第四十九話:糸を辿る
「ドワーフ王家の、最高技術……」
工房に、重い沈黙が落ちる。
敵の正体は、俺たちの想像を遥かに超えるものだった。それは、単なる魔物や悪党ではない。世界最高峰の技術力を持つ、国家レベルの存在が背後にいることを示唆していた。
バルガンの表情は、怒りと、そして故郷を汚されたことへの悲しみに満ちていた。
「……誰かは分からん。だが、俺の同胞がこの陰謀に加担していることは、ほぼ間違いない。ドワーフの技術は、門外不出。盗んでどうこうできるほど、甘いもんじゃねえ」
「だとしたら、その『裏切り者のドワーフ』は、今どこに?」とリリアが尋ねる。
「王都のどこかに、秘密の工房を構えているはずだ。ゴーレムの製造と整備には、それなりの設備がいるからな」
秘密の工房。そして、それを稼働させるための、莫大な資金と材料。
そうだ、材料だ。
鋼鉄ゴーレム級の機体を複数も作るとなれば、並大抵の量の希少金属では足りない。必ず、どこかにその痕跡が残っているはずだ。
「……俺が調べてくる」
俺は立ち上がった。バルガンはドワーフというだけで目立ちすぎる。リリアを危険な情報収集に連れて行くわけにもいかない。
「王都で、ここ数ヶ月の間に、魔法金属や関連素材の不自然な大口取引がなかったか。情報屋を当たってみる」
「……気ぃつけろよ、アルク」
バルガンの心配を背に、俺は工房を後にした。
俺が向かったのは、ギルドの表通りではなく、裏路地に店を構える、腕利きの情報屋だった。
俺は、なけなしの金貨を数枚カウンターに置くと、単刀直入に尋ねた。
「ここ数ヶ月で、オリハルコンやアダマンタイト系の魔法金属、あるいはゴーレムのコアに使われるような高純度の魔石を、大量に仕入れている筋はないか」
情報屋は、金貨の山を見ると、にやりと笑って帳簿をめくり始めた。
そして、一つのページを指し示す。
「……面白いところに目をつけたな、兄ちゃん。確かに、一件だけ、奇妙な取引がある」
「なんだ?」
「『ヴァルクール鉱業社』。表向きは、北の山脈から鉄鉱石を採掘して、王都のインフラ整備に卸している新興の商社だ。だが、ここ三ヶ月で、ドワーフの国との境界付近から、採掘量とは到底釣り合わん量の『副産物』――つまりは、希少金属の原石を買い付けている」
ヴァルクール。
その名を聞いた瞬間、俺の全身の血が、急速に冷えていくのを感じた。
「その商社の代表は?」
「さてな。表には出てこねえ。だが、後ろ盾になっているのは、この土地の領主様――ヴァルクール子爵、その人だ」
全ての糸が、繋がった。
俺たちを執拗に手に入れようとした、あの男。
その裏で、騎士団の精鋭を次々と葬り去っていた、鋼鉄の暗殺者。
そして、その暗殺者を製造している、ドワーフの最高技術。
子爵は、ただ俺たちの力が欲しかっただけではない。
俺たちが鋼鉄ゴーレムを破壊できる、唯一無二の存在であることを知っていた。だからこそ、自分の計画の『保険』として、あるいは、いずれ自分に牙を剥きかねない『脅威』として、手元に置きたがったのだ。
俺は情報屋に礼を言うと、急いで工房へと戻った。
俺から告げられた名を聞いて、バルガンとリリアの顔色が変わる。
俺たちが断固として拒絶した、あの男。
彼は、俺たちの潜在的な雇い主などではなかった。
最初から、俺たちが倒すべき、宿敵だったのだ。
俺たちは、知らず知らずのうちに、巨大な蜘蛛の巣の、まさに中心へと足を踏み入れてしまっていた。




