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第六十七話:神話の始まり

勝利を告げる審判の声は、鳴り止まない万雷の拍手と歓声にかき消された。

闘技場にいる全ての観客が、立ち上がって、俺たち三人の新たな英雄を讃えている。

リリアは、その光景が信じられないといった様子で、ただ呆然と立ち尽くしていた。彼女が流す涙は、もはや悲しみや恐怖から来るものではなかった。


やがて、係員に促され、俺たちは国王陛下が座るロイヤルボックスへと向かった。

無様に敗れ去った学部長たちが、屈辱に顔を歪ませながら退場していくのと、ちょうどすれ違う。彼が俺たちに向けた視線には、もはや侮蔑はなく、純粋な憎悪だけが燃え盛っていた。


国王陛下の御前に、俺、リリア、そしてバルガンが跪く。

緊張で、生唾を飲み込む音だけが、やけに大きく聞こえた。


「――面を上げよ、『ブレイカーズ』」


威厳に満ちた、しかし、どこか温かみのある声だった。

俺たちが顔を上げると、壮年の国王は、満足げな笑みを浮かべていた。


「見事であった。実に、見事な戦いぶりであったぞ」

「はっ……もったいなきお言葉です」

「謙遜はするな。朕も、そして、この国の民も、今日、真実をその目で見たのだから」


国王は、そこで一度言葉を切ると、その視線をリリアへと向けた。


「魔法学園は、リリア嬢の力を『呪い』と断じ、管理下に置くべきだと進言した。だが、朕が見たのは、呪いなどではない。仲間を守り、理不尽に立ち向かう、気高き魂の輝きであった」


その言葉に、リリアの瞳が、はっと見開かれる。


「――王の名において、ここに宣言する。リリア嬢の力は、王国が認める、正当なる『祝福』である。王立魔法学園は、今後一切、彼女の意志に反する干渉を禁ずる。彼女は、呪われた魔女ではない。この国を救った、英雄の一人なのだから」


それは、リリアを縛り付けていた全ての呪いから、彼女を完全に解き放つ、絶対的な勅命だった。

リリアの目から、今度こそ、堰を切ったように大粒の涙が溢れ出した。


その日のうちに、王都の情勢は大きく動いた。

国王陛下の御前で醜態を晒し、その器の小ささを露呈した学部長は、その地位を剥奪された。王立魔法学園は、その権威を大きく失墜させ、内部からの改革を余儀なくされたという。


俺たちの工房には、もはや誰も、疑いの目を向ける者はいなかった。

そこは、王が認めた英雄たちの、聖域となったのだ。


その夜、俺たち三人は、工房でささやかな祝杯を上げた。

「……ありがとうございました」と、リリアが何度も頭を下げる。その笑顔は、俺が初めて見る、心の底からの、一点の曇りもない笑顔だった。


俺たちの戦いは、終わった。

少なくとも、リリアの過去との戦いは、今日、完璧な形で勝利を収めたのだ。


一頻り飲み、騒いだ後、バルガンが、一人、新設されたばかりの巨大な魔法炉の前に立っているのが見えた。その目は、祝勝の熱気とは違う、静かな闘志に燃えている。


「さて……」


バルガンは、炉の炎を見つめながら、ぽつりと呟いた。


「これで、ようやく、あの裏切り者の同胞を追いかける準備が、整ったってもんだな」


そうだ。

俺たちの戦いは、まだ何も終わっていない。

リリアの呪いを解いた今、次に向かうべきは、バルガンの過去に繋がる、ドワーフの国の闇。


俺たちの、本当の神話は、ここから始まるのだ。

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