第六話:追放、そして決意
どれくらいの間、そうしていたのだろうか。
やがて、体の震えが収まってきた俺は、ゆっくりと立ち上がった。目の前には、絶命したミノタウロスの巨体。これは、俺が倒した敵。俺だけの戦利品だ。
俺は慣れた手つきで解体用ナイフを――今度は本来の用途で使い、ミノタウロスの角や心臓にある魔石といった、価値ある素材を丁寧に回収していく。それらを一つ残らず【アイテムボックス】に格納した時、俺の心は奇妙なほどに静かだった。
もう、恐怖はない。
あるのは、裏切られたことに対する冷たい怒りと、自らの力で生き延びたという確かな自信だけだ。
俺は一人、ダンジョンの出口へと向かった。道中、数体のモンスターに遭遇したが、もう戸惑うことはなかった。石ころを、予備の武具を、ありとあらゆるものを射出して敵を穿つ。かつてはただの荷物だったものが、今や俺の牙であり、爪だった。
半日後、俺はついにダンジョンの入り口にたどり着いた。
そして、冒険者ギルドへと向かい、重い扉を開ける。
その瞬間、酒場の喧騒がぴたりと止んだ。
血と泥に汚れ、ボロボロになった俺の姿を見て、誰もが驚愕に目を見開いている。その視線の中に、俺は最も見たくなかった顔を見つけた。
「ア、アルク……!?」
カウンターでクエストの報告をしていたらしい「赤き剣」のメンバー。リーダーのザーグが、まるで幽霊でも見たかのように顔を青ざめさせていた。
だが、彼の表情はすぐに驚きから怒りへと変わる。周りの冒験者たちに聞こえるよう、ザーグは声を張り上げた。
「てめえ、生きてやがったのか! 仲間を見捨てて一人で逃げ出すとは、この卑怯者が!」
先に裏切ったのはそっちだろう。
以前の俺なら、その剣幕に怯えて何も言えなかったかもしれない。だが、死線を乗り越えた今の俺には、彼の怒声は負け犬の遠吠えにしか聞こえなかった。
俺は何も答えず、ただ静かに彼らを見つめる。その態度が気に食わなかったのか、ザーグはさらに言葉を続けた。
「当たり前だ! このパーティー『赤き剣』は、本日をもっててめえを追放する! 俺たちの慈悲で生かしてやっていた恩も忘れやがって!」
追放。
その言葉は、もはや俺の心に何のダメージも与えなかった。むしろ、鎖が断ち切られたような清々しささえ感じた。
「……ああ」
俺は短く、はっきりと答えた。
「望むところだ。あんたたちみたいな連中と、こっちから願い下げだ」
俺の静かな反逆に、ザーグたちが息を呑むのが分かった。
俺はもう彼らに用はないとばかりに背を向ける。そして、心に固く誓った。
見返してやるんじゃない。彼らのためなんかじゃない。
俺自身のために。俺が「本物の冒険者」であると証明するために。
この力で、誰よりも強く、気高く、最強の冒遣者になってやる、と。
俺はもう、ただの荷物持ち(ポーター)じゃない。
新たな決意を胸に、俺はギルドの受付カウンターへと、確かな一歩を踏み出した。




