表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/109

第七十一話:凍てつく荒野

王都の喧騒を背に、俺たちの工房馬車『ブレイカー・ベース』が北へ向かって走り始めてから、一週間が過ぎた。

豊かな緑に覆われていた大地は、次第に色を失い、岩と枯れ木ばかりの荒涼とした景色へと変わっていく。そして、目の前にそびえ立つ巨大な山脈を越えた瞬間、俺たちは、世界から完全に色が失われたかのような、広大な白銀の世界へと足を踏み入れた。


「――ここが、『凍てつく荒野』……」


リリアが、窓の外の景色に息を呑む。

見渡す限りの雪原と、天を突く氷の山々。ゴウゴウと吹き荒れる風は、刃のように鋭く、肌を切り裂くような極低温の空気を運んでくる。


「バルガン、頼む!」

「おうよ!」


俺の合図に、バルガンが運転席でレバーを操作する。馬車の車輪から、金属の爪がいくつも飛び出し、滑りやすい氷の地面をガッチリと掴んだ。車内に施されたリリアの『保温の祝福』がなければ、俺たちは一時間と経たずに凍え死んでいただろう。

俺たちの技術と魔法を結集したこの移動要塞だけが、この死の大地を進むことを許されていた。


だが、この地の本当の脅威は、寒さだけではなかった。


「――来るぞ!」


バルガンの警告と同時に、猛烈な吹雪が、俺たちの視界を完全に奪った。

ホワイトアウト。一寸先も見えない白の世界で、馬車が大きく揺れる。

何かが、馬車の側面に強烈な勢いでぶつかってきたのだ。


「アルクさん!」

「分かってる!」


俺は、馬車の側面に設けられた射撃用のガンポートを開け、外を睨みつける。だが、猛吹雪のせいで、敵の姿は全く見えない。


「リリア、頼む!」

「はい! ――見えます! アルクさん、右前方、三時の方角に二体! 左後方、七時の方向に一体!」


リリアが、目を閉じて精神を集中させている。彼女には、吹雪の向こうの、敵が放つ生命の気配が、正確に見えているのだ。

俺は、リリアの言葉だけを頼りに、アイテムボックスから連射用の『ブレイカー・ニードル』を射出する。


ズバババッ!

俺が放った数本のニードルが、吹雪の中へと消えていく。

直後、キャン!という、甲高い悲鳴が聞こえた。


「一体、命中! ですが、残りが回り込んできます!」


俺は、リリアという『目』を完全に信頼し、彼女が告げる座標へと、ただひたすらに弾丸を撃ち込み続けた。

バルガンは、雄叫びを上げながら馬車を巧みに操り、側面から飛びかかってくる敵を、強化された車体で弾き飛ばす。


やがて、吹雪が少しだけ弱まった時、俺たちはようやく敵の正体を視認した。

それは、全身が氷の結晶のような、美しい毛皮で覆われた狼――氷晶狼クリスタルウルフの群れだった。彼らは、吹雪に紛れて獲物を狩る、この荒野の支配者なのだ。


だが、俺たちの完璧な連携の前では、そのステルス能力も意味をなさない。

数分後、生き残った氷晶狼たちは、恐れをなして吹雪の奥へと姿を消していった。


嵐が過ぎ去り、再び静寂が訪れた白銀の世界。

俺たちは、この地の洗礼を、見事に乗り越えた。

だが、同時に理解していた。これは、始まりに過ぎない。禁断の聖地へと続く道は、これまでの冒険とは比較にならないほど、過酷で、危険なものになるだろうと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ