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第五十話:蜘蛛の巣の中

「……ヴァルクール子爵」


俺が告げた名が、工房の重い空気の中に溶けていく。

最初に沈黙を破ったのは、バルガンの怒りに満ちた低い声だった。


「あの野郎……! 俺たちを値踏みするようにヘラヘラと笑いながら、その裏で、俺の同胞の技術を悪用してやがったのか! 許せねえ……!」


リリアも、恐怖に顔を青ざめさせていた。

「だから、あんなにわたしたちの力が欲しかったんですね……自分に逆らう者を消すための、新しい『道具』として……」


そうだ。全てが繋がった。

子爵の、あの執拗なまでの勧誘。それは、単なる戦力増強のためではなかった。

子爵の野望の根幹は、誰も破壊できないはずの、あの鋼鉄の暗殺者だ。そして、俺たちの力は、その根幹を唯一打ち砕くことができる、天敵とも言える存在。


だからこそ、彼は俺たちを手中に収めたがったのだ。自分の計画を脅かす、最大の危険因子として。


俺は、謁見の間での最後のやり取りを思い出していた。

俺たちが彼の申し出を断った時の、あの冷たい目。


「俺たちが断った時……あいつの目が変わったのを覚えてるか」

俺の言葉に、二人とも頷く。

「あれは、ただ残念がっているだけの目じゃなかった。自分の計画の邪魔になる、排除するべき『敵』を見る目だったんだ」


俺たちは、もはやただの冒険者ではない。

子爵にとって、俺たちは彼の野望を打ち砕く可能性のある、最優先で始末すべきターゲットになってしまった。


「……どうする、アルク」とバルガンが問う。「騎士団に駆け込むか? だが、相手は貴族だ。証拠もなしに突き出したところで、逆に俺たちが不敬罪で捕まるのがオチだ」

「ギルドマスターも言っていました。騎士団にも、内通者がいるかもしれないと……」


リリアの言う通り、もはや王都のどこに味方がいて、どこに敵が潜んでいるか分からない。

俺たちは、完全に孤立していた。

巨大な蜘蛛の巣に、自ら飛び込んでしまった獲物のように。


だが、ここで逃げ出すという選択肢は、俺たちの誰の頭にもなかった。

逃げたところで、子爵の権力と、鋼鉄の暗殺者から逃げ切れる保証はない。

そして何より、俺たちの誇りがそれを許さない。


「……やることは、一つだ」


俺は、決意を込めて仲間たちの顔を見た。


「証拠を掴む。連中がゴーレムを製造、あるいは整備している秘密の工房を、この王都のどこかで見つけ出す。そして、誰もが言い逃れできない、完璧な物証をギルドマスターに叩きつけるんだ」


それは、もはや冒険者の仕事ではなかった。

スパイや密偵の領域だ。だが、それ以外に、俺たちが生き残り、そして勝つ道はない。


工房の空気が、変わる。

これまでの冒険に対する高揚感ではない、影の戦いに身を投じる者たちの、静かで、しかし鋼鉄のような決意に満ちた空気に。


バルガンは、新しい弾丸の設計図を脇にやり、代わりに、頑丈な扉の錠前を破壊するための、特殊な工具を作り始めた。

リリアは、攻撃魔法の文献を閉じ、人の気配を探るための探知魔法や、姿を隠すための幻影魔法の研究を始める。


そして俺は、情報屋から手に入れた、ヴァルクール鉱業社の拠点が記された王都の地図を広げた。


ここからは、ただの冒険じゃない。

俺たち『ブレイカーズ』と、王都の闇に巣食う巨大な権力との、静かな戦争だ。

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