表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/109

第五十三話:鉄の格納庫

倉庫の内部は、巨大な木箱や麻袋が山と積まれた、広大な空間だった。

積荷のほとんどは、表向きの取引通り、鉄鉱石や木材のようだ。俺たちは、物陰に身を隠しながら、慎重に奥へと進んでいく。時折、巡回している傭兵の足音が聞こえ、その度に俺たちは息を殺して闇に溶け込んだ。


「……アルクさん。魔力の気配は、下からです。この床の、ずっと下……」


リリアが、足元の石畳を指さして囁く。

俺たちがその場所を調べてみると、バルガンがすぐに違和感に気づいた。


「……ここの床石だけ、周りと模様の合わせ方が違う。巧妙に隠してあるが、床全体が動く、荷物用の昇降機リフトだ」


バルガンが壁の隅にある、巧妙に偽装された操作盤をいくつか弄ると、やがてゴゴゴ…という低い駆動音と共に、俺たちの足元の床が、ゆっくりと沈み始めた。

現れたのは、地下へと続く、巨大な奈落。

そこから、機械油と、そしてリリアが言っていた冷たい魔力の匂いが、濃密に立ち上ってくる。


俺たちは、ためらうことなく、その闇の中へと降りていった。


昇降機が停止し、扉が開く。

その先に広がっていた光景に、俺たちは、言葉を失った。


そこは、工房などという生易しいものではなかった。

体育館ほどもある、広大な地下大空洞。その全てが、一つの目的のために機能する、巨大な『工場』だったのだ。


壁際には、俺たちが倒した鋼鉄ゴーレムに酷似した、黒い人型のゴーレムが、何十体となく整然と並べられている。その赤いモノアイは今は光を失い、まるで鉄の軍隊が、出撃の時を待っているかのようだ。

中央のラインでは、見たこともない機械アームがゴーレムの部品を組み立て、その周りでは、フードを被った数人のドワーフたちが、黙々と作業を続けている。

数日前に俺たちが見た、あの裏切り者のドワーフもいた。彼は、他のドワーフたちに指示を出しながら、一体のゴーレムの最終調整を行っている。


「……嘘だろ……」


バルガンの口から、絶望にも似た声が漏れた。


これは、単なる暗殺部隊ではない。

一個師団にも匹敵する、鋼鉄の私設軍隊。

ヴァルクール子爵は、こんなものを、王都の地下に秘密裏に隠し持っていたのだ。


暗殺事件は、この軍隊の存在に気づきかけた者を、口封じのために消していたに過ぎない。

子爵の本当の狙いは、もっと大きい。

おそらくは、この国の転覆――クーデター。


俺たちは、とんでもないものを目撃してしまった。

これこそが、誰もが否定できない、完璧な証拠だ。

俺は、仲間たちに撤退の合図を送ろうとした。


その、瞬間だった。


**キィィィィィィィィンッ!!!!**


耳をつんざくような、甲高い警報音が、地下工場全体に鳴り響いた。

俺たちが立っている昇降機、その入り口に設置されていた、より強力な魔力探知の罠が、ついに俺たちの存在を捉えたのだ。


作業をしていたドワーフたちが、一斉にこちらを向く。

そして――


格納庫に並んでいた、数十体のゴーレムたちの赤いモノアイが、一斉に、その不気味な光を灯した。

全ての目が、俺たち三人へと、正確に向けられる。


俺たちは、敵の軍勢の、まさに中心で、完全に包囲されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ