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第五十八話:英雄たちの休息

工房にたどり着いた俺たちは、まるで糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。

バルガンは、愛用の椅子に座ったまま、雷のようないびきをかき始め、リリアも研究用のソファに丸まって、すぐに静かな寝息を立て始めた。

俺もまた、壁に背を預けたまま、泥のように深い眠りへと落ちていった。


俺たちが次に目を覚ましたのは、それから丸一日が過ぎた、翌日の昼過ぎだった。


そして、俺たちは、自分たちが眠っている間に、世界が完全に変わってしまったことを知る。

ヴァルクール子爵の反逆計画と、それを未然に防いだ二つの冒険者パーティーの活躍。そのニュースは、王都中を、いや、おそらくは国中を駆け巡っていた。


俺が食料の買い出しに一歩外へ出ると、道行く人々が俺に気づき、歓声を上げた。

「おい、見ろ! 『ブレイカーズ』のリーダーだ!」

「ありがとう! あんたたちのおかげで、この街は救われたんだ!」


八百屋の親父は「代金なんかいらねえ!」と言って山盛りの野菜を押し付け、パン屋の娘は頬を赤らめながら焼きたてのパンを手渡してくれる。子供たちは、憧れの眼差しで俺を遠巻きに見ていた。

かつて、誰からも顧みられなかったポーターの俺が、今や、英雄と呼ばれている。その事実に、俺はまだ、どうしようもないほどの戸惑いを覚えていた。


ギルドから正式に支払われた報酬は、もはや使い道に困るほどの天文学的な額だった。

リリアは、そのお金で王都中の本屋から希少な魔法書を買い漁り、目を輝かせながら自分の研究室にこもっている。時折、新しい服を恥ずかしそうに着て、俺に見せに来ることもあった。

バルガンは、例の裏切り者のドワーフへの対抗心を燃やし、報酬のほとんどをつぎ込んで、故郷のドワーフの国から最高の希少金属を仕入れていた。「奴を超える、最高の『盾』と『矛』を作る」と、彼は息巻いている。


そんなある日の午後。

俺たちの工房の扉が、コンコン、と控えめにノックされた。

そこに立っていたのは、見慣れない私服姿の、しかし、その凛とした佇まいは隠せない、エレオノーラその人だった。


「邪魔するぞ」


彼女は、一人でやってきたらしかった。その手には、高級そうなワインのボトルが一本、抱えられている。


「先日は、見事だった」と、彼女は俺たちに杯を酌み交わしながら言った。「君たちがいなければ、我々も、あの国も、どうなっていたことか」

「あんたたちこそ」とバルガンが返す。「最高の援護だったぜ」


エレオノーラによれば、逃げたドワーフの行方は、いまだに掴めていないらしい。だが、王家の騎士団が総力を挙げて、その行方を追っているという。

彼女は、ワインを一口飲むと、挑戦的な笑みを浮かべた。


「これで、我々と君たちの実力は互角、といったところか。次に、この国を揺るがすような大事件が起きた時は、どちらが先に解決するか、競争と行こうじゃないか」


その言葉は、俺たちをライバルとして、そして同じ頂を目指す仲間として、確かに認めてくれた証だった。


その夜、俺たち三人は、静かになった工房で、炉の柔らかな火を囲んでいた。

激動の日々は、一旦の終わりを告げた。

始まりの街で、虐げられていたポーターの俺。

森の奥で、自分の力を呪っていたリリア。

工房の隅で、誰にも理解されずに燻っていたバルガン。


そんな俺たちが、今は、家族のようにここにいる。

この温かな場所こそが、俺たちが、命を賭けて守り抜いた、何よりの宝物なのかもしれない。

俺は、もうずいぶんと長い間忘れていた、「安らぎ」という感情を、静かに噛みしめていた。

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