第五十三話:鉄の格納庫
倉庫の内部は、巨大な木箱や麻袋が山と積まれた、広大な空間だった。
積荷のほとんどは、表向きの取引通り、鉄鉱石や木材のようだ。俺たちは、物陰に身を隠しながら、慎重に奥へと進んでいく。時折、巡回している傭兵の足音が聞こえ、その度に俺たちは息を殺して闇に溶け込んだ。
「……アルクさん。魔力の気配は、下からです。この床の、ずっと下……」
リリアが、足元の石畳を指さして囁く。
俺たちがその場所を調べてみると、バルガンがすぐに違和感に気づいた。
「……ここの床石だけ、周りと模様の合わせ方が違う。巧妙に隠してあるが、床全体が動く、荷物用の昇降機だ」
バルガンが壁の隅にある、巧妙に偽装された操作盤をいくつか弄ると、やがてゴゴゴ…という低い駆動音と共に、俺たちの足元の床が、ゆっくりと沈み始めた。
現れたのは、地下へと続く、巨大な奈落。
そこから、機械油と、そしてリリアが言っていた冷たい魔力の匂いが、濃密に立ち上ってくる。
俺たちは、ためらうことなく、その闇の中へと降りていった。
昇降機が停止し、扉が開く。
その先に広がっていた光景に、俺たちは、言葉を失った。
そこは、工房などという生易しいものではなかった。
体育館ほどもある、広大な地下大空洞。その全てが、一つの目的のために機能する、巨大な『工場』だったのだ。
壁際には、俺たちが倒した鋼鉄ゴーレムに酷似した、黒い人型のゴーレムが、何十体となく整然と並べられている。その赤いモノアイは今は光を失い、まるで鉄の軍隊が、出撃の時を待っているかのようだ。
中央のラインでは、見たこともない機械アームがゴーレムの部品を組み立て、その周りでは、フードを被った数人のドワーフたちが、黙々と作業を続けている。
数日前に俺たちが見た、あの裏切り者のドワーフもいた。彼は、他のドワーフたちに指示を出しながら、一体のゴーレムの最終調整を行っている。
「……嘘だろ……」
バルガンの口から、絶望にも似た声が漏れた。
これは、単なる暗殺部隊ではない。
一個師団にも匹敵する、鋼鉄の私設軍隊。
ヴァルクール子爵は、こんなものを、王都の地下に秘密裏に隠し持っていたのだ。
暗殺事件は、この軍隊の存在に気づきかけた者を、口封じのために消していたに過ぎない。
子爵の本当の狙いは、もっと大きい。
おそらくは、この国の転覆――クーデター。
俺たちは、とんでもないものを目撃してしまった。
これこそが、誰もが否定できない、完璧な証拠だ。
俺は、仲間たちに撤退の合図を送ろうとした。
その、瞬間だった。
**キィィィィィィィィンッ!!!!**
耳をつんざくような、甲高い警報音が、地下工場全体に鳴り響いた。
俺たちが立っている昇降機、その入り口に設置されていた、より強力な魔力探知の罠が、ついに俺たちの存在を捉えたのだ。
作業をしていたドワーフたちが、一斉にこちらを向く。
そして――
格納庫に並んでいた、数十体のゴーレムたちの赤いモノアイが、一斉に、その不気味な光を灯した。
全ての目が、俺たち三人へと、正確に向けられる。
俺たちは、敵の軍勢の、まさに中心で、完全に包囲されていた。




