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第五十七話:夜明け

紅蓮の炎が、王都の夜空を焦がしていた。

遠くから、警鐘の音と、人々が叫ぶ声が聞こえてくる。ヴァルクール鉱業社の倉庫の爆発は、港湾地区全体を巻き込む大騒ぎに発展していた。


「……行くぞ。ここに長居は無用だ」


俺たちは、騒ぎが大きくなる前にその場を離れ、裏路地の闇へと紛れ込んだ。

工房へと戻る道すがら、俺たちの前に、数人の人影が音もなく現れる。


「――無事だったか」


煤で汚れ、鎧のあちこちが損傷してはいるが、その声には確かな力が漲っていた。エレオノーラと、『グリフォンの誓い』のメンバーたちだった。


「お前たちこそ」と俺が返すと、彼女はふっと笑みを浮かべた。

「言っただろう。我々には、我々なりのやり方があると。あの大魔道士の、空間転移テレポートの魔法は、瓦礫の中からでも人を運べるのでな」


その言葉には、以前のような傲慢さはなく、共に死線を越えた仲間に対する、確かな信頼が込められていた。


「……見事な戦いぶりだった、『ブレイカーズ』」

エレオノーラは、俺の目を真っ直ぐに見て言った。

「君たちがいなければ、我々だけではあの数を支えきれなかっただろう。私の君たちへの評価は、間違っていたようだ。この借りは、いずれ必ず返す」


その言葉に、俺はただ頷いた。

俺たちと彼らの間には、ライバルとしての競争心とは別に、確かに、戦友としての絆が芽生えていた。


俺たちは、合流してギルドへと向かった。

深夜にもかかわらず、ギルドマスターは、まるで全てを予期していたかのように、執務室で俺たちを待っていた。


「……そうか。敵の首魁であるドワーフは、取り逃がしたか」


エレオノーラと俺からの報告を交互に聞いたギルドマスターは、腕を組んで静かに頷いた。


「だが、君たちが稼いでくれた時間は、決して無駄ではなかった」

「どういう意味です?」

「君たちが地下で死闘を繰り広げている、まさにその頃合いだ。我々が騎士団に渡した密書を決定的な証拠として、王家の近衛騎士団が、ヴァルクール子爵の館に突入した」


ギルドマスターの言葉に、俺たちは息を呑む。


「子爵は、全ての罪を認め、捕縛された。彼の協力者であった貴族たちも、今頃は牢獄の中だろう。王都を蝕んでいた闇は、今夜、完全に払拭された」


首謀者は、捕らえられた。

俺たちの、静かな戦争は、本当の意味で終わったのだ。


ギルドマスターは、立ち上がると、俺たち『ブレイカーズ』と、『グリフォンの誓い』、双方の前に深々と頭を下げた。

「君たちは、この国を内乱の危機から救った、真の英雄だ。王家と、このギルドからの、最大限の報酬と名誉を約束しよう」


執務室を出ると、東の空が、ゆっくりと白み始めていた。

夜が、明ける。


「……終わったんだな」

「……はい」


リリアの瞳には、昇りくる朝日の光が、希望の色となって映っていた。

ただ一人、バルガンだけが、逃げた裏切り者の同胞を思い、悔しそうに拳を握りしめている。


だが、今はいい。

俺たちは、疲れ切った体を引きずりながら、自分たちの工房いえへと帰る。

王都を救った英雄という、まだどこか実感の湧かない称号を背負いながら。

長く、そして激しい一日が、ようやく終わろうとしていた。

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