第六十二話:王の御前
「――模擬戦闘、だと?」
最初に沈黙を破ったのは、バルガンの怒りに満ちた声だった。
「ふざけるなッ! それは、ただの見世物じゃねえか! 嬢ちゃんを大衆の前に引きずり出して、俺たちの力を『野蛮で危険なもの』だと貶めるための、公開処刑と何が違う!」
彼の言う通りだった。
これは、学園が仕組んだ、完璧な罠だ。
リリアは、その言葉に、血の気が引いた顔で小さく震えている。彼女にとって、大衆の面前で、自分の力を審判されることほど、恐ろしいことはないだろう。
俺が何かを言う前に、ギルドマスターが静かに首を横に振った。
「……断る、という選択肢はない」
その声には、拒絶できない重みがあった。
「これは、国王陛下の御名の下に出された、王命だ。これを拒絶することは、国王そのものに弓を引くことと同義。そうなれば、君たちがこれまで築き上げてきた『英雄』という名声は、一瞬で『国の反逆者』という汚名に変わるだろう」
「……学園の狙いは、なんだ」
「明白だ」とギルドマスターは続けた。「彼らは、自分たちの体系化された『正統な』魔法で、君たちの規格外の力を、理論的に、そして圧倒的な実力差でねじ伏せるつもりだろう。リリア嬢の力を『制御不能な危険物』と断定し、学園の管理下に置く、という大義名分を、国王と民衆の前で作り上げるためにな」
逃げ道はない。
断れば、反逆者として社会的に抹殺される。
受ければ、敵が用意したルールと土俵の上で、屈辱的な敗北を喫するのを待つだけ。
まさに、八方塞がりだった。
リリアの呼吸が、浅くなっているのが分かる。バルガンは、怒りのあまり、拳を握りしめていた。
俺は、そんな二人を、そして絶望的な状況を、ただ静かに見つめていた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……面白い」
その一言に、ギルドマスターですら、驚いた顔でこちらを見た。
「面白いじゃないか」と俺は繰り返した。「俺たちを潰すために、国王陛下まで担ぎ出して、これ以上ないほど立派な舞台を用意してくれたんだ。ならば、その舞台、ありがたく使わせてもらおう」
俺は、震えるリリアの肩に、そっと手を置いた。
「リリア。お前の力は、呪いなんかじゃない。それを、お前を馬鹿にした連中全員の目の前で、証明する時が来たんだ。俺たちがついている」
そして、怒りに燃えるバルガンに向き直る。
「バルガン。学園の、頭でっかちなエリート魔術師様方に、俺たちの『弾丸』が、ただの鉄屑じゃないってことを、その脳天に叩き込んでやろうぜ」
俺の言葉に、二人の顔が変わった。
リリアの瞳に、恐怖を乗り越えようとする、決意の光が灯る。
バルガンの怒りは、不屈の闘志へと変わっていた。
「……フン、言ってくれるじゃねえか。面白え! やってやろうぜ、アルク!」
「……はいっ!」
俺は、ギルドマスターへと向き直った。
「ギルドマスター。俺たち『ブレイカーズ』は、王立魔法学園の挑戦を、受けて立つ」
俺たちの答えに、ギルドマスターは、一瞬だけ、その険しい表情を崩して、満足げな笑みを浮かべたように見えた。
俺たちは、もはやただの挑戦者ではない。
国家権力が仕掛けた罠に、真正面から殴り込みをかける、反逆者だ。
俺たちの胸には、絶望ではなく、煮えたぎるような反骨の炎が、燃え上がっていた。




