たか、バルガン」
裏切り者は、旧友に会ったかのような、歪んだ笑みを浮かべた。
「我が同胞の中でも、最も愚かで、最も才能のなかった出来損ないよ。そして、『器』とその『呪われた力』か。ちょうどいい」
彼は、作りかけの最高傑作を、恍惚とした表情で見上げる。
「我が神の、最初の生贄にしてやろう。お前たちの絶望を糧として、我が神は、この地で完全に受肉するのだ!」
狂気に満ちた宣言が、神の工房に響き渡る。
俺たちの、最後の戦いの火蓋が、今、切られようとしていた。




