第六十三話:決戦の備え
王都を揺るがす一大イベント、『特別大演習』の開催まで、あと一週間。
その報は、瞬く間に王都中を駆け巡り、民衆の話題は、英雄『ブレイカーズ』と、王国が誇る最高学府『王立魔法学園』のどちらが勝つかで、持ちきりになっていた。
俺たちの工房は、かつてないほどの熱気に満ちていた。
それは、絶望や恐怖から来るものではない。強大な敵を、いかにして打ち破るかという、職人と、魔術師と、戦士の、純粋な闘争心から来る熱だった。
ギルドマスターは、俺たちに最大限の便宜を図ってくれた。
対戦相手となる、学園の『特級魔術師部隊』の構成。彼らが過去に論文で発表した得意魔法のリスト。考えうる全ての情報が、俺たちの元へともたらされた。
「――なるほどな」
作戦会議で、バルガンが腕を組みながら唸る。
「敵の構成は、三人。一人は、鉄壁の『防護結界』の専門家。もう一人は、広範囲を制圧する『元素魔法』の達人。そして最後の一人が、幻影でこちらの目をくらます『幻術師』。見事に、俺たちのような物理攻撃主体のパーティーを完封するための布陣だ」
「普通に戦っては、勝ち目はありません」とリリアも続く。「アルクさんの射撃は、全て結界で防がれ、その間に元素魔法でじわじわと削られ、幻術でとどめを刺される……それが、彼らの描く勝利の筋書きです」
普通の戦い方では、勝てない。
ならば、普通ではない戦い方をすればいい。
「バルガン」と俺は言った。「『ブレイカー・ボルト』とは全く違う、新しい弾丸は作れるか?」
「おう、任せとけ!」
バルガンは、待ってましたとばかりに、新しい設計図を広げた。
「まず、結界対策だ。魔力を帯びないどころか、逆に魔力を霧散させる性質を持つ希少金属『魔祓い石』を杭の先端に使う。威力はねえが、魔法の壁を叩けば、ガラスみてえに砕け散るはずだ。名付けて、『結界破り(バリアブレイカー)』!」
「次に、幻術と、連中の視界を塞ぐための『煙幕弾』だ。着弾と同時に、魔力を吸収する性質を持つ金属の粉末を撒き散らす。奴らの魔法の邪魔もできる、一石二鳥の代物よ!」
バルガンの革新的な武器開発に、リリアも続く。
「それなら、わたしも特別な付与をします。『結界破り』には、魔法の構造そのものを解体する『解呪の祝福』を。『煙幕弾』の金属粉には、魔力吸収の効果をさらに高める『渇望の呪い』を付与します!」
そして、俺は、その二つの特殊弾と、とどめの一撃となる、従来通りの『ブレイカー・ボルト』を、どのような順番で、どのタイミングで、どこに撃ち込むか、その完璧なシミュレーションを、頭の中で何百回と繰り返した。
俺たちは、ただの挑戦者ではない。
敵の戦術を分析し、その対策を練り、勝利するための兵器を自ら作り出す、技術者集団でもあった。
そして、決戦の日の朝が来た。
工房のテーブルの上には、俺たちの知恵と技術の結晶である、見たこともない形状の『弾丸』たちが並んでいる。
俺たち三人は、互いの顔を見合わせ、静かに頷いた。
準備は、整った。
これから始まるのは、ただの模擬戦闘ではない。
旧態依然とした権威に、俺たち『ブレイカーズ』が、新時代の風穴を開けるための、宣戦布告だ。
俺たちは、国王と、全ての民衆が見守る決戦の舞台――王立大闘技場へと、静かに歩き出した。




