第五十五話:共闘
月明かりを背に舞い降りたのは、王都最強と謳われるAランクパーティー『グリフォンの誓い』。
そのリーダーと思わしき、白銀の鎧に身を包んだ凛々しい女騎士は、俺たちの前に降り立つと、その手に持つ聖剣を構えた。
「――遅くなったな、『ブレイカーズ』!」
彼女の声は、戦場の喧騒の中でも、凛として響き渡る。
「ギルドマスターからの特命だ。君たちが見つけた密書を元に、我々はこの施設の場所を特定した。君たちが内側から奴らの注意を引きつけている間に、我らが外から壁を破壊し、突入する手筈だった。見事な陽動であったぞ」
その口調には、エリートとしての矜持が滲んでいたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
彼女――エレオノーラと名乗った騎士団長は、眼下の鋼鉄の軍勢へと向き直った。
「聞け、グリフォンの誓い! 国を揺るがす反逆者どもに、王家の鉄槌を下す! 一体残らず殲滅せよ!」
彼女の号令一下、パーティーメンバーが一斉に行動を開始する。
エレオノーラが聖剣から放つ光の斬撃でゴーレムの動きを牽制し、大魔道士が放つ極大の氷塊が数体の足を凍りつかせる。密偵の放つ矢は、ゴーレムのモノアイを正確に射抜いて、その視界を奪った。
まさに、王都最強の名に恥じない、完璧な連携だった。
だが――
「……硬え!」
エレオノーラの聖剣ですら、ゴーレムの装甲に浅い傷をつけるのがやっとだった。
大魔道士の魔法も、高い魔法耐性を持つ装甲の前には決定打になり得ない。
彼らは、圧倒的な実力でゴーレムの軍勢を『押し留めて』はいる。しかし、一体たりとも『破壊』するには至っていなかった。
「――アルク!」
バルガンの声が飛ぶ。
俺は、彼の視線の先を読み取った。エレオノーラの聖なる光によって、一瞬だけ動きが止まった一体のゴーレム。
リリアが、俺の意図を察して叫ぶ。
「腐食の呪いを付与します!」
即席で、リリアの魔法が俺の『ブレイカー・ボルト』に込められる。
俺は、エレオノーラたちが苦戦しているそのゴーレムへと、狙いを定めて射出した。
ズドンッ!
ボルトは、聖剣ですら弾かれた装甲を、いともたやすく貫通。さらに、リリアの呪いが内部から装甲を腐食させ、その構造を脆くする。
そして、次の瞬間、ゴーレ-ムは内側からの圧力に耐えきれず、派手に砕け散った。
「なっ……!?」
その光景を見て、エレオノーラたちが息を呑むのが分かった。
彼女は、一瞬だけ俺の方を見ると、すぐに決断を下した。その判断の速さこそが、彼女が王都最強たる所以なのだろう。
「全隊に告ぐ! 我々はこれより、攻撃から支援へと移行する! 敵の動きを止め、好機を作り出すことに集中せよ! とどめは、全て『ブレイカーズ』に任せる!」
その一言で、戦いの流れが完全に変わった。
『グリフォンの誓い』が、その卓越した技術でゴーレムの動きを止め、あるいは注意を引きつけて、完璧な射線を作り出す。
そして、その隙を突いて、俺が必殺の一撃を叩き込む。
正攻法のエリートたちと、奇策の一点突破を得意とする俺たち。
本来なら相容れないはずの二つの力が、この極限の状況で、最高の形で融合した。
次々と、鋼鉄の巨人が破壊されていく。
戦いの趨勢は、決した。
それを見た裏切り者のドワーフの長は、忌々しそうに舌打ちすると、何かを決意したように、壁際にある操作盤のレバーを力任せに引き下げた。
**ジリリリリリリリリリッ!!!**
けたたましい警報音が、再び工場に鳴り響く。だが、それは侵入者を知らせるものではなかった。
施設の各所が、赤い光を明滅させ始める。
「まずい! 自爆する気だ!」
エレオノーラが叫んだ。
ドワーフの長は、俺たちを嘲笑うかのように、床に開いた隠し通路へと姿を消していく。
俺たちは、敵の殲滅と、この地下工場からの脱出という、二つの難題を同時に突きつけられた。
工場の崩壊まで、もう時間は残されていない。




